アットウィキロゴ
土場藩国は、つねに女性優位の国であった。
初代の王は女であり、有名な騎士や戦士も女である。
舞踏子とよばれる戦士を集めたのも記憶に新しい。

しかし、これは男が不甲斐ないというわけでは決してない。
歴史に出てくる彼女たちを支えた男がいなかったわけでも決してない。
彼らはただ歴史の闇に沈んでいるだけである。
むしろ自らを隠し、ただ彼女たちの影であることを望んだ男もいた。

彼らは、それで幸せだったのだ。

歴史に残るのは、史実だがその史実を残したのはまぎれもなく人間である。
犬士と恋に落ちたり、ある遺跡を守っていたり、いろいろなことをしている。
アイドレスの世界にあって少しだけ違う世界の物語である。

燃える炎のような夕暮れの中を、二人の少年が歩く。
一人は片手におやつを持ち、もう片方の手は相手の手を強く握っていた。
二人の年はそう離れてはいない。よく似た顔立ちをしているから
おそらく兄弟だろう。
少し背の高い少年が、もう一人を見る。目を合わせると微笑んだ。
「だいじょうぶだよ。この道だよ」
「そうかなぁ。なんか来たときと違うよ?」
「え、そ、そうかな」
「それよりおやつ食べながら行こうよ」
「そーだね」
 実はこの二人思いきり迷子になっているのだが、幸いにして
いや不幸にしてかもしれないが、二人ともそれに気が付いていない。
弟の方は薄々感じているようだが、兄の方はまったく気にも止めていなかった。
「うーん。遠くまできてるよねぇ」
 足で歩くのもすごいなー、と別の方に関心したような声を出した。
「…晩御飯までに帰れるかなぁ」
 能天気な兄のセリフに弟がそうつぶやいた。
「大丈夫だよ。歩いていればいつかたどり着けるよ!」
「…いつかって…みんな心配してると思うけど」
 溜息交じりにそうつぶやいた。舗装された道路はどこまでも続いていて
帰るべき家の方向すらわからない。
 要は遊び呆けていて戻るべき道を忘れてしまったようだった。
「んーんー、やっぱりぃ、こっち?」
 曲がり角に到達したとき兄が示した道を見て弟は頭を抱える。
「それ、さっき来た道だから」
「そ、そうだっけ」
「うん。そうだよ」
「えーと、えーと」
 どうしようか、と兄。
いっそ地面に落ちている枝でも倒していけば戻れるんじゃないかと
バカげた考えを披露したところで弟の視線がさらに冷たくなった。
「あら、どうしたの?」
 不意に声をかけられて驚く。今まで誰もいなかった場所に、一人の少女が
立っていた。
濃い藍色の服に、腰まで伸びた銀の髪。年は13歳ほどの小さな少女である。
「おねーちゃん、だれ?」
「んー、その質問に答えるのは難しいわね」
 少女は少し首をかしげると、微笑んだ。
「私は、自分が何者であるか、って難しい問題はよくわからないの。
 ただこの地に流されてきただけの存在なのよ」
 そう言って方をすくめると、彼女はポケットから小さなキャンディを取り出した。
「あげる」
「あ、ありがと」
 兄はそのキャンディを受け取ると、しげしげと見つめて見た。何も書いていない
銀色の包み紙につつまれたキャンディ。ご丁寧に2つ渡されたので1つは弟に手渡す。
弟は少し警戒しながらもそれを受け取った。
そして、弟は少女の説明に少々おっかなびっくりしながらも、言い方がまずかったのかと
さっきの質問を言い直した。
「なまえは?」
 少女は、ちょっと考えてから口を開く。
「私は、夜子。夜子=ポラリス」
 本当は違う名前も持っているけど、こっちの方が通りがいいから使っているの。とも
付け加えて。
「そう」
「ねぇ、道に迷ったの?」
「…そうだね、現在の状況を分かりやすく言うとそうなるね」
「ふふ、あなたたちお城の子でしょ」
 にこにこと笑いながら、夜子は問いかけた。
「う、うん」
「…だったら、あなたたちがさっき来た道をまっすぐ戻れば着くわ」
 ほら、あそこに塔が見えるでしょう、という。
「あ、ほんとだー」
 どこまでも能天気な兄のセリフに弟は絶句する。いや、兄の行く道を信じてついてきていた
自分も自分なのだが。兄は城を出る気ではなかったのか、だからあんな手の込んだことを
して逃げようとしていたのではないのか、そんな考えまで浮かんでくる。
「……まだ逃げ出すには早いわよ」
 弟の心の底を見透かしたように夜子が言った。慌てて彼女がいた場所に振り返るが
そこにはもう夜子の姿はなく、ただ風が吹いているだけだった。
 不思議な出来事に兄弟そろって顔を見合わせる。

 それから来たときの倍以上の時間をかけて、彼女に教わった道を歩いた。
二人が城に戻れたのは夕日もとっくに姿を隠し、星がまたたく時間。
心配していた門番にこっぴどく叱られ。お世話の犬士にも叱られ。
おそらく一年分ほどの小言を聞いた。

そしてその夜、二人は土場の王にかつて「ポラリス」という少女がいたことを
知るのだった。
そして、彼女にまつわる話。「こぐまの尾は次の王を予言する」という言葉も聞くこととなる。
伝説によれば彼女は、土場の次の王となるものの元に現れるというのだ。
土場の王は候補者がくじを引いて決まるのだが、くじのあたりを引く前に彼女が現れるというのである。
不思議な話もあるものだと、兄弟は二人して笑いあうのだった。

それから、時は流れ。
かつて幼さの残る兄は相変わらずバカな子のまま、
土場の王となり、弟は兄を裏で支える裏王となった。

小熊の予言は、また当たったのだった。
二人の王は、土場が最も外界とかかわりを持つ時代を背負って立つことになる。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2008年01月30日 21:01