「ちぇーー! もう一回! もう一回しょーーーぶーーー!」
「もう一回って、何回目だよ…参ったな」
「…熱血、少しは手加減してやれ(ひそっ」
「ちょっとクールお兄ちゃん、余計なこと言わないの! あたしは実力で勝つのー!!」
「やれやれ、いつ終わるやら…」
「…あら? 皆さん何をしてらっしゃいますの?」
「ああ、ポーカーだよ。暇だって言うから少女と勝負してるんだけど…」
「さっきから熱血が大人気無く勝ちまくっててな」
「少女は変なトコ鋭いから、俺がわざと負けようとすると怒るんだよ…」
「まあ。少女さん、熱血さんにいいようにされてますの?」
「少女は手の良し悪しがもろに顔に出て、解かり易すぎる。ポーカーフェイスを身につけないと、
負けに負けて身包み剥がされるぞ」
「ばっか、少女みたいな子がポーカーフェイスなんて似合わないだろ! 年頃なんだし、
泣くも笑うも自然体のほうが健全…」
「そういうことでしたのね…熱血さん! あなた、とんでもない男ですわ! 外道ですわ!」
「…は?」
「みなまで言わなくても結構ですわ! そうですわね! 勝負事に疎い少女に勝ち目のない勝負をさせ、
負けを理由に理不尽な額の借金を背負わせて彼女の財産を…いいえ、彼女の全てを奪おうと企んでいますのね!
なんたる非道な輩! 少女を我が物にせんという計画的な罠! このわたくしにはまるっとお見通しですわ!」
「え、えええええ!?」
「待て! そんなこと考え付くお前のほうがよっぽど外ど」
「ああ…少女さんがあまりに可哀想ですわ…! その愛くるしいお顔が恐怖に歪み、その純潔は儚く…ああ!
わたくしの口からはそれ以上は言えませんわ! なんと酷い! なんと惨たらしい!!」
「そ、そうなの…!?」
「そんなわけねーだろ! 俺が少女に手を出」
「ああ…! そんな大声で抗議するなんて! やはり疚しい下心あっての勝負でしたのね…!
はっ! わたくしはそんな勝負に乗るつもりはございませんわよ! ああ、でもカードなんて
わたくしルールすら知りませんわ…そう、かくなる上は、人生の先輩たるベテラン様に教えを請わなければ!
ベテラン様ーーー! わたくしの貞操を救ってくださいませーーーーっ!!」
「…行ったな」
「…行っちまったな…なんてこと叫んでくれるんだあいつは」
「…(ふるふるふる」
「はっ!? お、おい、少女…」
「(びくっ!)…あ、あたし…」
「そ、そんな風に怯えないでくれ少女…お、おいクール! お前からも何か言ってくれ!」
「すまない、無理だ(だっ」
「ちょっ、逃げんの速ぇよ! おおーい!」
「…あ、あたし、ひどいことされちゃうんだ…う、うえええん!!」
「なっ…ちょっと熱血! あんた少女泣かせてるってどういうこと!?」
「うええええん、まじめお姉ちゃあああん!!」
「………(…俺の人生、終わったかも…)」
* 翌日 *
「インテリさん。ちょっとお伺いしたいのですが、医務室の熱血さんの…あのミイラ男と形容する他ない
あの有様、一体何があったんです?」
「それが私も詳しくは…昨日、なぜかまじめさんと少女さんにボコボコにされたらしくて。
ナルシーさんも理由はご存知ないですか」
「ええ。まあ、おそらくは痴話喧嘩でしょうかね。しかし、ベテランさんの包帯は同じ理由でしょうか?」
「いえ、あれは…」
「戦士たるもの、簡単に表情を読まれるようでは駄目だ…俺はまだまだ隙だらけだな」
「ベテラン様ーーーっ! 今日もわたくしと勝負を」
「お、俺はスネークの練習に行ってくる!!」
「なるほど、新手の貞操対策でしたか」
「ベテランさん、動揺しまくってるのがまる分かりですね…」
* 更に翌日 *
「ね、熱血…! き、昨日はごめんなさい!」
「うわっ!? まじめっ!? …って、ど、どうした?」
「本当にごめんなさい! クールから事の顛末は聞いたわ…。私ったら…あなたになんてひどいこと…」
「ああ、マジでひでえ目にあったな…。ま、過ぎたことだし気にすんな。少女のほうは誤解は解けたのか?」
「う、うん…落ち着いた後、少女にも話したわ」
「そうか、じゃああとは少女次第か。一安心だな」
「熱血お兄ちゃーーーん!」
「と、噂をすれば、か」
「ごめんね! 熱血お兄ちゃんミイラ男にしちゃってごめんね!」
「ああ、…すげー痛えけど(ぼそ)、気にするな。それよりお前こそ目が真っ赤だぞ、これ以上泣くなって」
「ほんとにごめんね! あたし、お兄ちゃんの責任取るから!」
「…ん?」
「あたしが熱血お兄ちゃんのお嫁さんになって、幸せにするから!」
「…あ、ああ、そ、そうか」
「お料理も勉強するし、お掃除とかお洗濯とかも頑張るから!」
「いや、嬉しいけど、気が早す」
「あと…ちょっとだけなら…ひどいことしてもいいから…。迷惑かけちゃったし、もう決めたもん」
「ちょ…は、話が飛びすぎだぞ! まじめ! お前からも何か言ってやってくれ!」
「え!? あ、え、その…い、いいんじゃないかな? お、お幸せにっ!」
「なっ!? そこで逃げんのかよ! おぉおい!」
「お兄ちゃん…あたし、もうお兄ちゃんのものだからね(ひしっ」
「ま、まいったな…」
「…熱血…」
「ク、クール! 丁度良かった、まじめに話をしてくれて助か」
「お前、とうとう少女に手を出したのか」
「って、おい!? 俺は少女とは何の関係も」
「お前のことだから大丈夫だと思っていたが、俺としたことが買いかぶりすぎだったか…。
いや…あの時逃げた俺にも責はある。…俺ができることは、お前たちの幸せのために戦い、祈ることだけだな」
「だ、だから俺の話を」
「お前たちは兵士を辞めて、田舎で平和に暮らすといい…少女、熱血と幸せにな」
「うん…ありがとう、クールお兄ちゃん」
「…なあ…俺、なにかしたか? なんで俺を無視してストーリー進んじゃってんの?」
「ちょっとお嬢! なんで少女の前であんなこと言うわけ!?」
「あら、わたくしは事実に基づいて起こりうる展開を予想したまでですわよ? 先日も…」
* 回想ここから *
「あ! またジョーカーだ! ちぇ…はい、オペ子さんの番ですよ」
「そうねえ…じゃあ、これね」
「あう…! また負けた…」
「これで少年くん10連敗…と」
「すぐ顔に出るから、どれがジョーカーなのか丸分かりなのよね」
「こういうときは、取られて悪いカードでも良さそうな顔をしないといけないのよ?」
「少年くんにはまだ難しいんじゃないですか?」
「うー…ユー子さんもグレ子さんも、僕を子供扱いしないでください!」
「それならポーカーフェイスを身につけないと」
「そのポーカーを知らないからばば抜きになっちゃったんですけどね~」
「いいじゃありませんか、楽しめましたし。…それはそうと、そろそろ精算に入りましょうか?」
「…え? 精算って…」
「10連敗ですものね。ここで一区切りしましょうか」
「でも、靴下でしょ? 腕のバンダナでしょ? タンクトップにズボンに、下着でしょ?
半分しか足りてないじゃないですか」
「それじゃ何で支払ってもらいましょうか、って話になりますね」
「…え…そ、そんな…聞いてないです…よ…(じりっ」
「あなた、子供扱いしないで、って言ったばかりじゃない(がしっ」
「大人だったら、それこそおとなしくしてるべきですよね?(がしっ」
「大人扱いしてあげますから…逃げちゃダメ♪ ですよ?(がしっ」
「や、やめて…なにするの…! …い、いやぁぁぁ!!」
* 回想ここまで *
「なるほど、オペレータールームから嬌声にも似た彼の悲鳴が聞こえてきたのはそういう理由でしたか」
「まったく、賭け事は恐ろしいですわね…あら、まじめさん? 顔色が優れませんわよ」
「なんでナルシーもお嬢もそんなに冷静なのよっっ!?」
最終更新:2010年02月14日 17:20