EUST軍 ブリーフィングルーム
「あーお前等、今回の作戦は一味違うぞ」
一番奥に立っているベテランが口を開く。
「ほう、それは楽しみだな。」
「作戦が違うったって俺はコア凸するだけだぜ!」
「あんたはもっと自重しなさいよ」
「無駄ですよまじめさん、熱血さんに自重しろなんてそれこそお嬢にどじょうすくいをやれなんていうもんですよ。」
「ドジョウスクイ…?なんなのですのそれは?」
「ジパング列島地方の民俗文化の一つですよ。私のところに資料がありますから、後で試して見ます?」
「わー、インテリお姉ちゃん、後で私も見に行っていい?」
「こら、お前等、何で作戦会議の話がそんなにずれるんだ!」
隊長が怒ってデスクを叩く。
「いいか、いつも俺やナルシーが指揮を取ってるだけじゃいずれ何かがあったとき困るだろう!だから今回は俺たち以外の隊員に指揮を取らせて見ることにした」
「えっ!?」「何!?」
「今回の作戦指揮は全部少年に任せる!!」
「えええええっ!!?」
皆が驚きのあまり叫びだしたのと同時に、当事者が部屋に入ってきた。
「いやーサラウンドで皆さんの『えー』を聞くことになるとは思いませんでしたよ。」
そして平然な顔でブリーフィングボードに歩み寄る。
「さて、今回のさくせn「ちょっと待て隊長!何で少年なんだ!?ほかにも適任者はいるだろ!?俺とか!」
「そうですよ、作戦を立てるとしたら私が計算したデータの方が完璧ですよ」
「ちょっと隊長!これはどういうことですの!?この私でさえ指揮を取った事が無いのに何故少年に…」
「少年君の指揮についていくなんていやだ~頼り無さ過ぎる~~」
ドンッ
また誰かがデスクを叩く。ただし、今回は少年だ。
「黙りなさい。」
真剣な顔をして皆をにらみつけている。いつもの少年とは思えない程の威圧を感じる。
そこへナルシーが口を挟む。
「今回はくじ引きの元、少年君が指揮を取ることになりました。次回からはまた別人に任せることになりますから、ご安心を。」
「そういうことでしたの、私ったらつい焦ってしまいましたわ。」
「つまり私の完璧な作戦を遂行させる日も来るというわけですね…ワクワクしますね。」
「っていう事は俺も指揮を取ることができるようになるんだな!」
興奮してる皆をナルシーが宥める
「ええ、ええ、そういうことです。それでは今回の作戦は少年が指揮するということになってますから、皆さんちゃんと指示に従うように。」
全員、改めて少年を見る。
「それでは始めますね。私たちの部隊は今回の戦闘地域では初の出撃になります………
~~~~~~~~~
旧ブロア市街地~作戦コードネーム「街路制圧戦」
~~~EUST軍~~~
開戦早々、ブロア川を挟んで激烈な戦いが繰り広げられている。
そんな中、GRFベース付近でうろちょろしている機体が二機。
修羅麻と、フル円支援機。よく見るとなんと両方ともEUST軍の標識がついていることがわかる。
「こちら熱血、コア前まで突撃成功。」
いつものように敵ベースに突撃し、味方に信号を送る。
「こちらまじめ、Fプラントまで突撃成功。リモコン爆弾設置中。」
「こら、熱血さんとまじめさん、貴方たちはコードネームを使うようにといったでしょう?」
少年が少しふざけてる口調で苦情を返してくる。
「ラジャー、こちらブラボー。Fプラント制圧中。」
「やだよんなめんどいの。アルファとかブラボーとかめんどくさすぎる。必要ねえし。」
「熱血さん…わかっていませんねえ…」
「無駄ですよ少年君、熱血君に特殊部隊の浪漫なんてわかる訳がないでしょう。」
「それどういう意味だよナルシー!」
仲間と無駄口を叩きながら、ACで突入し、狙いを定めて41を敵コアに投げ込む。
「まあまあ熱血、そろそろコア凸しなきゃいけないんじゃないの?」
「やってるよ!いま41型をひとつ投げ込んだところだ。」
「よし。それでは更にひとつ投げ込んだ後、カタパルトで離脱してください。」
「ラジャー。だけど手榴弾二つだけって少なすぎないか?あともうちょっとサーペントをぶち込みたいんだが…」
「離脱しなさい。命令です。」
「っ、わかったよ。」
ったく、何なんだよアイツ。せっかくコア凸したのにこれだけで離脱とか、無意味すぎる。
「まあまあ熱血、多分少年も考えがあってのことだよ。ひとまず離脱したら?」
まじめが個人回線に切り替えて話しかけてくる。まあ、ここは我慢するか。
カタパルトから飛び出る。よく見るとプラントFが青く光ってる。あいつがうまくやったんだろうな。
「それでは熱血さん、プラントEを制圧中のまじめに合流してください。」
「了解。」
しかし、少年も変な命令を出す。
プラントFを死守してそこを拠点に攻め立てればいいのに、何故占拠後また放棄して後ろのプラントEを占拠しに行くんだ?
まあ、深く考えない。今回負けたとしても少年の責任だ。俺のせいじゃない、うん。
「プラントEを占拠した。」
しかし、次に入ってきた命令を聞いて俺は驚愕した。
「よし、作戦第二段階に突入です。全機、敵に手ごたえを与えつつ戦線を後ろに引いてください。」
引くだと!?E、Fプラント両方制圧した状態で攻めず、全機撤退だと!?
「おい、どういうことだ少年!?」
共用回線を開いて怒鳴る。
「そうだよ少年君、なんでこんなときに撤退するの?」
「そうですわ、今が攻め時というのに!」
すかさず少女とお嬢も問い詰める。
「どうもこうもありません。僕の命令です。全機適度に敵を攻撃しつつ、引いてください。」
返ってくる命令は変わらなかった。しょうがない。俺は適当に敵ベースに向けて残った41型を投げた後、まじめとカタパルトで離脱した。
今ベテランとナルシーは人選を間違えたと嘆いていることだろうな。ふと、そんなことを考えた。
~~~~~~~~
「どうでしょう、隊長」
「うーむ、不可解だな。」
ひとまず敵が通過するかもしれないルートに榴弾をばら撒いてから、ナルシーの質問に答えた。
「作戦を立てる能力は優秀かもしれん。今回の熱血のコア凸ルートは少年が書いたものだ。事実、こんなにスムーズにコア凸できたことはない。」
「そうですね…熱血を早期離脱させたのも、戦力温存のためでしょう。それに『敵に手ごたえを与えつつ』撤退と…」
「そうだな…そんな指令、指揮を取ったことなんかない奴は普通出さない。」
「これは…意外と掘り出し物かもしれませんね、少年君。」
「ああ。まあ、とにかく戦闘を続行しよう。」
~~~~~~
「コアの耐久力はこっちが上ですが戦線は押されています、ただいまBプラントで敵と戦闘中!」
「よし、ベテランさんとインテリさんはBプラント周囲およびAプラント襲撃路に榴弾を降らせてください。」
「了解」「ラジャー」
「お嬢、状況はどうですか?」
「最後の敵が橋を渡り終わったところかしら…待って、向こうの高台に敵がいますわ!」
「ふむ、読みどうりでしたか。狙撃は可能ですか?」
「この角度からは少し無理がありますわね…」
「わかりました…作戦第三段階に突入です。少女さん、迂回路から川を渡り、派手にアイツをぶちのめしてください。」
「りょーかい!」
「ちょっと待て、今は撤退中じゃなかったのか?」
「大丈夫ですよ熱血さん。気にしないで戦闘を続行してください。」
「っ…」
~~~~~~
橋の下の小道からそうっと頭を覗かせ、銃を構える。いた、高台の上に突っ立ってる。
高台に突っ立っているアサルトをロックオンしてからヴォルペを乱射しまくる。
「せやぁぁぁ~!」
ダダダッダダダッ
やった、頭部に命中!だけどまだ少し足りないかなあ
さすがに奴も気づいたのか、デュエルソードを取り出してこっちに向かってくる。
「あはは、そんなのあたるわけないじゃん♪」
余裕に上にジャンプしてかわそうとする、その時
「あのう、少女ちゃん?」
いきなり個人回線がつながる。しかも少年君から。こんなときに一体何の用なんだろう。
「あの、実は僕…その…あの…」
今さっき指揮を取ってたときとはまったく別人と思えるほどもじもじしている。
一体何の用なんだろう、こっちはこのアサルトの対応で忙しいのに。
「しょ、少女ちゃんのことがずっと好きでしたっ!!」
「へっ!?」
突然頭の中が空白になる。え?いま少年君なんて言ったの?好き?あたしが?
一瞬、機体の動きが止まる。
ガコンッ
もちろんその隙を敵が見逃すわけもなく、回転切りをかましてくる。
そして吹っ飛ばされたあたしに近づいて更に一撃
ガキィィン
『機体破損、これ以上の運用は不可能、ランナー回収装置を稼動します。』
機体大破の宣告と共に、あたしは転位装置で自ベースに送り返された。
ただし、今あたしの心はそれどころではなかった。自分でも顔が赤くなっているのがわかる。
『どうしよ~~少年君に告白されちゃったよ~~』
~~~~~~
「計画通りですね」
誰にも聞こえないようにつぶやいてから個人回線を閉じる。
少女にはかわいそうだが、ここは捨て駒になってもらう。
「少年、少女が撃破されたぞ、どうする?」
ずっと無口だったベテランが聞いてくる。
「いえ、これも計算の内です。大丈夫、彼女の代わりに僕が行きます。皆さんは作戦を続行してください。」
プラントB高台の裏から敵にばれないように橋の下まで移行する。そのとき、個人回線が入った。ナルシーからだ。
「やりますねえ、夢見る乙女を捨て駒にするなんて。」
思わず苦笑した。嗚呼、やっぱりこの人だけはだませなかったか。
「ばれてましたか。」
「ええ。みえみえでしたよ。大体わざわざ敵機を撃破しに行くのに、さもコア凸に行く様に裏側から攻めさせる時点でばればれですよ。」
「うーん…」
「しかも少女の動き、ちょっと不自然でしたしね。」
「不自然?」
「ええ、まるで何かに心を乱されているようで…挙句の果てには一瞬止まってしまいましたし…まさか少女に何かふきこんだのではありませんよねえ~」
「はは、僕がそんなことをするわけないでしょう?」
額からつたい落ちる汗をぬぐう。
「…まあ、いいでしょう。今回の作戦の結果に期待してますよ。」
プツンッ
…ナルシーさん…怖いな…
さて、作戦第三段階『コア凸失敗で敵の油断を誘う』、さっさと終わらせますか。
ガシャコッ
ワイドスマックに残っている弾を吐き出し、新たに弾を詰め始める。
カチャリ
目の前には足が機能せず、地面に倒れこんでいる敵アサルト機がいる。
カチャリ
左のほうには彼のものであっただろう右手の機体部品とデュエルソードが転がっている。
カチャリ
僕が今さっき撃ち落した物だ。しかし片手で剣を振るおうとするとは、よほどパニックしているらしいな…
カチャリ
この状態ならまだ仲間に連絡もしていないだろう。
カチャリ
『お嬢が見つけたら泣いて喜ぶだろうな…無傷のデュエルソード、どれぐらいで売れるんだろう…』
カチャリ ガシャコッ
そんなことを考えながら、リロードを終えたワイドスマックをゆっくりと地面に倒れてる麻に向ける。
相手のパニックを誘うようにわざと引き金を引くのを見せ付ける。そろーり、そろーりと。
相手がコックピットの中で恐怖のあまり顔を引きつらせ、絶望のまなざしをこちらに向け、
口をあけたまま何もしゃべれない姿が想像できる。
僕ながら、なかなか鬼畜の才能があるようだ。
ニヤリ
ガコンッ…
『敵機、撃破確認。』
冷たいAI音を無視して仲間に無線を送る。
「敵を撃破しました」
「なるほど、やりますね」
意識してか、ナルシーが真っ先に反応した。
「これぐらい普通です。」
「以外にあっさり撃破したな」
「僕を見てからデュエルソードを持って突っ込んできてましたからね。多分新兵なんでしょう。」
「そんな新兵に少女ちゃんが負けたのか?信じられねえな」
「まあ、彼女なりの事情があったのでしょう、深追いするのはよしましょう。」
急いでごまかす。男色を使って心を乱し、わざと撃墜するように仕掛けたなんてばれたらとんでもないことになる。
「そうですか?私のデータによれば少女はよほどなことがない限り少年に負けることはないはずですが…」
余計なお世話だ、インテリさん。
さて、役はそろった。チェックと行きますか。
「それじゃあ、今から徹底的に敵をぶちのめすとしましょうか」
「え?」
「では、作戦第四段階に突入です。チャーリー、応答してください。」
ずっと潜伏させておいた味方に信号を送る。
「チャーリー?だれだそいつ?」
熱血が聞いてくる。無理もない、作戦中ずっと沈黙させていたのだから。
しかし、さすが彼とでも言うべきか、何が起こっても音を出さず、ずっと沈黙状態で潜伏していた。
「こちらチャーリー」
「!?クール、クールじゃねえか!道理で誰かいないと思ったら、お前だったのか…」
「道理でデータがなにか足りないと思ったら、クールさんでしたのね!」
「…俺、そんなに存在感薄いのか…」
驚いてる熱血とインテリを無視して、クールに指示を与える。
「作戦、第四段階に突入。リポート、イン。」
「了解。ただいま光学迷彩で敵コア前プラントへ潜伏中。気づかれてはいないようだ…」
「なっ、クール、お前いつの間に?」
「あんたとまじめがカタパルトで離脱したころ位から潜伏してたぞ。あの41型、お前が投げたんだろ?」
「えっ?ああ、そういやあ離脱直前に一つ41を投げたが、どうかしたのか?」
「…危うくお前に殺されるところだったぞ…」
「ん?クール、何があった?声を大きくしてくれ、よく聞こえない!」
「いや、なんでもない。少年、プラントFを制圧しにかかる。」
「了解しました。熱血さん」
「ん?なんだ?」
「最初は41型二発投げ込ませただけですいませんでした、いまからまたコア凸にかかるんで、今度は本気でお願いします。」
「え?」
「全機に告ぐ!インテリ、まじめ、熱血、お嬢は今すぐエリア移動の準備にかかってください!隊長とナルシーはその間二人で何とかしてベースを死守してください。」
「ほう…ずいぶんと難しい要求だな、少年。」
「隊長の腕と技量を信用しての決断ですよ。くれぐれも頼みます。」
「わかった。その代わり久しぶりに俺に圧勝の宴会をさせてくれ。」
「引き受けました。ナルシーさんは?大丈夫ですか?」
「ふっふっふっ、二人対一群…この逆境、腕がなりますねえ…久々に敵に私の美しさを味わってもらいましょうか…」
「…大丈夫なようですね。それでは、行ってきます。」
チェックメイトだ。
僕もまじめさんもリムペッドV+弾薬箱装備、インテリさんはサワード・パラージにエレファント、
熱血は今さっき弾薬を補充したばかり、おお嬢は…今回はかなり空気だった上に、武装も新型と役に立たなさそうだが…
まあ、貧乏な没落貴族にクオリティを求めても無駄だったか。
それに、ないよりは少しましだろう。彼女、まだセントリーガンを使っていなかったはずだ。
施設設備はさっき戦線を引いたときに稼いだ時間でクールがほぼ破壊済み。
肝心の自軍ベースは、元Sランクだったという噂がついてるベテランに、その副官だったというナルシーさんが『本気で』守っている。
こんな状態で勝たなければもうおかしいだろう。
今日の宴会、司会者はやっぱりベテランさんになるのかな、それとも僕か…
そんなことを考えながら、僕はFプラントから再出撃した。
~~完~~
最終更新:2010年03月25日 01:19