少しも自重しないお嬢

「ふんふ~ん♪ えーと、次は塩を…」
「あら? まじめさん、食堂で何をなさってるんですの?」
「え? ああ、ちょっと料理の勉強をしようと思って」
「まあ。いちごがこんなに沢山…そういえば、クールさんがお好きでしたわね。見かけによらず」
「えっ!? べ、別にクールのためにって訳じゃ」
「皆まで言わなくても結構ですわ! そうですわね! 好きなものは好き! そう、これは紛れもない真実!
 クールさんがいちごをお好きなように、まじめさんもクールさんをお好きになさったらよろしいのですわ!」
「ちょ、それ意味が違」
「ああ、でもわかりますわ…好きな殿方の前でそんな大胆なこと…花も恥じらう乙女には茨の道も同然!
 …はっ、だからこそ、言葉で伝える方法もあれば、贈り物で伝える方法も…成程! お料理はその最たる手段!
 そうですわ! わたくしもベテラン様になにか作って差し上げなければ!」
「あ、それじゃ、私のお料理の本、貸してあげようか?」
「大変ありがたいのですけれど、それではまじめさんのお料理のお邪魔になりますわ。
 先生をお呼びして、お邪魔にならないところで作ってきますわね」
「先生? 先生なんているの?」
「この部隊で一番お料理が得意な方に来て頂くことにしますわ。Come here! アイアンシェフ!(パチーン」
「………」
「………」

 …ドタドタドタ、バタンッ

「うわっ!?」
「…え? 少年くん?」
「よくいらっしゃいましたわね、少年くん」


「…こ、ここどこですか? なんで僕、ここに連れてこられたんですか!?」
「なんで、って、お嬢が君を呼んだんじゃないの?」
「ぼ、僕は部屋でお風呂に入ってたんですよ? しかも部屋には鍵がかかってたはずなのに、
 いきなりお風呂に入ってきた黒ずくめの人たちに捕まって、着替えさせられて…!」
「まあまあ、細かい話は抜きにして、わたくしにお料理を教えてくださいませんこと?」
「えっ?」
「ここでまじめさんのお料理のお邪魔をしていてもいけませんし、場所を変えますわね!(ひょいっ」
「ちょっ、そんな小脇に抱えて連れて行かないでくださいいぃぃぃぃぃ!(フェードアウト」
「…な、なんだったのかな…ま、いっか。お料理の続きを…えーっと、カレールーはどこだったっけ…」

  * * *

「とりあえず、事情はわかりました。でも、なんでも強引に進めるのは駄目ですよ?」
「承知しましたわ。先生の仰るとおりにしてみますわね」
「でも、何を作りましょう? まずは簡単なものがいいと思うんですが…」
「とりあえずこの冷蔵庫の中のもので作れるものを考えてみませんこと?」
「…な、なんでも作れそうですよ…? すごく高級そうな食べ物まで入ってるんですけど…うわあ」
「そうですの? では以前ベテラン様が召し上がっていたアップルパイを作ってみたいのですけれど」
「りょ、了解です」

「僕は生地を作ります、お嬢さんはりんごの皮むきをお願いしていいですか?」
「…わたくし、ナイフを持つのは初めてですの。どうやるか見せてくださる?」
「え!? じゃ、じゃあ僕がやります! 代わってください!」
「お願いしますわね」
「………(しょりしょりしょり」
「………」
「………(しょりしょりしょり」
「なるほど、わかりましたわ。代わってくださる?」
「え!?」


「………(しょりしょりしょり」
「…な、なんでそんなに手際がいいんですか!? 初めてですよね!?」
「わたくし、ブラストの操縦も見様見真似で覚えましたの。このくらいのナイフの扱いなら、できそうだと思いましたわ」
「ひええ…」
「さ、次は何をするといいんですの?」

  * * *

「というわけで、僕とお嬢さんでアップルパイを焼いたんで、皆さん食べてみてください」
「わーい!」
「すげえ…うめえなこれ! けど、なんでこんなに作ったんだ?」
「それが、ちょっと甘すぎたり、生地が固かったりしたんで、作り直したんです」
「その失敗作がこれ全部ですか…全然失敗作とは思えない出来ですね」
「完璧主義のお嬢さんらしいですね…」
「で、その一番肝心のベテランさんはどうしたんだ」
「俺はもう充分だ! 食後の運動に出かけてくる!」
「そんなこと仰らずに! あーんしてくださいませーーー!!」
「「「………」」」
「ベテランさん、顔が真っ赤だったな…」
「あの、ところでクールさんはどうしたんですか?」
「クールさんは…ちょっとおなかを壊しまして」
「ただいまー」
「まじめお姉ちゃんおかえり~! クールの調子はどう?」
「本人はたいしたことない、って言うんだけど、お医者様は入院が必要かもだって…はぁ」
「入院!?」
「クールはおいしいって言って全部食べてくれたのに、そのあと倒れちゃうんだもの。
 うーん、お酢が足りなかったのかな…それともオレガノ入れすぎたのかな。いいアイデアだと思ったのに」
「…ナルシーさん、まじめさんは一体何を作ったんですか?(ひそっ」
「世の中には知らない方が良いこともあるのですよ(ひそっ」

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最終更新:2010年07月20日 09:11
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