長い長い旅を経て、彼はついに故郷に戻ってきた。
 かつて別れを告げた壮大なる山河は紅葉に色づいている。
 冷たい清流が疲労困憊した体に心地良い。
 数年の回遊の後、彼はついに故郷に戻ってきた。子孫を残すために。かつて彼の両親がそうしたように。
 ここまでの間に、何匹もの兄弟が力尽きていった。それ以前にも、何匹もの兄弟が荒ぶる海流の中で命を落としてきた。
 だが、その中で自分は生き残った。
 彼はそのことに黙祷と、感謝と、僅かな優越を得る。
 あとは、相手を探して子孫を残すだけ…


 そう思った、まさにその時だった。運命の女神は彼に残酷に微笑んだ。


「よっっし!捕まえたわよ!」


 彼の油断を突いて、水面を断ち割った爪が彼を捉えた。


 何たることだ!
 彼は歯噛みするが時すでに遅し。彼は捕まってしまった。
「ふふん♪大物大物」
 彼を持ち上げた主は、上機嫌で鼻歌を歌いながら彼を川原に引きずっていく。
 その姿を見て、彼は心臓が止まるほどの恐怖と絶望を得た。
 熊だった。若いメス熊が、彼の体を捕まえたものの正体だった。
 離せと、彼は全身で抗議する。だが、概要の荒波に揉まれ鍛えられた体であっても、所詮天敵に勝てるものではない。
「うわっ!生きがいいわねぇ」
 彼の肉体の躍動は、美しい捕食者を喜ばせただけだった。
 そう、捕食者は美しかった。
 少女と女の中間者特有の、瑞々しく美しい体。
 ひょっとすればまだ出産経験は無いのかもしれないが、しかしそのふくよかな腰つきとたわわな胸は、十分子育てに耐えれるのではと思われる。
 だが、その肉体の一部は、彼の同族の血肉が由来したものだ。
 そして、その一部に自分もされてしまうのだという恐怖が彼を遅い、彼は狂ったように暴れまわる。
 いやだ!止めてくれ!せっかくここまで来たのだ!
 しかし淫らな捕食者は、彼の訴えなど聞く余地も無い。
「うふふ…おいしそう…」
 興奮した唇を扇情的に舐める。
 どうあがいても彼が川に戻れないだろう所まで来てから、彼女は食事を開始した。


「ふふっ…こんなに立派」
 まず女が始めたのは、彼の肉棒を自らの口で清めることだった。
 じゅばじゅばと、下品な音を立てて彼の肉棒を味わう女。その唾液による卑猥な禊は、睾丸を包む袋まで及ぶ。
「こんなにおっきくして…すごい量が溜まってるわね」
 指摘されて、彼は恥辱に顔をゆがめる。
 彼らの一族は、川をここまで上ってきた時点ですでにその栄養を次世代のために受け渡す準備をする。
 女性は卵の一つ一つに最大限の栄養を渡し、男性は全ての栄養を使い果たして精子を量産する。
 今、このふしだらな女が愛撫している場所には、彼の生命の全てがつぎ込まれているのだ。そしてそのつぎ込まれた全てこそ女の目当てでもある。
「ちょっと舐めただけなのに、もうここまで上がってきている…かわいい」
 女は言うと、膨れ上がった彼の袋に口をつける。
 えも言われぬ感触が彼の背骨を駆け抜けた。
 それは紛れもない快感だったが、しかし彼は認めなかった。認めたくなかったのだ。
 自分は子孫を残すためにここにきたのであり、このような場所で果てるためではない!
 全身を硬直させ、押し寄せる感覚に耐える彼。女はそれに気分を浴して、さらに責めを続ける。
「はぅ…じゅぶ…んっ、ちゅる…はぁ、はむ。…じゅぱっ……んくっ、んんっ…」
 舌を、口蓋を、頬肉を、時には鋭い歯を器用に使った甘噛みまで交えて徹底的に攻め立てる女。
 その愛情のこもっていない、ただ欲望だけに満たされた愛撫に彼は懸命に抗う。
 だが、すでに子を成すことに対して準備の整っていた体は、その刺激に耐えかねた。
 彼の意思もむなしく、彼の体は本能と女に屈した。
 びゅるりと、彼の先端から生命の元が放たれた。


「んんんっ!」
 口の中に溢れかえった濃密な体液を、女は歓喜して受け入れ、舌で味わい、喉を鳴らして飲んでゆく。
 その淫猥な光景を彼は見ていなかった。彼は人生において初めての、そして最大級の快楽にさらされ呆然自失となっていた。
 子を成すという、精を放つという、最も原始的な本能。
 たとえ発射物が捕食者の胃袋に消えていくとしても、射精に伴う感覚は変わらない。
 やがて噴出が止まるまで、彼は一切の抵抗を忘れていた。
「ふふふふ…やっぱり最高よねぇ…」
 口元から零れた白い濁りを拭いながら言うを見て、彼はようやく正気を取り戻した。
 自分の大切な――それこそ生命そのものを一部であろうとも略奪した相手に、殺意すら抱いた視線を送る。だが餌の憎悪など捕食者にしてみればそよ風程にも気に留めるものではない。
 だが、この女は少し違った。
「ん?何よ、反抗的な目してさ」
 この女は、その目を嬉しそうに見つめ返してきたのだ。
 この女は若い。まだ子供の頃の癖…遊び癖が抜けていないのだ。
 女は、彼を屈服させようと思い至った。
「じゃあ…そんな目できないようにしてあげる」
 女は言うと、まだ天に向かっていきり立っている一物を、その豊かな胸に挟み込んだ。
 自分の同族が元となっているであろう脂肪の塊。だが彼の脳がそんな認識をしているにもかかわらず、肉棒はその感触に反応してしまう。
 滑々とした肌が寄せてくる、暖かい体温と肉の圧力。女は乳の間から顔を出す彼の分身に唾液をたらす。
「さて…どこまで耐えられるかな?」
 意地悪く笑うと、女は唾液を潤滑油として、彼の一物を胸で扱き始める。
 ねっとりとまとわり付くような肌の感触と、暖かく柔らかく包み込むような乳圧。
 その刺激に、一度解放の快楽を知ってしまった本能は耐えられない。
 僅かな時間で、彼は再びの絶頂を迎える。
「あああん、もったいなぁい」
 女は悩ましげに言うと、自分の顔にかかった彼の精液を、指で救い舐め取る。
 それから彼の肉棒や自分の乳房、そして彼自身にまで飛び散った精液まで綺麗に舐めとった。
「あはは、あんな目をしてたくせにこんなに簡単に逝っちゃった♪」
 二度目の快楽に呆然としている彼に言ってから、女は再び彼の一物を胸ではさんで扱き始めた。


 何度目の絶頂を彼は迎えたのだろうか。
 絶頂のたびに閃光に塗りつぶされる視界はかすみ、体は疲れ果て疲労困憊。
 だが彼の陰茎だけは、彼とは別の生物であるかのように逞しく、次なる射精を待ち構えている。
「はぁん…すごいわ。まだ出るなんてぇ…」
 女の顔は情欲に蕩けていた。
 周囲には彼女が受け損なった彼の精液が撒き散らされて異臭を放っている。だがその異臭は、彼女にとって何にも変え難い香りだった。
「そろそろ…下の口にも貰うわよ」
 女はそういうと、彼に跨った。
 立ち上がった際、彼女の股座から、粘性を持った液体が、糸を引いて落ちていった。
 すでに、彼の臭気によって彼女も十分高まっていたのだ。
「じゃあ改めて…いただきま~す」
 状況に不相応なほどの明るい笑顔で女は言うと、彼の一物を、涎をたらす下の口にゆっくりと飲み込んでいった。
 その感触に、彼はもう力尽きたと思われていた全身を、再び硬直させることになる。
 口とも、胸とも違う極上の感触。
 亀頭を擦り上げ、竿を扱きあげ、根元を締め上げる。
 だがそれは単なる刺激ではなく、同時に包み込むような柔らかさを持ち合わせている。
 無抵抗のゼリーに差し込んでいるかのようで、しかし十分な圧力がかかっている。
 未体験の感触に、彼は先端が奥に到達すると同時に、果てた。
「くはぁんっ!い、いきなりぃっ!」
 どぶどぶと噴出する感触に、女は身を震わせる。その振動が更なる刺激となり、彼は新たに精を吐き出す。
 どびゅどびゅと、ごびゅごびゅと。
 女は自分の中を満たされる感触に酔いしれながら、本格的に腰を動かし始めた。
 女の複雑な膣壁の感触は、彼の敏感な一物を刺激しつくし、もはや一撃ごとに絶頂を迎えさせる。
 びゅるびゅる、ごぶごぶと。
「ああん!すごい!濃い、濃いのぉぉぉぉっ!ひゃああんっ!」
 女が嬌声を上げて締め上げ扱き上げ、彼はその刺激に耐え切れず絶頂を迎えて精を吐き出す。
「もっとぉ…!一滴残らずぅ…はぁん!」
 どきゅどきゅ、ぶびゅぶびゅと。
 彼の生命が、彼の未来が、噴出し、流出し、搾取されていく。
「あ、ああああああん」
 女の嬌声を聞きながら、彼は自分が空っぽになっていくのを感じていた。


「んん~~~~~~♪おいしかった」
 女は大きく伸びをする。その顔は満足そうだったが、しかし欲望の色は尽きていない。
「さぁてと!まだまだがんばって食べなきゃ!次は男の子と女の子、どっちにしようかな?」
 楽しそうに、彼女は再び川に立ち入ってゆく。
 その背後に、先ほどまで彼女が捕食していた彼が倒れていた。
 空っぽにされた彼は、空ろな表情で、無窮の空を眺めていた。








 遡上する鮭を、冬眠前の熊がとって食べることはよく知られている。
 だが、熊達が捕獲した鮭の、栄養が集中しているある場所だけを食べ、その他ほとんどを残しているということはあまり知られていない。
 その栄養が集中している場所とは、卵巣と精嚢だ。産卵前の鮭はその栄養のほぼ全てを卵と精子につぎ込んでいる。
 それを本能的に知っている熊達は、来るべき冬眠に備え、そこだけを集中して食べるのだ。




最終更新:2006年12月03日 01:38