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~あるせかいのおとぎ話~
海があった。
この世のすべてが混ざり合ったその海以外、最初は何もなかった。
うっかりモノの太陽はそこにちょっとした拍子に月が持ってきた桜の種を1つ落としてしまった。
海の中に沈んだその桜の種は長い年月を経て大きく成長し、心をえた。
大きく成長した桜はあまりに大きかったので、落ち葉の量もとても多かった。
落ち葉はやがて溜まって、陸を作った。
陸ができたら、桜はたくさんの実を落とした。
成長するあいだにいろんなものを取り込んだので、おとした実からは自分と違う様々なものが生まれた。
「それら」は実から出てくると各々自分の思うように動き始めた。
桜はそれを見て愛しく思い、種を蒔いて子をなし、「それら」を守らせた。
子もまた心と知恵を持ち、「それら」に同じだけの知恵を与えた。
知恵を持ったそれらはやがて、互いを「生き物」と呼んだ。
こうして今の世界が出来上がった。
ブラウンウッド国立研究所
検査ファイルNo.5041
ID:CH01-SK
コード:サクラコ
分類:自立型被寄生動物
年齢:10才(推定)
性別:オス
捕獲地:アルバ大森林
概要:
アルバ大森林開発計画中に大森林中央部にて捕獲された生物。
知能を持っており、片言ではあるが言語による意思疎通も可能。
右半身はヒトと同じ姿だが、左半身は樹木に覆われている。(後述)
また、知能は6歳前後レベルであり、感情の自制は効かない。
特筆すべきはその左半身の根による栄養吸収と、樹木への形態変化である。
彼は根を人間の血管に突き刺すことによって相手の血液を吸収、自らの栄養とすることができる。最低限の栄養分摂取は左半身での光合成でほぼまかなえるようだ。
また、根による締めつけは鋼鉄をひしゃげさせることができる。
根の伸縮は自由自在で、時間さえあればいくらでも伸ばせるようである。
伸縮速度は最速4秒/m。
また、彼の体を樹木で包み込み、桜の木に形態変化をすることも可能。
地面の材質は問わないが、栄養分が含まれれば含まれるほど成長は早い。
最新の記録によれば、栄養分のない金属の床では30秒/10mの速さで成長。
栄養のある野原ではこれの1/2の速さになる。
状況にもよるが、大体10mほどの高さになり、彼の本体は地上から3mの高さに上半身を露出させて貼り付けのような状態となる。
この時、彼に理性はほぼないため、相手が死ぬまでこの状態となる。
相手が行動不能になったことを確認後、樹木から人間に戻り、エネルギー確保のために15分間の睡眠状態となる。
また、覚醒後は軽度の栄養失調状態となる。
樹木形態時であっても、本体の中枢はあくまで地上3mの位置にある人間の身体であり、本体が機能停止した場合、樹木部も機能停止することが予想される。
樹木であるが故、彼の周りはどの状態にあっても火気厳禁である。また、樹木の方はそれほど耐久力がない。
再生可能、知能あり、伸縮自在という3点から、生物兵器として大量生産、軍事転用の線も考慮の上、要検査。
======以下、研究員ID:0800520による個人的保護記録=====
○月×日
検査結果:異常なし
今日、突然室長から新しい材料の保護・観察を命じられる。例の開発計画時に保護された異形児の一種だと説明されて、実際に見てみたら手足が茶色く歪んでて
ちょっと吐き気を催す。試しに恐る恐る近づこうとしたら睨まれて危うくどこぞのB級ホラーみたいに飲み込まれそうになった。びっくりして頬をひっぱたいた
ら尻餅ついて子供みたいに泣きじゃくりだした。こんなの化物の相手なんて、正直やってられない。この任務終わったらこんなところやめてやる。
…
…
…
@月=日
検査結果:収縮速度と栄養状態が比例の関係にある可能性が発覚。要検証。
捕獲から今日で3ヶ月がたった。最初は近づくだけで泣きじゃくられるわ、逃げ回られるわ、何度やつの食事になりかけたかわからない。だが、ちょっとづつ心
を開いているらしく、最近は怯えることもない。また、時々ではあるが「あういうう」と何か話しかける素振りをみせるようになる。聞き取れないので適当に相
槌打ったら初めて俺の前で笑った。木の根さえなきゃちょっと可愛いと思った。
室長に報告したら、俺の教師免許を理由に言語教育も任されることに。前の人造人間の管理任務といい、室長は俺をベビーシッターか何かと勘違いしてるんだろうか。
明日のために、新品のノートと鉛筆と参考書を買う。もちろん研究所の金で。
@月~日
検査結果:言語能力の開発に着手。好調。
言語教育初日。言葉が通じないので苦労したが、いざやり始めると年齢の割に飲み込みがいい。今日1日でカタコトでなら会話が可能なレベルまではなったん
じゃないか。試しにちょっと話したら、今日教えた言葉をカタコトながら一生懸命喋ってみせる。まだ独身(25)なのに父性に目覚めそうだ。帰り際に「ばい
ばい」と笑顔で言われた。かわいい。
教えていて感じたのは、外見だけで、本質は普通の人間の子供とほぼ変わらないのではないか、ということ。久しぶりに日記を見返して、任務初日の軽蔑していた自分を深く恥じる。
このことを同僚に話したらガン引きされてムカついたので、同じ寮であるのをいいことに、寝る前にあいつの部屋の加湿器のタイマーを切って最大のままつけっぱにしておく。ざまあみろ。
…
…
▼月ー日
検査結果:新型の薬品投与により、伸縮平均速度が5m/sから4m/sへ短縮成功
再生速度短縮のための手術実施。結果良好
今までもひどかった人体実験がここ1週間で特にひどくなっている。実験室から毎日「痛い」等の悲鳴が聞こえてくるのが腹立たしくて堪らない。3日前に同僚
に行ったら室長にチクられて実験室立ち入り禁止になったので、彼のためにも今回は我慢する。帰ってきた彼はかなりの衰弱状態にあった。
任務の方は続いてるが、俺が彼に入れ知恵するのが気に入らないらしく、最近は会う時間を制限されることが多くなった。それでも「カウンセリング」の名目で
あいにいけば、彼は俺のことを父親のように慕ってくれるようになった。少しづつではあるが、彼自身のことについても聞くようになった。
彼には彼の森の「長老」からおとぎ話の主人公「サクラコ」という名前を与えられたこと。
彼が元々左手足の欠けた異形児であり、彼の左半身を覆う木は森の「神木」と呼ばれる存在が欠けた手足を補うために植え付けたものであるらしいこと。
神木から「人間は始まり(おとぎ話の世界創造とおもわれる)を忘れ、世界を支配していると思い込んで破壊を続ける悪い生き物」と教えられ、恐れていたこと。
森の仲間たちを家族のように愛していたこと。
そして、その仲間たちは開発計画によって全て死に絶えてしまったらしいこと。
いろいろ、信じられないようなことも行っていたが、俺は混乱する前に大きなショックを覚えていた。
俺たちの行動が、こんな小さな子の未来を奪うだけでなく、戦争の道具にしようと1年もの間彼に辛い実験を強いている。彼を保護するまで、そんなこと考えてもいなかった。学校でも学ばないことだった。この世界の人間の、理不尽さを知った。
彼の状態と検査の進行状況をみても、そろそろ「用済み」になる頃合だ。
少しでも元気づけようと彼の望みを聞くと「森に帰りたい」といった。
彼を、殺したくない。
少しのあいだでもいい。この子を元の世界に戻してあげたい。
彼を「家族」に会わせてあげたい。望みを、叶えてあげたい。
何ができるだろう?
○月×日
検査結果:
研究所からの逃亡から5日たっただろうか。今頃街は大騒ぎだ。森はそんなことも知らないようで、しずかだ。無事に着いた彼のふるさとは、何やら事故が立て
続けに起こったらしく、くるまやらがおかれたままになっていた。森は木々が倒されたままだったが、かろうじて生き残った動物たちがひっそりと暮らしてい
た。彼の言っていた神木も無事だった、と彼が笑いながら言ったので、少し安心する。
今では彼は元気に森を走り回るようになった。
研究所にいつ嗅ぎつけられるかわからないことはわかっているはずだが、彼はどうやらこの森からもう離れるつもりは死んでもないらしい。
これで、よかったのだろうか。俺が彼を連れ出したのは、正解だったのだろうか。今でも彼はおれを父親のようにしたう。おれはあしとおなかがいたい。うごけない。神木にすわりこんでから、足がうごいてくれない。木がおれに話しかける気がする。きのせいだろうか。
月 日
検査結果:
さくらこが おれからはなれない ねむい
かあさん おれにねむれっていうから ねむりたいのに おなかいたい
さくらこだめだよ つかまる せっかくきたのにいみない
にんげん いうこときかせるなんてむり
いちばんになるて どういうこと
そうか みとめてもらえば にんげんもいうこときくかな さくらこはあたまがいいな
いっておいで みとめてもらっておいで かあさんがいればぜったいかてるよ
かあさんいいよね しなないよね さくらこ
おれはなにもできないけど でも やくそく
かえっておいで
おれ ずっと まってる
技:
根を伸ばし、相手を叩き飛ばしたり、締め付けたり。相手に根を突き刺し、栄養を吸い取ることも可能。
森で仲の良かったカラス達に助けを求めて相手を攻撃してもらう。ただし、助けてくれるカラスは最大で4匹。(最後の生き残りのカラスが4匹のみ)カラスが倒されると、彼の怒りが増し、形態変化を促す。
自らの宿木を成長させて10~12mの木となる。
~以下、形態変化後に使用可能~
枝を精一杯揺らし、大量の葉をふらせて相手の視界を遮る。
鋭く尖った枝をふらせ、相手に攻撃。枝が伸びている範囲全部に攻撃可能。地面に大量に落とすことで足場を減らすことも可能。
花を咲かせ、枝を大きく振ることで花粉を大量に飛ばして催涙ガスの役割を果たす。
枝と根を伸ばして相手を絡め取り、樹木に取り込むことで体ごと栄養分にする。即死技だが、相手によっては自分がダメージを受ける。また、完全に取り込むまでは5分かかる。その間、相手は樹木の中である程度自由な状態となる。
補足
設定中に出てくる「研究員」は、出場時点で森の木に取り込まれかけています。日記の最後にあるひらがなの会話らしき文は木に体力を取られて口頭での会話が難しくなった彼がサクラコと交わした最後の会話です。
最終更新:2014年06月14日 00:07