ある日のこと。星児の憂鬱は、頂点に達していた。
なぜなら、スプリングブレードを手にした素女はまるで水を得た魚のように
勢いづき、ブラスターロボなしでも敵を撃破できるようになり、自分が謹慎
している間でもまったく任務に支障が出なかったからである。
メルワーガとのコンビネーションも最高で、口の出しようもない。
民衆も、もはやブラスターロボではなく、ブラスターレディに期待を寄せていると
いうことがこちらにも痛いほどに伝わってくる。
それに……いくら戦闘の主導権を握っているのが自分とはいえ、本当はいつも
色々な面で素女に助けられてばかりいることを、当代一の秀才である彼が
気づかないはずはなかったのだ。
星児「なぁ、すあま…本当は、俺のことなんかキライだろう?」
素女「えっ?」
星児「俺のことなんか、バカだって思ってるんだろう?」
素女「何を言い出すのよ星児君。確かに、星児君の言ってることが頭にきた
ことはあったわ。でも、星児君のことちっとも嫌いなんかじゃなかった。
だって、それが星児君の本当の気持ちだってこと分かってたから。
星児君が、本当の気持ちで私にぶつかってきてくれてるって思ってたから。
私のほうが、星児君なんかよりもずっとバカなのよ。だから……」
星児「格好つけるのはやめてくれ!」
一方そのころ。
ビンジャム帝国も、着々と力を増してゆくブラスターレディを警戒するように
なっていた。たかが非力なサポート・ロボットだと思っていたものが、三体もの
戦闘兵器を立て続けに倒したのだ。
ワーガー大帝「にっくき素甘ロボ・ブラスターレディをなんとしても倒さねば
ならない。幸い、ここしばらく、あの紅白まんじゅうロボの姿を見ていない。
やるなら今しかないだろう。今こそ、日本を滅ぼすときだ!」
地球を侵略するためには、国土や国力の割りに非常に科学技術…とりわけ、
ロボット工学…の発達した日本をまず真っ先につぶすべき。それが、
ワーガー大帝の狙いであったのだ。
突如東京上空に飛来した、空を覆い尽くさんばかりの巨大なUFO。
それこそが、ビンジャム帝国軍の母艦であった。
ワーガー大帝「夢尾素女、聞こえているか。お前の弟を人質にとった!
弟の命が惜しいなら、今からお前ひとりでこの戦艦まで乗り込んでこい!」
東京上空から、拡声器で宣戦布告するワーガー大帝。
ああ、とうとうブラスターレディのパイロットが自分であることが、人々に
知られてしまった。もはや後には引けない。素女は、単身敵地へ突入することを
決意する。
素女「望(のぞむ)、待ってなさい。今、私が助けに行くわ!」
だが、これがあまりにも危険な行為であることに、気づかない者などいるはずは
なかった。
一ノ谷博士「星児君。一緒に行かないのか?」
星児「敵にお呼びがかかってるのはすあまだけなんだ。俺には関係がないんだよ」
一ノ谷博士「うそだ!君ほど賢い子が気づかないハズはない。これは罠だ!
このままでは、すあまちゃんがやられてしまう!」
星児「うるさいなっ!ほっといてくれ!」
敵地に乗り込んだ素女を待ち構えていたものは、最終決戦に備えて待機していた
ワーガー大帝の側近たちであった。以前捕まったときに、かなりの人数の人員と
和解したつもりでいたが、まだ大帝を支持する者は残っていたのだ。
素女「そんな!あの時、あんなに仲良くなれたじゃない!」
ワーガー大帝「我々は甘すぎたのだ…。一度は平和的に交渉する道も考えた。
だが、それは間違いだったのだよ。和平を図るということは、生存した多数の
民間人を統治しなければならないということだ。我々の目的は、
あくまでこの星の資源。煩わしい人間どもを生かしておく必要など無い!
皆殺しにすることこそが、我々にとって最良の手段なのだ!」
ビンジャム帝国の精鋭たちが、ブラスターレディに襲い掛かる。ピンチに陥る
素女のもとに現れたのは、和賀史郎・メルワーガだった!
史郎「アイツめ、こんなときに何をやっているのだ。素女さん、私が一緒に
戦います!」
敵を蹴散らすブラスターレディとメルワーガ。残っているのは、ワーガー大帝
ひとりだ。
ワーガー大帝「裏切り者がまさかここまで生き残るとはな。そろそろ引導を渡す
ときが来たようだ」
メルワーガ「黙れっ!素女さんには、指一本触れさせんぞっ!」
しかし、力の差は明らかだった。メルワーガは、手も足もでないまま、
地べたへと倒れ伏したのだった…。
素女「史郎さん!逃げることも出来たはずなのに、何故こんなにも
私のために……」
史郎「ハハハ……こんなときまで気遣ってくれるとは、どこまでもお優しい
方だ。私は、そういう優しい貴女のことが、あのときからずっと
好きだったんですよ……」
素女「そんな……考えたこともなかった。私が、誰かに好かれているだなんて…
お願い!死なないで、史郎さん!私、こんなの初めてなんです!」
史郎「それはこっちの台詞ですよ……死なないでください……素女さん……」
それが、彼の最期の言葉だった。
素女「いやぁぁぁぁーっ!」
そのときだった。自室でうなだれていた星児は、突如聞こえてきた
何者かの声に驚き、思わず外に飛び出した。
???「まだ気づかないのか?この国の……いや、地球の未来は、
お前の手に委ねられているということを…」
星児「だっ、誰だっ!?」
それは空耳だった。しかし、確かにどこかで聞いたような声…。
その声に引きずられるように、星児の脳裏に今までの記憶がありありと
蘇ってきた。
たとえ、それがどんなにでたらめで不器用なものであったとはいえ、自分が
いままで抱いてきた「平和を守りたい」という想いは、確かに本物だったのだ。
そして、その想いを支えてきてくれた人たちがいたのだ。
それは、英雄を待ちわびる民間人たち。ブラスターロボの整備工。
そして……
星児「待ってろ!すあま、今助けに行くぞ!」
素女「スプリングブレード、スピン・アップ!」
メルワーガのどんな攻撃も通用しなかった、ワーガー大帝の堅い装甲。
それを破るためには、スプリングブレードのドリル攻撃を使うしかない。
ブラスターレディは、ワーガー大帝目掛けて突進した!
素女「ぇぃやぁぁぁぁぁーっ!」
しかし、極限まで出力を上げたスプリングブレードをもってしても、
ワーガー大帝の装甲を貫くことは出来なかった。
なすすべもなく、返り討ちにあうブラスターレディ。
素女「ブ、ブラスターレディが……壊れてゆく……!」
ワーガー大帝「フハハハハ!これでとどめだぁっ!」
が、まさにその瞬間、壁を突き破って見覚えのあるシルエットが姿を現した。
紅白まんじゅうロボ・ブラスターロボだ!
素女「星児君!」
星児「すまなかったな、すあま。謝りたいことはいっぱいあるけど、それは
後に回しとくわ。今ならハッキリわかるぜ……自分が今、本当にやるべき
ことがな!さあ来い、ワーガー大帝!このブラスターロボが相手だっ!」
星児の作戦はこうだ。メガトンミサイルで装甲を破壊し、露わになった
弱点目掛けてブラスターブレードで切り込む。しかし、ワーガー大帝に
透析装置は通用しない。敵の弱点をつかむチャンスは、ミサイルの搭載数・
三発ぶんだけだ。
ミサイルの爆風が、人質を拘束していたカプセルを破壊した。
すぐさま、素女が弟の救助に向かう。
望「お姉ちゃん、あの人は誰?」
素女「地球を救う英雄よ…!」
星児「よし!見切ったぞ。弱点はそこだ!ブラスターブレード、ライト・アップ!
喰らえ、ブラスターブレード・ファイナルアターック!」
しかし、ワーガー大帝のコアは思いのほか強靭で、ブラスターブレードは
刃が欠けて使い物にならなくなってしまった。
ワーガー大帝「やるではないか…だが、いくらダメージを受けたとはいえ、
貴様を倒すくらいの力は残っているぞ!」
素女「逃げて!星児君!」
懸命に敵の攻撃をかわすブラスターロボ。ビームパンチでは、攻撃力不足で
敵にダメージを与えられない。絶体絶命のピンチだ。
いてもたってもいられなくなった素女は、半壊したブラスターレディの
コックピットをわけもわからずいじり倒した。
素女「お願い!今までずっと一緒だったじゃない!星児君が危ないの!
応えて、ブラスターレディ!」
素女がコックピットをぶん殴った瞬間、ブラスターレディは奇跡的に
修理装置の部分のみ回復した。
素女「星児君!これからブラスターブレードを修理するわ。それまで
なんとか持ちこたえて!」
星児「ああ、わかった!」
ブラスターブレードの修理が完了した。今まさに、反撃が開始される!
素女「負けないで!星児君ーっ!」
星児「どりゃぁぁぁぁーっ!」
必殺の刃が命中し、ついにワーガー大帝は倒れたのだった。
墜落してゆくUFOを、ブラスターロボは最後の力を振り絞って東京湾へと誘導。
幸いUFOは空洞の部分が多く、水に浮いたため、中にいた者は皆無事だった。
これで、ビンジャム帝国の侵略計画は阻止されたのである。
素女や星児を救出しに来た海上保安庁の面々の中に、海外に行っていたはずの
青野博士の姿があった。
来るべき戦いに備えて自分のロボット技術を海外にプロモートしに行っていた彼は、
最終決戦の知らせを聞いて強化型のブラスターブレードを大急ぎで日本まで
届けようとしたが、到着する前に事は済んでいたというわけだ。
素女「とりあえず、研究所まで戻りましょうよ。お父様も一緒にね」
地球を守るという一代事業を成し遂げ、感慨深げな表情をする研究所の面々たち。
青野博士「みんな、よくやってくれた。しかし、正直言って私は不安だったよ…。
私自身が指揮をとれればよかったのだが、急にここを離れることが決まって
どうしようかと思っていたんだ。
この際、はっきり言ってしまおう。あの頃の君たちは、ただの力に溺れた
愚か者たちだった!特に、星児のやつなんてまだ若いし、本当にどうしようかと
思っていたよ。
日本という大きなものを守るためには、当然、小さなものは犠牲にしなければ
ならない。それは仕方の無いことだ。しかし、だからといって、目的のために
犠牲にしてしまったものを忘れてしまうようでは困るのだ。ないがしろにして
しまってはいかんのだ!いつかの遠い未来、それらを思い出すときのために。
……まぁ、若い頃に読んだ本の受け売りなんだがね…。
素女君。……いや、‘すあま君’と言った方が良いか。君なら、ここにいる
者たちに忘れてはいけないことを教えてくれるような気がした。だから、
無理を承知で君をここに招いたんだ。君に苦労をかけさせることは承知していた。
でも、まさか実戦にまで駆り出されていたとは……本当にすまないことをした。
許してくれ、すあま君…」
夕日の中に、素女の柔らかな笑顔がいつまでも浮かんでいた…。
その後、ブラスターロボとブラスターレディは、改修されて国立博物館に
寄贈されることとなった。
我々がこの二体のロボットのことを覚えているかぎり、いつかまた地球が
ピンチに陥ろうとも、彼らは助けに来てくれるだろう。
むろん、戦いは無いにこしたことはない。しかし、我々は忘れてはならないのだ。
生きていく中で犠牲にしてしまったものを。
そして、そのときに感じていた気持ちを…
最終更新:2010年01月03日 16:12