ノクナ=ミーキュトース

 

 

 

製作者 磁石 
出場大会 第十二回大会 
経歴  

 

 

 

 

設定

魔法の道に終わりはなく、魔法の深淵に底はない。

学べば学ぶだけ。修めれば修めるだけ。次なる問題が現れる。

そんな未知の秘境をどれだけ歩んでいけるかは、単にその人間が持つ情熱次第。

全霊の努力を以て打ち込めば、魔法は必ずや答えを示す。
そして、時間と献身を犠牲にして得られた答えは、その人間にとって何よりも尊いものとなるだろう。

その答えが、自分以外の人間によって否定され、簡略化されてしまおうとも。
自分自身の力で生み出された方式であるからこそ、彼らは愛するのである。小さな小さな魔法でさえ。

強さの為でも権力の為でもなく、魔法学に傾倒し続ける人間は存在する。

彼らはどこまでも歩み、どこまでも落ち、どこまでも沈む。

その体が朽ち果てる、最期の一瞬まで。

――或いは、体が朽ち果てた後でさえも。

とある辺境の小国に、知識欲の海にて、自ら望んで溺れ死んだ者が1人。

「魔導師の優劣と大魔導決選。ワタシが? 他でもないワタシが?」

「そうとも。君に、他でもない君にだ」

そこは薄暗く、狭く、湿り気を帯びた空気で満ちた場所。
石製の椅子が二脚あるばかりの小さな小さな地下室にて、会話をする者が2人。

片方は、煌びやかな装飾品と豪奢な意匠のローブに身を包んだ老人だった。
彼の頭に載っている、黄金と宝石に覆われた冠は、見る者に対して否応なしに彼が王であることを理解させただろう。

彼の国、『シャーリーク』が他の国に比べて小さく、豊かとはいえない国であるにせよ、王の権力はまさに絶対。
そもそも、王として選ばれたからには備えている筈なのだ。人々を驚嘆させ、歓喜させ、時として恐怖させる数多の魔法を。

それにも関わらず、王の前に座っている者は敬意の欠片もない態度を取っていた。
椅子にだらしなく"腰らしき部位"を沈め、"両腕らしき部位"を、"頭らしき部位"の後ろで組んでいたのである。

……男か女か、それさえも分からなかった。声の情報から判別するなら、女だろうか。
輝くような黄色の線が人間の五体に似通った形を構成し、その周囲を紫色の輪が包む。

全ての輪は絶えず収縮を繰り返しており、その内の一部が椅子や王の体に触れても、静かにすり抜けるのみだった。
足を投げ出した態度は、その物体が抱えているどうしようもない気だるさとやる気の無さをうかがわせる。

「嫌ですね。ワタシを家に帰してください。まだまだ、研究は終わっていないのですよ」

「……私が、兵士たちを遣わしてまで君をここに連れてきた理由が分かるかね?」

「腰が痛くて歩くのが億劫だったからでは?」

「もう決まっているからだ。君が、この国の代表者として表舞台に出ることは」

断固とした王の言葉に対して、輪状の光は収縮の速度を酷く早めた。
関節に当たるのであろう黄色の光も、何やら真紅の警戒色に染まり始める。怒りが見て取れた。

「はぁ? ……ねぇ王様。王様、王様、王様。ちょっと、何を言っているのか分かりかねますが?」

「もう一度聞きたいのかね。君がこの国の代表者として大魔導師を目指すことは、もう決まっているのだ」

「……先日、精神安定の魔法を完成させましてね。いかがです、今ならお安く教授して差し上げますよ」

「不要だよ。私は正常だ。正常だからこそ、君を選んだのだ」

膨らんでは体を通り過ぎていく光、その中の1つをじっと見据えながら、王はただ言葉を紡ぐ。
この異常な生命体の敵意を、少しでも抑えられるように。協力と理解を得られるように。

「私には分かる。この王冠の力が知らせてくれる。……この国でもっとも多く魔法の知識を持つ者、そして最も強い魔法使いである者は、君なんだ」

「い、いやぁ、最も多くの知識だなんて……ふ、ふふふふっ、口が上手いんですから……」

「この大魔導決選、104年ぶりの決選は、どうしても我が国の物としたいのだ! この機会を逃せば、この国に日が当たる事など……もう、ないかもしれないのだよ!」

「……ああ。別に王様が魔導国家連合議長に選ばれたいわけじゃないのですねえ」

嬉しそうに輪郭をくねらせていた光が固まり、冷静さを取り戻して元の形状に落ち着く。

てっきり彼女は、自分が議長に選ばれたいがあまり、連絡もなしに代表選出を済ませるという暴挙に出たのかと思っていたのである。
だからといって、この悪印象が塗り替えられることなど無いだろうが。

「私は、この国をこんな日陰の国として終わらせたくはない! 大魔導師に選ばれし者を輩出した国として、世に知れ渡らせたいのだ!」

「左様ですか。で、どうすれば代表者を辞退できるので?」

「…………報酬は我が国の書物全てだ。結果に関わらず、一文字たりとも余すところなく君の物としよう」

「……何ですって?」

「この国が有名になれば、さらに多くの書物と知識が外から入って来るだろう。それらも完全な形で複写して、君の元へと届けよう」

「いいでしょ王さ出ます大魔導けっ大魔導師なった時議長に誰を指名ればよいです?」

「…………」

王には、その繋がった言葉が半分ほどしか聞き取れなかった。
さっきまでは鎮座していた光が激しく膨張しながら立ち上がったせいで、視界も殆ど塞がれてしまっている。眩しくて堪らない。

流石だな、と王は蚊の鳴くような声で呟いた。

これが、この国に生まれ落ちた奇才。
魔法を愛するがあまり人間を辞め、魔法そのものと化し、尚も愛し続ける狂魔法学者。

「好きにしたまえ。私は、大魔導決選の中で出会った者から選出することを勧めるよ」

「はい、了解しました。大魔導決選は何秒後に開催されるので?」

「1週間後だ。……およそ、60万秒ほど後かな」

「遅いッ! 早く開催して早く終われば早く研究を再開できるのに!」

「……真面目に取り組んでくれるよう頼んでおくよ。大魔導決選の場でそんなことを言おうものなら、つまみ出されるぞ」

忠誠心とやる気を一瞬にして跳ね上がらせ、何かよく分からない振動を繰り返す光を前に。

王は、妙に不安な気持ちになりつつあった。この会談さえ乗り越えてしまえば、後はとんとん拍子になる筈であったのに。

この狂人は――本当に、大魔導師を目指して真摯に取り組んでくれるのだろうか?

 


名前:ノクナ=ミーキュトース 性別:元♀ 年齢:100以降は数えていない

【身体】

身長:190cm~410cm 体重:1kg~140kg
普段は190cmの1kg。

黄色い線で形作られた骨格を紫色の輪が取り囲んだ形をしている。
そのどちらも彼女の気分によって揺れ動き、大きさや色を変える。平常時が黄色と紫というだけである。
身体全体が魔法の産物にして魔法そのものでもあるが、生命状態は生身の人間とそれほど変わらない。
つまり、二足歩行を行ったり休む時は寝転がったりする訳であり、首が飛んだり胴体が別れたりすると死んでしまう訳である。

黄色い線は、もともと筋肉や骨であったものが変質した部分。丈夫さも人間の骨とそれほど変わらない。
この部分を攻撃されると痛みを覚え、体から切り離されると朽ちて消えてしまう。再生にはおよそ数時間が必要。

紫色の輪は、毛髪や皮膚であったものが変質した部分。
普段は単なる光の塊であり、非常に驚いたり、臨戦態勢に入った時のみ重さと硬さを持つ。
この部分に関しては、攻撃されても全くダメージにはならない。破壊されれば新たな物を出せばいいだけである。
一度に扱えるのは10個が限界といった所。それ以上になると1つ1つの扱いが雑になり、逆に自分を傷つけることになる。

最大の生命線であるため、この体は魔法を封じる魔法や魔法を停止させる魔法などに対し、絶対の耐性を秘めている。
自己を維持するための器官も頭の中の奥深くで守られており、これに干渉することは不可能に等しいだろう。

【人格】

最も重要なのが魔法研究。次に重要なのが自分と自分が記した書物。最後に、自分以外の人間が記した書物と知識を自慢できる相手。
それ以外の物は全て「それ以外」という一つの枠で括り、基本的には見ようともしない。
ここまで書くと人間味の欠片もない生物のように思えるが、外部からの刺激には非常に敏感な人柄でもある。

自身の知識を褒められることを過剰に喜び、貶されると一瞬にして逆上する。
感情の振れ幅が極端すぎる訳である。彼女の感じ方には100と-100しかないようだ。

半ば無理矢理な選出ではあったが、大魔導決選に関しては非常に乗り気である。
講釈と授業なら任せろ、という調子だが、実際に行われる競い合いは彼女が求めるほど理知的な物ではないようで……。

【変質】

彼女は脳という器官について、いつも限界を感じていた。
たった数千万の魔法式を詰め込んだ程度で、人間の脳はパンクしてしまう。それが残念でならなかった。
ならば、と彼女が編み出したのは体全てを記憶野のようにする魔法だった。
それらは遺伝子に似て極小の情報列を刻み、元の身体の数倍以上もの記憶を可能としたのである。
人間の身体には戻れなくなり、三大欲は消え、いつ人生が終わるのかも分からないが、彼女は今の体に満足している。

ちなみに本人はあまり意識していないが、「体全てを記憶野のようにする魔法」というもの自体が、讃えられるべき魔法の極限の一つである。

【魔法】

彼女は学問としての魔法を愛しているのであり、実践を行うことは全くと言っていいほどなかった。
その為、記憶している数多の攻撃系魔法が放たれることはない。誰かにその教授を求められ、彼女がそれに応えない限り。

戦闘で使うことになるのは、奇怪な輪と基本的な物理系魔法を組み合わせた技の数々である。
未知の形状に相手が戸惑っている間に先手を打ち、そのまま仕留めてしまうのが狙いのようだ。

下述の技はどれも、まるで元々の体質をそのまま活用した攻撃のようだと思われがちである。
だが、実際は「硬化」「浮遊」「追尾」「反転」「停止」等々、単純ながら奥の深い魔法を幾つも幾つも組み合わせているのである。
ある程度知識のある魔導学者がそれを見て、驚愕に息を呑まないことはないであろう。

【技】

「サークル・アタック」
輪を硬化させ、発射する。その際、輪の色は赤色に変化する。
硬度としては鉄と同程度、切断ではなく打撃の技である。
標的にかわされてしまった場合はブーメランのように戻って来る。無論、その際も標的を狙ってである。
強烈な防御により叩き割られてしまった場合はその限りでない。その場で砕け散り、消えてしまう。
だが、消えてしまっても大した問題はない。新しい物を作って飛ばすだけである。

「シールド・サークル」
輪を硬化、膨張させ、盾とする。その際、輪の色は暗い青色に変化する。
当然ながら『輪』という形状にあるべき穴は塞がる。
何枚も重ねて使ったり、あえて縦向きにしてて剣を受け止めたり、といった行動も可能。

「サークル・バインド」
輪に相手の体のどこかを通し、萎縮させて締め付ける。締め付けが強まるにつれ、輪の色は緑色に変化していく。
「サークル・アタック」の方から繋げて使うこともある。
締め付けるだけならまだしも、この輪はその状態で普通に動き回る。相手を浮かばせたり、転ばせたりなどの妨害が主体。
一度捕まえるとと簡単には逃さない、彼女の決め手ともいうべき技だろう。

「サークル・スキャン」
輪が持つ、特殊な分析能力。発動時の一瞬に限り、輪の色は虹色に変わる。
輪の中心を通過した物体、あるいは魔法の性質を完璧に分析し、それをレーザーに変えて本体に送信する。
素早く読書を済ませたいが為の能力であったが、戦いを始める直前に相手の能力分析にも使えると気がついた。
人に対して使った場合、記憶や目的なども滞りなく読み取れる。
その相手の目的に、知識によって協力できるようなことがあれば、戦闘を一時中断してでも持ち掛けることがある。知識をひけらかしたくて仕方ないようだ。

「ギガ・サークル」
使える輪の全てを結集、硬化、膨張させ、地表に叩きつける。その大きさは10メートルにも渡り、色合いは真っ黒である。
発動後、輪が戻ってくるまでの数分は体を守る物がなくなる為、止めの際にしか使わない奥の手となる。
「サークル・バインド」で相手を拘束した後であれば、隙も気にせずにぶちかましていくだろう。

【 所属国家設定 】:
【所属国家】

「シャーリーク」と名のついた小さな国。人口は5万人に満たず、国と言うよりも街のような都市である。
家々や道路はごく普通の煉瓦造りのように見えるが、国内で開発された魔法が多くの場所に組み込まれている。
具体的には、夜になると道そのものが薄く光り始める仕組みや、泥棒を感知すると悲鳴を上げる窓、等である。

この国の国民はみな、魔法の研究に対して実に熱心かつ真摯である。
特に、生活を利便にする魔法に関する研究が進んでおり、日常生活で使う紙やペン、食べ物や飲み物などを快適に扱わんとする魔法が多く作られている。
……が、それらの魔法には共通する欠点があった。とにかく、どうしようもなく地味なのである。
魔法の規模も効果も小さいとなれば大々的に宣伝することも出来ず、細々とした技術を他国に売り込んでいくしかない現状がこの国にはあった。

そんな中で百年近くも前に生まれていたノクナという生き物は、この国にとってはまさに突然変異種にして異端者。
異常なまでの知識量と体の形状ゆえに、誰もが彼女のことを恐れ、教えを仰ぐことが出来なかった。
彼女は数十年前から国家ぐるみで"いない者"として扱われており、他の国々にも知られてはいない。
今回の大魔導決選の代表選出に当たって、王はその点を逆手に取り、結果がどうあれこの国のアピールポイントになると考えたようである。

 


補足

 

 

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最終更新:2017年04月18日 22:56