736 名前: 練習生(北海道) 投稿日: 2007/03/16(金) 22:04:05
煙は天井近くを雲のようにただ浮かんでいるだけで、どちらから流れて来ているのか分からなかった。
一体どっちに逃げたらいいのか。
迷っていた僕は更にDATの存在を思い出す。
このまま建物が焼け焦げてしまったらDATも埋もれてしまう。
最悪駄目になってしまう可能性だってあるのかもしれない。
でも、どうあってもDATの回収だけはしなければいけないのだ。
自分の命惜しさに世界を捨てるなんて、トーチャンの期待を裏切ることは出来ない。
しかしここが何処なのか全く分からず、DATのある部屋へはどう行けばいいのかが分からない。
(主;^ω^)「そうだ! 僕のDAT!」
僕は閃き、仕舞っていた自分のDATを取り出した。
DATはDATに共鳴する。
しかしこれだって万能ではない。条件が良くない場合はほぼ反応が無いといって良い。
だがゼロではない。
(主^ω^)「頼むお……」
微かな反応をも見逃すまいと僕はDATを両手で包み込むように握ると、目を閉じ精神を集中した。
意識は奥深くへと潜り、真っ暗だった世界にぽつりと青白い光が灯る。
光は頼りなくふわふわと空中を漂い、ある1点で僅かにその光度を増した。
(主^ω^)「左だお!」
本当に僅かな共鳴だったが、僕はそれを信じ左へ駆け出した。
744 名前: 練習生(北海道) 投稿日: 2007/03/16(金) 22:05:54.76
一体何のためかと思うくらいに道は入り組んでいた。
僕はその分かれ道の度にDATの共鳴を探る。
もしかしたら遠回りをしているのかもしれない。
迫る火事と言う恐怖を感じながらも、しかし段々と強くなる共鳴に僕は励まされるようにひたすら走った。
そうやって走り続け、いくつ目かの曲がり角に差し掛かったとき、僕は急に地理勘を取り戻した。
何度か通ったことのある場所に来たのだ。
プレートを確認してみたが、ここからなら十分DATのある部屋を目指すことが出来る。
そうして喜び、曲がり角を曲がったその先の地面に、誰かが倒れていた。
ここでも何かがあったのだろうかと考えながら通り過ぎようとして、僕は愕然とした。
倒れていたのは先ほどまで元気にいた筈のジョルジュだったのだ。
(主;^ω^)「ジョルジュ!」
僕は思わず立ち止まりジョルジュを抱え上げる。
途端、背中に回した手にぬるりとした感触を覚えた。
目を閉じ青白い顔で微動だにしない彼に、僕は何度も呼びかける。
(主;^ω^)「ジョルジュ! ジョルジュ!」
だが、ぴくりとも反応しない。
嫌な予感に僕は耳を口元に近付け呼吸を確認した。
するとどうだろうか、確かに彼は呼吸をしていたのだ。
僕は一先ず安堵し、溜息を吐いた。
755 名前: 練習生(北海道) 投稿日: 2007/03/16(金) 22:08:04.95
(主;^ω^)「でも……」
しかし、彼を助ける手立てが見つからなかった。
僕には何か医療の心得があるわけでも無いし、その行為を行えるような道具も持っていない。
おまけに今建物は火事で、僕はいち早くDATを探し出さなくてはならない
これから僕が何かをしたとしても、彼はきっとすぐに死んでしまうだろう。
ならば徒労に終わる人命救助は諦めて、DATを探しに行くのが合理的だと言えた。
でも今の僕はそう思わなかった。
(主^ω^)「トーチャン、ごめんお……僕はもう誰にも死んで欲しくないんだお」
僕はそのままジョルジュを背負い、DATの部屋へと再び走り出した。
何か考えがあるわけでもないし、背中が重くて走るスピードは全く上がらない。
それでも僕にはこれ以外に取るべき行動は存在しなかった。
曖昧な僕は結果として1人の不幸な少女を生んだ。
別に僕が全ての采配を握っていたなんて大それたことを言うつもりは無い。
ただ僕はそれに心残りがあって、今もそれが痛いから、だから僕は僕の為に今走っているのだ。
そう考えると何だか僕の中から黒い影が消え、心が軽くなった。そんな気がした。
764 名前: 練習生(北海道) 投稿日: 2007/03/16(金) 22:09:59.58 ID:GFGpUJzm0
幸いなことにV154は無人だった。きっと火事に気付いて逃げ出したのだろう。
僕は一度ジョルジュをベッドに下ろすと、すぐさまラジカセからメディアを取り出した。
眩しく輝くそれはやはりDATに間違いなかった。
これがここにあると言うことは、きっと彼女はブーンに出会えたのだ。
僕はそれに安堵しポケットにDATを入れた。
しかし僕の目的はまだ達成されていない。僕は再びジョルジュを背負って走り出した。
だが廊下に飛び出てはたと気付いてしまった。
僕はこの建物の何処に出口があるのか、それを知らなかったのだ。
けれども立ち止まっている暇は無かった。
ジョルジュの命は勿論、既に廊下は真夏のような熱気で、涙が出るほどの煙が充満している。
走ってきた方向を見ると、何と言うことかゆらゆらと踊る大気の波が見えた。
炎がすぐそこまで来ていたのである。
僕はそれから逃げるように反対へと走り出す。
出来るだけ姿勢を低くしながらも、背負うその重さにあまり足は曲げられない。
(主;^ω^)「はぁ……は! ゲホッ!」
立ち込める煙は更にその色を濃くし、まともに立ち上がると視界が殆んどきかない程になっていた。
煙は勿論の事、その熱気で気管支や肺がチクチクと痛い。
やがて目眩と共に足が震え始めた頃に、僕の目の前に大きな壁が現れた。
つまり僕は行き止まりに掴まってしまったのだ。
773 名前: 練習生(北海道) 投稿日: 2007/03/16(金) 22:12:15.70 ID:GFGpUJzm0
(主;^ω^)「う……うぇ……ゴホ!」
しかしそれでも僕は立ち止まらない。
行き止まりであることを把握すると僕はすぐに引き返し、近くの扉を手当たり次第で開けにかかった。
どこかに出口のようなものは無いか、出口ではなくても何か役に立ちそうな物は無いか。
だがどれもこれも鍵が掛かっていてまるで開く気配が無い。
(主;´ω`)「……ぐ……う……」
どうにも煙の所為だけでなく、目自体も霞んできたようだ。
全身あちこちが痛い気がするけれども、痛みに憂いている場合ではないのだ。
僕は背中のジョルジュが一層重くなったのを感じつつも、ただ次々と扉を引き続けた。
(主;´ω`)「……ごめんお」
誰に向けたわけでもなく自然と侘びの言葉が口から出た。
朦朧とする意識の中に色々な人の笑顔が浮かんでは消えていく。
僕は結局何1つ守れなかった。
心を蝕んでいく無力感はやがて体の機能をも食んでいく。
(主;´ω`)「……」
突然聞こえた地鳴りのような音と同時に、急に足に力が入らなくなって僕は崩れ落ちそうになった。
しかしジョルジュを傷付けてはいけないと咄嗟に僕は何かに掴まった。
すると掴まった何かが僕にどんどんと近づいてくるではないか。
あぁ、やっと当たりを引いたのか。遅すぎるなぁ。
そんなことを考えながら、僕は暗闇の底へと意識が落ちていくのを感じていた。
落下していく僕の上から、悲しげなピアノの音色が、聞こえてきたような気がした。
778 名前: 練習生(北海道) 投稿日: 2007/03/16(金) 22:14:11.95 ID:GFGpUJzm0
真っ白だった。
世界が真っ白かと思ったのだが、白いのは天井だった。
白い壁、白いテーブル、白い柵、白い布団。
そこまで確認してここが病室であることに気付いた。
(主;^ω^)「!」
バサ、と音を立てて掛け布団を撥ね除けながら僕は起き上がった。
ベッドに備え付けられた小さなテーブルに両手を付いて辺りを見回してみたが、周りを白い
カーテンに遮られていて良く分からない。
左腕には点滴の針が刺さっていたが、他は目立って怪我をしている様子は無かった。
酷く炎に炙られていた気がしたのだが、あれは夢だったのだろうか。
「カーテン、開けてもいいですか?」
突然柔らかな女の人の声がカーテン越しに聞こえてきた。
僕が短く「はい」とだけ答えると、カーテンの向こうから痩身の看護師が現れた。
('、`*川「気分はどうですか?」
(主^ω^)「あの、僕はどうしてここに……」
質問に答えずに僕は何故自分がここにいるかを尋ねた。
看護師は僕の顔を一度見ると、目を真ん丸に開いて首を捻った。
782 名前: 練習生(北海道) 投稿日: 2007/03/16(金) 22:16:10.05 ID:GFGpUJzm0
('、`*川「私もその場に居たわけじゃないから分からないんですけど、病院の前に倒れてた
って聞きましたよ」
(主^ω^)「病院の前? ……僕の他には誰か居なかったのかお?」
そう聞くと看護師はまたも首を捻って考える仕草をした。
('、`*川「さぁ……でも服がボロボロになっているのに、こっちは全然何とも無いって皆驚いてましたよ」
(主^ω^)「他には居なかったのかお? 僕と同じくらいの背で、そう、僕と同じ服を着た!」
('、`*川「……さぁ。1人だったって聞いたような気がしますけど……」
(主;^ω^)「……」
看護師が知らないのなら少なくともジョルジュはこの病院には居ないのかもしれない。
となると、ジョルジュはつまり助からなかったと言うことなのか。
僕は結局ジョルジュを助けられなかったのか。
('、`*川「あ、そうだ。今荷物持ってきますね。ポケットとかに入ってたのをこっちで預かってますから」
(主´ω`)「……お願いしますお」
急に体の力が抜けて、全てがどうでも良くなってきた。
世界を救おうと意気込んでいた僕は、結局1人の人さえも救えないのだ。
789 名前: 練習生(北海道) 投稿日: 2007/03/16(金) 22:17:59.04 ID:GFGpUJzm0
(主´ω`)「はぁ……」
「助かったのに悩み事ですか?」
ふと右手のカーテンの向こうから誰か男の声が聞こえてきた。
いきなり話しかけてくるとは一体なんだろうか。
(主^ω^)「いや、別にそこに不満を持ってるんじゃ無いんですお」
男「そりゃそうだ。体中傷だらけの僕から言わせればあなたは幸せですよ」
(主^ω^)「何かあったんですかお?」
男「……何があったんでしょうね」
(主^ω^)「……?」
男「あなたはこれからどうするんですか?」
(主^ω^)「僕は……僕はまだまだやることがあるから、その続きですお」
男「それはどんな?」
(主^ω^)「……世界を救う旅ですお」
男「……こりゃ参った。まるで僕なんかとはスケールが違う」
そう言ってカーテンの向こうで男が息苦しそうに笑った。
重症なのだろうか。
(主^ω^)「あなたはどうなんですかお?」
男「僕ですか……」
考えているのか言い辛いのか、男はここで少しの間を挟んだ。
797 名前: 練習生(北海道) 投稿日: 2007/03/16(金) 22:19:57.43 ID:GFGpUJzm0
男「僕は正直なところ死んだ後の事を考えていたので、何をするかはまだ分かりません」
随分とヘビーな話題に僕は思わず息を飲んだ。
男「だからしばらくはこれまでと同じ事をしようかなと。幸い指は完治しそうなので」
(主^ω^)「細かい作業なんですかお?」
男「ええ。その、ピアノをやってたんです」
(主^ω^)「ピアノを? 他には何かすることは無いんですかお?」
少し失礼な言い方だったかと思ったが、時折漏れてくる唸り声に気分を悪くした様子は無かった。
そして、一通り考え終えたのか男はゆっくりと口を開き始める。
男「……なんだかそれじゃないと落ち着かないんです。そう、何かが居るんです」
(主^ω^)「何かが居る?」
男「えぇ。僕自身にはそれが良いものなのか、悪いものなのかは分かりません。
でも、いつの間にか僕の中に巣食ったその何かが、早く弾け、早く弾けと僕を
急き立てては不安にさせるんです」
(主^ω^)「……」
男「そして僕はこれからもきっと、そうやって見えない何かにピアノを弾かされるんです。
ずっと、ずっと……」
それきり僕らは互いに黙ってしまった。
807 名前: 練習生(北海道) 投稿日: 2007/03/16(金) 22:22:10.36 ID:GFGpUJzm0
('、`*川「はい、一応これで全部です。もし無くなってた物があってもごめんなさいね」
そう言って差し出されたのは僕のDATと、集めたDAT。
それらを眺めながら僕は考える。
僕はこれからもいろいろな世界へ行ってDATを集める旅を続ける。
目的は勿論、僕の世界を元に戻すためだ。
そのためにはDATがどうしても必要だ。DATが一番重要なのだ。
でも、DATよりも大切なものは本当に無いのだろうか。
『この世に天秤に掛けられるものなんて、ごく僅かしかないんだ』
なるほど、悔しいけれど確かに彼の言う通りだったのかもしれない。
僕は僕の世界も、この世界も守りたい。天秤には掛けられない。
なぜならここも既に僕の世界なのだ。
そして次の世界もまた、僕の世界なのだから。
813 名前: 練習生(北海道) 投稿日: 2007/03/16(金) 22:24:05.08 ID:GFGpUJzm0
(主^ω^)「看護師さん、絆創膏が欲しいお」
('、`*川「絆創膏? えーと……はい」
絆創膏を受け取ると僕はDATを手に取りベッドから降りた。
('、`*川「何処に行くんですか?」
(主^ω^)「ちょっとトイレだお」
('、`*川「あ、ごめんなさい」
僕は笑顔を向けてカーテンの向こうに出た。
窓から差し込む日差しに背中を押されるようにして、点滴架台を押しながら僕は廊下へと歩く。
扉に手を掛けたとき、僕はふと思った。
それにしてもフォックスの手先はこの世界に来なかったのだろうか。
多少は心の黒い人も居たかもしれないけれど、DATに執着していたような人はいなかったような気がする。
(主^ω^)「……あ」
居た。1人居た。
僕はそれに気付いて思わず笑ってしまった。
なんてこった。こんなにも近くに居た。
勿論本当にフォックスの手先が居たのかなんて確かめようは無いし、あれが地だったのかもしれない。
いや、あるいはまだ居るのだろうか。
けれども、それならばこの心の痛みも全てフォックスのせいにしてしまおうか。
そんな冗談さえ浮かんだ。
819 名前: 練習生(北海道) 投稿日: 2007/03/16(金) 22:26:06.96 ID:GFGpUJzm0
男「世界を救う旅、頑張ってください。あぁ、あと力抜くと痛くないですよ」
カーテンの向こうから掠れた笑い声が聞こえてきた。
何も見ていないのになかなか切れる男だと思った。
彼が看護師だったら僕はベッドに縛り付けられていただろうに。
(主^ω^)「あなたも早く良くなるといいですお」
僕も笑って部屋を後にした。
トイレに入った僕は一度用を足すと、個室へと入った。
テープを剥がして点滴の針を抜き、その上に絆創膏を貼る。
少し腕が張っている感じがするけれども、たいしたことは無い。
(主^ω^)「まだまだ……まだまだだお」
呟きながら僕はDATを握り締める。
本当にまだまだだ。僕も、これからの旅も。
次の世界では1人でも幸せな人が増えるように。
僕はそう願いながら暖かな光に包まれ、そしてこの世界から旅立った。
-続-
835 名前: 練習生(北海道) 投稿日: 2007/03/16(金) 22:27:59.89 ID:GFGpUJzm0
=======爪'ー`)y‐――● ○――(^ω^主)=======
人人人人人人人
< >
< 次回 予告 >
< >
∨∨∨∨∨∨∨
846 名前: 練習生(北海道) 投稿日: 2007/03/16(金) 22:29:23.36 ID:GFGpUJzm0
( ゚∀゚)「おいーっす。次回予告の時間だぞー。司会は俺とショボンがさせてもらうぜ」
(´・ω・`)「司会? 僕はただの『傍観者』だよ。それ以上でもそれ以下でもない」
(;゚∀゚)「影響されんなよ! まだここピアノだぞ! えーと、次の世界は◆y7/jBFQ5SYさんの
『( ^ω^)ブーンが運命に喧嘩を売るようです』だ」
(*゚ー゚)「ショボン何やってんのー?」
(;゚∀゚)「こら入ってくんな! 次回予告くらいちゃんとやらせろ!」
(´・ω・`)「……本当に残念だ。妹を自分の手で殺害しなければいけないとはね」
(;゚∀゚)「微妙に噛みあってて笑えねーよ!」
ξ゚⊿゚)ξ「何よ、全然駄目じゃない。やっぱり私と代わりなさいよ。私がワカンナインデスの
魅力について小1時間語るわ」
( ^ω^)「いや、やっぱりここは主人公の僕が……」
(;゚∀゚)「だー! お前ら一堂に会したら話固く作った意味なくなるじゃねーか! ここだけ祭りか!」
(´・ω・`)「それが喧嘩を売るって事だよ」
(;゚∀゚)「あーもういいや。次回、( ^ω^)ブーンが世界を ((((*゚ー゚)ξ゚⊿゚)ξ<飽きたわ、帰りましょ。
( ゚∀゚)「……最後の最後まで俺の扱い酷くない?」
(;^ω^)「……えー、と言うわけで、次回の 『[[( ^ω^)ブーンが世界を巡るようです]]』 は
第8回 『( ^ω^)ブーンが運命に喧嘩を売るようです』 編です。皆さんお楽しみに」
最終更新:2007年03月16日 22:35