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 時は現代、日本。諸外国の様々な影響を受けつつも、なお優れた工業技術や
精神文化によって、一定の地位の築いているこの国に一人の科学者が前代未聞の
問題に対して葛藤を続けていた。

「こりゃぁ、まずいのう……」

 暗く、狭い、電子機器類に覆い尽くされた室内にややしわがれた老人の声がこだまする。
それは苦悶の色を帯びており、彼の困惑が本当である事を証明していた。

 老人の名は、向水献茶菜(むこうみず けんちゃな)。この世でただひとり、それまでの常識を
くつがえす超エネルギー・バイラを発見し、運用を可能とした人物であるが、学会にも連名されて
おらず、またバイラ発見の発表すらも行っていないため、しがない生活を送っていた……。

「しかし、甘んじてもおれん様じゃな」

 すっくと立ち上がる向水。天井をみすえ、深く刻まれた皺の奥に潜む眼をするどく光らせながら
独り言をつぶやいた。

「宇宙から大災厄が降りかかってくるなど、誰も信用せんじゃろ。が……
 だからといって見過ごす訳にもゆかん。今こそバイラの力が必要じゃ」

 そういいながら、手元にあったリモコンを操作する向水。すると彼の立っていた場所から
一歩引いた地点が割れ、そこには下へと降りるための階段が姿を覗かせていた。向水はそこへ
ゆっくりと、身を沈めていった。

 歩調のためか、それとも果てしなく深い地下であったのか、長く感じる下降を終えると狭い通路へと出た。
その通路はすぐに行きどまってしまい、しかもそこには何もない。
 しかし、向水はまたもリモコンを取り出すと、アリババの扉よろしく、行き止まりだったはずの壁が左右に割れる。
 中に入ると、なんと眼もくらむほどの黄金の山が累々と積み上げられていた。

「わしの父が見つけた徳川の埋蔵金……これとバイラの力で、わしはこの星を!」

 両の手を天につきだし、なにやら感極まった様子でひとり叫ぶ向水。見れば目が血走っており、
危なげな印象を感じるが、宇宙から来る大災厄から地球を守護するというおとぎ話の様な、
崇高な目的にまい進するつもりのようであった。





そして一年後。向水は、一年前つみあげられた黄金を前にして誓いを立てた
場所に再び立っていた。しかし、そこには既に黄金はなく、代わりに突き抜けるかの
ように高くなった室内に、全長にして二五六メートルはあると思われる、とてつもなく
巨大な人型のロボットらしき物体がそびえていた。

「これぞセーブ・ジ・アース、スーパーロボット・バイラストームⅤ! バイラの力と、
人のココロの力が合わさればもはや敵なしじゃ。道具の用意はそろった……あとはパイロットじゃな」

 聞かれもしない事を、よく解らない単語をまじえつつ独りでつらつらと喋る向水。
今度はどうやら操縦者が必要らしく、その場で腕を組んで沈思黙考に入る。

「……よし決まった。まずはあそこへ向かう、なんとしてでもスカウトじゃ」

 とても短い黙考の末、向水は勇んで階段を登り始める。やはり、凄まじく深い場所
だった場所らしく、途中で息を切らせながら、しかし地球のためと己に言い聞かせつつ
彼は地上へと這い上がっていった。


「牛丼ネギダク、大盛りで頼むぞよ」
「お客様。申し訳ございませんが、ただいま並盛りだけの扱いとなっております……」
「な、なんと!」

 出された牛丼をほおばりつつ、店内を鋭く見回す向水。
 そこは日本有数の牛丼販売チェーン、者野家。格安で大衆受けする味の
牛丼を販売し利益を上げていたが、輸入先の某国の食肉牛トラブルにより
主力商品の大半を販売不能の状態に追い込まれ、ピンチに陥っていた飲食店である。

 しかし、代替物の考案や、少量であるが販売の再開された牛丼により、
息を吹き返しつつあった……そんな背景をもつ店の中に、ひとりの男がが入店してきた。

(来た……来たぞ! わしの求める人間のひとりが!)


「うらぁ! 牛丼くれよ牛丼。特盛りな」
「お客様。申し訳ございませんが、ただいま並…」
「んなこたぁ聞いちゃいねぇー、特盛りをよこすんだァー!」
「お、お客様、困ります!!」

 特盛りの牛丼を巡って暴れ始める男。上下共に白い服を着用しており、
一見すると一昔前のチンピラ一期生にしか見えないが、実際に行動もその通りである。
 しかし、なにか見るものがあるらしい。向水は白服の男と店員の牛丼問答が一段落するのを
牛丼を食べながら待つこと、数分の後。

 場が落ち着いて白服が店を出ていく頃を見計らい、向水は白服へとゆっくりと近づく。

「やあ青年よ。さきほどは素晴らしい動きじゃったな」
「あン、なんだよジジイ」
「わしはまだ一二〇歳じゃ。時に青年よ、特盛りが食いたいか」
「食いてえ」
「わしの頼みを聞いてくれれば、いくらでも食わせてやるぞ」
「マジか!」
「マジじゃ。では、わしに付いてくるがいい……時にお主、名をなんという」
「時雨仁っすよ」

 白服の男は語録が足りないのか、受け答えが単語ばかりであった。しかし、なおそれでも
なにかバイラストームⅤのパイロットに適任たる、何かがあるのであろう。
 もはや牛丼の事しか考えていない時雨を連れて、向水は自分の研究所へと戻っていった。


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最終更新:2009年12月06日 14:26