「ふん……最近の奴はすぐメカに頼りやがって。HGもシュライクも、AEのはバランスが悪ぃんだよ」
カーゴの幌を外しながら、ベテラン兵は呟く。
カーゴの荷台には、窮屈そうに、彼のクーガーが寝っ転がっていた。クーガーの足元には、ヴォルペ突撃銃と41型強化手榴弾のコンテナがある。
荷台の脇のラックには、マーシャルソードがくくりつけられていた。
「ブラスト戦なんてのは結局立ち回りだ。HGもシュライクも、オールマイティに戦えないんじゃ話にならねぇ。その点、こいつはいい」
クーガーのコクピットを開いた。ウィスキーの瓶と、家族の写真がメインモニタの横に置いてある。
胸ポケットに入れたチョコバーを齧り、クーガーの炉に電源を入れ、今日三回目の動作チェックを始める。前回の戦闘で破損した肩を取り替えたので、未だに挙動が安定しないのだ。
設定をいじって、カーゴの上で何度かマニピュレータを動かすが、動作にラグが目立つ。
――支援機を連れてきて、リペアをかけて強引にシステムを組みなおすか。
そう思って、コクピットから這い出ると、クーガーが月明りに照らされ、その全身を闇の中に浮き上がらせていた。
赤い、光沢のペイント。よく月光を反射する。
赤はエースの証。餓鬼のころに好きだったロボットアニメに憧れ、部隊を持ったとき機体を赤く染めた。
エース級ではあった。ただ、彼のようにスマートには戦えなかった。泥臭い戦争だ。仮面をかぶってないからだろうか。やめよう。仮面をかぶったら嫁が泣く。
今では、赤のペイントにところどころ、別の色が混ざる。オリーブドラブの右腕、鹵獲したへヴィガードからもぎ取ったブースターはガンメタルブラックのままだし、脚部前面装甲も、一部がガンメタだ。
これもへヴィガードからもぎ取って、無理やりくっつけた。
どだい、ノーマルのクーガーで戦い続けるのは無理だったのだ。今戦場にいるクーガーの殆どは、生き残ってゆくために独自の改造を施されたカスタム機だ。
だからこそ、彼らはクーガーを捨てられない。専用のカスタムでクーガーは彼らの手足に同化しつつあるし、愛着もある。
「エンフォーサー、か」
カタログスペックでは、次世代機はペイロードとブースト速度を両立したらしい。エネルギー容量もあるようだし、新世代のバランス機として戦場を支配する日もそう遠くないのかもしれない。
操縦系も変わらないので慣熟訓練も殆ど要らないだろう。予想外の高性能に戸惑うくらいか。
クーガーの足のせいで諦めていた
ティアダウナーも積めるとなると、惹かれるものもある。今の手持ちパーツを抵当に入れれば、スコーピオも買えるだろう。
最近では、新兵へエンフォーサーⅠ型を支給しようかなんて話も出ているとか。どうせすぐに中破、良くて小破するクーガーより、最初からエンフォーサーのほうが役に立つんじゃないかとまで言われているのだ。
もちろん、そんなことにはならない。中古機に在庫の多いクーガー以上にコストパフォーマンスの良い機体はないし(新兵はすぐにこけてブラストの膝を壊す)、この安定感は訓練機にぴったりだ。
愛機を見やる。
クーガーの単眼カメラアイが、エイオースを見上げている。
顔の横には、クーガーⅡ型の特徴とも言える、アンテナがにらみを利かせている。
「そうだよなあ、高い金払ってバージョンアップまでしたんだよなあ…」
クーガーが戦場を駆け、一年近くたったころ、クーガーⅡ型の支給が始まった。
駆け出しの新兵だった彼は、なけなしの金を払って(そういえばあのころはまだ新婚だった)クーガーのバージョンアップパーツを購入したのだ。正直、ちょっと待ってへヴィガードにした方がよかったか、とは何度も思った。
「あの時はこいつがよかったんだよなあ」
子供のころに憧れたロボットに似ているからだろうか。信頼性からだろうか。あの時は、へヴィガードなんてもの、微塵も購入する気が起きなかったのである。
また、貯金通帳の問題から、クーガーを抵当に入れないとへヴィガードが買えなかった、というのも原因のひとつかもしれない。
「なんにせよ、あるもんでやるしかねえよなあ…」
ちょっとだけ、出来たら今度はエンフォーサーⅡ型を、それか新型を鹵獲してこようかな、と思った。
クーガーは、飽きもせずエイオースを見上げている。