「少女ー、ちょっと来てくれないか」
「? なーにー…わ、でっかいネコさんだー!」
「この前のチョコケーキのお返しだ。パンダとクマは見たことあるけど、ネコはまだいないだろ?」
「わーい! ありがとーー!」
「あら? 少女さんそれは…」
「あ、お嬢お姉ちゃん! 見てー! 熱血お兄ちゃんから貰ったの!」
「すっげー悩んだぜ! 自慢じゃないが俺のセンスなんて戦闘以外からっきしだからな!」
「あ、でもこの前のチョコケーキ、結局二人で食べたから、あたしもなにかあげないと駄目かなー」
「何言ってんだ、そんな必要な」
「皆まで言わなくても結構ですわ! そうですわね! 愛し合う二人が互いに捧げあう…素敵ですわ!
いいえ、余計なものは何も必要ない、必要なのはお互いの心と体だけ…ああっいけませんわ! これ以上は
恥ずかしくて口外できませんわ!」
「思いっきり口に出してるだろ…っつか、いつから愛し合う関係に…」
「えっ、お兄ちゃん…あたしのこと、嫌いなの…?(うるっ」
「ば、馬鹿、そういう意味じゃないって! 愛するとか、そういう言葉を少女が使うにはちょっと早す」
「熱血さん…見苦しいですわよ! 男なら責任を取るべきですわ! さあ、今すぐここで挙式を!
誓いのキスを! ドレスでもケーキでも、必要とあらばすぐにでも調達させていただきますわ!」
「いやいやいや、だから早すぎるって言ってるだろ! 少女はまだ」
「挙式じゃないけどケーキカットはやったよねー」
「まあ…!」
「え? ケーキカッ…も、もしかしてあれか!? 一緒にケーキを切ろうって、あれか!?」
「熱血さん、儀式が中途半端ではありませんか! さあ今ここで指輪の交換を!」
「だああ! だから性急過ぎるっつってんだろ!! だいたいなあ、指輪はそれこそ早えよ。
確かに考えもしたけど、少女は成長期だろ? 買ってすぐに指に入らなくなったら可哀想じゃないか。
そうでなくても肌が弱かったらとか金属アレルギーとか心配だから、アクセサリーは敬遠したわけだし…」
「まあ! そこまで考えていらしたなんて…ごめんなさい、わたくし熱血さんを見誤っていましたわ…!」
「お兄ちゃん…あたしのこと、そこまで考えてくれてたんだ…」
「あ、いや、なんだその目は。照れるからヤメロ」
「ああ、そこまで熱血さんに思慕されている少女さんが羨ましくてたまりませんわ…そうですわね、今こそ
わたくしもベテラン様と愛を育まなければ!! ベテラン様ーー! 今参りま」
「ベテランさん昨日から休みだぞ」
「すわぁぁぁぁあああ!? ど、どういうことですの!?」
「今週は里帰りだってミーティングで言ってたよね。15日に帰ってくるって話だよ?」
「……み、三日間も、ですって…!? そんな! ご無体な! あんまりですわ! ああ…わたくし、
寂しさのあまり気が狂って死んでしまいますわ!! うう、見えますわ…孤独なわたくしを狙う
酷薄な笑みを浮かべた死神が! ベテラン様、早くわたくしを助けにいらしてくださいませーーー!!」
「落ち着け! ったく、ベテランさんがいないからこそお嬢や俺たちがしっかりしなきゃ駄目なんだろ!」
「熱血さん…」
「ベテランさんもすぐ帰ってくるから、お利口にして待ってようよ~」
「少女さん…! ごめんなさい、わたくしが間違っていましたわ…そうですわね! 来たるべき15日に、
わたくしの全身全霊をもって、全力でお迎えにあがらないといけませんわね!!」
「そうそう、その意気だよ~!」
「熱血さん、少女さん、お二人のお邪魔をして申し訳ありませんでしたわね。存分にお二人の時間を!
そうですわね、既に婚礼の儀を交わしておいでなら、今晩は初夜ですわね! お邪魔はいたしませんわ!」
「なぬ?」
「え…!?」
「ではわたくしはこれで! ああっ、15日が待ち遠しいですわーー!!」
「お、お嬢お姉ちゃんったら…(もじもじ」
「? ショヤってなんだ? 大晦日に鳴らすあの鐘のことか?」
「お兄ちゃん…今夜はネコさんと一緒に寝ようと思ったけど…お兄ちゃんと一緒に寝てもいい?」
「え? あ、ああ…」
「待て」
「待ちなさい」
「あれ、クールにまじめ…どうしたんだそんな怖い顔して」
「熱血…お前、本気か。いや、正気か、と聞くべきか」
「ん? なんの話だ」
「とぼけないで! …ねえ、少女ちゃん、ちょっと熱血借りていくね?」
「え? どこに連れてくの?」
「お、おい! 二人ともどうしたんだよ!」
「言いたいことがあるなら後で聞こう」
「そうね。むこうでゆっくり、話し合いましょ?」
「お、お、俺が何をしたって言うんだーー!?」
「え? え!? おにーーちゃーーーーん!?」
* * *
「ぐすっ、ひっく、ぐす…」
「しくしくしく」
「これは…何事です? 少女さんはともかく、お嬢さんまで…ちょっとインテリさん、お二人はどうしたんです」
「あ、それがですね。少女さんのほうですが、熱血さんがクールさんとまじめさんに拉致られまして」
「ああ、それで彼はまたミイラ男に。彼は毎度毎度、戦闘以外で大怪我を負いますね…。原因は何です?」
「少女を手篭めにしようとした、というのがクールさんとまじめさんの弁です。
ちなみに熱血さん本人は『ショヤってどういう意味なんだ…誰も教えてくれねえ』と言ってました」
「それはそれで少女さんの悲しむ理由がよく分かりませんね…。お嬢さんのほうは?」
「ベテランさんにバレンタインのお返しで絵本を貰ったそうです」
「…それはまた微妙すぎるお返しですね」
「幼い姪っ子に贈ったものと同じものだそうで…大人扱いされなかったのが余程ショックなようです」
「お嬢お姉ちゃん…愛に障害はつきものなんだね…!」
「そうですわね…人は皆、そうやって大人への階段を上がっていくものですわ…!」
「うええええん、お嬢お姉ちゃあああん!(ひしっ」
「ぐすっ、少女さん…! 強く生きましょう…っ!(ひしっ」
* おまけ *
「…(しょりしょりしょり)…はい、熱血さん。りんご、どうぞ」
「ああ、悪いな少年」
「いえ(にこっ」
「…それにしても、なんで俺っていつもこんな目にあうんだ?(しゃく」
「それは…その…」
「悪い。そんなの、答えられねえよな(むぐむぐ」
「…いえ、なんとなくわかります、その気持ち」
「少年…」
「(ガチャ)あ、少年くんこんなところにいたのね」
「ひっ!? オペ子さん…!」
「駄目ですよこんなところに隠れてー。さ、行きましょう!(がしっ」
「あ、熱血さんお邪魔しました。お大事になさってくださいね(ぐいっ」
「ど、ど、どうして僕がいつもこんな目にあうんですかぁぁぁぁ!!(バタンッ」
「…少年…お前のことは忘れないからな…(遠い目」
最終更新:2010年03月25日 01:22