魔法国家アトス―――
それは“こちら側”の世界とは別次元に位置する
“魔法”を技術の根本にすえた国家である。
だがアトスは現在、人口の増加や肥大する次元の歪みによって崩壊の危機を迎えていた。
その未曾有の危機にアトス上層部は
多次元への侵略を行っても生き残ろうとする『急進派』とそれを良しとしない『穏健派』に分裂。
そしてついに『急進派』筆頭・ゲオルグ=ファーレウスが軍事クーデターを起こし、
穏健派を鎮圧。“こちら側”への侵略を開始したのであった。
だがそれに反感を抱いたゲオルグの娘・リイン=ファーレウスは
穏健派の生き残りの力を借り、騎甲人形(マキナドーラー)のうちの一つ『轟鉄のストライフ』を奪取。
次元を繋ぎ合わせる“渡世の門”を渉り、こちら側にやってきたのだ。
だが、下準備無しで“渡世の門”を使用したせいで元々少ない魔力が尽き、
転送先の建物の屋上に倒れこんでしまうリイン。
さらに魔力の枯渇のせいで空腹になり、腹が情けない音を上げる。
「おや、いきなり女の子が降って来たと思ったら空腹で倒れるなんてね。
たまには一人で昼飯を食べてみるもんだね」
そこで――リインは一人の少年と出会った。
見るからに怪しいリインに対し、少年は整った顔に微笑を浮かべて
手元にもっていた食べ物と飲み物をリインに渡したのである。
魔力の枯渇は他からの摂取によって回復する。
少しいぶかしみながらも受け取り、それらを食するリイン。
そしてそれらは初めて食べるものばかりだったが、嫌いな味ではなかった。
「――ありがとう、その……助かった」
「いえいえ、どういたしまして。
じゃあお礼の代わりといっては何だけど……教えてくれるかい?
君はどこから落ちてきたのかな?」
そう言って雲ひとつない空を見上げる少年。
リインは迷った。“こちら側”を守るために協力者は必要だ。
だが、事情を話すということは命がけの世界に巻き込むということに他ならない。
更にいきなりこんなことを話して信じてもらえるとも思えない。
だが一飯の恩義もある。説明しないわけにも行くまい。
微笑を浮かべたまま、リインの言葉を待つ少年に、自身の事情を説明する。
そして全てを話し終わったリインが少年の顔を見ると――
そこには真剣な眼差しでこちらを見る少年の姿があった。
「そっか――で、俺には何ができるのかな?」
「……信じるのか? 私の話を?」
「君の目を見れば嘘を言ってるかどうかぐらいわかるさ。
ならそれは君が真実を言っているか、それとも酷い妄想癖を持っているかしかない。
そして――どうやら前者みたいだし、ね」
少年の視線の先、黒い獣――追っ手に放たれたのであろう魔獣がグラウンドに出現する。
リインは冷静に戦局を見定める。
都合よく騎甲人形(マキナドーラー)の召喚条件はそろっている。
だが自身の乗る『轟鉄のストライフ』は複座型。
二人の騎士(ライダー)がいなければその真価を発揮できない。
しかし騎士(ライダー)になれということは『命を懸けろ』ということと同義。
いきなりそんな重荷を民間人の少年に背負わせていいものかと躊躇するリイン。
だがしかし少年は笑う。
「――望むところだ。でも一つ“約束”してくれるかな?」
「ああ、私に出来ることなら何でも」
「じゃあ、アイツを倒したら、デートしてくれるかい?」
「“でぇと”が何を指すのか知らないが、私に出来ることなら何なりと言うがいい。
騎士の名に懸けてその“でぇと”とやらを遂行しよう」
「OK。それじゃあ、あの黒いのを倒しに行こうか!」
グラウンドに召喚される黒の騎甲人形(マキナドーラー)。
リインに操作方法を聞きながら、魔獣に立ち向かうユウ。
こうして少年・村雲ユウとリイン=ファーレウスは最初の“約束”を交わした。
そして二つの世界の命運をかけた戦いが幕が切って落とされたのである。
最終更新:2009年12月11日 08:00