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第1行程「紅茶夫人の休日」




イタリア・ローマ。
 何かに逃げ惑う民衆。
 巨大な要塞とも思える物体が、空を覆い尽くしていた。

「我々は大影帝国!地球を闇で支配する者である!」

 要塞から聞こえた声明。
 ローマの、いやイタリアの、いや地球の人々が恐怖に染まる。
 一名を除いては。

「お嬢様!お嬢様!」
「……ん。あら、わたくしったら、心地よい陽気についシエスタしてしまいましたわ」

 巨大要塞とは別の、空を飛ぶ一つの物体。
 その形状は、まさにティーポット。

「アフタヌーンティーの時間かしら?」
「いえ、外をご覧になってください」

 じいやに言われ、紅茶夫人は窓の外に目を向ける。

「あらあらまぁまぁ」
「地下にて身を潜めていた、大影帝国の群集にございます」
「あらあら、彼等ったら、遂に世界を闇に?」
「密かに私共、世界紅茶連合が和平交渉を行っておりましたが、その甲斐なく……」

 紅茶の連合が、地球支配を企む帝国になんの和平交渉をしていたか知らないが、
とにかく地球のピンチに変わりはない。

「あ!新国連軍のロボットだ!」


 気付いた民衆の一人が声を上げた。
 巨大要塞に向かう多数の人型ロボット。
 新国連軍の機動兵器である。

「でも、向こうからも何かが出てきたわ!」

 別の者が声を上げた。
 巨大要塞からも、多数のロボットが出撃したのである。
 外見はとても凶悪だ。
 かくして、新国連軍と大影帝国との戦闘は開始された。
 撃ち合い、撃墜されていく各機。

「ん~、やっぱりニルギリはフレッシュな香り」

 そして、我関せずでアフタヌーンティーを楽しむ紅茶夫人。
 睨み合う新国連軍と大影帝国。
 紅茶を飲む紅茶夫人。
 パイロットの指が、トリガーにかかる。
 紅茶夫人はお茶菓子に手を伸ばす。
 撃ち合いを続ける両軍。
 お茶菓子をゆっくりと食べ終え、そして紅茶を口に含む紅茶夫人。

「ふう。では、参りますか。クインティーを、大影帝国巨大要塞に」
「かしこまりました」

 遂にクインティーが動き出した。
 ぐんぐんとスピードを上げ、巨大要塞に迫る。
 だが内部は快適空間となっている。

「うわっ!?空からティーカップとソーサーが降ってきた!」
「あちっ!なんだ!?お湯の雨?」

 地上の人々にとっては快適とはほど遠いが。


 クインティーは巨大要塞に近付く。

「こちら、紅茶夫人です。そちらの代表の方とお話があります」

 戦闘などお構いなしに紅茶夫人は言った。
 巨大要塞からの返答がくる。

「……これはこれは、紅茶夫人殿」
「お久しぶりですわね。とうとう地上の支配に乗り出してしまいましたのね」
「我々にも生活があります。地下は闇に包まれている。太陽の光さえ届かない」
「だから、地上も闇に染めようと?」
「手厚いもてなしをしてもらった世界紅茶連合の方々には申し訳なく思う。
だが我々が味わった苦痛、地上の者達にも与えるのになんの問題が!?」
「笑止!」

 紅茶夫人が一喝した。

「茶樹は熱帯もしくは亜熱帯の、気温の高い季節に大量の雨が降らなければ、栽培には適しません。
もし太陽の光を遮りなどしたら、地上は闇どころの騒ぎではありませんよ。
わたくし達の愛した紅茶が、一生飲めなくなってしまうのです!」

 涙ながらに、紅茶夫人は語った。
 大影帝国中が騒然となる。
 紅茶夫人達世界紅茶連合はいち早く地下の大影帝国の存在を発見し、
紅茶の良さを三日三晩熱く説明し、大影帝国に紅茶を広めた。



 結果、大影帝国に紅茶はなくてはならない存在になり、国宝とまでなった。

「……わかりました。地上を闇に変えるのはやめましょう。
日を改めて、地球の方々に共存を申し込みたいと思います」
「ありがとう。その時はわたくしも、力をお貸ししますわ」

 巨大要塞は搭載機を回収し、地下へと帰っていった。
 幸いなことに、巨大要塞に積まれていた一撃で大陸を吹き飛ばせるほどの威力を持った兵器が、使われることはなかった。
 地球は、紅茶を愛する一人の貴婦人の手によって救われたのである。





 紅茶夫人の紅茶を愛する日々は、まだまだ終わらない



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最終更新:2009年12月09日 22:36