包帯の人

真夏の手袋の下には包帯が巻き付けてあって、その上にそっと、指輪が煌めいている。
5月の誕生石はエメラルド。見たことも、ないけれど。

水を弾く野菜たちは、汗をかいているようで、甘酸っぱいドレスに身を包んでいる。
ことり、と硝子の皿を、彼女は包帯の手で置いた。

白い花の丘に立つ小屋で、二人。
風のない昼だった。

「お手伝い、ありがとう」
「――うん」

少年は頷いた。サラダの他には、パンと蜜が一つずつ。
少し、彼のお腹には足りないのだけど。

でも、良いのだ。野菜が嫌いだった少年には、この時間と充実感だけで。

野菜を口に運び、滴を噛み砕くように食べる。
ふと、彼女が自分の分の食事よりも、震える指先を見つめている事に、少年は気付いた。

手袋を外した手にはただ、包帯に巻かれている。白く、白く。

いつか見たことがある。
小さな畑を耕しているときだったかもしれない。

目眩するような日差し、彼女は皮膚のすっかり硬くなった掌で僕の頭を撫でていた。
エメラルドのように、硬く緑色になった掌で撫でながら、

「いつか手が動かなくなるまで、土を耕し、植物を育てていたい」

と、そう呟いていた事を。


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最終更新:2010年04月04日 15:50
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