「まじめさん、リップクリームを貸してくださらないかしら?」
「え? あ、ごめんなさい、それはちょっと…」
「女性同士なんですから、ちょっとくらいは…」
「ごめんね、私、そういうのだめなの」
「まじめさんらしいですわね…わかりましたわ。無理を言ってごめんなさいな」
「おい、まじめ…ん、お嬢が先約だったか、邪魔をしたな」
「あらクールさん、構いませんわ。わたくしの御用は今しがた終わりましたの」
「そうか、悪いな」
「はい、これね」
「ん…じゃあ、後でな」
「…あら? まじめさん? 今、クールさんに渡したの、リップクリームではありませんこと?」
「えっ!? そ、そそそそんなことは…」
「そういうことでしたのね! まじめさんったら、愛しい殿方とそうやって逢瀬を愉しんでらっしゃるのね!」
「ちょ、ちょっ、声が大き」
「みなまで言わなくても結構ですわ! そうですわね! 一つのものを二人で分け合う! なんと素敵な! これこそが愛ですわ!
きっとまじめさんの部屋には歯ブラシが2本おいてらっしゃるのね! さも未来も決まったも同然のように!」
「ひ、飛躍しすぎです!」
「ああ…わたくしも、わたくしもこの乾いた心と唇に潤いが欲しいですわ…!
かくなる上は、愛しのベテラン様に癒していただかなければ! そう! まさしく善は急げ!
まじめさん、あとはよろしくお願い致します! いざ、出撃ですわーーーっ!」」
「…あとはよろしくって、なにをよろしくすればいいのよ…」
「ん? 少年、リップクリームなんか使ってるのか?」
「はい、まじめさんに使ってみたらどうか、と言われたんです」
「なるほどな。ちょっと見せてくれるか」
「はい、どうぞ」
「…ふむ。まじめも気が利いたことをするな」
「熱血さんは必要ない、って言ってたんですが…ベテランさんも使わないんですか?」
「俺は使ったことがないな。だが、こういう身だしなみに気を遣うのもいいものだ。ありがとう、返すよ」
「はい。…あれ? お嬢さんどうしました?」
「…さか…」
「ん?」
「まさか…そんなっ!」
「はい?」
「ベテラン様がまさか少年とリップクリームを共有する仲だったなんてっ!」
「…はい?」
「待て。俺はこんなもの使ったことがな」
「みなまで言わなくても結構ですわ! そうですわね! いくらベテラン様の気を引こうとしても、
まったくなびいてくださらなかったのは、少年君! あなたの存在が原因でしたのね!」
「な、なんでそうなるんですか! ちゃんと人の話を聞い」
「その唇ですの!? そのぷるぷるぴちぴちの、柔らかそうな唇が、ベテラン様を誘惑してますのね!?」
「お、おい、お嬢落ち着け!」
「かくなる上はそんな唇…こうして差し上げますわっ!! あむっ! じゅ、じゅるるるっ!」
「んむむっ!? むー、むーー!?」
「お嬢!? 少年に何をするっ!? お、おい!」
「んむー! んむううーー!(初めてがー! 僕の初めてがー!」
(5分経過)
「お嬢! 少年の顔が真っ青だぞ! いい加減に…」
「ぢゅぱっ! …ふう、このくらいでよろしいかしら」
「少年!? 少年! しっかりしろ! おい!」
「はぁっ…忌々しいほどに柔らかくて、嫉妬するほどぷりぷりで気持ちいいだなんて…ベテラン様との
間接キスをちょっと舐め取るだけのつもりが、堪能しすぎてしまいましたかしら? …さて、ベテラン様?」
「ぎくっ!?」
「わたくし、ご覧の通り唇が乾いておりますの。あなたの口付けでわたくしの心を潤してくださいませーっ!」
「ぬおわっ!?(がしっ) 乾いてるとか嘘だろ! それにそもそも俺には故郷に家族が」
「少年くんと仲睦まじくなさることができて、わたくしとできないはずがございませんわ!」
「だからそれはそもそも誤解だと」
「みなまで言わなくても結構ですわ! そうですわね! ベテラン様が少年となんて誤解に決まってますわね!
そう! つまりわたくしが結ばれることこそ運命! さあ、ベテラン様、わたくしの熱いベーゼをいまこそ!」
「うおおおなんだこの力は! だ、誰か助けろーーーー!!」
「はいはい救護班インテリさん参上、少年くん回収しまーす」
「お、俺も助けろぉぉぉーー!!」
「もちろんですわ! 今! わたくしが! 少年の毒牙から救って差し上げますわ! んーー!」
「…た、た、助けてぇぇぇええ!」
* * *
「ベテランさん、まだ出撃まで時間がありますし、メットは脱いだほうが…」
「傭兵たるものいつ如何なる時も備えを怠ってはならんものだ…」
「ベテラン様ーーーっ! 今日こそその唇をわたくしに」
「お、俺はAC慣性の練習に行ってくる!」
「それはもうできなくなりましたよ!?」
「とりあえず行かせてやれ…あんな必死なベテランさんは初めてだ」
最終更新:2009年12月13日 18:09