わがままメルティ・ハーツ 第一話
???「た……す………け……て………
たすけて………
淋しい……
さびしいよぉ…………」
ある日の朝。
見ず知らずの少年が涙ながらに暗闇の中から助けを求めてくる、という
気がかりな夢から目を覚ましたアマチュア防衛活動家・六美は、愛用している
年季の入ったコンピューターに突如通知されてきた情報に驚き、すぐさま
盟友の星子に連絡を入れた。
六美「もしもし、せいちゃん?」
星子「あ、むーちゃん。やっぱりそっちも見た?」
六美「うん。地球に向かって、すんごい数の何かが近づいてきてるって!」
星子「えっ?あ、ああ、確かに見たよ」
六美「とりあえず、ウチの端末から透析衛星にアクセスをかけてみたんだけど…
少なくとも、透析衛星の光学分析による見解では、原子力エネルギーを使った
弾道ミサイルの可能性が高いみたいよ」
星子「つまり、‘宇宙のどこかから、地球に向かって核ミサイルが飛んできてる’
ってことよね…!」
六美「しかも、数が半端じゃないのよ…」
星子「わかってる。かるく地球全体を覆い尽くせるくらいはあるよね…!」
六美「きっと、他のグループの連中も同じ話題で持ちきりだわ。合同会議が
開かれたらすぐに参加しましょう。こりゃあ、大変なことになったわよ…!」
六美が住んでいる街には、彼女と星子が共同で運営している防衛組織・
「アストロベンチャーズ」のほかに、五つほどの同業団体がある。
彼らは、自分なりの方法で、いつも犯罪者や侵略者からこの街を守ってきた。
しかし……
防衛隊員A「ウチには、宇宙空間で活動可能な巨大ロボットが一体ある。
しかし、あれはあくまで白兵戦用に用意したヤツだからな…。
大量のミサイルに対処することなど、とても……」
防衛隊員B「下手をすると、放射能を被る危険性もあるしな」
防衛隊員C「六美さん。たしか、おたくのアストロベンチャーズには
戦闘機がありましたよね?」
六美「ジェット・ベンチャーのこと?でもあれはプラズマ・エンジンよ。
宇宙空間では使えないわ…」
防衛隊員C「ええっ!?」
星子「どうしてもお金が無かったから…。燃料補給にかかる費用とかを考えると、
それしか選択肢がなかったんです」
防衛隊員B「ああ、どうすればいいんだ…」
防衛隊員A「もしも、‘メルティパワー’が使えたらな…」
六美「‘メルティパワー’?」
防衛隊員A「伝説の超エネルギーさ。なんでも、どんな物質でもあっという間に
原子レベルまで分解してしまえるらしい」
防衛隊員B「それって、‘反物質’とは違うのか?」
防衛隊員A「研究者の間でも呼び方はバラバラだからな。‘神の力’とまで
言い切る輩もいるくらいだ。でも、似たような話なら、みんなも一度くらいは
聞いたことがあると思う」
星子「確かに、私も聞いたことあります。そういうの」
防衛隊員C「あんなのインチキに決まってるだろ!そんな雲をつかむみたいな話
じゃなくて、もっと現実的なことを考えるべきだ!」
防衛隊員A「でも、理論的には確かに可能な現象なんだ……ただ、それを起こす
ための方法が確立されていないだけで……ううむ……」
六美「……………………」
頭を抱える各団体のメンバーの様子を見つめながら、六美はひとり、ある考えを
頭に浮かべていた。
‘この街に、インチキ科学を研究している自称・科学者の一家がいる’という噂を
小耳に挟んだことがある。
もし、ほんとうにメルティパワーが地球を救う鍵になるのだとしたら、
一考の価値があるかもしれない…。
六美「ねえ、せいちゃん。ちょっと」
二人は、これからその一家を探すことを決意した。
六美「私の見込みでは、このあたりにあるはずよ」
星子「なんでわかるの?」
六美「ウチの地底探査装置で、このあたりの一ヶ所にだけ、異常なほど大きな
地下空洞があるってことがわかったの」
星子「ああ、それで…」
六美「どう考えても怪しいわ。前々から気になってて、一度調べに行ってみようと
思ってたんだけど…」
星子「何かとんでもないような研究施設が隠れてるかもしれない、ってこと?」
六美「そういうこと」
星子「さっすがむーちゃん。よく考えたら、この街で地底探査装置を持ってるのって
むーちゃんのとこだけだもんね」
六美「そうそう。以前地底怪獣が現れたときなんか、みんなウチの部屋に
押しかけちゃってさ。まったく、狭いのなんのって……あ、ココだ」
二人は、あらかじめメモで記しておいた場所に到着した。
そこにあったのは、いまにも崩れそうなほどのみすぼらしい一軒家。
と、そこから、学生服をぎこちなく着た少年が飛び出していくのが見えた。
二人「あの子は…?」
二人は気になったが、とりあえずその少年を見送りながら、呼び鈴に手をかけた。
六美「すみません。佐藤さん!」
玄関から出てきたのは、その家と同じくらいみすぼらしい身なりをした、
一人の女性であった。どうやら、さっきの少年の母親らしい。
女性「ハイ、どちらさまですか?」
六美「突然すみません。私は、第四級防衛組織・アストロベンチャーズ代表の
神 六美という者です」
星子「私は、アストロベンチャーズの共同出資者、火乃 星子といいます」
六美「佐藤さんは、‘メルティパワー’についてご存知ですね?」
女性「なんのことでしょう?」
六美「とぼけないでください。おたくの地下に、用途不明な巨大空洞があることは
調べがついているんです。……無礼だとは思いますが、どうしてもそちらの力を
お借りしたい事情があるんです」
女性「……地下のことについて触れてきたのは、あなたがたが初めてですね。
見たところ、借金取りの人でもなさそうですし……わかりました。
どうぞ、おあがりください」
二人を茶の間に招きいれたその女性は、なにやら資料のようなものを取り出しながら
話をはじめた。
女性「お察しのとおり、私たち一家は‘メルティパワー’の研究家です。
ですが、研究がストップして以来、もう何年にもなります」
六美「えっ?」
女性「もともと私に専門知識はありません。ただ、夫の手伝いをしていただけです。
ですが、その夫も三年ほど前に……なにせ実在するかどうかも疑われている理論な
ものですから、世間の風当たりも強いですし、借金ばかりが増えていく一方で…
息子を公立高校に通わせるのがやっと、といったところです…」
星子「息子?」
女性「ハイ。息子……あっ、そうですね。私どもの‘メルティパワー’をお見せする
には、息子の力が必要なんです。もし、そちらの用事が急なのでしたら、私の息子を
ここに呼び戻してきていただけませんか?」
星子「さっき、ここを出て行った子ですよね?私が見つけてきます!」
女性「ええ。私と良く似た子ですから、顔を見ればすぐにわかると思います。
この近くにいればいいんですけど…」
六美「悪いわね。頼んだわよ、せいちゃん!」
家を出た星子は、近くの川原でぼんやりとたたずむさっきの少年を見つけた。
星子「ねえ、きみ。佐藤さん家の息子さんよね?」
星子は、振り向いたその顔を見て一瞬言葉を詰まらせた。
星子(この子は……今朝の夢の中の……?)
そう。助けを求める少年の夢を見たのは、六美だけではなかったのだ。
少年「…なにか用?」
星子「きみのお母さんに用があって来たの」
少年「それなら、おかーさんのとこ行けばいいじゃない」
星子「うん。だから、そのお母さんが、きみを呼び戻してきなさいって」
少年「ふうん……」
星子「家に帰りましょ?」
少年「…ヤダ」
星子「えっ?」
少年「ぼくはおかーさんがキライなんだ」
星子「どうして!?」
少年「おとーさんと一緒にいつもヘンなケンキューばっかしててさ、
ぼくのことなんか全然かまってくれないし、たまにかまってくれたかと思えば
いつも実験の付き合いで……どうせビンボーになるだけなんだから、
そんなケンキューなんかやめちゃえばよかったんだよ」
星子「………………」
少年「みんな、いつもぼくがどんな目にあってるか知らないんだ」
星子「えっ?」
少年「ちょっとコレ見て」
少年が差し出してきたのは、自分の生徒手帳。そこには、「佐藤 融人」と
名前が書かれている。
星子「さとう……ゆうと君?」
融人「違う。それで‘めると’って読むの」
星子「‘めると’?」
融人「ヘンな名前でしょ。名前のこともそうだしさ、ウチがいつもヘンな
ケンキューばっかしててお金がないってもんで、おかげでぼくはいつも
バカにされたりとかさ、からかわれたりとかさ……もう、やってらんないよ」
星子「………………」
融人「ぼくのことをわかってくれない人なんか、みんなぶっ殺してやりたいよ…。
特におとーさんなんかぶっ殺してやりたかったけど、もう死んじゃったもんなぁ…
ぼくの体の中に、バクダンだけ残して……」
星子「爆弾?」
と、そのときだった。星子が腕につけている専用通信機に、六美から連絡が
入ったのだ。
六美「せいちゃん、聞こえる!?大変なの!佐藤さんとこに借金取りが
押しかけてきたわ!いまお母さん連れて逃げてるんだけど、すごい人数で
とても振り切れないの!はやくこっちに来て!」
星子「ほんとう!?わかった、いますぐ行くわ!」
今までずっと頑なだった融人の表情が、一瞬、不安げなものへと変わった。
融人「えっ?………おかーさん…?」
融人を連れた星子が、通信機を頼りに六美のあとを追いかけると、すでに
街中が大騒ぎになっていた。
これは、もはや個人間の借金の問題ではない。集団ヒステリーだ。
市民A「インチキ野朗を捕まえろ!」
市民B「あの一家は前々から気に食わなかったんだ!」
市民C「きっと、この街の情報を宇宙人に横流ししてるに決まってる!」
星子と融人は、懸命に二人の姿を探したが、あまりの人の多さになかなか
見つからない。
星子(そんな…今はそれどころじゃないのよ…!もしかしたら、あと
ほんの数時間で、地球が滅んでしまうかもしれないのよ…!)
世界の終末が前倒しでやって来たかのような地獄絵図。
…と、そのとき、突然の車のブレーキ音が、星子たちの耳をつんざいた。
群集の波をかきわけ、二人が急いで音の方向へ駆けつけると、そこには
横たわった融人の母と、彼女に懸命に呼びかける六美の姿が…
六美「佐藤さん!しっかりしてください、佐藤さん!」
突然の騒動に街の交通はパニックになり、彼女は暴走した車に巻き込まれて
しまったのだ。
すぐさま母のもとに駆け寄る融人。だが、彼の母はすでに息絶えていた。
彼女の死に顔は、心底疲れきった表情であった…。
融人「……え……?ちょっと待ってよ。……死んじゃったの?
ほんとうに死んじゃったの……?そんな……おかーさん………!!」
融人は、我に帰ると、取り囲む無数の群集をにらみつけた。
融人「…おかーさんがいじめられてたのは知ってた。だって、ぼくと
おんなじ目をしてるから…。おまえたちか?みんな、おまえたちの仕業か!」
市民A「道楽に身をやつしているからこうなったんだ。天罰だよ」
融人「ゆるせない……!おまえら、みんなぶっ殺してやるッッ!!」
市民B「おうおう、やれるもんならやってみろ!ペテン師の息子に何が出来る!」
六美「ま、まずいわ!」
何かが起こる。六美の直感は、現実のものになろうとしていた。
融人「メルティィィー、ハーツ!!」
融人が叫び声をあげた瞬間、辺りを閃光が包み、そこに天をつくような大巨人が
姿を現した!
六美「め、‘メルティハーツ’…!」
ついさっき、融人の母親から受け取ったばかりの研究資料。それに載っていた、
‘メルティパワー’を自在に操る最大・最強の巨大ロボット・メルティハーツだ!
六美「危ない!せいちゃん!」
拳をふりあげ、建物を壊しにかかるメルティハーツ。
まがりなりにも実戦経験がある六美と星子はとっさにその場から脱出することが
出来たが、大部分の一般市民たちは、わけもわからぬまま、砂煙のなか散り散りに
消えていった。
六美「ジェット・ベンチャーを発進させるわ。ついてきて!」
星子「うん、わかった!」
二人が準備にとりかかっているあいだにも、メルティハーツは大暴れを続けていた。
民家を蹴散らし、アスファルトを踏みつぶし、高層ビルを殴り壊す。
とうとう、メルティハーツは街一番の高層ビルに目をつけた。
融人「メルティィー・ストォォーム!!」
メルティハーツの右手から繰り出された突風に飲み込まれた瞬間、ビルはたちまち
光となって、溶けるように消えていった。
六美「あれが、メルティパワー…!?」
星子「信じられない…!」
ジェット・ベンチャーから外を覗き込む二人は、絶句させられるばかりであった。
六美「こうしちゃいられないわ。早くあの子を止めなきゃ!せいちゃん!」
星子「う、うん、わかった!」
ジェット・ベンチャーが、メルティハーツの足元に光線砲で威嚇射撃を加えた。
六美「たしか、メルティハーツと通信をとるには……この周波数のはず…!」
六美は、資料を片手に無線を操作し、なんとかメルティハーツとコンタクトを
とることに成功した。
六美「ねえ、聞こえる!?もう十分でしょ!?あなたに協力してもらいたいことが
あるの!だから、こんなバカなことはやめて!」
動きを止めるメルティハーツ。通信機のスピーカーから聞こえてきたのは、
融人のすすり泣く声だった…。
融人「どうせこうなるんだったら、もっと早くこうしとけばよかった…。
ホント、バカみたい…」
六美「ちょっと、アンタ!聞いてるの!?」
星子「ねぇ、むーちゃん、ちょっと!」
星子が二人の会話をさえぎった。地球に向かって飛んできていた核ミサイルが、
もうジェット・ベンチャーのレーダーでも確認できるほどまでに近づいてきて
いたのだ。
六美「お願い、聞いて!今、地球に向かってミサイルが飛んできてるのよ!
わたしたちで対処するのは無理だわ!さっきのあの力で、ミサイルを消し去って!
そんなことが出来るのは、あなただけなのよ!お願い!」
融人「……どうして?」
六美「えっ?」
融人「どうせ生きてたって、もう帰る場所もないじゃん…。それで何になるって
いうんだよ…。もう、やることはやったんだ。ああ、もうヤダ……。
ここで死んじゃいたい……」
六美「ちょ、ちょっと待ってよ!そっちの都合で私たちまで巻き込まないでよ!」
融人「なんだよ…、そっちだって、単に自分が死にたくないだけなんでしょ…?」
星子「…ねぇ、むーちゃん!通信機をこっちに貸して!」
こうなったら、いちかばちかだ。六美は、星子に通信機をまわした。
星子「めると君。あなたの気持ち、よくわかる。いままで、ずっと辛かったよね。
ほんとうは、お母さんのことが大好きだったんでしょう?だから、あんなに
怒ったんだよね?」
融人「…………………」
星子「ねぇ…、行くところがないなら、私たちと一緒に暮らそう?
何もかもなくしちゃったかもしれないけど、私たちと一緒に人生やり直そうよ。
ね、そうしよう?」
六美(え!?せいちゃん、そんな無責任な…!)
星子(いいじゃないの!こんなかわいそうな子を、ただの道具みたいに扱うつもり
なの!?そんなこと出来ないわ!)
融人「……ほんとうに、一緒にいてくれる…?」
星子「ほんとのほんとよ。だから、力を貸して?」
融人「…………………」
六美「…ああっ!み、ミサイルが!ミサイルを肉眼で確認!」
星子「ええっ!?」
もうダメだ。そう思ったまさにその時、メルティハーツの‘メルティ・ストーム’が
炸裂した。
空を覆い尽くすほどの、光の大竜巻。それが収まった瞬間、ミサイルは影も形もなく
消えていた…。
六美「メルティパワー……本物だわ……!」
こうして、メルティハーツは地球を救ったのだった。
どんなものでも溶かしてしまう力を持ち、いつどんなときに暴れるかわからない。
そんなわがままなロボット、メルティハーツ。
果たして融人は、心の傷を克服し、その力をうまく扱うことが出来るのか?
彼の体内に仕込まれた‘爆弾’とは?
そして、何故、宇宙の果てからミサイルが飛んできたのか?
物語は、波乱の幕開けとなった…。
つづく
最終更新:2010年01月14日 08:57