製作者 | 皐月あや |
出場大会 | 第十二回大会 |
経歴 |
設定
「やあ、私は珊瑚という。
身長152センチ、体重43キロ、好きな食べ物は芋の天婦羅だ。
あれは世の中を幸せにすると思っている。
3度の飯より本が好き、それより好きなのが本で読んだ事の実践だ。
小説、料理レシピ、図鑑、魔術、あらゆる本を読みあらゆる事を試す、
それが何より楽しい。
そして一度記憶した事は忘れない、私の自慢出来る事だ。
あと、『成長させる魔術』が得意だ。それから…」
図書館から帰ってくるなり自己紹介を始めた珊瑚を見て、
僕は読んでいた図鑑を閉じて机に置いた。
読んできた本に、登場人物の自己紹介シーンでもあったようだ。
こういう時は大人しく乗ってやるに限る。
「…以上だ。よろしく頼む」
ひとしきり喋った後、珊瑚はうやうやしくお辞儀をした。
聞きながら齧っていたビスケットを口にくわえたまま、パチパチと手を叩いてやると、
大きく尖った耳をぴこぴこと動かし、彼女は満足気に頷いた。
珊瑚は人間ではない。
僕の師匠が小間使いとして喚び出した、『召喚されし者』だ。
僕が弟子入りしたと同時に喚びだされたから、もう10年以上の付き合いになる。
誰かの為に働く事が大好きで、勤勉なものを喚んだと師匠は言っていたが、
初日のお使いで訪ねた図書館に魅せられて以来、時間を見つけては入り浸って本を読んでいる。
師匠が頼み事をしたい時に居ないこともままあり、連れ戻しに行くのは僕の役目だ。
図書館は家からはさほど遠くなく、珊瑚にとっては第2の家同然だ。
本館、別館、塔の部屋から地下の部屋まで、あらゆる場所にどんな本があるか知っている。
書庫にまで入ろうとして司書に怒られた事もあるし、
それでも懲りずにあちこち歩き、地下に隠し部屋を見つけたと自慢していた事もあった。
(もっとも図書館自体がまだまだ増築中だから、恐らくまだ出来ていない
立入禁止区域にでも入ったのだと、僕は思っている)
そんな空気が悪そうな所に入り浸っているからアレルギーになるんだと注意したら、
珊瑚はそういう場所にこっそり入って本を読むのがいいんだと、にやにやしながら言っていた。
そんな感じだから、仕事はこなすがトラブルも起こす。
一番多いのは、本で見たことがあると思うと何にでも首を突っ込む事で、
一緒にお使いに行く僕はたまったものじゃない。
「オニキス、次は君の番だぞ」
いつの間にか向かいに座り、机の上にあるビスケットに手を伸ばしながら、珊瑚が言った。
ちゃっかりミルクも持ってきている。
「え?それ僕もやるのか」
「当然だ。面白いのを期待しているからな」
僕は黙ってビスケットをかじった。正直面倒臭い。
なんとか回避する方法を考えていると、
―コツコツ
扉を叩く音がした。
「あ、仕事の依頼かな!」
普段は薬草などを調合して薬を売って生計を立てている僕らだが、別の依頼が舞い込む事もある。
師匠や僕らが得意とする『成長させる魔術』を使う依頼だ。
この魔術は、ものの時間を少し進めたり、効果を促進させたりする。
傷の癒しの促進もするし、逆もまた然り。
瞬間的な力の上昇、魔術の威力増加、人や物の老化老朽化も可能だ。
単純な依頼は僕らでもこなせるが、師匠はひと月ほど留守にしている所だ、手に余るような難しい依頼は困る。
が、これ以上珊瑚の遊びに付き合わされずに済むのは助かる。
さっと席を立ち、勢いよく扉を開けると、真面目そうな顔をした魔導師が立っていた。
服に国の紋章が刺繍されている。それを見た瞬間、依頼の内容を理解した。
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「僕は反対だからな」
「君に私が止められるのか?」
さっきまで延々と小説のワンシーンを演じて遊んでいたやつが何を言うか、と喉まで出かかったところでグッと飲み込む。
昨日、議長が亡くなられたという情報がすべての連合加盟国へ一斉に伝えられた。
魔導師は、師匠の大魔導決選への出場依頼の為に来たのだ。
この国の魔導師は、そう多くない。
そして師匠なら、一滴の雫があれば、そこから雲を作り雨を降らせる事も造作なくやってのけるくらいの力の持ち主だ。
身内を良く言うのも何だが、僕もこの国の代表なら師匠だと思う。
僕が連絡をするより、国から伝えてもらった方が恐らく早い。
そう考え、留守である事と行き先を告げようとした矢先に、珊瑚が今は不在だが伝えると言い、さっさと魔導師を帰してしまった。
そうして、師匠の代わりに自分が決選に出ると言う。
…僕は深呼吸して気持ちを落ち着けた。
冷静になれなければ勝てない。
「まず、大魔導決選に呼ばれたのは師匠で君じゃない。
それから決選では何が起こるか分からないようだし、
何があっても君は師匠との契約上意図的に人を傷つけられない。
さらに言えば肺もあまり強くない。
使える魔術も成長させる魔術だけで、師匠ほど大きな規模では使えない。
そもそも、君と師匠は似ても似つかない」
そしてバレたらどうなるか…。考えただけで胃痛と頭痛がする。
師匠に怒られるだけならまだいいが、国のトラブルの原因にはなりたくない。
師匠も議長の死去については耳に入っているだろうし、兎に角帰ってはくるだろう。
昨日の今日でという事はないだろうが…。
暗くなりかけた窓の外をちらりとみて、目を見張った。
窓に師匠が映っている。
珊瑚の幻術だと気づくのに、一瞬かかった。
普段そんなもの使ったことはない。
「どこで覚えたんだ…」
「図書館の魔術書を見て覚えたんだ。かなり練習したぞ、役に立つもんだな」
本を見て試したところで、ちょっとやそっとで身につくとは限らない。
ここまで完全に師匠に見えるという事は、言う通り相当修練を重ねたに違いない。
「これで問題はないな?」
「ある。幻術をかけ続けながら、他の魔術を使うなんて身体に負荷がかかる」
「魔力と耐久力には自信があるぞ」
「咳の発作が出たらどうするんだ」
「心配してくれるのか、薬を一包み持っていくさ」
「もしも…何かがあった時に、誰かを傷つけてでも身を守るって事も出来ないだろ」
「足止めの方法なんて、いくらでもあるだろう」
「珊瑚!」
僕は思わず、ドンと机を叩いた。
「街の料理大会に首を突っ込むのとは訳がちがう!バレたら還されるかも知れないぞ」
「バレないように、こっそり行くのがいいんじゃないか」
当然な事のように言ってのける。
こいつは莫迦なのか。
現地に行ったら師匠が待ち構えている可能性だってあるのだ。
こちらの気を知ってか知らずか、珊瑚はいつものように、にやっと笑う。
「それにそうなってでも、私は本で見た事しかない色々な魔術をこの目で見たい。
自分が旅をせずとも、みんなが集まる。これは千載一遇のチャンスだ」
「……っ」
言葉に詰まった僕の顔を見て、彼女はたまらなく楽しそうに言った。
「君も共犯者だな、オニキス」
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珊瑚(召喚されし者)
人の為に働く事が好きで勤勉。
自分の知識を満たす事に貪欲。
一度見た事はすぐに記憶できる。
特別なものを使わず、珊瑚が理解できるような事であれば、とりあえずやってみたがる。
意図的に他者を傷つけないよう、術を施されている。
万が一他者を傷つけようとした時は胸に埋まった石が身体を圧迫して、瞬間息が止まるようになっている。
魔力・耐久力はあるが、埃や塵など空気の悪さに弱く、咳の発作が出る事がある。
その為、薬を一包み所持。ただし直ぐには治らない。
幻術を維持しながら、成長させる魔術を使う。
成長させる魔術とは、そこにあるものの時間を進めたり、現象の効果を促進させたりする。
単純に時間を進めたりは出来ない。また一度進めたものの時間は戻せない。
珊瑚が異世界へ還ると、珊瑚が存在していた事は人々の記憶から消される。
珊瑚はその事を知っている。
オニキスはその事を知らない。
【 所属国家設定 】:
国営の巨大図書館が有名な国。
国民には、真面目な人間が多い。
小説、詩集、レシピ集、専門書などの一般書から、
魔導入門書、上級魔術書、薬草図鑑などの魔導書まで、
あらゆる書物を集めて管理している。
他国の書物も集められるだけ集めており、連合加盟国随一の蔵書量。
国民以外は利用するのに入館料が必要だが、高くは無い。
館外への持ち出し禁止の代わりに、食事処、宿泊施設、劇場などの娯楽施設、
研究施設、薬草園などが充実しており、長期滞在出来るようになっている。
国内は移動手段に乏しく、他国や辺境に住んでいる者は辿り着くまでに時間がかかる。
魔導師人口が少なく、魔術はそれほど一般的ではない。
一部…城内や図書館内ではよく魔術が使われている。
城内では主に国同士の情報伝達など。
図書館内では、傷みなどから書物を守るのに使ったり、
探し物を見つけてくれるナビゲーターを召喚していたりする。
数年前に現国王になってから、禁術書を集め始めたという噂がある。
実際、塔や地下などの増築が始まったのが現国王からで、言動を怪しむ者もちらほらいる。
補足