-マグメルの管理下にある負傷者収容施設-
病室の前の長椅子にジュダが暗い面持ちで腰掛けていた。
エントランスの方から焦りを感じさせる靴音が響く、その音がジュダの前で止まった。
「容態は」
と、渋目の男性の声。
顔を上げるとゴードンが複雑な表情でジュダを見ていた。
「今は、まだ、理解りません」
途切れ途切れの返答-
「ギガノト榴弾砲の直撃と聞いたが?」
「はい。バックアップをしていた私の目の前で」
ゴードンが問い、ジュダが答える。
「直後、機体は大破。救出はしたのですが、頭部に激しい衝撃が加わった様で、今は、その部屋に」
と、ジュダは目の前のICUを指差す。
「なんてことだ……まさか…レオが……」
「私が榴弾砲に気付いた時にレオさんには警告したのですが、遅かった………すみません。」
「いや、お前は悪くない。むしろ上方を警戒していなかった奴が」
と言いかけて
「違う。そうではない。今はそういう事を考える時ではない」
ゴードンは静かに、だが困惑もしていた
そこへ、同じくエントランスの方から複数の足音が聞こえてきた。
男女六人の、レオとジュダ、ゴードンの仲間達である
「レオさんはどのような容態なのですの?」
シェステインが問う。その言葉を期に他のメンバーも、
「大丈夫なのか?」
「レオさんは助かりますか?」
「どうなの?ジュダさん?」
「お兄ちゃんは死なないよね?」
「治療の方はどうなっていますか?」
と口々に聞いてきた。ミリーに至っては目に涙を溜め、赤く腫らしていた。
「焦るな」
ゴードンが制する。
だが仲間達はゴードン、ジュダと交互に視線を合わせて言葉だけでなく目でも訴えかけている。
直後、ICUから一人の医師が出て来た。
仲間達の視線もその医師へと向けられる。
医師は
「意識は戻りました」
と報告、その言葉に仲間達は、ほぅ、と一息ついた。
ミリーは涙を拭い、
「お兄ちゃんに会えますか?」
と医師に向かって聞くと
「大丈夫ですよ、話をしてあげてください」
との答に素直な笑顔を見せ、駆け足でICUへと入る。
ジュダとゴードン、仲間達もそれに続く。
ベッドの上ではレオが目を開けて、部屋の中をきょろきょろと見回していた。
「よかったね、お兄ちゃん」
ミリーはレオの無事を祝福したが、それに対して皆が予想もしなかった答えがレオの口から発せられた
「君は…?誰?」
ミリーが驚く。
「お兄ちゃん?私がわからないの?」
その質問は当のレオに届いてはいなかった
「君?…いや、俺は…誰だ?何故こんな所に…ここは何処だ?ここで何をしていた?」
レオは、否。レオだった青年は困惑の表情で困惑の言葉を綴り、誰に聞くでもない質問を繰り返していた。
「お兄ちゃん!お兄ちゃん!お兄ちゃん!…いやぁあああ!!」
ミリーの悲痛な叫びが施設内にこだました。
直後、医師と看護師が入ってきて
「面会謝絶とします」
と告げ、メンバーを部屋の外へ追いやり、扉を閉めた。その中から鍵の掛かる音も聞こえた。
仲間達はそれぞれ俯き、ティントは鳴咽し、ミリーは一目も憚らず号泣していた。
ゴードンは仲間達に解散、及び自室待機の命令を下しその施設を仲間と共に後にした。
後日、レオを除くメンバーに指定の戦場へ出撃の旨が与えられ、ミリーは戦場へと赴く前に
「お兄ちゃんに会いたい」
と施設へ向かった為、心同じくする仲間達も後へついていった
病室の前。医師に面会の許可を取り、入室。
レオの記憶が未だ戻っていない事も聞いた。
「君は…何時か僕を…兄と呼んだ…」
こくり、と頷き
「お兄ちゃん、いつか、記憶が戻ったら、海に遊びに行こうね。お気に入りの水着を持ってくるから、一緒に泳ごうね」
目から涙を流しながら話しかける少女に戸惑いながら青年は答える
「わかったよ『ミリー』、一緒に泳ごうな」
そう言った瞬間、一同に緊張が走る。
沈黙の後、リサが口を開いた
「何故、その子の名前が『ミリー』って…レオ、貴方、記憶が戻ったの?」
と聞くと眼前の青年はハッとした表情の後、ばつの悪そうな顔をした。
リサの後方、堪える様な笑いが聞こえて振り向くとジュダが口を手で抑えてクスクスと笑っていた
それを見たリサはレオの頭を思いきり叩いた。
「痛ってー!」
レオが頭を押さえてうずくまる。その直後、頭上に殺気を感じて見上げるとリサが目を吊り上げて怒りを顕にしていた。
横を見るとミリーも同様に、他の仲間達も同じく、レインやゴードンは拳を震わせていた。
「貴様!…貴様は!」
慌ててレオが皆を制する
「待って、待てって!これには理由が!」
「どんな理由だ!これほど人を心配させておいて!つまらん理由なら容赦せんぞ!」
レインが珍しく声を荒げる
「俺がギガノトの直撃を受けて頭を怪我したのは本当だ。で、俺を助けてくれたジュダが」
『最近は雨が続いて気分もジメジメしてきますね。そこでですね!貴方のそれをダシにして皆にドッキリに仕掛けて笑いでこの気分を吹き飛ばしてみませんか?』
「って言われたから俺もその気になって、ジュダの話に乗ったんだ。本当だって。許して下さい、ごめんなさいごめんなさい」
ベッドの上で土下座して平謝りなレオを見て、皆はすっかり毒気を抜かれてしまっていた。
ジュダはまだクスクスと笑っている。
そして、ゴードンがレオの肩をポン、と叩き
「よし、今から出撃だ!」
とレオをベッドから引きずり落とし、連れていこうとした所でレオが
「いや、だから、怪我は本当なんだって。マジで痛いんだって。」
「それだけ元気なら大丈夫だ。いくぞ。」
「やめて。嫌、ごめんなさい。マジで、ごめんなさい。許して」
レオが引きずられていくを見て、やっと皆が声を揃えて大爆笑した。
-終-
最終更新:2010年06月06日 19:09