製作者 | 黒砂糖13 |
出場大会 | 第十回大会 |
経歴 |
設定
少年は孤児だった―。
孤児院いたころの彼は周りとは馴染まず、暇さえあればテレビのボクシングの試合を見るか一人スパーリングしているかのどちらかだった。
何度かほかの子からいじめを受けたこともあったが主犯を見つけ相手が気絶するまで殴ったらもう彼に近づくことは無かった。
先生にこっぴどく怒られているさなか彼は一つの結論にたどり着いた。
”ここでの生活は俺には合わない”
そう思い至った彼はある日そっと孤児院を抜け出し都市のスラム街を中心に働き始めた。
数年後、あらゆる仕事をこなしていくうちに彼は自分には喧嘩の才能があるんだと感じ始めた。
それを売り文句にそのスラム街一帯を治めていたギャング「グリーンストーンファミリー」の用心棒になった。
相手が銃を持とうがナイフを持とうが目を逸らさず真正面から素手で撃退していく凄腕の用心棒の噂は瞬く間に周囲の人々に知れ渡った。
”グリーンストーンんところの用心棒はやべぇ”
”銃で撃とうがナイフで刺そうが倒れず殴りかかってくる番犬が居るらしいぜ、おぉ怖い怖い・・・”
その仕事ぶりに目をつけたファミリーのボス”グリーンストーン”は彼を正式にファミリーの幹部の席を渡そうと提案した。
もともと幹部の面々は誰もが抗争を経験した古強者の集まり、ボスの提案に反論するものは居なかった。
が、少年は断った。しかも単純な理由だ、”今トレバーのボクシング試合があるから邪魔しないでくれ”。
一世一代のチャンスを彼は好きなボクサーの決勝試合のために蹴ったのだ。
”あぁ・・・こいつ死ぬな・・・”そう思いつつ使者はボスの下へ報告に戻ると”グリーンストーン”は険しい顔をした後ふとニヤリと笑い、彼を”奴”に合わせろと命じた。
数日後、何時もと違う仕事と言われついて来た”グリーンストーンの番犬”は一つのボクシングジムにつれて来られそこで思わぬものを目にした。
”彼が…ですかね?Mr.グリーンストーン”
”そうだよトレバー、彼はどうやら君のファンのようだ。ここは私の名に免じて彼を君の弟子にしてやってはくれないかね?”
”拒否権は無いんでしょう?知ってますよMr.グリーンストーン。分かりました、引き受けましょう。”
”さて、待たせて悪かったね君。いや、’ジェロニモ・グリーンストーン’。君の新しい名だ。君への新たな仕事だ、憧れのトレバー君に弟子入りしプロボクサーになりなさい。
そしてその新しい名で’グリーンストーン’に楯突く者に見せつけてやれ。’ワシを敵に回すということは’お前’を敵に回すことになるんだということをな…’。この期に及んでまさか
断るなんて事ないよなぁ?ジェロニモ君?”
ジェロニモは幸せだった。
今まで孤児院上がりの自分が夢にまで見たプロボクサーになれるなんて思っても見なかった。
しかも指導してくれるのは自分があこがれたトレバーだ。プロになってもグリーンストーンの飼い犬であることには変わりないのは知っていた。でも引き受けた。
”グリーンストーン”と繋がってるとは正直驚いたが実際に彼とスパーリングしてくうちにそんな些細なことは気にならなくなった。
強くなろう、強くなってやろう。恩返しするためにはそれが一番の方法だと信じて特訓に明け暮れた。
ジェロニモ・グリーンストーン、16歳。
プロボクサー、トレバーの養子兼弟子としてジムに通い始める。
ジェロニモ・グリーンストーン、18歳。
ミドル級ボクシング地区大会にて優勝。
全試合1分以内にK.O.勝ちという華々しいデビューを果たす。
ジェロニモ・グリーンストーン、20歳。
デビュー後2年、3大会優勝。現在、無敗。
ジェロニモ・グリーンストーン、21歳。
世界ボクシングミドル級にて優勝。現在:367勝0敗
名実ともにボクシング世界チャンピオンの名声を手に入れる。
後日、ジェロニモ・グリーンストーンが原因不明の事故に見舞われ科学都市第一地区総合病院に搬送される。
数ヵ月後、ジェロニモはプロを引退するということがコーチ、トレバーの口から発表される。
何がなんだか分からなかった。
あの日、世界大会に優勝し祝杯のパーティーの帰りだった。
今思うと酔っていたからかも知れない、ふと自分の荷物の重さに違和感を覚え覗いてみると自分の大切なグローブが無かった。きっとジムに忘れてしまったんだと千鳥足でジムに戻った。
フラフラした頭でかろうじてスペアキーで静まり返ったジムのドアを開ける。一通り見渡すと丁度ドアからの月明かりに照らされてリングの中央に自分のグローブがあった。
朦朧とし始めた意識を振り絞りロープを超えグローブにたどり着いた瞬間、頭部に強烈な衝撃を受け意識が途絶えた。
目が覚めたら病院の病室だった。
意識が戻ったことに気がついた看護婦が駆けつけしばらくすると担当の医師であろう人物が部屋に駆け込んできた。
一体なにがあったんだろう…必死に考えるも思い出せない。
「落ち着いて聞いてくださいジェロニモさん、あなたは2ヶ月前不運な事故に巻き込まれここに搬送されてきました・・・。もうおそらく今までの生活には戻れないでしょうと先に申し上げておきます」
なにを言ってるんだこの人は。今は全身だるいがそんな大げさな・・・筋肉は落ちてるかもだがこの”腕”がある限りまた・・・
上体を起こそうとベッドの端に手をかけようとしたとき両手に違和感を覚えた。
彼は両腕を失っていた。
曰くあの晩ジムに強盗が入ったのだとトレバーに聞かされた。
その強盗は頭がイカレていた奴らしく気絶させたジェロニモの腕を切り落としたと。
そして朝方ジムに通っていた会員の一人が血だまりの中で倒れてるジェロニモを見つけ病院に運ばれたと、むしろあんな大怪我で生きているのが不思議だと。
もう好きだったボクシングは出来ない、グリーンストーンの旦那にもトレバーにも恩返しは出来ない。
ジェロニモは絶望した。
幸いにもリハビリの末数ヵ月後退院することができた。
それでも彼はジムに通いつめた。周囲の哀れみの視線を振り切りジムの隅っこにあるいつものサンドバッグの前へ行きファイティングポーズをとる。
殴る腕もなくただひたすらサンドバッグの前で上体を左右に振った。サンドバッグは揺れるはずも無く沈黙を保ったままだ。
それでも彼は上体を振り続けた。目元には深い影を落としながらもこの空しさを掃うために。
ある曇り空の日、死んだ目のジェロニモは何時もどおりの時間にジムに現れた。珍しく人のいないジムに。
口と足を起用に使いパーカーを外し時間をかけてボクシングパンツを履き何時ものサンドバッグの前へ。
”やぁ、ジェロニモ君”
ファイティングポーズをとった彼の背後から声を掛けられた。忘れるはずが無い、恩人グリーンストーンだ。
が、それを無視し上体を降り始める。
”・・・聞く耳を持たないようなのでこのまま話を続けよう。言うタイミングを逃してしまったがジェロニモ君、君はよくやってくれたよ。ボクシング世界チャンピオン、”無敗の男”、トレバーに迫る勝利数、
人が到底成し遂げられるはずも無い様々な偉業を君は達成してくれた。それを成し遂げる者がワシの傘下にいることを誇らしく思うよ。そんな君がこんなになってしまうなんてワシは悲しいよ。
もう見たくは無いんだよ君が苦しむ姿をね・・・。こう見えてワシは優しいのだよ、心のそこから君を思っている、だから君への依頼は破棄しよう。もうがんばらなくていいのだぞ。”
ジェロニモは無言で振り続ける。
”・・・だからこそ楽にしてやりたい。そうは思わんかね?トレバー君”
”そうですねMr.グリーンストーン”
咄嗟に振り返ったジェロニモにトレバーは渾身の右ストレートを浴びせる。
今まで受けた中でもっとも重いパンチを食らい隅の壁に打ち付けられる。
どうして・・・そんな顔で見上げるジェロニモに笑顔でグリーンストーンは答える、
”分からないかね、ジェロニモ君?まったく君は鈍い男だよ。簡単さ’腕の無いボクシングチャンピオン’なんざがほかのファミリーに対する抑止力になると思うかね?答えは当然Noだ。
さっきので分からなかったようだから改めてはっきり言おう。君は用済みなんだよ。”
それを皮切りにトレバーはサンドバッグを殴るようにジェロニモを殴り始めた。
全身を激痛が走る中ジェロニモの中の夢や憧れが崩れ去って行くのを感じた。
何も無くなった彼の中を埋める様に湧き上がってきたのは底なしの憎悪だった。
見限られたという事実、慕ってくれた憧れの存在は自分を見捨てて今自分を処分しようとしているという事実、そしてやっぱり自分は操られるだけの身だったという事実。
全てが今彼の中で種火となって寄せ集まり憎悪の炎へと変貌していったのだ。
両腕でガードも出来ず数分にも渡るラッシュを受け床に倒れ伏すジェロニモ。
見上げる彼の眼差しは今や純粋の殺意の眼差しとなって両者を見据えていた。
そこへグリーンストーンが告げる、
”ここまで頑丈だと処分するのも一苦労だ。それにここは汗臭い、匂いがコートに染み付く前に止めをさしなさい。”
”ハァ・・・ハァ・・・分かりました”
今ジェロニモに止めを刺さんと首から掴み上げ右腕を構えるトレバー。
未だに殺意の眼差しを向けるジェロニモの中に何か力がこみ上げる。
いつの間にか降り始めた雨の音が響き渡るジムに雷の轟音が響く。
それと同時に殺意をこめたトレバーの右ストレートがジェロニモの顔面を捉えた。
仰向けに倒れピクリとも動かなくなったジェロニモを見て笑みを浮かべるグリーンストーン。
”やっと死んだか、しぶといやつめ。・・・これはこう使えばいいのかねトレバー君?”
リングの隅にある機械を弄っていたグリーンストーンがスイッチを入れるとジム内に「カーン、カーン、カーン」とK.O.を示すゴングの音が響く。
”・・・チャンピオンらしい最後じゃないですかMr.グリ-ンストーン”
”そうだろう?ハハハッ”
ザッ
””?””
両者が振り向くとそこに立っていたのはジェロニモだった。血だらけの風貌でもなお不気味な笑みを浮かべ殺意の増した眼差しで両者を見据えていた。
うんざりとした顔で「始末しなさい」と告げジムを後にしようとするグリーンストーン、それに答えるべく再び右ストレートを構えるトレバー。
大きく振りかぶったそのとき、鈍く生々しい殴打の音とともにトレバーの体が浮き天井を突き破り、二回の天井にグチャッ!という音をたて、人型の血の跡になった。
”・・・は?”
思わず口に出し振り向くとそこにジェロニモが上体を斜めにそらしさながらアッパーをかました後のポーズをとっていた。依然として腕は無い
幾年ぶりの本能的な恐怖を感じ逃げようとするグリーンストーン。
それを満面の笑みで見据えたジェロニモは一瞬の動きで距離を積め今は無き右腕を振りかぶる。
するとさも腕があったころのようにグリーンストーンの顔面が歪み、そして千切れ飛んだ。
数秒前まで彼が弄くっていた機械にめり込み「カーン、カカ~ン・・・カーン、カーカン・・・」とジムを試合終了のゴングの音が埋め尽くした。
能力者が科学都市に現れ始めたその日から密やかに裏の世界で噂され始めたことがあった。
それはグリーンストーンファミリーに関わったことのある者が次から次へと殺されてるということだった。
その噂は直後に起きた裏社会の崩壊によって塗りつぶされて以降話題にも上がらなくなった。
そして1年後、対能力者部隊の活躍によって十数名の死傷者を出しつつも一人の猟奇殺人犯が捕らえられ特殊収容所に収監された。
ニュースにて顔写真と名前が公開されたが、見たもののうち何人かはかつての若き世界チャンピオンの面影を思い出しつつ「いや、やっぱりこんな醜い顔じゃなかったなと」忘れるのであった。
補足