出会い~舞い散る桜の下で

「見事な花見日和ですねぇ。」
ナルシーの意見には同意する他無い、のだが。
「これが見慣れた隊舎の敷地でなければ最高なんだがなぁ。」
桜を見てても、視界の隅には俺達が生活してる隊舎が映る。
これじゃ、風情も何も無いだろう。
「何だと、隊舎で花見が出来るのは<<GRF>>内でも我々ブロッサム隊だけだぞ。」
ベテラン、それは良い事なのか?
「そうなんですか、オペ子さん?」
「えぇ、私達<<GRF>>のチームに花の名前が付けられているのは知ってるわね?
 其々の隊舎には、その隊花が植えられているの。」
少年の問いに、オペ子が答える。
「だからここに桜が植えられているんですのね。」
「オペ子さん、こんな事に無理に付き合わなくても良いんですよ?」
お嬢とまじめが続く。
「お気遣い有難う。
 でも、私もブロッサム隊の一員ですもの。
 たまにはご一緒させてね、ふふ。」
そういや、オペ子が同席するのも珍しいな。
…なぁ、真逆とは思うがよ。
花見をする為に隊花を桜にした訳じゃ無ぇよな?
「今日の料理もナルシーさんが用意してくれたんですよね?」
妹よ、お前は花より団子なのか?
「えぇ、少女さんと少年君が手伝ってくれました。
 花見といえば、『沢庵と蒲鉾型に切った大根をぎっしり詰め込んだ重箱』と『お茶』ですねぇ。」
「そりゃ『長屋の花見』だ!」
相変わらず変な事を知ってるな、ナルシー。

「…判っているな、熱血。
 少女に酒を飲ませるなよ。」
クールが小声で俺に言う。
「あぁ、お前に言われるまでも無ぇ。
 雛祭りの二の舞は御免だ。」
酔った少女に何かされたまじめが立ち直るまでに丸二日掛かったからな。
その事については、お嬢もまじめもインテリも頑なに口を閉ざした。
当の少女が何も覚えてないのが救いだな。
「なぁ、クール、何で俺に言うんだ?
 それこそ、まじめ辺りに任せりゃ良んじゃねぇか??」
「…判っていないじゃないか。
 お前が少女の相手をしていれば、あの惨劇は起きなかったんだぞ。」
「何でだ?
 意味が判らねぇ。」
「…お前と言う奴は。」
誰も少女に酒(あの時は甘酒だったが)を勧めていない。
と言う事は、少女が自発的に口にしたと言う事になる。
まぁ、アルコールだとは思わなかったんだろうなぁ。
確かに俺が見ていれば止めただろう、だが、俺でなくても止めた筈だ。
俺に限定される意味が判らねぇ。
表情から察するに、クールは心底呆れているらしい。
何だか判らんが、ムカつくからこれ以上追求するのは止めておこう。

「熱血、見ぃ~つけたっ!
 パパ、みんなこっちに居るよ!!」
突然、背後から誰かに飛び付かれた、この声は…。
「ブロッサムの諸君、久し振りだな。」
振り返ると、でかい箱を担いだ男が歩いて来るのが見えた。。
パパと呼ばれた男はウィステリア隊の隊長(以下、ウィス父)で、俺に飛び付いてきたのはその娘(以下、ウィス娘)だ。
ウィステリア隊は、俺達ブロッサム隊と同じく、<<GRF>>のチームの1つだ。
そのウィステリアリーダーのウィス父と、我等がブロッサムリーダーは昔馴染みらしい。
「おぉ、戦友、良く来たな。
 真逆、手ぶらじゃあるまいな?」
「お前の好みに合わせて持って来た、文句は言わせん。」
箱から酒瓶を取り出すウィス父。
「振袖」「越の寒梅」「箱入り娘」「美少年」………「悶絶チュパカブラ」?
どうやらブロッサム隊は、花見宴会の為に作られたらしい。
「久し振りだね、熱血。」
ウィス娘が俺の横に座って話しかけてきた。
年の頃は少女と同じ位、こいつも<<ボーダー>>だ。
ブロッサム隊とウィステリア隊は最初期に設立されたチームだ。
設立当時、戦術研究の為に、何度か実戦さながらの模擬戦を行った事がある。
こいつとはその時に出会ったんだが、何でだか懐かれちまったんだよな。
酒を飲みながら適当に聞き流し、ふと俺の向かいに座っている少女に目をやった。
何故かこっちを険しい目付きで睨んでたが、俺と目が合うとぷいっと顔を背けた。
…俺、何かしたか?

ウィス娘の話題は、自分の機体の事に移っていた。
どうやら、今の機体構成に不満があるらしく、俺にアドバイスして欲しいらしい。
「っても、俺は強襲専門だからなぁ。
 お前の使ってる支援兵装の事は判らねぇよ。」
「もー、ちゃんと考え…」
さっきから不機嫌そうにしている少女が突然立ち上がった。
そのまま俺の横までやって来て、ウィス娘とは反対にぺたんと腰を下ろす。
盛り付けてある料理から、卵焼きを一切れ、皿に乗せて俺に差し出した。
「この卵焼き、わたしが作ったの…。」
「あぁ、そうなのか(もしゃもしゃ)。
 うん、美味いよ。」
「…えへへ(照)。」
「ふぅ~ん。
 あ、熱血、コップ空いてる。
 お酌してあげるね!」
「あぁ、済まねぇな。」
「む~~~~。」
…何なんだ、この空気は。
「ちょいと、トイレ。」
いや、別に逃げた訳じゃ無い、戦略的転進と言う奴だ。

「逃げられたか、もう、甲斐性無しなんだから。」
「お兄ちゃんの事、悪く言わないで。」
「ふふふ、そんな怖い顔で睨まないでよ。」
「…御免なさい。」
「ねぇ、熱血の事、好きなの?」
「あ、…えっと、………(こくん)。」
「どこが好きなの?」
「優しく、してくれたの。
 わたし、生まれた街から出た事なくて、何も知らなくて。
 <<スクール>>からブロッサム隊に配属されたけど、何も判らなくて。
 全部、お兄ちゃんが教えてくれたの。」
「ふ~ん、知ってると思うけど、熱血、誰にでもそうだよ?
 困ってる人をほっとけないんだってさ。」
「うん、知ってる。
 でも、わたし、嬉しかったの。
 仲間だって、家族だって言ってくれたの。」
「告白、したの?」
「…(ふるふる)。」
「ちゃんと言わないとダメよ?
 人の事にはすぐにお節介焼くのに、自分の事にはさっぱりなんだから。」
「うん、でも…。」
「その前に、熱血があなたをどう思ってるのか、はっきりさせなきゃね。」

リペアポッドから戻ると、二人が言い争いをしていた。
訂正しよう、ウィス娘が一方的に捲し立てて、少女がおどおどしながら反論していた。
保護者はどうしたんだよって…アレでは使い物にならんな。
「…今度は何だよ?」
ちょいとうんざりしながら尋ねる。
「ちょっと、この子、熱血の何なの?!」
何と言われてもなぁ。
「少女は、…俺の相棒だ。」
「それって、特別って事だよね?」
「あぁ、まぁ、そうだな。」
少女は俺とコンビを組んでいる。
俺がポイントマンで少女がバックアップだ。
俺の突撃に火力支援したり、俺が仕留め損ねた相手に止めを刺したり。
目端が利くから俺より先に待ち伏せやトラップに気が付いたりと、助けられる事も多い。
前回の戦闘では、二人でコア凸し、相手のコアを割ったりもしている。
ベテラン、クール、ナルシーと組んでも、ここまで巧く行く事は少ないだろう。
何も言わなくても、互いに次に己がすべき事が判っている、阿吽の呼吸という奴だろうか。
特別な存在と問われれば、間違ってはいないと言えるだろう。
「だって、良かったね、少女!」
ウェス娘は満面の笑みを浮かべているし、少女は真っ赤になって頭から湯気を出している。
…どうなってるんだ?
俺がリペアポッドに逃げ込んでる間に、少女の機嫌は直っているし、ウィス娘とも仲良くなっている。
今では、時折俺の方を見ては、二人で楽しそうに談笑している。
さっきまでの変に張り詰めた空気よりは良いんだが、何か釈然としないな。
暫くして日も傾いてきたので、宴会はお開きと為った。

ウィステリア父娘を見送った後、少女が話しかけてきた。
「お兄ちゃん、今日は、御免なさい。
 何か、変な話になっちゃって…。」
もじもじしている少女の頭をくしゃくしゃに撫でながら答える。
「良かったな、友達が出来て。」
「……うん!」

その夜、オペ子の執務室を訪ねた。
「あの父娘を呼んだの、あんただろ?」
「あら、どうして?」
「別に、俺と同じ事を考えてたんじゃないかと思っただけさ。」
少女には、同じ年頃の友達が居ない。
学校に通って、友達とおしゃれや恋愛についてのお喋りに夢中になる年齢にも拘らず。
故郷を捨てて<<ボーダー>>になり、俺達と共に戦争をしているのだ。
<<GRF>>の職員であるオペ子は、少女に戦争をさせている側の人間だ。
どうにかしてやりたいと思っても不思議じゃない。
「熱血君は、本当に、人の事には良く気が回るのね。」
肯定、と受け取って良いんだよな?
「礼を言うぜ。
 俺は、思っても何もしてやれなかった。」
「お礼には及びません。
 私もブロッサム隊の一員ですもの、ね。
 でも、どうしてもと言うなら。
 ん~、次の戦闘でもコアを割って貰おうかしら、ふふふ。」
あれ、レートが会わない気がするのは俺だけか?
が、不思議と悪い気はしないな。
「応、任せろよ!」


投下完了。
以前に戦友から貰った「ヤキモチを妬く少女」がやっと形になった。
桜の時期を微妙に外してるのが無念。


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最終更新:2010年04月25日 22:44
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