設定
アイ・テールは物理学者だった。生まれは地球。西暦1862年。宇宙人の存在などまだ鼻で笑われる時代。
彼は執着心が強過ぎた。一度心を奪われたものへの探求は彼自身すら止めることが出来なかった。享年は45歳。
彼は既にこの世を去っている。では何故彼がこんな未来でこんな閉鎖空間の中トーナメントに出場したのか。経緯を過去から追うとこうだ。
……彼は若い頃から物理学を志していた。彼の生まれた時代、19世紀後半物議を醸していた議題があった。「エーテル物質の存在」だ。
エーテル物質とは:17世紀から19世紀に渡って存在を議論された物質。
当時、「音が空気という触媒に伝わる波ならば光にも触媒が必要なのではないか」という考えの元存在が仮定された物質である。
当時の科学力でエーテル物質がどんな物だったか。それは鋼より遙かに硬く、流体であり、質量はゼロでなければならない。
……という矛盾だらけの物質だった。しかし光という物を伝えるには理論上このような物質が存在するはずだった。
彼はそんなエーテルの時代の中で生まれ育ち、やがてエーテルに興味を抱き、物理学を志したのであった。
エーテルとはいったい何者なのか。鋼より遙かに硬く、流体であり、質量がゼロの物質。想像もつかなかった。
気になる、気になる、気になる。彼はもうその探求心を止めることは出来なかった。 彼はエーテルの存在を純粋に求めた。
エーテルさえ残れば残りの世界など何もいらないというほどエーテルに執着した。その執着は異常であり、それは信仰の域に達していた。
エーテルは存在する。そう信じ切っていた。いや、そう言い聞かせていたのかも知れない。執着心が満たされる時を夢見て。
しかし彼の執着は満たされなかった。何年研究しても一向に答えへの一歩すら踏み出せずに居たからだ。
一歩進もうと理論を打ち立てれば次々と新しい問題が生まれ、その問題達は殆ど解決しなかった。彼は研究を続けた。
時間は幾らでもある。次の理論へ取りかかろう。 のんきだった。彼が45を迎えた年、彼が亡くなったとされる年、
彼の亡くなったとされる日の一週間前。彼の耳にとんでもない会話が飛び込んできた。聞かない方が幸せだったかもしれない。
どうせ次の日にはそこいらで噂になっていたが。 「おい、あの話聞いたか?」「『特殊相対性理論』か。」「話が早くて助かるね。」
「なんでも、エーテルに全く頼らない新しい理論だってな。」
「あぁ、これは凄いぞ。今頃物理学会がひっくり返って尻餅を付いてる頃だろう。」
「しかも、この理論を造り上げたのは25歳の若者だって話じゃないか。」「恐ろしいね。名前はアインシュタイン、だったか。」
…なんだと?たった25の若造が?馬鹿な。 エーテルに頼らない? そんな馬鹿な。エーテルが無ければ何を触媒に光は進むと言うんだ?
エーテルが存在しないとでも言うのか?エーテルは存在する。絶対だ。明日にでもその理論を調べ上げ、矛盾を突き、
我がエーテル論の糧にしてやろう。彼は次の日には特殊相対性理論について調べを始めていた。 そして調べること一週間。
彼は特殊相対性理論を隅から隅まで調べ尽くした。そして彼は絶望した。無い。見つからない。この理論の矛盾を見つけることが出来ない。
おかしい。このままではこの理論が通ってしまう。そんな訳はない。エーテルは存在する。存在する。存在するんだ……。
彼は死んでいた。いつまでも満たされない執着からのストレス、信仰の対象の否定、存在の不安定さ、
様々な理由から限界は来ていたのだろう。それをたまたま特殊相対性理論がほんの少し後押ししただけなのだ。
それから一週間ほどして毎日研究室に朝早くから夜遅くまで籠もっていた彼が全く顔を出さなくなったのを不審に思った同僚が家を尋ねたき、
彼の部屋で髪の毛は抜け落ち、身体はやせ細り、目だけが大きく開かれた彼の死体が見つかった。彼は死んだ、かに思われた。
彼はエーテルを信仰していた。彼の意識は強すぎた。彼は身体を抜け出し、その思念だけで活動を始める思念体となった。
彼の思念は物質となり、彼の身体を形作った。彼の身体を形作った物質。それを彼は理解していた。彼が思念から生み出したのだ。
わからないハズもない。その物質は『鋼より遙かに硬く、流体であり、質量がゼロ』だった。エーテルだったのだ。
そして死んだ彼の醜さをぬぐい去ろうとしたかのように、新しく創られた身体はまるでギリシャ彫刻の如き美しさだった。
彼には食事が必要なくなった。ヒトではなくなったからだ。彼には寿命が無くなった。生物では無くなったからだ。
彼はエーテルを作り出せるようになった。新しい身体も得た。別人になりすましてエーテルの実在を学会に発表することも出来た。
しかし彼はそれをしなかった。満足したからだ。彼の執着心が。彼はエーテルだけを求めていた。
エーテルさえ見つかってしまえば後のことなどどうでも良かった。 しかしヒトでなくなったとはいえ、
ヒトの思念であることに間違いはなかった。ヒトは欲深いものだ。彼は次の研究がしたくなった。
彼は新しい身体で好きなように研究をして暮らすことにした。相変わらずの異常な執着心と探求心で、発表もせず。
彼は周りから怪しまれないよう数年おきに身体をエーテルへと戻し、別の姿へと再構築し住む場所と名前を変え世界中で研究をした。
そして彼の研究の時は流れ……。時代は大きく変わった。宇宙人、宇宙生物とのやりとりも盛んになった。
全宇宙はつながったといっても過言ではない世界になった。彼は今度は宇宙中をふらりふらりと研究の旅をしていた。 彼が今執着しているのは心理学だった。彼は研究の一環として犯罪心理について調べることとした。
こういったものを調べるのは現地で自分が調べた方が早い。彼が目を付けたのは分厚いコンクリートに覆われた収容所だった。
彼はエーテルとなり看守の目をすり抜け囚人の一人として囚人達を間近で観察できるようになった。そろそろ研究材料も集まった。
本腰を入れて研究するためにそろそろここを出ようか…そう思っていたとき今回の事件が起きた。彼は喜んだ。国が生まれるだなんて、
しかもそこでトップになればどんな事が出来るだろうか……。まずは恐怖政治だ。
屈強な囚人はどれほどのストレスに耐えうるのだろうか……。彼は欲求を満たすため、大会への出場を決めた。
能力や弱点:全身や身体の一部をエーテルに変化させることができる。またそのエーテルを別の形に再構成させることもできる。
再構築された物体は全て鋼よりも硬く、質量がゼロの物体となる。彼はエーテルそのものなので物理的な攻撃は通らない。
また、実は彼のエーテルは本物ではない。思念が強すぎるあまり生み出したいわば呪術的な物質である。
それ故に呪術的な力の干渉はすべて受けてしまう。
また、彼の身体やエーテルは全て彼の思念が作り出したものなので思念が弱まるとそれに比例して力も弱まり、
身体の物質結合も弱まる為、彼が弱まると全身がどろどろに爛れたような非常に醜い姿を晒すことになる。
彼の思念は弱まりきるとこの世から消滅する。
最終更新:2014年06月20日 04:19