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もっふもふにしてやんよ!

 -絢爛世界における猫知類のケンカ売るときの決めぜりふ

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土場藩国 慰安旅行SS 外伝

ないすぼーと

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華は悩んでいた。
目の前にあるのは扉。

「ヤガミ置き場」

そんな風に書かれている扉である。しかもご丁寧に鍵までかかっていた。
「鍵・・あれ?夜明けの船って鍵ないはずなのに・・」
舞踏子の力をもってすればこじ開けることはわけないだろうが、
修理中の船を壊すのは気が引ける。
「どうしよう・・ばれたら怒られるよねぇ・・」
壊すことはできても直せないのだから、ばれるのは時間の問題でもある。
華は迷った結果、この船で最も信用できる親友に声をかけることにした。

「MAKI-」

優しく声が響く。すると、聞きなれた声が降ってきた。
<おはようございます。華>
なつかしくて新しい声だった。

「いた!あのね、この部屋鍵開けてくれる?」

懇願してみる。しかし戻ってきた答えは冷たい。

<残念ですがお楽しみ中のため、認められません>

「ええええええ?お楽しみ?誰か中にいるの?」
思わず大きな声が出る。ヤガミはいるの?など尋ねてみるが、
MAKIの答えは決まって「お答えできません」であった。
悲しみに打ちひしがれながら、扉の前を去る、華。

思えば、ここで危険をとしても彼女は扉を開けるべきだったのかもしれない。
なぜなら彼女の愛する男に悲劇が襲いかかることになったからだ。

歴史にifは存在しない。それでも人は思うのだ。
ああ、あの時ああしていれば。
それは人であるが故に仕方のないことでもある。

そう、今がまさにそれだった、華が去っていってからしばらくして
その部屋の中でヤガミは大変なことになっていたのだ。
はじめは猫知類にもっふもふにされていたのだが、ニャンコポンの乱入で
事態が急変した。

「うわ、おばーちゃん、やめッ」
 逃れようとするヤガミの上にニャンコポンが馬乗りになる。
「ニシシ、おばーちゃんっていったねん。ヤンヤンは悪い子!」
 ニャンコポンは不気味なぐらい笑顔であった。
「お、おい。やめろよ。やーめーろーよー」
 逃れようとするが、ニャンコポンの腕の力は強い。
「ば、ばかな。計算してないぞ」
 戦闘用義体でも逃れられないとは一体どんな設計の義体なんだ、
ヤガミは身をよじって逃げようとする。しかし、逃げようともがけば
もがくほど、体の拘束はひどくなっていく。
「さぁて、にゃっちが今すぐお婿にイケナイカラダにしてあ・げ・る」
 ご丁寧に語尾にハートマークすら付けそうな勢いである。
 つぅっと指がヤガミの腹の上を滑り下りていく。
まずい、これは非常にまずい。耐えろ、耐えるんだ。とヤガミは
自分に言い聞かせようと、思わず唾を飲み込んだ。
(せ、精神判定に持ち込めば。いや・・・・)
 ヤガミの脳裏になんとなくメッセージが浮かぶ。
誰が発信したかはわからないが、あきらかに現在の状況に対するアドバイスであろう。

C:サイボーグ  :感情が不安定、恐ろしく丈夫、怪力<体力>「精神」
※よく考えよう、サイボーグは精神判定で必ず失敗する。

「う、うわぁ。やめろ」
 勢いをつけてニャンコポンの拘束を解く。体力勝負なら勝てる。勝てはしないでも
この状況を多少なりとも改善することにはなるだろう。
もはやなりふり構っている余裕はなかった。
「やん、そんなことされたら余計もえちゃう~」
 ニャンコポンの手がするりと伸びて魔法のようにヤガミの上着をとりさった。
ベッドの下に黄色いジャンパーが落ちる。
「う・・うう」
「ふふ、大丈夫、すぐに楽にしてあげるわ」

 ヤガミの脳裏に、走馬灯のように様々な記憶が浮かんでは消えていく。
舞踏子の笑顔、ニャンコポンの手が徐々に迫ってくる、飛行長として艦橋で倒れる、
ニャンコポンの手の動きがさらにあやしくなる、 迫ってくる敵の艦隊、真っ赤な画面、
ニャンコポンの手の動きが…もはや考えるのをやめたい、「なにをしてるんです」エステルの声、
ニャンコポンが振り返る、エステル・・・エステル?


瞬間、部屋の空気が凍りついた。
ベッドの上の男女と、それを見ているひとりの少女。
はっきり言えば教育的によろしくない雰囲気が漂う。誰もかれもが動けない状態で
最初に動いたのは、ヤガミであった。
男として、いや生物としての本能的な危機回避能力。いままでくぐってきた修羅場の数が
彼を突き動かした。

まずは体をひねってニャンコポンの拘束から脱出、使って床に落ちているジャンパーを拾い上げ
そのまま入口にダッシュした。移動には足だけでなく手も使った。不格好だが、ここで死ぬよりは
ずっとましだ。走る、ダッシュ、思わず脳内にコマンドが現れそうになるほどの瞬間的な反応。
背中に冷や汗をかいている。
義体なのにいいデキだ、憎らしいほどに。心の中だけで知恵者に毒づくと、エステルの手を取って逃げる。
「は、離して、離してください」
「いいから逃げるぞ。あの魔女は危険だ」
「危険って、なにをしてたんですかっ」
「いいから」
 手をつないで逃避行よろしく、廊下を走る。エステルは走り慣れないのか、すぐ息があがって苦しそうにあえいだ。
彼らが幸せだったのは、逃げ去る二人を見送るニャンコポンの顔をみなかったことだろう。
彼女は笑顔であった。どこまでも笑顔であった、しかし、それは大の男でも震え上がる、そんな笑顔だったからだ。
「狩りにもいろいろあるわ。相手を追い詰める狩りや、静かに忍び寄る狩り、どんなのがお好みかしら」
不敵に笑う彼女の後では、静かに魔力が練られている、そんな幻を見た気が、した。

修羅場、そんな言葉では片づけられない何かが始まる。
そんな予兆めいた事件のひとつである。
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