製作者 | VEN |
出場大会 | 第十回大会 |
経歴 |
設定
「人の尊厳を失墜させ、己の同胞を数多屠ってきた首謀……貴様か」
〈STORY〉
「デインデ」の存在を見た男がいた。
彼の発明は素晴らしいものであった、後世歴史の偉人として名を残して当然の人間だったといえよう。
彼の優しい人柄は、これを人類の扶助に用い、明るい未来を創りだそうと試みたのである。
だが彼は知らなかった。優しすぎるが故に、想像が及ばなかった。
――彼の生み出したその高度なエネルギー源を、秘密裏に兵器として利用する人間が少なからず存在したことを。
◆
物心ついた時には、生みの親と思しき人間は何処にもいなくなっていた。己は自分の名を持っていなかった。
自分を取り囲む環境は、殺風景な白壁紙に少しの遊具があるばかりであった。
手持ち無沙汰でいるうちに、白衣の人間が来ては検査だ何だのと言って、この巨大な建造物の何処其処で何やら仰々しい機械のチューブを取り付けられるような日々の連続である。
「検査」が終わると、こちらには何の知らせもなく無言で紙に(おそらくは検査のあれこれを)記し、また違う人間が現れて、己を先程まで居た「無菌室」と名のついた部屋に戻してどこかに消える。
自分は、このような日常を何の怪訝な感情も抱かずに過ごしていたのだ。
◆
June 7, XXXX
ウチの部長が何やら子供を取引していた。部長は子供にそういう実験をするような人ではなかったはずだが。
どういうことかと尋ねたら、部長はこの子供はおそらく、過去最高の被験体になるだろうと自信満々に言ってのけた。
俺は呆気にとられた、まさかあの頑固な部長が、簡単に自分のポリシーに背くとは。
どうも、今度から俺はその子の世話係に配属されるらしい。
その後、俺はその子の実験の結果を見させてもらった。
目を疑った。その子は常人の数十倍のデインデ適合値を叩きだしたのだ。
聞くところによると、あの子は生まれつき免疫系が極端に弱く、医者にかかりきりになってたところを何者かが業者に売っちまったらしい。
なるほど、それならばこの適合値にも頷ける。これだけあるなら、あんな物騒な「モノ」をつけたとしても苦しむことは無いだろう。
だが可哀想に。あの子、よりにもよってこんな頭のおかしなところに売られてしまうなんてな……。
◆
世話係の研究員とはよく談笑する仲であった。大変よくしてくれて、いつかこの恩を返したいとさえ思っていた。彼は自らを「アルファス」と名乗っていた。
彼はよく血を吐いていたので、自分は気掛かりでならなかった。いつもこれは持病だから薬で治まる、あまり気にしないでくれ、と言っていた。
ある日のこと、彼は己をこの研究所から出そうとしていることを自分に明かした。
自分はこの厚意をまだ、よく理解していなかったのだ。外の景色でも見せてくれるのだろうと、喜ばしくは思った。
彼はどこか後ろめたさのある表情をしていた。あえて理由は聞かなかった。
己には、例えわずかな障害はあったとしても、必ず明るい未来がやってくるものだと信じていたからだ。
このタワーに雷が落ちる、あの日までは。
◆
鼓膜をこじ開けるようなサイレンが絶叫する。
逃げ場なく照らす赤い光はこの世の終わりを連想させた。
夏の虫のようにひしめく研究員たちは、我先にとこの施設から逃げ出そうとしていた。
――サイレンは、落雷の異常を知らせる為だけのものではなかった。
真っ先に危険を感知し、尚且つ加速装置まで用いて脱走した科学者さえ、後ろから追ってきた"怪獣"たちによって貫かれ砕かれ、命を落とす。
それらは確かに人であった。だが、彼らの姿はとても人とは言いがたいものであった。
――獣、甲虫、軟体生物、魚類、爬虫類、鳥類。
それはさながら復讐劇のようであった。既に息絶えた研究員を、人型でなくなるまで踏み潰し続けるモノもいた。
タワーへの落雷。それとほぼ同時に"被験者"は異常に活性化した。機械の不調からだろうか、扉が開放されるとともにことごとく脱走したのだという。
近くに落ちていた研究資料に目が行った。デインデマシンの副作用、被験者の死亡――。
あの世話係の言っていたことを、自分はその時に全て理解した。
この施設と、己の存在理由。多くの者達が「あれ」によって苦しめられていたこと。自分は己の無知を呪った。
――彼は? 自分は彼がよく言っていた、彼のお気に入りの場所へと急いだ。
そこには、足を怪我して動けずにいる瀕死の姿があった。
咄嗟に体が動いた。なりふり構わず息を切らして、彼を背負い込み連れだそうとした。
彼は見捨てて逃げろ、と己に言った。
己は断る、と彼に言った。
――しかし、突然の地響きに己はバランスを崩してしまう。後ろを見ると大群が押し寄せてきていた。
そいつを殺せ、お前も仲間だろうと、『彼ら』はそう言ってきた。
己はただ懇願した。彼は優しいから、どうか殺さないでくれと彼らに頼んだ。
しかし、必死の懇願もついには届かず、彼らは容赦なく襲いかかってきた。
無力。己にはどうすることもできなかった。人一人の命も救えない自分は自分に絶望した。
――ぼやける視界に、瀕死だった男が立ち上がったのが見えた。
危ない。だが己は恐怖で、自分の身体を起こすことさえままならなかった。
彼の大音声と共に、男のシルエットが次第に巨大化していくのが分かった。曖昧な視界では、それが何なのかはわからなかったが。
一瞬だけはっきりとした視界。それはまるで"孔雀"のようであった。
それには心当たりがあった。今、目の前にあるもの。
――紛れも無い、あの怪物たちを怪物たらしめる、「モノ」であった。
残骸が眼前に散らばっていた。己の心境は、眼の前の残骸のように複雑乱雑なものであった。
彼らは、ここまでされる謂れはあったのだろうか? 本当にこうなるべきなのは、己の方ではないのか?
それはせめてもの贖罪のつもりだった。人に付けられるべきではないその「モノ」を、出来るだけ死体を傷つけないように引き剥がした。あっさりと剥がれた。
自らの腕を切り落とし、彼らの「モノ」を代わりに自らの腕とした。
自らの脚を切り落とし、彼らの「モノ」を代わりに自らの脚とした。
激しい痛みが襲ったが、一瞬の出来事であった。それはあっという間に自らの身体に癒着し、適合した。心に穴が空いたような心地がした。
気を失った彼を再び背負い、歩いた。何としても、二人だけでもここから出ることを望んでいた。
――束の間、発砲音と断末魔とが、己の耳を打った。
彼は血を吐き散らかして死んだ。危険因子の処分、だとか聞こえた。被験者開放の重罰、だとか聞こえた。
わけがわからなかった。あれらを檻から解き放ったのは、他ならぬ彼だったのか?
だとしたら、彼はやっとの思いで解き放った被害者たちを、己を救うため自ら殺して、彼は何も遂げることができぬまま、志半ばで倒れたのだ。
何故。どうしてこんなことになってしまったのだろうか。
自分はなかったはずの気力を半ば自棄糞に振り絞って、扱い方もよく知らぬ翼状のパーツで空を飛び、破壊された施設から死んだ男とともに消えた。
◆
己はあの塔から少し離れた、人のいない台地のような場所に降り立った。
彼に付けられていた「モノ」を、丁寧に切り離した。
彼はこれによって、せめて彼らと同じ苦しみを味わおうとしたのだろうか。
ならば、せめて己も。この人の遺志を、この人の苦しみを継いで生きようと思った。自分はこの尾状の「モノ」を自らの背中に突き刺した。
痛みはすぐに消えた。苦しむことはなかった。雨が降っているわけでもないのに、地面にぽつぽつと黒い点々ができた。
結局己は、研究施設破壊の主犯という口実で自首することにした。
己に課せられた罪状は「終身刑」であった。
◆
急に開かれた独房の扉に、己はしばし唖然とした。
脱走する機会であった。だが、とても脱走する気にはならなかった。自分は既にここで果てるつもりであった。
すると一人の大男が、己に声をかけてきた。
それは囚人総出のクーデターへの誘いだった。クーデターなど起こして、どうするつもりだ、と自分は思った。
――ふと、ここで今は亡き、かつての友人の勇姿が脳裏に浮かぶ。
――彼はまさに、"クーデター"を起こそうとしていたのではないか?
だとしたら、一体彼は何を敵として反逆したのだろうか。自分は暫く考えて、やがて一つの結論にたどり着いた。
――この世界にはびこる『科学』。人間らしさを凌駕して、野放図に膨れ上がった『科学』を彼は破壊しようとしていたのだ。
悲しき被験者たちは『科学』によって虐げられ、一人の勇敢な戦士は『科学』によって殺された。きっとこの大男もそうなのだろう。
己にはこの腕に。この脚に。この背中に。かつての同胞が付いている――何も恐れることはない。
――だが、己のみの力では、『科学』を根こそぎ討ち滅ぼす事など到底出来はしないだろう。
人類が一丸となって立ち向かわなければならない。今こそ、人類共通の怨敵を認識しなければいけないのだ。
糾弾せねばならない。科学とは、世界にまで蔓延する災いとして、徹底的に。
そして己は決心した。
自分はその大男にこう告げた。それは承諾の合図であった。
「これから起きる惨劇を見ているがいい。単純明快な『科学』を、教授してやろう」
――"理解"させるのだ。自らの持つこの『科学』によって、科学がどれほど人の文明を破壊せしめるのかを。
爪痕を残さなければならない。歴史上最悪の悲劇として、二度と起こしてはならない過ちとして。
"彼"が『科学』による大破壊を至上の主義としたのは、その瞬間だった。
〈ABILITY〉
『半人半機』
これは落雷によって発生した能力ではない。
彼の身体には免疫系が極端に少なく、身体への移植などによる拒絶反応がほとんど発生しない。
しかし、当然ながら細菌などに対する抵抗力も殆どないため、非常に病弱でありパーツの補助機能でそれらの欠点を辛うじて補っている状態である。
故に傷の治りが自然治癒することはない。マシンの補助機能を使って人為的に治すことになる。
『デインデマシン「孔雀」』
翼型、尾型のパーツと脚用装備からなる、複数のデインデマシンからなる一個。呼称は本来尾型のもののみを指すものであった。
翼は収納可能で、掌から骨組みが伸び、それに沿った形で全羽が展開されるという仕組みになっている。
マシンは対物銃すら弾く硬度を持っているが生身の部分はそのままであり、狙われると弱い。
飛行可能なデインデマシンだが、一度の飛行時間や速度、飛行距離は抜群とはいえない。
とはいえ、一世代前の戦闘機程度のスピードは軽く引き出すことが可能。
彼の行動目的上、敵を狙い殺害するというよりは、無差別に空爆を行い地形を破壊するというような戦闘スタイルを好む。
しかし、銃器や兵器、マシンの類を"利用"している者は優先して狙う。逆に、マシンに苦しめられてる、憎んでいるような者は見逃す場合が多い。
・翼状器官
内側にある黒い羽が機銃、追尾ミサイル、様々な形態をとって対象を空から狩る。
弾丸は少量の金属と高デインデエネルギーから成り立っており、弾がなくなる、といったことはまず起こりえない。
主に使用するのはこのパーツ。
・脚状器官
鳥と人の中間のような外見の脚には鋭い振動ブレードが装備。高水準の膂力と切断力で強固な合金ですら切り裂いてしまう。
逆関節であり、歩行能力が鈍いところがある。
・尾状器官
極めて特質な兵器。
孔雀の模様のように装備された無数の自立飛行小型ビットのそれぞれがテスラコイルのような構造になっており、単機で莫大な放電を可能としている。
尾状器官本体は避雷針の役目を果たしているので、ビットの放電は姿勢を低くしてさえいれば自分自身にとって危険はない。
相当量のデインデを使用するため他のデインデマシンとの併用は一切不可能となっている。
・負荷
拒絶反応がマシンに対して起こらないとはいえ、マシンを酷使すると熱暴走を起こし激しい苦痛とダメージをもたらすこととなる。
彼はその苦しみを積極的に享受しようとする質があり、マシンを使いすぎるのを自制する、といったような配慮はしない。
特に、最高速飛行、致命傷の治癒に関してはマシンにかなりの負荷がかかり、尾状器官は一度の使用で確実に熱暴走を起こすほどのエネルギーを使う。
・自爆機構
アルファスの意思でマシンは自爆をすることが出来る。
60カウントの秒読みの後、莫大な範囲に甚大な被害を及ぼす大爆破が起こる。
これは一度起動してしまえば、決して取りやめることはできない。
「己の醜い姿を見ろ……これが貴様らの遺した"罪"の貌だ」
補足