製作者 | さのばてっく |
出場大会 | 第十二回大会 |
経歴 |
設定
《昔々、人々は平和で豊かに暮らしていました。国王は民を信じ、民を守り、民は国王を敬い、愛しました。
人々は魔法によって発展し、魔法は人々の暮らしに根差していました。
そんなある日の事でした。空から無数の星が降り注ぎました。星は多くの人々の命を奪いました。
やがて星は一つになり、悪神となって毎晩のように人々を襲って食べてしまいました。……》
顔を上げ本棚を見やった。禁書と書かれた棚に納められていた一冊の本。
この国では有名な御伽話だ。本のページを進め、終盤の場面に目を通す。
《……国王は、携えた聖剣を悪神に向けました。
『 聞け、悪の心が成す虞像の悪魔よ、我、王の名のもとに貴様を討ち果たす! 』
国王のもつ聖剣は輝きを放ち、瞬く間に悪神を切り裂きました。
悪神は消え去り、人々はもとの暮らしを取り戻しました。
それから人々は、魔法を使うことに感謝し、日々の祈りをささげるようになりました。》
悪を祓う王と、祓われる悪。古き時代から伝えられる伝説。広く知れ渡っている話とは違い、王立図書館の禁書とされた原典であるこの初版には、秘匿された表記がある。
先には、物語に登場する怪物と、国王の末路が記されていた。
しかし、バールダムにはその先のページをめくる事ができなかった。
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友人の賢者の話。
魔術結社「青き夜の輝星」は、両親の高い手腕で数年の間に急成長を遂げ、
連合国内でも名を上げた魔術結社となっていた。
両親が病に伏し他界したのは、友人のケニグスが十六の時であった。
これにより代々の魔術血統の家系で継がれてきた魔術結社のボスの座を受け継ぐことになった。ケニグスは両親が志半ばで命を落とし完成することのできなかった研究を目の当たりにし、その遺志を継ぐことを決意した。
幼少より魔術の鍛錬を欠かすことは無かったが、両親が力を入れていた魔術開発の知識は無く、両親が残した走り書きに目を通し、あらゆる書物を読み漁って独学で学ぶ他に手段のない分野であった。寝る暇を惜しみ、死にもの狂いで研究を重ねた。
長期にわたる研究がようやく実を結んだのが、両親が死んでから時が流れて十年。
両親の研究を成功させるまでに、気がつくと周囲から賢者と呼び慕われ、王家に仕えるまでになっていた。
国王からは功績を称えられ、王家に伝わる宝剣を送られた。
だがやはり、両親の研究を完成させるのみでは当然、魔術結社としての功績を認められるわけもなく、数年の間に負債は膨らみ情勢の悪化を食い止めることはできず、
また王家に対する魔術結社への資金援助の要請も聞き入れられる事はなかった。
圧政による課税が増加する一方であり、国内への資金の捻出が困難なほど、国は不況が続いていたのだ。
この時、既にケニグスの精神負担は限界を超えており、発散されることも無く胸を締め付けてゆく一方であった。
間もなくして魔術結社を解体することになった。
そして国をより良い方向へと導くべく、賢者の職に専念するために王城へと赴いた。
数年間、王城での任に就き、賢者として生活を送った。情勢は傾きつつも幾何か好調の兆しを見せていた。賢者同士の間でも仲間ができ、特に活躍の目覚ましいバールダムという魔道士とは意気投合し、年は離れていながらも親しくなった。
しかし、王城での生活も長く続くことは無かった。
バールダムとの会話で、両親の話が話題に上がった。
バールダムもケニグスの両親との面識があり見知っていたため、優れた魔道士であったことを話した。
その際、バールダムの口から「まさかあんな最期になるとは……」という言葉が漏れた。
それは両親の病の事だろうと思ったが、会話に何箇所もの食い違いがあり、バールダムの顔が徐々に青ざめてゆく事がわかった。
ケニグスはバールダムに掴み掛り、両親の死について何を知っているのかを問いただした。
バールダムは長年王城に仕えていたことで情勢に明るく、ケニグスの両親の死に関しても聞き及んでいた。
バールダムは苦しい顔をしたまま俯き、事実を告げた。
――当時、一代で着実に力をつけていった魔術結社「青き夜の輝星」
その目覚ましい成長は一国の魔法の技術レベルを何段階も引き上げる程であり、
諸外国の統治者はラッセンジア王国の経済成長を快く思わなかった。
魔導国家連合に加盟する一部の有権者の策略により、魔術結社のボスであるケニグスの両親は呪い殺された。
魔術結社のメンバーは恐れて真相を隠し、ケニグスだけには知らされることは無かった。
国王はその身を案じてケニグスを賢者として認め傍に置くようになった。
その事実を告げられたケニグスは茫然としたまま部屋を出、王城を後にした。
バールダムは友人の顔を見ることができなかった。事実を黙っていた自分をひどく呪った。
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バールダムが魔導国家連合議長の死の知らせを受けたのはそれからすぐの事だった。
直ちに次期議長のための【大魔導決戦】の候補者選定が行われた。
国王は知名度、実力ともに国内外で最も高いバールダムを指名し、王名を受けたバールダムはそれを承諾した。
数週間顔を見せることの無い友人のもとを訪ね、それを告げた。
少しの間に部屋の様相も随分と荒みきっており、見るに堪えなかった。
「三日前、陛下と結社の連中が来て、すべて聞いたよ。俺が、何を聞いたのか、これから何をするか、その予想がついているのだろう?」
バールダムは何も答えず、ケニグスを見た。目の前の友人が何に押しつぶされて、狂ってしまっているのか、それが分かっていた。
この国の人々が募らせたのは、連合諸国への怒り、憎しみ。その心が、ケニグスという男の一点に込められつつあった。
人々の憎悪が、無意識の間に悲劇の男に復讐を求めているのだ。
連合諸国に対する形のない悪意だけが今この国に残されている。人々の心の奥底で、無意識下に、何かが蠢いているのが分かる。
ケニグスは剣を差し出した。ケニグスが賢者として大成を成した際に受け取った宝剣だった。
「バール、すまない」
返す言葉が無かった。最早、止める力は無かった。
バールダムはその手で応じる。力を籠め、剣を振るう。
宝剣がケニグスの首元を薙ぐ。
バールダムには、ケニグスに巣食う憎悪の塊が見えた。張り付いている笑顔は、ひどく歪んでいた。
抉り取られた筈の首元は無傷で、ケニグスのそのままの姿がまだそこにあった。
首元からは黒煙が溢れだし、瞬く間に二人と部屋中を包み込んだ。両者は互いに泣いていた。
ケニグスは既に人間と呼べる有様ではなかった。切先から溢れだす瘴気を纏い、業の神をその身に宿していた。
そこは深い暗闇であった。バールダムは深い闇の中で目を閉じた。
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◇名前:バールダム・エンズ・リッフリード
◇身長:197.9 cm
◇体重:96 kg
◇役職:ラッセンジア王国公認魔導賢者
◇身体能力
友人の賢者であるケニグスに魔法によって身体を操られており、バールダム自身の意識は無い。
元より高い身体能力は瘴気を受けた魔力によって向上されているものの、
身体を動かすだけで魔力が消費されていくため、長期を避けるように大技を狙うことが多く、
回避行動なども不得手である。
◇装備
【宝剣アコルビスピア】
ラッセンジア王国に伝わるおとぎ話に登場する聖剣の伝説をもとに作られた礼装。
悪神を切り裂いたとされる伝説により、強大な闇を打ち滅ぼす剣という属性を付加されており、
栄誉の証として賢者ケニグスの手に渡った。
しかし連合議長の死を受けたと同時にに国民の不満が爆発し、増え続ける憎悪が
『悪神を打倒した聖剣』ではなく、『聖剣に破られた悪神』として古の伝説を歪め、
悪神を顕現させるための礼装として属性が変質化している。
ラッセンジアの全ての悪意がケニグスのもとへと集まり、悪神を作り出した呪いの剣。
単なる魔術発動の起点となる道具でしかないため、強度は無く、刃はついていない。
そのため本来の剣のような使い方は不可能。
◇魔法
剣を杖のように扱い、魔法発動の起点とする。
【Blaze】
3本の異なる色の炎の剣を作り、射出する。弧を描いて飛び、地面に接触するとともに爆風を起こす。
【Silver】
手に携える剣は眩く輝きを放ち、大地を切り裂き進む衝撃波を生み出す。
【蹂躙結界】
瘴気に満ちた煙を放ち、場を包み込む。この煙を吸い込んだ者は激しい恐怖、怒り、憎しみに駆られ、平静を失う。また吸い込んだ者に対し剣を撃ち付けることで黒い痣の様な呪いの刻印を残す。
【悪神は我が身に宿りて】
悪神の力を得たケニグスが黒いオーラの塊となって現れ、刻印を打ち付けた他者へと乗り移り、全身を支配して操る。他者から他者へと魂を移し憑代を変え、魂の抜け出た元の身体は解放される。
使用者に強烈な負担がかかる術であり、ケニグスがバールダムの身体を操るために一度行使しており、
更にあと2度使うとケニグス自身の精神が汚染され尽くして自滅してしまう。
◇大魔導決戦について
国家の総意は連合国に対する武力行使と権力の誇示。
最終的に勝ち上がる人物にケニグスを憑依させ、ケニグス本人を議長として指名させれば良いと考えており、大魔導決戦に対する名誉を見失っている。
【 所属国家設定 】:
ラッセンジア王国
創立:489年
人口:約20万人
王家が統治する国家。
小国でありながら、かつては多くの魔導士を排出する事で名が知られていた。
特に医術、広域魔法開発などが盛んであり、
近代における魔術形態を一新しようという働きもある。
多くの魔導士が魔術結社と呼ばれる組織に加盟しており、魔法を研究、開発、技術転用し、
生活の中に魔法が溶け込んでいる。
しかし前議長就任後100年余りに亘って、否が応にも引きおこる中央集権によって
重い課税と労働を強いられており、国民の負担、不満が膨張し、
国内から離れていく者も多い。財政は不況の一途をたどっている。
数年に一度優れた魔術師が推薦され国から最も高位とされる、
《賢者》の称号を与えられ、王城での護衛や指揮の任を受ける。現在国内には数人の賢者が存在している。
大魔導決戦の際には、国内の賢者のうち一人が国王より指名され代表となる。
補足