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シキミ

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製作者 佐倉
出場大会 第四回大会

罪状:殺人
懲役:無期懲役


シキミは二年前までは何処にでもいる十六歳の少女であった。
一般的な家庭で育ち、学校へ通い、友人や初めて出来た恋人と楽しく穏やかに暮らす日々。
そんな普遍的な日常の中で生きていくのだと信じていたある日、化学タワーでの事故が起こった。
混乱する街の中でシキミは恋人である同い年の少年と安全な場所への避難の為、移動を開始していた。
通信機器、交通機関は全て麻痺。家族や友人達の安否も確認出来ない心細い状況でも隣にいる恋人の存在が少女の不安を和らげる。それに自分だけに降りかかった災難ではないと、此処にいる人達が皆同じく心細く思っているのだから今はとにかく進まなくてはという気持ちだけが少女を突き動かしていた。
「安全な場所にさえ行けば家族にも友達にも会える」
しかし少女の願いは脆くも崩れる事となった。
まず最初に少女の恋人である少年が急に暴れだした。その次に彼の隣にいた人。そのまた隣の人と少女の周囲にいた人が次々に暴れたり苦しみだしたりした。
それは老若男女問わず、少女の半径三メートル範囲にいた人々が突然集団ヒステリーを起こしたのである。
シキミはその光景を呆然と見ている事しか出来なかった。
何が起きたのかも判らず狼狽えるだけ。
そしてシキミの目の前で恋人である彼が自身が所持していたカッターナイフで首を掻き切った。
少女の体に最愛の彼の血が飛ぶ散り付着する。それを皮切りに暴れたり苦しんでいた人達が判別のつかない叫びをあげながら次々に自害をしていった。子を持つ母は大切に抱えていた筈の子をコンクリートの地面に叩きつけて殺してから自身の頭を何度も地面に打ちつけて絶命した。
男は目を刳り貫き、女は腹部を鋭利な物で刺した。
人々は瞬く間に倒れ、少女の周りに血の海が広がっていく。
一瞬の出来事で街は阿鼻叫喚の巷と化す。
少女は叫び声一つあげず、たださっきまで手を繋ぎ励ましあっていた恋人の変わり果てた姿をぼんやりと見ていた。
その姿はまるで夢を見ているように虚ろで、心などとうに亡くしてしまったようであった。


その後シキミは化学タワーの事故で能力を覚醒させてしまった人間と判断され、特殊部隊に連行された。
そこで何の能力に目覚めたか研究され、開花したのは自身が放つ薫りで自分以外の人間を催眠状態にし、悪夢を見せるという能力。
研究者達はシキミの能力には作用範囲がある事、風に乗れば更に範囲が広がる可能性がある事から『薫風催眠(くんぷうさいみん)』と命名した。


化学タワーの事故後直ぐに起きた殺人事件としてシキミは能力者としては初めての裁判を受ける事となった。
シキミへの関心は瞬く間に広がり、初公判の日には何百人ものマスコミが集まり、傍聴希望者は過去最高となった。
シキミの能力の危険性から裁判官以下全ての人間に特殊なマスクが配られ、シキミは一面防弾硝子で出来た部屋に隔離された後、裁判は始まった。
裁判中シキミはただ黙って自分以外の人間が話している様を聞いていた。まるで人事のように視線を宙に這わせる。
シキミはずっと自分の隣にいない恋人の事を考えていた。
「どうして彼はいないのか、どうして彼に会えないのか」
シキミは現実がどう動いているのかも自分自身がどんな立場にいるのかも理解が出来なかった。
公判中、裁判所が提示した証拠写真の一枚を見てシキミは反応を示す。
そこに写っていたのは被害者の一人となった少女の恋人が生きている時に撮られた写真と、恋人が死んでから撮られた無残な写真。
少女が能力者として目覚めてから初めて変えた表情。そこには年相応の少女の笑顔であった。
少女以外の人間がその変化に動揺する中、少女は笑顔のまま立ち上がると周囲を見渡し、その目にその場にいる全ての人間の姿を焼き付ける。
そして少女は殺意を持って能力を発動させた。


誰も反応する事も出来ず、マスクの効果も防弾硝子の効果も発揮出来ず、シキミは真新しい死体の海を踏みつけて目的の物がある場所まで進む。
シキミは一枚の写真を丁寧に取ると愛おしそうに微笑んだ。そこに写るのは少女が良く知る大好きな少年の笑顔。
少女が求めていた少年が、恋焦がれていたものがやっといた。



二度に渡る大量殺人を犯した少女は特殊収容所の更に隔離された場所に収容された。
そこで少女は拘束具を付けられ、目隠しをされ自由を奪われた状態のまま生かされていた。
少女の能力に目を付けたとある研究者が二十四時間体制で少女を監視する。
そして特殊収容所内部で起きた混沌に乗じ、研究者は少女の拘束を解き、在ろう事か少女を開放する事を決意する。
それは研究者が考えた恐ろしい計画。
特殊収容所にいる全ての人間を皆殺しにし、彼女を外に出す事。それから外の人間、政府を崩壊させ新しい世界を作り変える事。
恐怖やトラウマ、心に傷が付かない優しい国を作る為、研究者は少女を始祖に仕立てようと画策する。


少女は久し振りに見る光に目を無意識に細める。
ひんやりと冷たいコンクリートの地面を素足で踏みしめながら一歩一歩をゆっくりと進んでいた。
それはまるでサナギから抜け出したばかりの羽根がまだ柔らかい蝶のようにフラフラと。
何処に行くかも判らずに、ただただ悪夢を魅せる薫りを散布させ。
すれ違う人間が発狂し倒れて行く様に目もくれず。
少女は朧げな記憶のままもう既に顔も名前も声も思い出せなくなってしまった彼を探し続ける。


「あなたに出会えるのなら、わたしは何度だって悪夢を見よう」



■シキミについて

肉体は一般人と同等。
一度目の大量殺人で精神を壊している為、まともな思考は皆無。
思考が全て彼に直結しており、たまに隣に彼がいるような所作を見せる。
ほぼ二年間目隠しされた空間の中にいたので夜目が利く。耳も人並み外れて良い。
研究者手製の足枷と手枷を付けている。それには微弱な電流が流れるようになっており、その電流で眠ったり起きたりしている。
眠っている時は能力が発動しない。


■研究者について

特殊収容所にいる研究者は個人ではなく複数いる組織の一部。
能力研究や、犯罪者の精神鑑定などを専門にする。
医療関係に携わっている為、シキミの持つ薫風催眠という人の精神に入り込める能力を上手くコントロール出来れば、体に負担をかけずに難病の治療が出来たり、鬱病患者の改善に役に立つと踏んだ。
しかし理想と現実の狭間でだんだんと思考が捻じ曲がってしまった一部の人間により組織の中にも内部暴走が始まっている。
シキミの能力の影響を受けないように特殊なボディスーツを着用している。それゆえに全員男か女か判別不明。


■能力

技:薫風催眠(くんぷうさいみん)
シキミ自身から出る薫りに包まれると催眠状態に入り自身が抱えてるトラウマや恐怖を見せつける。
薫り自身が熱や汗に反応を示し生き物のように纏わりつく。
死にたくなる程の強烈な感情に襲われる為、ほぼ全ての人間は発狂し自害してしまう。
プレッシャーに弱い人間や、ストレス持ち、自己評価の低い人間は確実に死に至る。
薫りの範囲は三メートル程。しかし空気の流れ、空間によっては更に範囲を広げる。
シキミが起きている時は常に漂っているが、眠っている時は発動しない。
シキミ自身が殺意やストレスを抱えていると威力は増す。
現に一度目の事件が起きた際も二度目の事件が起きた際も彼女自身が急激なストレスを抱えた為に能力が暴走した。
シキミが出す薫りは沈水香木(じんすいこうぼく)に酷似している。


■弱点

肉体は一般人と同等。
自我の強い者や空間を遮断する能力者とは相性は悪い。
能力自体の制限はないがシキミ自身が大怪我を負うか、死ぬか、眠ってしまえば発動しない。

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最終更新:2014年06月20日 05:55