製作者 | ずっきぃ |
出場大会 | 第十二回大会 |
経歴 |
設定
―――彼らにとって人形とは、召し使いであり、手足であり、力であり、杖であり、家族であり、彼らの最高の作品だった――
―
◆御影椿
御影椿は孤独であった。
もちろん家族はいる、座敷牢に入れられているわけでもない。
しかし、「御影」の名によって彼女は孤独を感じざるを得なかった。
御影家、御影の家。
それはこの国の暗部、いや必要不可欠な役割であり、決して後ろめたい物ではない。
罪人の罪を濯ぐ役割。
彼らの役割は「処刑の執行」、罪を償うべき者の首を刎ねる使命。
国に認められ、由緒のある家柄であるものの
″罪人であっても守るべき国民に刃を向ける″
その一点において彼らは色眼鏡をかけた目を向けられる。
椿も幼いころからこのシガラミに絡め取られていた。
何をするにしても、どこに行くにしても、どのような振る舞いをするにしても
必ず付きまとってきた「御影の者」という評価。
自身のそばに並び立ってくれる友はいない。
彼女自身、御影という名は受け入れるつもりでいた。
しかし、殊更に「御影の者」であると呼ばれ
ありもしない身勝手な印象をあてがわれ
後ろ指を刺されることに辟易していた。
また「椿」という名もあまり好ましく思ってはいない。
根元から花が落ちる、縁起の悪い花。
「首狩りを生業としている私には・・・ほんとぴったりな名前ね」
「首元から落ちる花なんて、だからあまり好きじゃないわこの名前」
そんな折り、君主が御前試合を開催するとの知らせが入ってきた。
椿は「御影」の悪しき印象を払拭すべく、御前試合に出場することに決めた。
御影の名を敢えて掲げ、清廉潔白に正々堂々と
奇襲をせず、騙し討ちをせず
相手を称えられるように、相手に称えられるように
愚直なまでの真っ直ぐさで、相手の前に立つ。
御影の者は陰湿なものではない
御影の者は残虐非道のものではない
御影の者は冷血で冷酷なものではない。
それを示すための戦い方、それを示すための特別に誂えた自身の人形。
椿は自身にそれらを律し、御影の善性を証明するために戦いに身を投じた。
―――
椿は自身の目的を、御影の善性を証明することができれば勝ち進む必要を感じてはいなかった。
愚直なまでの正々堂々さ、すぐに足元をすくわれて終わるものと思っていた。
相手がどんな手を使ってこようと、敗北は潔く認め、そして相手と称えあおう、そう思っていた。
しかし彼女は気が付いてみれば君主の前でただ一人ひざまついていた。
そう、彼女はこの御前試合において、すべての相手を打ち破り″優勝″していたのであった。
暗がりの中、御簾の向こうにいる君主の表情は分からない。
「ほう、そなた・・・″御影の者″か」
内心ひやりとする、ここまで来ても、ここまでやっても
″御影″の評価は付きまとってしまうのか、そう小さく嘆息した。
「すばらしい、そなたの正道な戦い方、私は評価しよう」
「ここまで潔い戦いぶりは武家の者でもそういないであろうな」
思いもよらぬ評価であった、この国の頂点が、この国の君主が
彼女の功績を称え、御影という名の印象を払拭した、まっとうな評価を下したのだ。
椿は「ありがたき幸せ」と短く、しかし喜びを噛みしめるように言葉を返した。
そして君主は続ける、御前試合の優勝、その褒賞は何を望むか・・・と。
彼女に望むものはなかった、いや、ないわけではないが既に一つは達している。
再び彼女は短く返答する、「いえ、すでにこの戦いを示せたことだけでも」
そうか、と君主は独りごちる。
「ときに、そなたに一つ頼みたいことがある」
自分が望まれることがある、その事実だけで十分にうれしかった。
「近々″大魔導決選″が執り行われる、そなたには国を代表して出場してもらいたい」
君主の口からこぼれ出た言葉、「大魔導決選」。
確かに聞いたことのある言葉、しかし自分の生まれるはるか昔
現実にあったことは知っているが、書物でしか見たことのない言葉。
不意にあげた顔は、もしかしたら存外に情けない表情をしていたのかもしれない。
「魔導連合の議長を決める重要な試合、此度の試合を勝ち残ったそなたであれば適任であろう」
「なに、何もなしに戦場へ送り出すほど無粋な真似はすまいよ」
「勝ちを確実にするため、そなたには″錬鉄の神の加護″を与えよう」
翳された手は自身のそばに待機させていた人形に向けられていた。
その瞬間、人形の身体が赤く輝きだした。
彼女は驚いた、もちろん自身の人形に起こった変化を見てのことでもあった
しかし・・・
(あつい・・・!あつい!熱い!!!)
自身の身を焦がすような熱傷を実際に受けているわけではない。
しかし彼女の″半身″を通して感じる、与えられた加護による熱気
御すことのできなければ「ゴーレム」を失うかもしれない
規格外の力の片鱗を味わったこと、それ自身に対しての驚きが大きかった。
「そなたの活躍、期待しているぞ?」
椿の心情を知ってか知らずか、かの君主は御簾の向こうに姿を消すのであった。
◆ホスセリの神
かの国は連合の中でも極東に位置し、中枢の意向にはあまり寄与していなかった。
それは連合からの影響を受けず独自の発展を進めることになったが
反面、当然のごとく連合内での影響力も弱かった。
しかしここにきての大魔導決選、これは好機。
これを機に連合を統一、ひとつの国としてまとめ上げ
膨大な国力、膨大な魔導的資源、膨大な魔術師
それらを持って大国共と渡り合う。
神話の時代からの野心。
さらなる信仰の拡大。
この国を治める″器″の中から
始まりの神は笑みを浮かべていた。
◆能力・技能
彼女のもつ秦上人形は御前試合に向け外装を自身で特別に作り直した、いわば特注品。
両手に持つは「処刑の大剣」、御影の使う剣は首を刎ねるための物。
突くための機能が不要なため切っ先の存在しない刀身をもつ剣。
ヒヒイロカネで作られた身体は軽く、固く、腐食しない。
熱伝導性がよく、また魔術の触媒としても非常に有用であった。
椿は強固な人形を使い、また御影の魔術を駆使したことで、御前試合を勝ち進んでいった。
『御影の魔術』
一族ごとに魔術の特性があり、使命や役割によって得手不得手、発展の仕方が大きく違っていた。
処刑を生業とする御影の家では大きく二つの魔術が固有として発展していくことになる。
一つは「物体を両断する特性の付与・強化」
刃物の鋭利さを強化する魔術であり、極めればただの角材でも人体程度なら両断できるとさえ謂れている。
構造的には実際の刃の上から魔術による疑似的な刃を被せることであり
この魔術によって剣の鋭さだけでなく、血肉を断った際に付着する油に対しての防護を兼ねており
剣自体の耐久度を確保することにつながっている。
二つは「物体の構造、脆弱性看破の目」
対象の、殊更に脆い点を看破する観察眼。
椿の人形は頭部についた角を視覚以外の五感を含めた感覚器として利用し
より明確な構造の理解を深めるに至っている。
実際に物体の両断にはこちらの魔術の効果の方が強く寄与しており
副次的に自身の構造の脆い部分を避けるように攻撃を受けることで
耐久性の向上にもつながっている。
また極めれば概念的なものでさえ脆弱性の看破ができるようになり
思考や策謀なども看破できるといわれている。
これら二つは御影の一族が自身らの使命を全うするために培ってきた
″罪人であろうとその死の際までも苦痛のなきよう″にと生み出された魔術であり
御影が罪人に与える最期の慈悲でもある。
『錬鉄の神の加護』
御前試合後、君主との謁見時に与えられた新しい力。
それは国で崇拝する神の御業のごく一部、激しく燃える炎の姿。
制御しきれなければその身もゴーレムも失うかもしれないほどの力であり
大魔導決選までにはなんとか制御する術を身に付けたものの
それでも人形の端々から内部の炎が漏れ出てしまっている。
最大で六千度の熱量を発揮できるものの、長時間にわたり熱を放出し続けた場合
人形内部のゴーレムが消滅してしまう危険もあり、通常ではそのおよそ半分程度のつもりで椿自身制限をかけている。
ヒヒイロカネの熱伝導性の高さから内部での発熱が即座に剣先まで伝わり
御影の魔術と共に使用するとあたかも対象を溶断するかのごとく切り裂くことが可能になる。
また地面の脆い部分を切り裂き液体と化した土塊、所謂溶岩を対象に浴びせるなどの攻撃を行うこともできる。
【 所属国家設定 】:
◆神代
神話の時代、激しく燃え盛る炎の中から生まれた神様がいた。
その名はホスセリ、生まれのごとく燃え盛る炎のような神であった。
ホスセリは人々が勢力を拡大できるよう力を貸し与え、そして自身の信仰を集めていた。
そんな折り、ホスセリは自身の炎を使い、積み上げらたた土くれから
金属を生み出し人々にそれらを与えた。鉄器の時代の到来である。
それまで木や石で出来た武器を使用していた人々にとってそれは革命であった。
人々は鉄器を用いて諸族を打ち倒し、勢力を拡大していった。
その過程において、とある部族が保有していた
その性質から持て余していたある金属を手に入れることができた。
それは日緋色の輝きを放ち、金よりも軽く、金剛石よりも固く、永久不変で錆びつくことのない
通常の手段では加工すら難しいであろう金属
非常に高い熱伝導性のため、なにもなく触れると非常に冷たく感じる金属。
ホスセリの加護たる炎と、どこよりも進んだ冶金技術のある彼らであれば
その金属を加工し、作り替え、活用せしめることができるようもの。
これらを使いさらに優勢にことを進めることもできるだろう。
民草にはそれだけでも十分であったであろう。
しかしホスセリはこの奇妙な金属の別の有用性を感じていた。
それは神霊の力に耐えうる強度と性質。
神霊を受肉させるための仮初の器。
自身で受肉できない程度の神霊を集め、人々のために力を振るわせた。
それが神話の時代のお話。
◆神代の終わり
神話の時代の終わり、人々が文明を持ち、科学技術を持ち
そして神々の存在を忘れはじめたころ。
神々は次第に時代の表舞台から退き、その御姿を人々から隠すようになっていった。
ホスセリも例にもれず、しかし完全に自身の支配を手放す気はなかった。
彼は自身が現世から消え去る前に、自身を祖とする血筋となる一族を生み出した。
そして彼の治めていた国に自身の名である「ホスセリ」を与え
その一族にホスセリ国を統治させることにした。
彼らは神の代理として、神の目指した統治を引き継いだ。
また神のいない時代に過ぎたる力である神の仮初の器
「機神(はたがみ)」と呼ばれるこれを人の身に合わせ簡易化し
人の精神の一部を借り受け、人々の手足のごとく駆動させることに成功した。
それを人々は国の君主の名をとって「秦上人形」と呼び親しんだ。
◆ホスセリ国
魔導国家連合の中でも東の端にある国家。
連合の中枢から遠く離れた地にあり、国の名前にもなっている神を中心とした宗教を信仰し
その神の末裔とされる一族が主に国を統治・運営している君主制の国家である。
神話の時代から歴史ある国家の特徴的な魔術は
秦上人形と呼ばれる半自立式の人形操術、一般的魔術用語に落とし込むのであれば「ゴーレム術」であろうか。
ヒヒイロカネを用いて作り出し、人の精神を写しとり術者の魔力によって駆動する人形。
ホスセリ国では一般的に普及した魔術であり、すべての基礎となる存在。
かの国において魔術鍛錬の初歩として一番最初に覚えることは人形の核である
「ゴーレム(胎児)」の作成とその外装である人形作成であり、
その後は実生活から魔法の修練に至るまで生涯を共に過ごすことが多い。
基本的には意思と呼べるものは持ち合わせてはいないが
しかし術者たちはこの人形に愛着を持って接し、相棒であり、自身の子同然に扱っている。
彼らの魔術はおおむね人形に魔力を通すことで様々な力を発揮することにあり
そのため彼らにとって人形は杖としても運用されているのである。
補足