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神速剣劇サムライナー



天気予報はスカッとさわやか日本晴れ。
日差しは心地よく降り注ぎ、雲は青空に浮き泳ぎ、なんとも見事な晴天であった。
これも、超江戸が誇る予期志士の天気予報のなせる賜物で、超江戸の町人はここ数日の雨天に溜まりに溜まった洗い物を天に晒した。
とまあ、これが今回の目的とイコールになるわけである。
超江戸の西は歓楽街。
いろんな意味で溜まった洗い物を、遊女も当然干した。
そこを狙われたのである。

超江戸城へと続く大往路、立地条件良し、超江戸橋の側に構えるは超江戸一の菓子物屋、泰然(だいぜん)。
晴れ晴れとした空の元であるにも関わらず、大賀乃信平の気持ちは荒れていた。
大賀乃、はその仏頂面に怒りを露わに、名物である串団子をくわえる。
気の滅入ったときの菓子ほど、味気ない。
串を乱暴に抜き、団子を貪り、空き箱に串をほおり捨てる。
緑茶をすすり、ため息を吐く。
遅い。
遅すぎる。
大賀乃の怒りの原因はそこにあった。
大賀乃は、ある人物を待っているのだ。
その人物は、大賀乃にとって腐れ縁であり、この世のどんな悪党よりも気に食わない男なのだ。
大賀乃の目線の先。
歓楽街のおんぼろ屋根が本来なら見えるだろう。
ついでに言えば、この快晴なら遊女が干した鮮やかな物が、歓楽街のおんぼろ屋根を虹色に染める。
しかし、今目の前に見えるは、超江戸には珍しくもない光景であった。
『げひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!! ほれ一枚二枚ーっ!!』
下品な声が拡声器で超江戸に響く。
これも特に珍しいことではない。
大賀乃が地方からやってきた時には、たいそう驚いたが、数日経てば慣れた。
そう、超江戸には『悪党』が大暴れする習慣があった。
今暴れている、どうやらカマキリらしいカラクリ機械は、恐らくは悪党、高槻源之斎。
超江戸では有名なまっどさいえんてぃすと、である。
大賀乃は歯ぎしりする。仏頂面はさらに険しい人相になった、客足は間違いなく減るだろう。

大賀乃は思っていた。
あれさえあれば、奴の力に頼らずに済むというのに、と。
奴とは待っている人物のことで、あれとは大賀乃の愛刀、卸御旋(しゃみせん)である。
卸御旋、先日の討伐戦で惜しくもその身を折られてしまった。
賛専の刀鍛冶に頼んだが、手元に戻るのはもう暫くはかかるだろう。
なんだか心持たぬ腰には、適当に買い取った木刀をさした。
卸御旋以外の鉄刀は、持つ気にはなれなかった。
大賀乃は三杯目の緑茶を啜ると、腰を上げた。
木刀であろうとも、討たねばなるまい。
それに、これ以上奴を待っていると、すとれすがたまる。
最近、胃の調子が悪いのを思い出し、二三度腹をさすった。
大賀乃はその正義感を燃やし、歓楽街へと歩き出した。

高槻源之斎。
一言で言えば天才。
二言で言えば、煩悩馬鹿であった。
江戸一の天才でありながらその技術を幕府への奉仕に使わず、私利私欲で行使。
その頭の使い道は、主に“えろてぃっく”なことに向けられていた。
今回のカラクリ機械は、巨大カマキリであった。
その両手の鎌には吸引機がつけられ、遊女たちの着物を奪い尽くすのだ。
遊女達は露わな姿で屋根に登り、洗い物を奪われんと押さえるが、カラクリ機械の前では無力であった。
大賀乃が、カマキリの前にたった。
「高槻の、今回もアホなことをやっておるな」
カマキリの足が止まる。
遊女達は大賀乃の登場に歓声をあげた。
大賀乃は露わな姿の遊女達から目を背けた、こういうのは苦手だ。
カマキリの頭からすぴいかぁが伸び、高槻の枯れた声が空にこだました。
「これはこれは大賀乃か! ご機嫌よろしーようでっ!!」
「くそっ、馬鹿を言うな。貴様のせいで、今日も浮かぬ顔で立っとるのよ」
「貴様の顔はいつもそんなんじゃろうて! だが今日は少々赤くなっとるようじゃが」
「ほざけぇぇぇぇ!!」
大賀乃の怒りが爆発したように、大賀乃の周囲に風が吹いた。
大賀乃が木刀を構える。

遊女達の声援が飛ぶ、「きゃーーっ!! 大賀乃さまーーっ!!」
大賀乃、照れ隠し。
「ほっほっほ、卸御旋なしでわしに刃向かうとは、ですくわーくのし過ぎで頭がいっちゃったんかのぉーっ」
「貴様ほど弾けてはおらん、覚悟はよいか高槻……今回こそ、超江戸の奈落牢屋にブチ込んでくれる」
「いやじゃいやじゃ、あそこは老人には優しくないからのぉ!」
「機械じじいがほざくかぁぁぁ!!」
大賀乃の太刀が、走った。
数十の歩みの差があるにも関わらず、太刀はカラクリ機械の腕を打った。
風の太刀。
カラクリ機械はその太刀を振り払い、大賀乃に鎌を振るった。
「太刀ではなく、打になってしまうか……!」
やはり卸御旋が必要だ。
断つための技を打つには、あれが不可欠だった。
カラクリ機械の鎌を、地を滑るように下がりかわす大賀乃は、すでに二の太刀を放っていた。
風の太刀は、斬るだけではなく、衝撃波にもなる。
高槻の席を狙い、突きを放った。
首。
「ぎべっへぇぇぇぇぇぇ!!」
衝撃波は高槻を内部から揺さぶったらしい。
遊女に当たらぬように狙う大賀乃の腕は見事だ。
だが、この程度では倒れまい、大賀乃にはわかっている。
体を半分カラクリに変えたあの男、頭が食らおうと体が食いついてくる。
高槻は衝撃波の中でもればぁを引き、カマキリ機械を操った。
間合いが詰められる、違う刀を使ったせいか、疲労も早い。
「うべぼぼぼっ……うぷっ、老人は大事に扱わんか!」
「貴様に年は関係あるまい!」
太刀を振るう腕が重い。
さすがに無茶だったか、大賀乃は思った。
歓楽街の中心、大遊亭の建物の下に追いつめられた。
くそっ、あいつが遅れなければこうはならなかったろうに。
正面きって、大賀乃が太刀を構えた。
「汗がでとるぞ大賀乃、ふいちゃろうかのげひゃひゃひゃ」
「……生憎とな、くそじじいに拭かせる汗はかいとらん。大遊亭か、くそっ。こんな格好で来るところじゃないな」
「女と話も出来ん石頭が何をいうか、まあよいわ。黄泉で楽に暮らせ、大賀乃よ」
カマキリ機械の鎌が降りおろされた。

砂塵が晴れ、高槻が見たのは意外な光景であった。
それは、地面に突っ伏した大賀乃。
と、その大賀乃のケツを蹴り倒し、鎌を刀で止めるサムライの姿であった。
その姿に遊女達は、さらに大きな声援を送る。
大人気だ。
「邪魔じゃ大賀乃、お前が女に手を出す努力をするのは大いに関心するが、入り口で突っ立っておると邪魔で仕方ないぞ」
軽々と鎌を止めるサムライは、顎をさすりながら悠々と言った。
大賀乃と言えば、地面に頭から突っ込み、唸り声をあげた。
「き、貴様……こんなところでなにを……」
「超江戸の男のすることよ、お前のような堅物には縁がないようだがな」
「……俺との約束は」
「はて、いつのだろうか」
「源次郎ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

白いボロボロの着物に身を包み、きりっとした眼。
乱暴に束ねられた髪は風に舞い、腰には二本の飾り刀。
源次郎。
超江戸一の伊達男である。
源次郎は大賀乃の怒りの太刀を軽々とかわし、カマキリ機械の鎌はそこで初めて地に割れ目を作った。
「げひゃひゃひゃ!! 源次郎か、久しいな!」
「懲りない奴だな、高槻のじいさん。遊び心は大切だがな」
「それは同意じゃなげひゃひゃひゃ」
大賀乃が刀を収める。
「……源次郎、約束のことは保留にしておく。とりあえず頼んだぞ」
「大賀乃、またシワが増えたな」
「誰のせいだ!」
大賀乃が埃をはらい、下がる。
源次郎がカマキリ機械と相対する。
歓楽街の遊女達の声援が、源次郎に向けられる。
「げひゃひゃひゃ、モテる男はつらいの、源次郎」
「あまりにモテすぎるのも、つらいものがあるんだぜ、高槻」
「だが、羨ましい限りじゃ。わしはそこが気に食わん」
「ならば、さっさと退場すればよかろう」
「貴様がじゃ源次郎ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
カマキリ機械の鎌が源次郎に襲いかかった。
二、三と攻撃をかわし、鎌を蹴り、源次郎の体は宙へ舞う。
かっこつけめ。
大賀乃はそう思った。
源次郎は大遊亭の屋根に降り立った。
そして、源次郎は天に叫んだ。

「――来い相棒よ……サムライナァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

大遊亭の屋根をぶち破り、巨大なサムライが地に降り立った。
サムライの太刀は、瞬く間に……。


超江戸。
ここは、なにが起こるかわからない所。
今日もサムライが吠え、悪が地に沈む。


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最終更新:2012年01月09日 11:55