
| 製作者 | 雪村 |
| 出場大会 | 第八回大会 |
| 経歴 | 第一試合 帰宅 |
設定
『スリープ状態から起動します。(起動音)…起動完了いたしました。
既存データの確認……(ノイズ音)確認完了。
自身のデータを復唱致します。
名称、MU-88(ミウ-88)。
外見性別年齢、20代女性。
マスターの助手をする為作られたヒューマノイドロボットであり、戦と…(ノイズ音)…ボット。
現在、マスターに作成され…(ノイズ音)…年と8ヶ月と25日が経過。
検索…マスターの情報…(ノイズ音)…検索完了
マスター…科学都市の科学者であり、元エク…(ノイズ音)…の科学者。
研究対象は主に、落雷により発生した能力とエネルギーについて。
マスター自身もまた能力者であり、その能力は…(ノイズ音)ぐ能力…。
マスターはその能力を…(ノイズ音)…しようとし、研究は…(ノイズ音)…。
現在マスターは…(ノイズ音)…。
(ノイズ音)
検索…インストールプログラム……(ノイズ音)…検索完了。
現在インストールされている項目を復唱致します。
人工知能プログラム…ロボット工学データ……エネルギー解析データ……メンテナンスプログラム……(ノイズ音)…
自己防衛プログラム…(ノイズ音)……自動トーナ…(ノイズ音)…場プログラム……戦と…(ノイズ音)…プ…グラ……(ノイズ音)
(ノイズ音)
(ノイズ音)
(ノイズ音)
…………誰か 私を ――――。』
◆とあるロボットと科学者の話。
――そのロボットは、かつて愛した人の姿をしていた。
彼女を作った科学者と、科学者の婚約者は、かつて「エクシード(ex-seed)」と言われた国家の極秘プロジェクトの一員だった。
落雷のあったあの日。
エクシードに関する科学者は、死体の有無に関わりなく全滅したと、そう考えられていた。
だが、彼は偶然、その場に居合わせていなかった本当の唯一の生き残りであった。
しかしその科学者は、他の科学者や、彼の婚約者と同様、あの事故に巻き込まれ死体もなく死んだとされていること、そして国がエクシードの存在を隠そうとしていることを知った。
プロジェクトをまとめあげていた博士ならいざ知らず、
国に自分が生きていると知られれば、エクシードの情報と共におそらく消される命だろう。
だからこそ、科学者はその身を隠してエクシードと能力の研究を行っていた。
初めは尊敬する博士の遺志を継ぐ為に始めた研究だった。
科学に振り回されぬ為に、同じ悲劇を起こさない為に。
彼女たちの死を、無駄になんてさせない為に前に進まなければと。
だが、例の査定試合での正義ある意思たちの戦い、
そして、未来を託すと言い再び眠りに就いた博士の言葉を受け、科学者は対能力部隊の力となるよう研究を更に行っていった。
能力が能力者を救うために。
能力により能力を抑えるために。
科学者の能力は、戦闘向きの能力では無かったが、
今のこの科学に振り回され続けている国の力となりうる可能性を持つ能力だった。
だからこそ、戦う力を持った正義の者にこの力を譲渡できないかと科学者は考えた。
博士ほど優秀ではないが、それでもエクシードの仕組みを知っている自分だからこそ、
エクシードによって生まれた力をプログラム化し、複製することによって他者へと渡せないかと、そう考えた。
しかし、目指すべき道が見え研究は進む一方、科学者は大きな問題に直面することとなる。
研究資金が足りないのだ。
博士の存在が表に出た以上、もしかしたら国に自らの意思を伝えれば援助が受けれるかもしれない。
でも、もしそうでなかったら……。
研究はあと少しという所まできているのに。だからこそ、ここで安直な方法を選び死ぬわけには行かなかった。
ここまできて停滞してしまうことに頭を抱え、悩む化学者。
だが、そんな科学者の背中を見つめる一つの影があった。
それは、博士の意思を受け継ぐと決意したあの日、科学者が製作した婚約者と瓜二つのロボットだった。
亡き婚約者の生き写しを作るなど、他人から見たら狂ってしまったのではないかと思われるかも知れない。
しかし、孤独の中、歯を食いしばり進むと決めた科学者にとって、彼女は科学者の唯一の心の支えだった。
彼女には心が無かった。
ロボットだから当然かも知れない、
それでもAIを与え、学習し、自身の研究をサポートする姿に、
かつて共に科学タワーで研究をしてきた、あの日常の面影を見るのだった。
――ある日のことだった。
いつもより静かな朝。
科学者の前には見知らぬ男と、その男に抱えられボロボロになった彼女の姿があった。
「一体どうゆうことだ!」
科学者は声を荒らげ男に掴みかかると、男は焦ったように科学者の言葉を制し、こう言葉を続けた。
「彼女は、裏社会で行われているトーナメントに出ていたんだ。この鉄の体を能力だと偽って。」
「なんでそんなこと…!」
それは僕には分からないよ。男はそう言うと、科学者の腕に彼女をそっと預けた。
科学者はすぐに彼女の状態を調べ、スリープモードになっている彼女を起こす。
目を覚ました彼女に科学者は問いかける。なぜこんなことをしたのだと。
すると彼女は握り締めた科学者の手にそっと触れながらこう言った。
「私も、マスターの力になりたい。」と。
彼女の言葉に目を見開き、それはできないと言う科学者に対して、彼女は引き下がらなかった。
少量だが科学者に賞金を渡し、
そして、マスターの力になれたことが、私は嬉しいんです。
だから私はあのトーナメントに出場し、マスターの力になりましょうと。
例え何度壊れても、マスターが直してくれるからと。
そう言ってぎこちなく微笑んだ。
それはロボットである彼女が感情を覗かせた瞬間だった。
心を持ち始めた彼女だから、だからこそ、その頼みを受け入れられないと言う科学者に、それまで口を噤んでいた男がそっと話しだした。
「あなた方は科学タワーの科学者ですね。」
科学者は思わず男の方に顔を向ける。
「そんなに睨まないでください。私はなんてことない科学者の端くれです。数度、あなたたちを見かけたことがある、ただそれだけです。
だからあなたがなぜ生きているのか、なぜ彼女がロボットとしてここにいるのか、聞くつもりもありません。
だけど、一科学者として、自我を持ち始めたロボットを見て黙っているわけには行かない。
それが自分の主人の為に芽生えた心なら尚更だ。
彼女の望むままに答えれば、彼女の心は成長するのではないでしょうか。」
そう真っ直ぐに見つめてくる男の目を科学者はそらすことができなかった。
作り物ではない、彼女の心をもう一度ずっと感じたいと、あの日から願っていたのは他でもない自分だったのだから。
「お願いします、マスター。」
腕の中から無機質ではない声が聞こえ、そして科学者はとうとう首を縦に振ったのだった。
それから科学者は戦闘プログラムを始めとした持てる技術を、彼女を傷つけない為に組み込んだ。
万が一、彼女が傷ついても直す装置を作り上げた。
そしてありとあらゆる攻撃から身を守る特殊な鉄の翼を与えた。
自分のためにトーナメントで戦うと決めた彼女の意思と、身体を守るために。
彼女はトーナメントに出場し、その賞金で科学者は研究を進めた。
そのうちに、彼女を連れてきた科学者の男の姿も時折混ざり、2人を手伝うようになっていった。
そんな日々の中、ロボットである彼女の心は、どんどんと『彼女』へ近づいていったのだった。
――そしてついにその日が来た。
能力をプログラム化し、複製し、譲渡する研究が完成したのだ。
喜びを噛み締め、一刻も早く眠る彼女に伝えようと顔を上げた瞬間、
研究所に一発の銃声が鳴り響いた。
胸に焼けるような痛みを感じながら振り向くと、そこには研究を手伝っていた男の姿があった。
「この研究が対能力者部隊の手に渡ったら困るんです。」
男は銃を構えながらそう言うと、引き金に再び手をかける。
咄嗟に科学者は自らの能力で男の腕と動きを封じ、そして、血が流れる体を抑え彼女の眠る部屋へと引きずるように逃げ込んだ。
打たれたのは右胸だが血が出すぎている。自分はもう長くないだろう。
眠る彼女に科学者は最後の力で研究データのバックアップと、そして、プログラム化した自身の能力を組み込み、彼女に語りかけていく。
「…あの日落雷が落ちてから、本当は心のどこかで自分の命など惜しくはないと、そう思っていたんだ。
でも、今は、今になって、君ともっと生きたいとそう思ってやまないんだよ。
あの日君と一緒に死ねなくてごめん。一人で逝かせてしまってごめん。僕のために戦わせてしまってごめん。また君を、一人にしてごめん。…そして、こんな僕と、一緒にいてくれて…ありがとう。
……こんなにどうしよもない僕をずっと支えてくれていたのに、それでも尚、君に頼みたいことがある僕を君は許してくれるかな。
…これを、今君にインストールしているこのデータを、僕と君の尊敬するヴィクター博士の最後の意思に答えるこれを、正義の心を持つ彼らに届けて欲しいんだ。
最後まで君に甘えてばかりですまない。もうひとつのプログラムは、僕の能力は君に…僕の意思と共に…心を手に入れた君なら…きっと…………」
静寂が訪れた部屋で、彼女は静かに目を開ける。
目の前では、科学者が眠るように倒れていた。
「マスター」
一度、科学者に呼びかける。返事はない。
二度、三度と呼びかける。それでも返事はない。
何度も、何度も。
初めて呼ぶのにどこか懐かしい科学者の名前を。
――泣き呼びかけながら彼女が科学者に触れようとしたその時のことだった。
自分の意思とは反対に、足が勝手に立ち上がると、彼女は科学者を背に扉へと歩み始める。
何かがおかしい。と、彼女は自分にインストールされているプログラムを読み込み、そして、発見する。
「トーナメント自動出場プログラム」
「それ以外でのスリーププログラム」
「自傷防止プログラム」
そして、
「感情停止プログラム」を。
全て昨日までは無かったものだ。
そして、彼女自身では消せないよう、そのプログラムは厳重にロックをされていた。
霞む視界の中、扉の先には倒れている男の姿があった。
男は、ふらつきながらも自分を睨みつける彼女の姿を見つけると、こう言った。
「――君にはもう少し役に立ってもらうよ。」と。
* * *
町外れにひっそりと佇む研究所。
そこには、カラになったデータと金庫、そして、一体のロボット。
ロボットの眠る装置が今日も研究所に無機質な音声を響かせる。
―――――トーナメント ノ 時間デス。
◆戦闘プログラム
機械である故の頑丈さと力、そして鉄の翼を主に主軸として戦う。
鉄の翼は特殊合金で作られており、滅多なことでは傷つかない守りの翼。
翼を使い攻撃を行うことも出来るが、科学者がミウを殺人兵器にしたくなかった為、
全体的に殺傷能力は高くない。
胸元の物質が核となっている。
科学者から貰い受けた能力は『断ち切り、紡ぐ能力者』。
人の「心」を受け真の効果を発揮し、目には見えないものを断ち切ったり、繋ぎ直したりすることができる。
しかし、現在のミウは「心」を停止されている為、使える能力には制限がある。
人格や感情はプログラムによって停止されているが、意思疎通は可能。
また、トーナメントで傷ついた傷は研究所にある装置で毎回メンテナンスと修復しているが、
追加で組み込まれた数個のプログラムにはほころびが出来始めている様子。
【断ちの剣】
両掌から出すことのできる赤いレーザー状の刃。。
この刃にあたると傷を負うことは無いが、触れた部分の機能が断ち切られてしまう。
腕にあたれば、腕を動かす機能を。
首に当たれば呼吸をするという機能を。
そして頭に当たれば無差別に記憶を一つ。
心がなくても使え、効果は1時間程。
心がある状態で使うと、その時の念じ方次第で効果の時間が変わる。
思いが強すぎる状態で断ち切るとその部分が一生使い物にならなくなったりもする。
【断ちの剣:表】
相手を縛る記憶や、負の念、感情、未練を断ち切ることが出来る。
また、相手の能力を断ち切り能力を消すことも可能。
本来の使い方だが、心が無いと使えない。
【紡ぎの刃】
両掌から出すことのできる青いレーザー状の刃。
断ちの剣で断ち切ったものを紡ぎ直すことができる。
また、相手が忘れている感情や記憶を紡ぎ直して鮮明にする。
表の断ちの剣と同様、心が無いと使えない。
【守りの翼】
あらゆる攻撃から自動で彼女を守る特殊な鉄の翼。
鉄の羽を飛ばし相手を攻撃する事も出来るが、殺傷能力は高くない。
翼を広げることで光の屈折を曲げ相手に錯覚を起こすことも出来る。
また、翼の形や大きさを変えることもでき、包むように自身を守ったり、
翼をスピア状や拳の形に変え相手を攻撃する。
もちろん飛べる。
【ろぼっとがぁるさようなら】
男に組み込まれた追加プログラム。
戦闘に関するプログラム以外の全てをシャットダウン。
意思疎通が不可能となり、相手が死ぬまで戦う戦闘兵器となる。
補足