「人……来ないな……」
自分が経営する化石博物館『大乃時代』の受け付けの椅子に腰掛け、頬杖をつきながら、一人愚痴る。
今、世界は空前絶後の『化石ブーム』だ。
切っ掛けは、アメリカ人考古学者が新しい恐竜の化石を発見したためだが、正直こんなにブームになるとは、発見された化石も驚きだろう。
「でも人は来ない、と……。はぁ~」
親父が死んだ。
それがこの博物館を経営する事になった理由。
親父は、化石オタクだった。ブームが来る前から、化石を集めていた。
そんな姿を小さい頃から見て育った俺だが、正直親父は嫌いだった。
化石集めに熱中しすぎて、おふくろとは離婚。
その後『医者』という立派な職業を捨てこの博物館を開いたが、オープン当日に不運の事故死。
「くそ親父……」
吐き捨て、椅子から立ち上がると、館内を歩き回る。
トリケラトプス、プテラノドン……なんてポピュラーな恐竜の化石は置いていない。
あるのはアンモナイトやらサーベルタイガーの牙等など、微妙な化石ばかりである。でも……
館内で一番目を引く化石の前で立ち止まる。
「こいつだけは、違うんだよな」
屈強な足骨に手を置く。
見上げると、巨大な頭骨が視界に飛び込んでくる。
それは顎を大きく開き、その口内には、ぞろりと鋭い牙が並んでいる。
長い背骨はそのまま尻尾となり、地面すれすれに垂れていた。
暴君龍、ティラノサウルス。
親父が買った、最初で最後の恐竜の化石。
値段は数十億。
完全な姿の、ティラノサウルスの化石。
今だに、買いたい、と言ってくる化石マニアは後を絶たない。
売る気などない。
別に大切なわけじゃあないぞ。くそ親父が残した唯一の、大事な金づるだ。
「まっ、あんまり客は来ないけどな……」
自虐。
だが本当のことだ。
風の噂でこいつを見にくる人がたまにいるだけ。
買いたいって言う人も、結局はネットの中の人だ。
ドガァァアン!!
「なんだ!?」
外で爆発音。 急いで博物館の外に出る。
「あれは!?」
空を巨大な円盤が覆っていた。
先程まで快晴だった空はどこにもない。
「くそ!またリペア星人とかいう奴らか!!」
リペア星人。
その登場はまさに衝撃的なものだった。
突如として地球に現れ、侵略を開始したのだ。
空を覆う円盤に、戦闘機がミサイルを放つ。先程の爆発音も、おそらくそれだろう。
「待てよ……。あの円盤がここにいるって事は……まさか!!」
嫌な予感がした。
そしてそれは現実へと、具現化された。
円盤から、光がこちらに伸びてくる。
リペア星人は侵略機を製造するさい、動物の骨格を利用する。その前に、利用する動物の骨格を、一度円盤内に取り込まなければならないのだ。
「ざけんなよ!!」
博物館の中に入ると、屋根が崩れ落ちた。邪魔なので、壊したのだろう。
大きな破片の直撃は免れたものの、体に幾つか小さな破片が突き刺さった。
痛い。しかし気にしてなどいられない。
天から伸びる光が、くそ親父の残したティラノサウルスへと降り注ぐ。
その巨大な体躯が、まるで羽のようにふわりと宙に浮く。
「ざっけんなー!!」
ティラノサウルスに飛び付いた。がっちりと、それの背骨にしがみ付く。
他の化石なら、いくらでもくれてやる。でも、これだけは、これだけは……
「ダメに決まってんだろぉ!!」
叫ぶ。体重をかけ、下におろそうとするが意味はない。ゆっくり、ゆっくりと円盤に近づいていく。
「嫌だ、嫌だ!!親父がくれた……親父がくれた初めてのプレゼントなんだぞ!!」
両目に熱いものがたまるのがわかる。
必死の叫び声も虚しく、博物館館長『大乃 魂』は、ティラノサウルスの化石と共に円盤内に吸い込まれていった。
地面に、空から一粒の雨が落ちた。
その瞬間!
円盤の内部から異常と言えるほどの光が溢れだす。
そして……
ズガァアン!
円盤の下部を突き破り、巨大な鋼のティラノサウルスが、地面に降り立った。
円盤に開いた穴から差し込む太陽の光が、ティラノサウルスを鋼の体躯を照らしている。
最終更新:2009年12月05日 15:46