正月。
言わずもがな、日本の伝統行事である。
人々は新たな年に、その思いを馳せるのだ。
男「……いい字じゃないか、やぶるが書いたのか?」
じいちゃん「うむ」
益子「荒削りだけど、すてきな字……」
居間に飾られた書き初めは、力強く、荒っぽく、一心の想いが込められていた。
男「しかし、あいつらも今年で二十歳か……」
じいちゃん「うむ、あっという間じゃった……」
男「それでだなじいさん、少し聞きたいことがあってな」
じいちゃん「なんじゃ?」
男「やぶるに、酒を飲ませ」
じいちゃん「却下じゃ」
じいちゃんは、今年も過保護だった。
益子「……ところで、ヤブルくんはどこに?」
男「……はて、さっきまでそこでおせちを食ってなかったか?」
所変わって、涼茂邸別荘。
秀一「……二人きりで過ごす正月と言うのも、悪くないものだな」
つかえ「ええ、そうですね秀一様……」
秀一「……つかえ、ここでは……様ではなく、秀……」
その時、涼茂邸の庭の雪が、爆風によって吹き飛んだ!!
秀一「……………」
つかえ「し、秀一様……! あれは……!」
庭の雪を掻き分けて、巨大な鉄の箱……否、発進用レールが伸び!
赤い機体が、限界坂へと飛び出していく!
だが秀一はこれを無視した。
どうせろくなことにはならない、それが分かっていたからだった……。
秀一は心で呟いた――『頑張れ、やぶる』と。
OVA版特別篇 正月の決戦!?父親の限界!!
やぶるは、逃げていた。
真っ白に染まった街路樹を抜けて、人が絶えない駅前を通り、神社へたどり着けば、お賽銭に十円を放り込んで、境内に並んだ出店のたこ焼きをつつきながら、おみくじを買った。
大凶だった。
一見して、普通に見える突破の行動はしかし、普通ではなかった。というのは、彼のあとに続く小さな影が、終始つきまとっているのだから。
やぶるは振り向く。
影は隠れる。
やぶるは歩く。
影は付いてくる。
やぶるは走る!
影も走る!
やぶるは急停止――どんっ!
メダ「い、いったぁい……不意打ちなんて卑怯な技、教えてないわ……」
突破「当たり前だろ!! 俺はお前から習ったことは、ない!!」
メダ「嘘ばっかり……ヤブルに夜のあれこれを教えたのは……」
突破「してもいないことを、正月からベラベラ喋るなぁぁぁぁ!!?」
イメダ・メダ。
ロリっ子、元異星人幹部……である。
彼女は宇宙人、かつてヤブルと死闘を繰り広げたリ・タイア帝国の、一員であった。
そして今は、ヤブルにとっては家族の一員である。
メダ「はい、受け取って」
突破「嫌だ」
メダ「受け取れ」
突破「却下」
メダ「受けとんなさいよっ! お年玉!!」
突破「誰が受け取るかぁぁぁ!!」
お年玉。
正月の伝統である。
メダ「秀一から聞いたわよ。お年玉っていうのは、去年世話を焼かせた人からもらうお小遣いのようなもの!
つまり、ヤブルの世話をしている、このイメダ・メダにこそ! お年玉を与える権利があるっ!」
突破「……その金、どうしたんだよ」
メダ「撃のおじ様にもらったわ」
突破「そういうのはお年玉って言わないんだ!!」
撃のおじ様、即ちヤブルのじいちゃんのことである。
メダにとって、まともな正月は初めてであった。
そして、家族と一緒の正月も……。
メダ「……そこまで言うなら、奥の手を使わせてもらうわ」
突破「お、奥の手だと……!?」
ザ・異星人の敵っぽい宣誓を受けて、ヤブルは何か懐かしさを感じた。
そう、前触れもなく現れる……巨大な地震だ!
突破「こ、この振動はまさか……!」
メダ「ふふふ、さあ振り向きなさいヤブル! そしてその目で確かめるがいい……あたしの愛機、『ネオアンドロメダロス』を!!」
ああ、振り向きたくないな、なんて思いながら振り向けば、そびえ立つは紅いロボット!
突破「ネオアンドロメダロスだと!? こ、こんなもの、どこで……」
メダ「秀一に修理してもらったの、万が一の時のために」
万が一。
秀一の言うそれはきっと、こういう状況のことだろう。
内心秀一への恨みを積もらせながら、突破の心は燃えていた。
メダ「さあ、どうするのヤブル? あたしのお年玉をもらって帰るか……それとも……」
突破「……この限界、買ったぜ」
メダ「……そうこなくっちゃ、いくわよ――ヤブルっ!!」
メダが赤光に吸い込まれる!
紅のマシンが、うなる!
遙か彼方から、三機のメカが現れる!
カイザーハッサン!
カイザーリンカー!
カイザーネオトッパー!
突破「いくぜ!――トップ・インッ!!」
三機のメカが、一つのマシンを生み出す……!
突破「ゲェェェェェェェンカァァァァァイザァァァァァァァァァァァ!!!」
メダ「ヤブル……あたしのアンドロメダロスの特徴は覚えてるわね!」
突破「ああ……絶対無敵のエネルギーバリアだな!!」
メダ「あの時は、秀一とのコンビネーションに破れたけど……今日は秀一もいない! あなたはあたしに攻められない!」
突破「そうかもしれねえが……それを越える!! 越えてやる!!」
メダ「やってみなさい――スカァァァァァレット・レィィィィィィィィィィン!!」
その頃、ギリギリ遊園地管理室。
男「……あの二人、本当におっ始めたぞ。 いいのか、じいさん?」
じいちゃん「まあ、二人ともまだまだ子供じゃがの……どっちがより大人かが、勝負の分かれ目といった所かの」
男「ほう……と言うと?」
じいちゃん「……お年玉、じゃ」
再び、限界坂市街。
メダ「どうしたの、ヤブル? 防戦一本じゃ、アンドロメダロスには勝てないわ!」
突破「……くっ、うおおぉぉぉぉぉぉぉぉおおおお!!!」
拳を突き出すゲンカイザー!
だが、エネルギーバリアがそれを阻む!
強烈な電撃が突破を襲う!
突破「ぐっ……おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
メダ「……さ、さあヤブル!! アンドロメダロスには勝てない……あたしのお年玉を受け取りなさい!!」
突破「嫌だぁぁぁぁぁぁああああ!!!」
紅の閃光を一身に受けながらも、ゲンカイザーは突き進む!!
メダ「な、なんで……たかが、お年玉の一つじゃない……諦めなさい、ヤブル!!」
突破「……誰が、お前なんかに……お年玉をもらって、たまるかよ!!」
メダは――ぞっとした。
ヤブルは本気だ、自分を倒した時と同じ、全力で立ち向かう気なのがわかる。
それは、一度ヤブルに破れた者にしか分からない恐怖だった!
メダ「ど、どうしてそこまで……」
突破「……覚えてるか、メダ!! 俺が書き初めに書いた文字を……!」
メダ「か、書き初め……?」
まだ日本語の読めないメダには分からなかった、ヤブルが書き初めになにを書いたのかを。
そしてヤブルは、メダがそれを読めないことを知っていて、書いたのだ。
その言葉を。
突破「……それは、『父親』!! いつかは越えていかなきゃならない、絶対の限界!!」
メダ「ち、『父親』……!?」
突破「……俺は、エクシードを越えた……エクシードはじいちゃんを越え、じいちゃんはその叔父さんを越えてきた……それが限界を越える者の、絶対に必要な限界!!」
アンドロメダロスのバリアが弱まる!
ゲンカイザーの拳が、バリアに食い込む!
突破「だが、メダ……お前には親はいねぇ……家族はいても、俺の家に親は居なかった!! だから、俺は……俺は……」
バリアが砕け散る!!
突破「――お前の父親に、なるッ!!」
メダ「ち、父親――!?」
ヤブルは知っていたのだ。
越えるべき壁、父親のいない生活を。
エクシードを越えた時、ヤブルは決意したのだ。
父親になる。
立派な父親になると。
突破「……これから父親になる覚悟をしたばっかなのに、娘にお年玉をもらうわけにはいかねぇだろ」
メダ「……や、ヤブル……」
突破「……というわけだ、お年玉――受け取れぇぇぇぇぇえええええええええええ!!」
ゲンカイザーが拳を構える!!
メダ「――って、ち、ちょっと――!」
突破「人様に迷惑をかけた罰だと思え……げぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇんかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいけぇぇぇぇぇぇぇぇぇえん!!!」
アンドロメダロスが宙に舞った!!
男「……やぶるらしいな、まったく」
益子「不器用なんですね、ちゃんとお年玉のためにバイトしてたのに」
じいちゃん「ま、正月早々……元気でいて損をすることはないの」
誓いは遙か、父へ向けて!
負けるな突破!
限界突破だゲンカイザー!
最終更新:2009年11月23日 16:52