飛び交う悲鳴と爆発音。
空には硝煙と火の粉が飛び散っていた。
人が水のように流れていくさまをディルはゆったりと見ていた。
「せっかく見つけた町だっていうのに、どうしてこう敵があらわれるんだろうねぇ」
砂漠のなかにあった町をようやく見つけ、食事にありついたのだ。
というのに、こうも襲われてしまってはたまらない。
既に店主は非難した後だ。店にいた客も逃げている。
ディルは防寒と日避けのマントを羽織り、テント型の住居を出た。
逃げ惑う人の波は少なくなっている。そして爆音がどんどん近づいてくる。
「やれやれ。ヤツらめ、こんな末端の町まで襲うなんて、何考えてるんだか」
侵略とは相手の持っているものが欲しいから行うのだ。
しかし、これではただの殺戮である。
ディルは正義の為に戦っているわけではないが、人が死ぬのもごめんだと思っている。
とは言え、彼は人助けにはあまり積極的でない。だからまだここにいるのだが。
「うわっ!!」
「おっと。坊主、大丈夫か?」
ぼうっとしていると、近くを逃げていた少年が転んでいた。
そして――その後ろには敵がいる。
「た、助け……」
振りあげられる腕。次の瞬間には少年はメチャクチャになっているだろう。
この距離からではまず間に合わないなあ、なんてディルは思いながら、言った。
「やれ、ローリエ」
『了解ー』
人間ならね、と心の中に付け加えて。
振り下ろされるはずの腕は吹き飛び、少年を守るように黒い影が立ちはだかる。
『――なんで、てめえは!?』
『――貴様に名乗る名は無いってね』
そして次の瞬間、敵機は何もせずに吹き飛んだ。ベラスケスの重力波を浴びたのだろう。
他の敵を倒しに行くベラスケスをよそに、ディルは少年に駆け寄った。
「おい、無事か?」
「助かったの?」
「ああ。さっさと逃げるぞ」
「ねえ、さっきの黒いのは何?」
ディルは大袈裟なかぶりを振って答えた。
「ディメンセイバー。通りすがりの正義の味方……だといいね」
『ディルー、これからどうするのさー』
耳に直に聞こえる電子音声。
人間の少女と変わりなく聞こえるその声は人工知能ローリエのものだ。
ディルは砂だらけになった町中をベラスケスに乗って空から見下ろしていた。
「食事も補給も済んだし、敵の基地を叩こうかね」
『え!?そんな情報何時手に入れたの?』
「お前が丁寧に敵のパイロットを生かしておいてくれたからな」
『おイタして聞きだした、と』
「ちょっと指の骨の2、3折っただけだ。一月もすれば治る」
『グロいなー』
そもそもこれから基地を襲うのだ。
ちょっとした虐殺である。そのことを踏まえれば、先のことなど些細なことだ。
「この星の地上における拠点は次で最後だ。宇宙のは蹴散らしてきたから終わりだな」
『今回もゲートに近づく情報は無かったねー』
そうなのだ。俺達は制圧された時空転移施設『クロノゲート』へ近づくための情報を探している。
クロノゲートはどの次元世界にも存在するが、内側から閉められていて、入ることができない。
ゲート内の施設は『ユネイター』が押さえているはずだ。
だが、ユネイターがこちらへ干渉してくる以上、ゲートを開かなければならない。
しかし、技術力が高く反撃の可能性がある世界へは干渉しない。
だから俺達は他の世界からアプローチをかけなければいけないのだ。
この世界のゲートが閉じられているかは、まだ分からない。
「とにかく、まだ行って見なければ分からないさ。関係があればテレポーターが存在するはずだ」
ディルは機体を高速で移動させ、敵基地へと向かった。
この世界における主要な星は既に回っていた。
ディルは訪れた星をそれなりに開放し、各地をめぐっていた。
しかし、今回の世界も『外れ』であるようだ。
既に2回ほど、世界を次元移動してきたが、既にゲートは閉じてしまっていた。
次にゲートを開く時を待とうかとも思ったが、自分の情報は既に行き渡っているだろうと思い次の世界を目指した。
わざわざ脅威のいる世界へ道を開くバカはいない。
とはいえ奴らの目的を達成するには世界を侵略しなければいけない。
だから侵略している最中のところを狙うか、侵略される前の世界へ移動しなければならない。
『さーて、そろそろ警戒ラインだと思うんだけどッ……!?』
「なっ!?攻撃だと!?」
ウィンドウには被弾の文字。直ぐに報告が返ってきてダメージが軽微だと知らせてくれる。
だが、同時に次の攻撃の予測も来る。
『二時の方向!』
「そこか!」
敵の攻撃をかわし、代わりにレーザーキャノンで返事をする――直撃。
「ちっ!結構高性能なレーダーだな。射程もある」
『多数の機影を確認。本隊が来るよ』
「Gブラスターを使うぞ。照準は頼む」
『OK、最大効果範囲算出。どうぞ」
トリガーを引く。開かれた胸部から極太の赤い閃光が敵部隊目掛けて突き抜ける。
爆発が巻き起こる。敵の大半を削れたようだ。
『Gブラスター冷却。再使用まで130秒』
「もう今回は使わねーよ。突撃する!」
『ういういー』
スラスターを出力全開にして突進する。10秒足らずで敵部隊に到達し、そのまま――体当たり。
「おりゃあッ!!」
重力フィールドを展開しているから4、5体は倒せただろう。
続けざまにレーザーキャノンで機影を落とす。
しかし、敵もやられるだけではない。手にしたライフルやバズーカでこちらを狙ってくる!!
――が、それはベラスケスには届かない。重力フィールドの前には敵の攻撃は城壁に対する小石のようなものだ。
「雑魚には用は無い!」
『敵拠点、見つけたよ!……まって、これって!?』
「どうした?」
『テレポーターだよ!!』
「何ぃ!?」
レーダーに目を凝らす。反応は確かにテレポーターだ。
テレポーターとはクロノゲートの存在を示すシンボルのような施設だ。
やつらはこれを使ってクロノゲートから自軍を送り込んできているのだ。
つまり、こちらからテレポーターに乗り込めば……
「行ける!ゲートまで突入するぞ!」
雑魚の群れをエネルギーブレードでなぎ払い、テレポーターへと猛進する。
阻む敵などいやしない!ベラスケスの敵になどなりようがない!!
『起動してる!チャンスだよ!!』
「言われなくても!」
ついには、敵にテレポーターを破壊される前に到着した。
空間が歪み、転移が始まり、そして―――――――宇宙。
「――ッ!ゲートは!?」
『コンディション、コスモモードへ以降。えーと、ゲートは……』
「あれか!?」
遥か遠くに見える巨大な輪上の物体。
自分の世界でも見たことの有るあれは間違いなくクロノゲートだ。
そのとき、機体が大きく揺れた!
『わ!!ディル!攻撃が!』
「くぅ!ここまで来て、みすみす逃すか!!」
敵の攻撃が直撃する。
地上の敵では相手にすらならなかったベラスケスのフィールドを貫通できるほどの機体だ。バカにはできない。
しかし、構っている暇は無い。敵の攻撃も構わず、一直線にゲートを目ざす。
ゲートの光はゆっくりと落ちていく。おそらく閉じようとしているのだ。
「間に合えぇぇぇぇッ!!!」
推力を最大にして機体を飛ばす!
既に機体の限界速度へと達しようとしていた!
ゲートまでの距離はあと少し――3000、2000、1000!!
「おおおおおおお!!!」
――――ゼロ。
光が全て消え去る。ゲートは既にその機能を失い――――――漆黒の機人は、まだそこにいた。
戦闘から1時間後。ゲート付近の敵を憂さ晴らしに片付け、ようやく終わった。
「……っくしょう!!あと少しだったのに!!」
コンソールを叩きながら悪態を付く。しかし、感情は収まらない。
『まあ、まだ終わったわけじゃないし』
「うるさい!今こうしてる間にも敵は進行しているって言うのに!」
『だったらこんなことしてるわけにはいかないでしょ。言い訳をすることくらい私にだってできるわよ』
「く……」
『だいたい、普段真面目にやらないからこういうときに限って運を無くすんだよ』
「はあ、もういいよ」
彼女の言うとおりだ。自分は戦闘は得意だが、情報収集や物資調達に時間をかけすぎてしまう傾向がある。
これではゲートも閉じてしまう。疾風迅雷の如きスピードで任務を遂行しなければ。
「それに、今回の敵は……」
手強かった。
まだまだベラスケスには及ばないが……
『ゲートの内側に近づけば近づくほど、敵は強くなっていくでしょうね』
今のままでは勝てないかもしれない。
いくらベラスケスが高性能で単独戦闘が可能だからといって、無敵ではないのだ。
やつらがその気になったら、物量で押されてしまうかもしれない。
「……次の世界へ跳ぼう。そして、今度は共に戦えそうな協力者を探そう」
『ええ?無理じゃない?他の世界にベラスケスみたいなCDUがあるとも思えないけど』
「噂じゃ俺たちみたいなのがいるらしいじゃないか。世界を跳んで回っていれば、そのうち会えるさ」
『楽天的だなぁ……」
そうでなければこんな任務はやってられない。
楽天的でなければ、世界を背負う運命などにとっくに潰されている。
だからディルは常に楽天的であろうとしてきたのだ。
「行くぞ」
『了解。クロノドライブユニット、ノーマルモードからディメンションシフトモードへ以降』
「次は……この世界へ行ってみるか」
『空間座標固定。続いて転移後の空間座標を固定……完了。出力安定!いつでもどうぞ!!』
「よし、行くぞ!!次元飛翔<ディメンションシフト>!!」
光が、次元を突き破る。
漆黒の機人は光を貫き、次の次元へと飛翔した――――
01.END ……つづく?
最終更新:2010年01月15日 08:26