ナルシーはいかにしてナルシーになったのか?

そんなナルシー賛美(?)の流れの中、ナルシーを使用キャラにしてる俺が精一杯脳内設定を作ってみた。
ナルシーかっこいいよナルシー。


「…ただいま。」
14歳のナルシーが玄関の戸を開ける。
「おかえりなさい。」
「おかえりー。」
居間の方から、2つ年上の姉と、3つ年下の妹の声が聞こえた。

「まあ!その顔のアザはどうしたの!?」
ナルシーは見つからないように自室へと向かうつもりだったが、姉はそれを見過ごさなかった。
「帰る途中、看板にぶつけた。」
「お兄ちゃんって、いつも転んだりぶつけたりしてるよね…。」
「ねえ、本当は誰かにされたわけじゃないわよね?」
ナルシーの嘘は、半分は姉に見透かされていた。
実際、今日もからかってきた同学年の男子と喧嘩になってしまったのだ。
線が細く綺麗な顔立ちのナルシーは、同級生や先輩に──イジメとまでは行かないが──からかわれる事が多い。
からかわれるだけならまだしも、かつて同級生の男子に告白された事もあるし、ハイスクールのゲイに襲われそうになったことまである。
幸い、持ち前の機転と素早い身のこなしで、大事に巻き込まれた事は一度もなかったが。
姉が救急箱を取ろうとキャビネットの上に手を伸ばす。
「父さんも母さんも今日、遅くなるって」
姉の言葉に、ナルシーは「いつものことだ。」と思う。
共働きの両親とは休みの日ぐらいしか一緒に過ごしたという記憶がない。
両親は共に研究員であり、また共に才色兼備と謳われていた。
子供が出来ても両親は仕事を止めず、子供の養育は主にベビーシッターに任せていた。
そのため、三人は小さな頃から無意識の内に「頼れるのはお互いしか居ない」と考えるようになっていた。

「ほら、怪我の治療するからこっちにきなさい。」
姉はナルシーを椅子に座らせて、頬のアザに薬を塗った。
暖かい息を吹きかけて乾かした後、鏡台から化粧品箱を取り出す。
「化粧箱なんか必要ないだろ…?」
「だって、アザを隠すにはファンデーション塗らないと。…母さん見たら、すごく心配するし。」
「じゃあ、その手に持ってるアイシャドウは何の関係が?」
「これは、ついでよ♪」
「お兄ちゃんのために、口紅も準備しておくね。」
妹もそれに続く。

姉も妹も機会さえあればナルシーに化粧をしようとする。
自分達のお化粧の練習の意味もあっただろうが、上手に化粧できた時のナルシーの美しさに魅かれてもいたのだ。
以前一度だけ「姉さんも妹も俺をおもちゃにするのは止めろ!」と本気で怒った事もある。
しかし、そのときの姉と妹の悲しげな顔を見て以来、ナルシーは強く逆らうのをやめたのだ。

結局今回も、姉と妹のなすがままになってしまうナルシー。
「ふふ、ナルシーはお化粧するとすっごく綺麗よね。」
ナルシーは心の中で「姉さんも相当綺麗なんだけどな」と思っている。
母譲りのウェーブのかかったブロンドと切れ長の瞳。父譲りのほっそりした頬と意思の強そうな口元。
子供は三人共その要素を受け継いでいた。
メイクの完成したナルシーを見て、姉がにっこり微笑む。
「凄く素敵よ。ナルシー。」
「お兄ちゃん綺麗綺麗!」
姉と妹はうっとりするような眼差しで、ナルシーを観察している。
ナルシーは人形にでもなった気持ちで、居心地の悪さを感じていた。
「そうそう、雑貨屋さんで聞いたんだけど、私達『この町の美人三姉妹』って呼ばれてるんだって♪…知ってた?」
「はぁ…」
姉の言葉に、ナルシーは大げさなリアクションでため息をつく。
ナルシーは「本当に三姉妹だったら良かったのかもな…」と心の中で思っていた。

「うふふ、ナルシー大好きよ。」
「私もお兄ちゃんのこと大好き。」
そんなナルシーの心中を察しているのか、いないのか、姉と妹はそうささやく。
ナルシーも当然姉と妹のことが大好きだった。家族として。いや、それ以上に大切な存在として。
だが、ナルシーは視線を逸らしながら正反対のことを口にする。
「お、俺は別に…。」
椅子から立ち上がるナルシー。
このままここに居たら、途切れることの無い甘い時間に、感覚が麻痺してしまうに違いない。
部屋に戻ろうとするナルシーの背中から姉が声をかける。
「そうそう、明日は三人で買い物よ。」
「一緒には行きたくない。」
ナルシーは即答する。
「えー。兄さん来ないと重たいもの運べないよ。」
「それにナンパから私達を守ってくれるの、ナルシーしかいないじゃないの。」
二人は痛いところを突いてくる。
「う…しょうがねーなー。」
「決まりね♪明日は早起きしてナルシーのお化粧頑張らなくっちゃ!」
「…だから、止めろって。」

…ナルシーは、そんな日常がいつまでも続いてゆくと信じていた。
姉と妹が嫁いで行ってしまった時だって、心の絆は繋がったままだと感じていた。

「エイオース爆発事件」のその日までは。






「…おい。…ナルシー。」
どこからともなく呼ばれた声に、ナルシーは目を開く。
「あれ?ワタシは…?」
すじの様な雲が浮かんだ空に、傾きかけた太陽。視界の端ではクールがいぶかしげな表情でナルシーの顔を覗き込んでいる。
「そろそろ風も冷たくなってきた。そのまま寝てると風邪をひくぞ。」
そうだ。
ナルシーは珍しく暖かな日差しに誘われて、第3採掘島に置いてあったコンテナの上で横になっていたのだ。
「ううーん。」
ナルシーは気持ち良さそうに伸びをする。
「St.Martin's Summer(小春日和)の陽気に気を緩めるなんて、アンタにしては珍しいな。」
「ふふふ、たまには気を抜くのも必要だと思いましてね。」
二人は一緒に軍のキャンプの方向に歩き出す。
「寝ている時、夢でも見ていたのか?」
「え?」
クールの質問に、ナルシーは意外そうな表情をする。
「いや、寝ている時に微笑んでいたから。」
「えー、そうでしたか?…でも、目を覚ますときに忘れてしまいました。」
「そうか。」
二人とも必要以上に詮索はしない。
心の傷を持つもの同士の共有感覚、とでも言うのだろうか。

そんな二人の髪を潮風が優しく揺らした。

End.


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最終更新:2010年01月31日 13:43
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