アットウィキロゴ


宇宙は相反する二つの要素によって構成されるという。
プラスとマイナス。陰と陽。光と影。そして、善と悪。

弛む事無き幾星霜の進化の歴史の中に知性体が誕生したその瞬間から、善と悪は常に隣り合わせの存在であり続けた。
幾億の天体に芽生えた幾億の文明はみな善と悪をその内に孕み、その葛藤の末に朽ち果てていった。
膨張する世界で繰り返される死と新生の中、星々の狭間に漂った悪のエネルギーはやがて集約され、一つの『形』を成した。

――『イーヴィルコア』。

いつしか、『形』はそう呼ばれるようになった。


勇者騎士団ダイセイバー
             第1話『アイツが落ちてきた日』



第三太陽系・第三惑星――住人達が『地球』と呼ぶその星は、今日も平穏に公転軌道を周回している。
かつて人が見た『21世紀』と言う名の見果てぬ夢。だが、西暦が2000番目の年を刻んだ所で特に何も変わりはしなかった。
相も変わらず地球人類は綱渡りのような営みの中で産まれ、生き、そして死んでゆく。
限りないはずの未来に限りを見つけてしまった時点で、人類は一種の倦怠期に突入していたのかもしれない。

しかし永きにわたる人類の眠りが覚める時が今、迫り来る。あまりにも静かに、そして密やかに。


…そんな事を知るはずも無い極東の島国、日本。
首都・東京とそこに隣接した各県で構成される関東地方の片隅に、その町はある。
ここ最近の再開発により町並みは見違えるように未来的に生まれ変わったが、そこに住む人々の心は変わらない。
町の主な産業が漁業であることと、この頃では珍しいほどの海の美しさを自慢とするここは『伊刈市』。ごく普通ののどかな港町である。

そんな街の中でもトップの学習レベルを誇る…わけでもない、雄大な海を臨む県立伊刈高校・2年B組教室。
現在は3時限目、教科は世界史。担当教諭は足尾 鋼、参加生徒数は32人。…のはずなのだが、何故か教室には31人の影しかない。
「はい、では教科書17ページを…あれ、大場君はどうされました?」
誰にでも丁寧口調の鋼は、生徒にもその姿勢を崩さない。のんびりとした体型の如く丸く朗らかな声を、手近の生徒に掛ける。
「え、っと…さっきの休み時間までいたんスけど、またサボりみたいっスね」
「うーん、困りましたねぇ…わかりました。後でまたお話しておきますね。――それでは、授業に入ります」
何事も無いかのように講義が始まる。ぽっかりと空いた、一つの席を残して。

――そんなごく普通の日常の裏側、同時刻。遥かな空の果ての果て、漆黒に染まる大宇宙にて、人の想像し得ない戦いが繰り広げられていた。

<…ちら…イム、フラ…応答…願…!こちらフレイム、フラッシュ教官応答願いま…ぐぁぁっ!?>

眩いばかりの閃光に灼かれた背部装甲が黒煙を吹き上げる。全身は数え切れないほどの損傷に覆われ、頼みの綱のオートリペアすら機能不全に陥っている。
どこまで逃げても喰らい付く敵の執念には正直、感心する。だからといって捕まるわけにはいかないが、もう逃げ切るだけのエネルギーも無い。
ならばと『騎士』は辛うじて稼動するバーニアを吹かし、方向転換をした。
真っ向から敵が来る。その無慈悲な姿を睨みつけ、騎士は右手に構えた銃の引鉄に指を掛けた。
「ぐぅっ…フレイム、ショットォォッ!!」
銃口から放たれた紅い閃光の塊は高速で敵の装甲に命中し、炸裂する。しかし敵は物ともせず、こちらに向けて突進してくる。
――やっぱりか。
騎士は内心呟いた。フレイムショットならさっきから何発も撃っている。
敵の急所を狙えるだけの腕がこちらに無いのか、あるいは敵の装甲が厚すぎるのか。どちらにしても、ここで撃ったところで勝てる見込みなど毛頭無かった。
それでも撃たずにいられないのは、負けられない理由のため――鋼の胸に宿した夢のため。
いや、それもここで負ければ終わるのか。所詮、俺はここまでだったのか。

一瞬の内に巡る想いは胸部装甲にめり込む敵の強烈な突撃の前にあっさりと砕け散り、鋼鉄の肉体にその身を包んだ『騎士』は墜ちていった。
蒼く輝く命の惑星の、その懐に。


一筋の流星が虚空を滑り落ちて行くその最中、少年はただぼんやりと空を見上げて佇んでいた。
着崩した学生服のブレザーの袖を持ち肩にかけた、如何にも非行少年と言った風情。だがその瞳は何処か虚ろで、焦点も定まらない。
『子供』と『大人』の狭間で生きる、眩くも険しい少年期。その真っ只中で彼は迷っていた。ぼやけた明日のビジョンさえ、まだ見えぬままに。

街を見渡す緑深い丘に佇む彼の名は大場 紅。未だ運命の足音に気付かないまま、彼は欠伸と伸びをひとつした。

「…はぁ」

やりたいことが無いわけではない。だが、何をやっても中途半端な自分がそこに居た。
頑張るでもなく、頑張らないでもなく、ただ日々を淡々とこなしていく。いつからかは解らないが、そんな日課に紅は縛られるようになった。
授業はこうしてサボるか寝ているかだし、部活にしても出席率はきわめて低い。
行きたくない理由も『なんとなく』。気がつけば時間を問わずベッドの上で寝ていたりする、遣る瀬無い毎日。

「……はぁ」

必要な気がしていた。自分自身を変える契機が――停滞した日々から動き出す切欠が。



身動きが取れない。恐らくは、この惑星の引力圏に囚われてしまったのだろう。
身を焦がす大気の壁の脅威が目前に迫る中、『騎士』は思考回路に沈む現状への対策を必死で手繰り寄せる。
重力偏向場の展開によるグラビティ・シールド。満身創痍の今使えば、コア維持用のエネルギーすら使い果たすかもしれない諸刃の剣。
危険などとうに覚悟の上だ――今は生き延びることだけを考える。
惑星に下りることができれば幾らでも隠れ様はある。ともすれば原住民の支援を受けられる可能性もある。大丈夫だ、十分に勝算はある。
ならば、と『騎士』は重力の壁にその身を包んだ。摩擦熱で白熱化した球形のそれは、まるで真赤な流星のように地表に向けて墜ちていく。
目をやればそこには何処までも深い紺碧の海、悠然と広がる豊饒の大地。噂には聞いていたが、それにしても何と美しい星だろうか。
『騎士』は思わず見蕩れながら、全ての始まりがある星――もっとも、今の時点ではその事を知る者は現れていないが――地球へと呑み込まれていった。


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2010年01月15日 23:30