「悪いなナルシー、つき合わせちまって。」
「いえいえ、私のことならば心配御無用、恋路を応援するのもまた一興ですからな。ふふふふふ…。」
「バカ、そんなんじゃねぇって!っつーかその薄気味悪い笑みはやめろ!」
一昨日、戦闘で大勝を果たした俺たちは、その功績を評価され、
このクソ忙しい時期になんと一週間もの休暇を与えられたのだった。
というわけで、部隊の連中は外出したりしてそれぞれの自由時間を満喫している。
で、なぜ俺とナルシーが一緒に街をうろついてるのか?それは昨日まで遡る―
「なぁ、ナルシー、ちょっといいか?」
その日は大勝を、そして全員生還を祝してささやかなパーティーが開かれていた。
こういうイベントのときは決まって女性陣のおもちゃにされてしまう少年の助けてオーラを
全力でスルーして、一人でワインのグラスを傾けているナルシーに声をかける。
「おや熱血さん、そんなに改まってどうされたので?」
「ちょっとわけありで、プレゼントを選ぶのにアドバイスが欲しいんだ。」
”プレゼントをあげる”という言葉に、どこか含みのある笑みを浮かべていたが、おそらく気のせいだろう。
「ほう…?ちなみにお相手は男性ですか?それとも女性ですかな…?」
「後者だ。だから俺だけで考えるより、アンタと考えたほうがいいと思ったんだよ。まぁ、
お嬢やインテリたちにも聞いてみたんだが…。」
『そうですわね、ワタクシなら―(中略)って、ワタクシにじゃないんですの?聞いて損しましたわ。』
『ほほぅ…、朴念仁のキミが女の子にプレゼントねぇ…?誰にあげるのかな?ん?ン?白状したまへ~(ぐりぐり)』
『あー、わたしそれ知ってるよ!それって”わいろ”だよね!エチゴヤ、そちもワルよのーでしょー?』
「という具合で結局聞けずじまいってわけさ。」
「それはそれは…。それで私に白羽の矢がたったと。(なるほど、お相手はあの方ですか…、フフフ)」
「その通り。何かいい知恵ないか?」
「ふむ…。今その方が必要としているものが分かればいいですね。もしわからないのだったら、
あなたが差し上げたいと思ったものを贈ればよいと思いますよ。」
その言葉に、俺はしばし思案する。あいつに必要なもの…。
「そうだな…、髪留めとかがいいのかもしれない。」
「どうしてそう思うのです?」
「ほら、あいつたまに髪が顔にかかって邪魔そうにしてるだろ?だからさ。」
「ふむふむ…。熱血さん、ひとついいですかな?」
「ん?なんだ?」
「熱血さんはその方のことをよく見てますねぇ。」
「ん、まぁ、同じ部隊だしな。それに、ケンカばっかしてっけど、戦場じゃ助けられてばっかだからな。
助けられっぱなしで何もしないってのも、嫌だからよ。」
「ふふふふふ、ご馳走様です…。」
「? もう腹いっぱいなのか?」
そしてナルシーとともに街を歩くこと30分、ナルシーがよく利用するというファンシーショップにたどり着いた。
正直入店をためらったが、ここまできて引き返すわけにもいかず、意を決してその扉を潜った。
「なぁナルシー、俺はこういう店に入ったことがないんだが、どうすればいいんだ?」
「堂々としていればいいのですよ。悪さをしているわけではないのですからね。」
ナルシーは堂々としてろと言ったが、大の大人の男が2人でファンシーショップで品定めをするさまを想像して欲しい。
当然ながら目立つ。目立つということは、当然店内の客の視線を集めしまうわけで―
「なぁ…、さっきから視線が痛い、つーかひそひそ話されてる気がするんだが…。」
「はて…?私は特に何も?」
「お前は常連だから気にならないんだろうが…!」
「まぁまぁ、そんなことよりも熱血さん。」
周囲の目線にも、俺の羞恥心も意に介さず、髪留めを手にとってはあれこれ吟味していたナルシーが、ふと何かを思いついたようである。
「昨日は髪留めを、とおっしゃってましたが、髪留めだと割れたりして危ないでしょう?特にあの方には。」
「そういえばそうだな…。昨日も無茶してたからな。まったく、見てるほうがヒヤヒヤするぜ。」
「あなたがそれをいいますか…。はたからみてると、あなたに無茶をさせないために無茶をしてるように見えますが…。」
「う、まぁ…、そんなことよりもだ。髪留めはやめたほうがいいのか?」
「ですね。代わりにリボンを贈ってはどうでしょう?あれなら危なくないですし。」
「だな…。む、リボンと言ってもいろいろあるんだな…。」
「ここは熱血さんのセンスが問われるところですね。ふふふふふふ…。」
「へんなプレッシャーをかけないでくれ…。よし…、せっかくだから俺はこの赤いリボンを選ぶぜ。」
「何がどうせっかくなのかわかりませんが…。なかなかいいチョイスだと思いますよ。」
おう、と短く返事をして、代金を払うべくレジに並んだのだったが…。
「ありがとうございます♪彼女にプレゼントするんですか?」
「え、あ、いや、これは…」
もしもこのシーンをビデオに撮られていて、部隊の面々に披露されようものなら、恥ずかしさのあまりブロア河に全裸でダイブする自信がある。
こらナルシー、ニヤついてんじゃねぇ。昼飯おごってやらねーぞ。
「さてと、あとは渡すだけだが…、これが一番の大仕事だな…。」
「ふふふ、熱血さんならできますよ。わが部隊の切り込み隊長ですからね。」
簡単に言ってくれるぜ、と心の中で毒づきながら、俺たちは兵舎へ帰ることにした。
作戦目標はあいつ。俺の相棒であると同時に、ライバル。
最終更新:2010年01月13日 13:29