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「今日は降るなぁ……こりゃあ」

使い込まれ、色素の薄くなった褞袍(どてら)を羽織った青年『与平』は、灰色の空を見上げ、不安そうに呟いた。
木こりである与平はその風貌のとおり、決して裕福ではなかったが、生真面目で温和なその人柄から、村きっての好青年であるともっぱら評判であった。
ところが、彼は昔から変に女娘と縁が無く、二十六を過ぎてもなお妻帯を持たない独り身である。
同じ村に住む同じ歳頃の知り合いの男達が一人また一人と妻を娶る中、彼らを羨む事は度々あれど、野心も低く無欲であった与平は、ひたすら地味な仕事をこなしていくだけの人生に何ら不満を抱くことは終(つい)ぞありえなかった。
しかしながら、今日みたいな日に限って与平は、夫婦仲となった友人達を少しばかり、妬まざるを得なかった。
雪国に住む与平のカンが正しければ、今晩は雪が降ることになるはずである。そうなれば、凍えるような夜を一人で過ごさねばならなくなるのだ。
仕事の都合上、村からは歩いて半時(三十分)かかる場所にある小屋に移り住む事を余儀なくされているため、同郷の者たちが家族を囲って団欒の時を過ごす中、与平は一人孤独と寒さに苛まれなければならない。
だが、彼はそのような不条理に対して地団駄を踏むほど、もう小童ではない。
過去に何度か同じような経験をしてきている与平にしてみれば、さほど身構えるほどの重態ではないのだ。「慣れ」が彼の孤独を癒し、寒さを和らげてくれる。少なくとも彼はそう信じている。
『さて、今晩をどうして、やり過ごそうか』という言葉が、与平の頭の中を埋め尽くすように反芻される。
与平がどこからともなく聞こえてくる鳥の嘶く声を聞き取ったのは、そんな風に思案に明け暮れている時であった。
まるで苦痛を訴える叫びにも聞こえる痛ましい鳴き声。少し経ってから鳴り止んだかと思うと、時を待たずして再び寒空に響き渡る。
与平は、理由は己にも分かっていなかったが、何故かその鳥の声がどうにも自分に助けを求めている気がしてならなかった。
いずれにせよ、気掛かりになっていた与平は、音のする方向にある林へと赴いた。
地面に積もった枯れ葉を踏み鳴らし、枯れ枝を掻き分けて、次第に大きくなっていく鳴き声に導かれるまま、道無き道を行く。
そうして、ようやく音源まで辿り着き声の主視認したとき、与平は瞠目した。

「つ、鶴が罠にかかってらあ・・・」

与平が耳にした鳴き声の主は、トラバサミに片足の自由を奪われた鶴であった。
狩人が仕掛けたものに誤ってかかってしまったのだろう。羽根が抜け落ちることもいとわず、純白の翼をばたつかせ必死にもがいている。
しかしながら、トラバサミは鶴の足を力強く噛みついて離さず、鶴の足掻き徒労に終わり、無駄に体力を消耗するばかりだ。
このままだと野垂れ死ぬか、罠を仕掛けた狩人に捕まるか、野犬に喰われるか…。
どちらにしろ、この鶴には哀れな顛末しか待ち受けていないに違いないだろう。

「可愛そうに…今助けてやるからな」

鶴の不幸を見かねた与平は、罠から鶴を助けることにした。
職業柄、こういった手作業には手馴れていた与平は、要領よく罠を解除する事が出来た。

「足を怪我しているな。どれ、じっとしていろ」

鶴の足に血が滲んでいるのに気付いた与平は、おもむろに裾の一部を引き裂いて、鶴の怪我をした足に巻き付ける
鶴もまた、不思議なことに与平が触れているにもかかわらず、暴れることなく、手当てが終わるのをじっと待っているかのようであった。

「これでよし。もう罠にかかるんじゃあねえぞ」

手当が終わると、あたかも感謝の意を示すかのように、鶴は甲高く美しい声で幾度も与平に向かって大きく鳴いた。
そして、純白の翼を大きく広げたかと思うと、息もつかせぬ間に、空高く舞い上がり、そのまま飛び去っていってしまった。
まるで恩情の篭ったかのような鶴の行動に与平は、胸の奥から熱いものが込み上げてくるのを確かに感じ取った。

「良いことをした後っていうのは、気持ちいな…」

与平は鶴が曇天の向こうへと消えていくのを見届けると、元来た道を戻り、暖かい気持ちに包まれたまま、爛々と帰り路に着くのであった。






その晩、与平のカンは見事的中となった。しかし、その脅威は彼の予想をはるかに上回っていた。
轟々と叫び声を上げながら生きとし生けるもの全てを凍て尽くす猛吹雪。木戸はガタガタと鳴り、吹き荒ぶ風音が家の中にいても鮮明にと聞き取れた。
これほど酷い猛吹雪は、与平は未だかつて経験したことがなく、不安に駆られていた。
当然、冷え込みも生半可なものではなく、手持ちの薪で暖が間に合うかどうか分からない。与平は改めて薪を多めに採りに行かなかったことを後悔した。

そんな時であった。自然の猛威が雪国を襲う中、人里離れた与平の家を尋ねる物好きが現れたのは。

戸口がトントンと叩かれる乾いた音。
雪が叩きつけるものとは明らかに違う音色に、訪問者であると悟った与平は急いで赴き、戸を開いた。

「夜分遅くにすみません。どうか宿を貸して頂けませんか?」

荒れ狂う吹雪の中現れたのは、雪のように汚れのない真っ白な着物に身を包む、年の頃は二十であろうかという若い女。
腰までスラリと伸びた長い髪は、不思議なことに全て白髪に染まっている。しかしながら、老婆のそれのような朽ちた印象はなく、むしろ「白銀」と名称するにふさわしい壮麗さであった。
美人画をそのまま形にしたかのような整った顔立ちの彼女は、繊細で見目麗しい、まるで絹糸のような美しい乙女であった。
与平は戸板を掴んだまま、しばし息をするのを忘れるほど見蕩れてしまった。

「あの…、どうかなされましたか?」

瞬きせず立ち尽くしていた与平に、女は訝しげに声をかける。
女に呼ばれてようやく我に帰った与平は初めて、彼女が自分の家の戸を叩いた者であると改めて理解した。

「い、いや、申し訳ない。こんな酷い吹雪の中大変だったでしょう。どうぞ、入って下さい」
「ああ、ありがとうございます」

女は安堵したのか、先の僅かに強張った顔をほころばせ、柔和な笑みを浮かべた。
与平は、美女の微笑みにたじろぎながらも中に招き入れ、女が身体の雪を払っている傍らで彼女の荷物と傘を預かった後、部屋へと案内した。




女は名を「おつる」と言った。
何でも、友人の元へ赴く道中、吹雪に見舞われてしまい、今日中に友人の元へ行くのを諦めて、宿を借りて雪をやり過ごそうと思い立ったが、近くに屋敷はおろか、小屋一つさえ無く、襲い来る吹雪に堪えながらも、やっとの思いで見つけたのが与平の家だったのだという。

「わたくしめが難を逃れられたのも、与平さまのおかげ。このご恩は一生忘れません」

おつるは見るもの魅了する華麗な所作で、床に手をつけ頭を垂れる。その丁寧な振る舞いと言葉遣いに、彼女の育ちの良さが伺えた。
容姿の高貴さと相まって、与平にはたとえ彼女が、自分は異国の姫君であると告白をされても、驚かない自信があった。

「いやぁ、俺は当然の事をしたまでです。それより、貴女みたいな人にこんな小汚い家屋で一晩過ごさせるかと思うと、こちらとしても申し訳が立たないぐらいで」
「そんなことありませんわ。むしろ、こんなわたくしめには勿体無いくらいですわ」
「そう自分を卑下しなさらないで下さいな。むしろ乞食と見分けの付かないくらいボロい自分とこのボロ屋敷が惨めに映ってしまうくらい、貴女はお美しいのですから」
「まぁ、そんな…」

与平は彼女を持ち上げるつもりが、自分が真顔で恥ずかしい台詞を言ってしまったことに、口に出してから気付く。しかし、全てが後の祭りであった。
言われたおつるはというと、今にも湯気が出そうなほど顔が真っ赤になり、縮むように俯いている。掌を何度も組み直したり、正座して伏せた足がモゾモゾと動いたり、とにかく落ち着きがない。
落ち着きがないのは、言った本人も同じ事で。視線は宙を泳ぎ、上手く次の言葉を紡ぎ出そうにも、中々思い浮かばず、おろおろしている始末であった。
そうして、途切れた会話をなんとかして嗣ごうとした結果「そろそろ食事にしませんか?」と提案するに至った。

「それなら、わたくしが作って差し上げますわ」

恥じらいから脱したらしいおつるは、顔を上げて与平に言った。

「来客にそんなことはさせられませんよ。今夜はさぞ疲れたでしょうし、俺が作るからそこで待っていてくださんな」
「もし、与平さまがいなければ、私はあの猛吹雪の中で没していたでしょう。貴方様には命を助けられた大恩がある。それを少しでも御返ししたいのです」
「しかしなぁ…」
「どうか遠慮なさらないで下さいませ。それにわたくしは元来、料理は好きな方なのです。貴方様のような素敵な殿方のために作るとなると、なおのこと頑張り甲斐があるというものですわ」

おつるは満面の笑みを浮かべ、煌々とした眼差しで与平を見つめる。
彼女の輝く琥珀色の上目遣いに射止められ、堪らず気恥ずかしくなった与平は、降参の意を示すように目を伏せた。

「そ、そこまで言われると、男として断れないじゃないですか…」

彼女の熱い視線攻撃に根負けし、与平は渋々おつるの要求を飲んだ。
すると、おつるは「さっきのお返しです」と言い、悪戯が成功した時の小娘のように茶目っ気たっぷりに、しかし上品に笑った。
今度は与平の顔から湯気が出る番であった。




「な、なんて美味しいんだ…。この味噌汁…!」
「そう言ってくださると、作り甲斐があったというものですわ」

白い湯気が立ち昇る茶碗の縁に口をつけた瞬間、与平はその味わい深さに衝撃を受けた。
自分が普段作っているのと同じ素材を使っているとは、与平には到底想像が及ばなかった。

「しかし、なにゆえ、ここまで美味しくなるのか…。やはり、隠し味かなにかあるのでしょうか?」
「ふふふ、大したことはしてはいませんよ。そうですね…、もしかして味噌をだし汁に入れて煮る時、温め過ぎていたりしていないですか?」
「ええ、いつも沸騰するぐらい煮ていますが…」
「そこです。味噌汁はあまり煮過ぎると、味噌の風味が飛んでしまうのです」
「そ、そうだったのか…」
「料理はほんの少しの手間で、味が大きく変化するのですよ」

その後、与平とおつるは、二人で湯気の立つ飯を箸でつつきながら料理の話題で花を咲かせた。

おつるの口から湯水のごとく溢れ出る豆知識は、あまり料理の素養が無かった与平にとっては目から鱗の数々であった。
彼女もまた、自分の話に興味を持ってくれているのが楽しいのか、与平の素朴な疑問の数々にひとつひとつ丁寧に、嬉々とした様子で答える。
猛吹雪による、凍てつくような寒さも忘れて、二人で夢中になって喋り続けているうち、気付いたら一刻(二時間)ほど経ってしまっていた。

「随分喋り過ぎていましたね」
「そうみたいですね。自分はなんだかもう眠くなってきました」

大口を開けると、中から不抜けたあくびが出てしまい、与平は慌てて手で塞いだ。
おつるは「あらあら」と微笑ましそうに与平を見た。

「そろそろお休みになられた方がよろしいですね」
「そのようです。では、これから布団を用意しますね」
「いえ、わたくしはまだ床に就きませんわ。今日中にやらなければならない作業があるので…」
「そうですか。分かりました」

与平はさっそく、普段使っているものと予備のものと、計二つの寝具一式を出しに赴くため、胡座を解いて席を立つ。
そして、寝具がしまってある倉庫部屋へ向かおうとした与平に、おつるは「あの…」と申し訳なさそうに引き止めた。

「厚かましいことを承知でお願い申し上げます。あの部屋を今晩貸しきっても構いませんか? あの中で作業がしたいのですが…」

おつるは倉庫部屋を指差しながら言った。

「別に構いませんよ。何なら作業しやすいように蝋燭に火を灯しましょう」

さしずめ友人絡みで、裁縫か何かでもするのだろう。そうなったらどうしても明かりが必要になるだろうと、与平は考えた。

「貴重な蝋燭を、わたくしの我侭の為に…。まことに申し訳ありません」
「気にしないで下さい。こちらとて、あれだけ美味しい夕飯をご馳走にさせてもらったんだ。勘定したらお釣りが出るくらいですよ」
「なら、お言葉に甘えて…」

与平が寝具をひと通り出し終えると、おつるはここに来る時に持っていた荷物を手に、蝋燭の朧げな灯りがぼんやりと照らす部屋の中へと入っていった。
そうして、与平は彼女に就寝の挨拶を交わし、立ち去ろうとしたその時、おつるは「そうそう」と、戸を閉める手前、与平にポツリと告げた。

「決して部屋を覗いてはいけません。決して、決して部屋を覗いてはいけません」

おつるは今まで一度も見せたこともないような神妙な顔つきで、念を押すように「覗いてはいけません」と幾度も繰り返し唱えた。
異様な雰囲気を醸し出す彼女の態度の変化に、与平は言いようのない気味の悪さを覚えざるを得なかった。
部屋の戸は、とうに閉められているというのに、与平はその場に立ち尽くしてしまっていた。






あれから、すぐに床に就いた与平であったが、半刻(一時間)ほど経ってなお、未だ就寝してはいなかった。
普段なら疲労によって一瞬で意識が沈むというのに、今日に限って中々寝付けがよろしくない。
しかし、原因は分かりすぎる程に分かっていた。
あれから、彼女の別れ際のあの意味深な言動と表情が、頭にこびりついて離れず、与平の思考を支配している。

『決して部屋を覗いてはいけません』

おつるの放った言葉を、頭の中で反芻する。
「なぜ、覗いてはいけないのか?」「覗かれると困ることがあるのだろうか」
理由を考えれば考えるほど、与平の好奇心は膨らみ続ける。
膨らみ続けた好奇心は、やがて「倉庫部屋の戸を開けた先にある光景を見てみたい」という欲求を孕んだ。
しかし、それは彼女との約束を破ることとなり、如何わしくない結果をもたらすことぐらい、学の無い与平にも容易に想像はつく。
けれど、一度膨らんだ好奇心は中々萎むことはない。むしろ膨らみ続ける一方である。
好奇心のおもむくまま行動を起こすか、彼女の言いつけを守るか。どっち付かずの板挟みになった与平はますます眠れなくなった。

『のぞいていることが見つからなければ問題ない』

その時、彼の中の悪魔が耳元で囁いた。
彼はその悪魔の囁きに突き動かされるように無意識に床を離れ、夢遊病者のごとくふらふらと歩き出す。
ふと気がつけば、与平は彼女に何度も念を押された「決して覗いてはいけない戸」の前まで辿り着いていた。彼は好奇心に屈してしまったことを気に病んだが、それ以上に扉の向こうの景色が気になって仕方がなかったのだ。
彼は戸を開ける前に、心のなかで『見つかれば問題ない』と復唱した。
そして、倉庫部屋の戸板の出っ張りを掴み、木の擦れる音の出ないよう慎重にずらして、一寸の隙間を作った。
この隙間の向こうにあるのは、何の変哲の無い『おつるさんの手縫いの作業模様』であって、与平の膨張し続けた期待を裏切るにたりうる光景である。そう与平は確信していた。むしろ願っていた。
しかし、与平が目の当たりにしたものは、与平の期待を悪い方向で裏切るものであった。


蝋燭の仄かな橙色の明かりが、小物や道具の類が散乱する床にへたり込み、壁に寄っ掛かる彼女を仄かに照らす。
彼女の白魚の指は、針と糸で布を縫っているのではなく、彼女の股座へとそっと添えられていた。
はじめ、与平には彼女が何をしているのかさっぱり理解出来なかった。

「ふぅっ…ん…んぅ…っくぅ…」

右手が曝け出された秘所を上下に行き来するたびに、熱にうなされているように、くぐもった声を上げるおつる。
与平は彼女が倉庫部屋で一人、一体何をしているのか。
そして何の為に自分に部屋を覗かないよう念を押したのかを、熱で氷が徐々に溶けるように解せた。
単刀直入に言ってしまえば彼女は、自慰をしていたのである。

「っ!?」

与平は危うく声を出すところであった。
あの、貞淑で純潔の権化とも呼ぶべき彼女が。よりによって自分を謀り、あまつさえ人の家で秘密裏に自らを慰めていたなどと、にわかに信じがたかった。
与平は、五臓六腑を地面から生えた腕に握り締められ、引っ張られるような気分になる。重く深い衝撃を受けて立ち眩み、立っているのがやっとの状態。
『このまま戸を完全に閉めて、この場を立ち去る』
こんな簡単なことで、今夜の出来事を無かったことにすることが出来るのだ。与平はすぐさま実行しようと思い立ったが、結局彼には出来なかった。
何故ならば、戸を閉めようと手をかけた時、与平は再びその場景を瞳に捉えてしまったのだ。
家主を騙して、自慰に耽る美しい娘。
着物は大きくはだけ、まるでこちらに見せつけるかのように両足を大きく開口し、下半身が丸見えとなっている。
肉付きのいい白い太腿、そしてその付け根にある乙女の秘密の花園を指先が時に優しく時に激しく、緩急を付けて撫でる。
長いまつ毛が儚げな俯き顔には、与平の知る淑女の面影はなく、色香漂う女の顔があった。
与平はいつしか、そんな彼女の痴態に夢中になっていた。

「ぁああんっ……いけませんわ…与平さまっ…そんなところ…触っては……っ!」

突然自分の名を呼ばれ、与平またもや声が出そうになる。
しかし、与平の覗きが見つかったわけでは無かった。彼女は未だに自慰に耽っている最中であった。

(ま、まさか、おつるさんは、俺をおかずに・・・!?)

与平には皆目見当がつかなかった。
何故彼女が部屋を貸しきり、自慰をしているのか。そして、何故自分の名を呼ぶのかを…。
しかしながら、彼女が何を夢想し、自らを慰めていているのか想像に及んだ時、与平の心臓は大きく高鳴った。
疑問の追求など今の与平にとって、もはやどうでも良く、頭の隅に追いやられる。
理性を侵食し始めた肉欲の昂ぶりは、熱を帯びた己の分身のように、今にもはち切れんばかりに膨張し、とても抑え切れるものではなくなってきていた。

(おつるさん…! ごめん! 俺…!)

与平は熱り立つ、己の分身を荒々しく掴んだ。そして一心不乱に擦り続けた。
おつるさんの美しい顔立ち。
おつるさんの綺麗な髪。
おつるさんのきめ細かい肌。
おつるさんの白い太腿。
おつるさんの秘所。
清楚なおつるさん、淫乱なおつるさん。
与平はおつるの全てで頭の中でいっぱいだった。
切ない声で自分を呼ぶおつる。そして自分もまた彼女の名を心のなかで呼ぶ。
頭の中で、彼女の秘所を弄る右手を自分のゴツく毛の生えたものに置き換える。
自分は彼女の華奢な体を後ろから抱え、割れ目を指先で撫で回していた。

『おつるさん。ここが気持ちいいんだろ?』

耳元で囁く。

『ああ! だめです……与平さまっ!』

現実の彼女も自分の想像に合わせて受け答えした(かのように感じた)。与平は、今まさに彼女を犯しているかのように錯覚し、ますます興奮した。
戸の隙間から女の痴態を覗きながら発情した猿のように、自らの性器を擦り続ける男。
その様相はなんとも不埒であったが、当人達にはまるで自覚は無い。

(も、もう駄目だ…出る……!)

与平の我慢の限界が超え、煩悩を解き放たんとするその時。彼は三度(みたび)、肝を潰す事となった。

「覗いてしまわれましたね? 与平さま…」

おつるをずっと凝視していた与平は彼女と初めて目が合う。
――その刹那、与平の中の時間が止まる。
彼女は続けざま言った。

「あれだけ申したのに…。約束を破ってしまわれたのですね…」
「ひっ!」

与平は、背中から外気のものとは明らかに違う寒気を感じた。
火照った熱は、氷水を浴びせられたように急激に冷め、体中から垂れていた健康的な汗は不快なものへと変わる。
与平は反射的に身を翻した。そして、脱兎の如く駆け抜けた。
とにかく、この気まずい状況から一刻一分でも早く逃げ出したい、その一心で。






与平は襲いくる罪悪感や自責の念から、身を守るように布団の中に籠城していた。
暗闇の中で彼は、震えながら自らの行いを悔いた。
想像とはいえ、自分はおつるさんを汚したのだ。そして、自らの不埒な行いはおつるさんの知れるところとなった。
あの時、見なかったことにしておけば、こんな事態には為らなかったと思うと、胃がキリキリと痛む。
だが、何度悔いたとて、もう全てが遅いのだ。

「与平さまは本当にいけないお方ですわ…」

与平は、いるはずのない女の声に怯えた。
「許してくれ、許してくれ」と悪霊を払う呪言のように、幾度となく繰り返す。
恐怖のあまり幻聴が聞こ出す始末だと、初め与平は思い込んでいたのだが、少し違和感があった。
確かに人がいる気配が、布団の向こうから発せられるのだ。

「与平さま…、おつるはここにいますよ。どうか布団を除けて下さいませ…」

自分の心の内を覗くよう、語りかける澄んだ声。間近に聞こえるそれは、紛れもなく聞き慣れたその人のもの。
与平はおそるおそる、布団を払った。

「お、おつる、さん!?」

与平は驚愕のあまり、心臓が口から飛び出してしまうのではないかと思った。
確かに声の主、おつるはそこにいた。
しかも、あろうことか布団ごしに自分の体の上に跨っていたのだ。
彼女の近付く足音と、体の重みに気づかず、ここまで接近を許していたことが、与平には不気味で仕方がなかった。

「ふふふ…与平さまったら。そう怯えずともご心配なさらないで下さい。わたくしは怒ってなどいないのですよ」
「でも…でも俺は、おまえさんとの約束を無碍にした上、その…、あなたで…」
「確かに与平様は約束事を無碍にしました。それは罰せられるべきことかもしれません。
ですが、人とは『するな』と念を押されると、かえって『してみたくなる』生き物ゆえ、与平さまの気心が知れぬ訳ではありません。それに、わたくしの自涜を覗いた貴方なら大方察していただけるはず」
「な、何を…?」

彼女は美しい顔に、妖しい笑みを浮かべた。
部屋の蝋燭の明かりに照らされた白い肢体と相俟って、妖艶な雰囲気を醸し出す。
清楚で貞淑な印象の強く残るおつるの変わり様に、与平は当惑しながらも、収まっていた熱が再び身を沸き立ってくるのを感じた。

「あなたがわたくしを慰みにした時、わたくしが女としての悦びに打ち震えていたことを・・・」

そう言うと、彼女の整った顔立ちが眼前に迫ってくる。
甘い吐息がかかる距離まで詰めて止まると、静かに煌めく彼女の銀髪が顔の両側に垂れた。
若い娘に免疫の無い与平は、ここまで女体と密接したことはかつて無く、与平は意図せずおつるを払い除けようとし、両肩を掴む。

「おつるさん……、俺…分からねぇ…分からねぇよ! どうして、どうしてこんなことするんだよ!」
「どうしてって…。この期に及んでまだお気づきになれないのですか? それとも、与平様はわたくしのことが嫌ですか…?」

おつるは、自分が否定されたのだと思い込み、不安の色を宿した双眸を与平に向けた。

「そんなことない! むしろ、おつるさんみたいな別嬪さんに好かれるなんて、男として嬉しくないはずがねぇ! でも、分からねぇんだ!
なんで、おつるさんは俺なんかに惚れるんだよ…! 少しばかり体力に自信があるだけの、貧乏で何の取り柄も無く、金も名誉も地位も無い、こんな干物みたいな人生を送っている男に!」

与平を狂乱させていた感情は、驚愕でも、困惑でもない、一種の恐怖であった。
人間の恐怖の根源は未知から来る。与平にはただ、理解が出来なかったのだ。
明らかに自分と吊り合わない、本来なら高嶺の花のような女性が、まだ出会って間もない自分の事を好いている。
そんな非現実的な幸運を嬉々として受け入れるほど、与平は気楽な性格ではなかった。

「そう自分を卑下しなさらないで下さい」
「な…」
「そう言ったのは他でもない、あなたではありませんか。わたくしは知っています、与平様は誰よりも優しい心をお持ちなのだと。貴方は自分で気付かれていないだけなのですよ」
「出会って間もないお前さんに、俺の何が分かるんだ!」
「分かりますわ」

おつるは突き刺すような真剣な眼差しで与平を見据えた。
与平は射抜かれたように、彼女の視線に制され、何も言えなくなった。

「これから、わたくしは貴方様の優しさを知る者の話をします。それは貴方様もよくご存知でしょう」

おつるは神妙な面持ちをし、凛とした口調で語り始めた。






あるところに、誤って人間の罠にかかってしまった哀れな鶴がいました。
足を囚われ、動けなくなった鶴は、仲間に助けを求めましたが、仲間は素知らぬふりを通し、やがてその鶴を見捨てどこかへ去ってゆきました。
鶴は途方に暮れました。このままでは自分は野犬に食われるか、人間に見つかって捕まるか、それともこのまま餓死を迎えるか。いずれにせよ、暗い運命のみが待ち受けているのは火を見るより明らかでした。
そんな中。哀れな鶴の暗い運命に、一筋の光をもたらす者が現れました。
彼の者は、鶴の足枷を解き、解放するどころか、怪我の手当までしてくれたのです。
命を助けられた鶴は、彼の者に感謝しきれぬほど恩情を抱き、彼の者と添い、支える者となって恩を返すことを決意しました。
その晩、鶴は人の姿を取り、彼の者の家へ訪れました。そして、彼の者と相対しているうちに鶴は気付いたのです。
仲間に裏切られ、絶望に打ちひしがれていた心を、優しく包み込んでくれた、そのひだまりのような暖かさに惹かれ、彼の者を慕っている事に。
そう、鶴が彼の者に抱いていたのは恩義ではなく、恋慕の情だったのです。






「そ、そんな…まさか…」
「私は知っています。貴方様は金や名誉や地位よりも、大切なものを持ち合わせているのを――」

与平が罠にかかった鶴を助けた時、周囲に人一人としていなかった。故に目撃者がいるはずなどない。しかし、目の前の彼女はその時の状況を事細かに把握している。
ならば、導き出される答えはただ一つ。

「おまえさんは、あの時の…!?」
「与平様。もう、わたくしは自分の気持ちを抑えることが出来ません。わたくしは貴方様のことを、お慕い申しております…!」

与平の唖然と開いた口が、彼女の柔らかい唇によって塞がれる。
そして、息もつかせぬ間に、彼女は舌を口内に侵入させた。

「んっ……ちゅ…」

彼女の舌は意思を持った生き物の如く蠢き、与平の舌を蔓草のように螺旋状に絡みとる。
突然のおつるの行いに当惑しながらも、口の中を満遍なく舐め回す肉厚な舌の感触によって、頭が熱に浮かされ、ふわふわとした心地いい感覚に陥り、次第に自分からも積極的に舌を動かし始める。

「っ…んちゅ…くちゅ…ぬちゅ……んふぅ」

そうして、二人の舌と舌による口内の撹拌は、小一時間続いたと錯覚するほどに長い間行われた。
やがて十分に堪能し満足したらしいおつるは、ようやっと与平を解放する。
顔が離れた際、口と口の間に銀の糸が名残惜しく紡がれた。

「っん……ふぅ、ごちそうさまでした…。ふふ…与平様のお口。とても美味しゅうございましたわ…」
「はぁ…はぁ……お、おつるさん…」

「わたくし、与平様の事をもっと知りたいのです…。だから、教えて下さい…」

おつるは、細くスラリと伸びた白魚の手のひらを、衣服の下から与平の肌に直に滑りこませる。
潜り込んだ手は、へそを起点に蛇のようにするすると這い、やがて股間へと辿り着いた。

「与平様は私を慰みにした時。一体わたくしをどのように辱めていたのでしょうか…」

彼女は既に屹立しかかっていた彼の肉棒に、華奢な指をそっと添える。
そして、そのままゆっくりと上下に擦り始めた。

「こんな風に、自分のものを擦りながら、どんな淫らな空想をなされていたのですか…?」
「そ、そんな…。こと、とてもじゃ、ないけど、言え、ない…くっ」
「恥ずかしがらなくても、いいのですよ。自分に素直におなりなさい。わたくしは与平様の全てを知りたいだけなのですから…」

おつるは優しく諭すように、耳元で囁いた。
彼女の生暖かい吐息が耳朶をくすぐり、甘い誘惑の言霊が鼓膜を伝って与平の頭に浸透する。
己の分身を撫でる肌触りの良い指の感触と相俟って、与平の思考を蕩けさせた。

「俺は、その…、おつるさんの、なんというか…」
「遠慮なさらないで…何言われてもわたくし怒りませんから…」
「わ、分かったよ…、お、おつるさんの…大事なところを。俺が自分の手で…弄り、ました」
「ふふ、なるほど……。いいですよ、与平様。貴方が夢想した時と同じよう、わたくしのあそこを触っても…」
「え…?」

おつるはそう言うと、自らの股座を見せつける体勢になった後、着物の裾を一捲りした。
すると下半身を隠すものは一切無くなり、女の秘所が与平の目の前に曝け出される。
途端、不規則に高鳴っていた与平の心の臓がひときわ大きく弾けた。
おつるの下腹部に引かれた綺麗な一本筋。その閉じられた溝から薄桃色の襞が少しはみ出していた。
覗き見した時には確認出来なかったが、割れ目の周囲には髪と同じ色の白い毛がうっすらと繁っている。
生まれて初めて見る女性の性器を目の当たりにした与平にとって、女体の神秘の象徴とも言えるその蠱惑的な光景に、生唾を呑まずにはいられなかった。

「さぁ、どうぞ…。お好きなように、このおつるめの秘所を弄んで下さい…」
「――ほんとうに良いんですか?」
「はい…」
「し、じゃあ。触るよ…。おつるさん……」

与平は震える手で、己の生涯において縁のないと思われていた女性の性器へと手を伸ばす。
中指と人差し指を差し出したまま溝口へと到達すると、まるで高価な芸術品を扱うかのように、スルスルと彼女の割れ目を行き来させた。

「ひぁ…、そう…それで、いいんです」
「おつるさんの、すごく綺麗…触り心地もいい…」
「ふふっ…ありがとう、ございます…ん」

与平の指先が割れ目を往復する都度、おつるは小さく悲鳴を上げ、身体が自分の手の動きに合わせて、快感に身を震わせる。
彼女の反応の良さに気をよくした与平は、調子に乗り、愛撫をいっそう激しくした。

「ああっ! や…くぅ」

指先の激しい責めに甘受し、おつるの白い肢体が痙攣する。
喘ぎ、悶え、そして時折色香を含んだ溜息を漏らす。
そんな彼女の扇情的な姿に肉欲を掻き立てられ、与平はますます彼女を弄ぶのに夢中になった。

「あぅん…、もう、与平様ったら…。そんなに、激しく、なさって、助兵衛…、なんですね…ぅあ」
「それは、お互い、さまじゃないですか…。おつるさんだって、興奮、してるくせに」
「まぁ…女性に向かってぇ、はぁあ……そんな事をはっきりと、おっしゃるの、はぁ…失礼……ですことよ? そんな無礼な殿方には、罰を与えなければ、なりませんね…」

すると、今までされるがままになっていたおつるは、彼の昂りを象徴するかのように勃起しきった肉幹を掴み取ると、そのまま荒々しく扱き始めた。
突如、襲いかかる滑らかな指が高速で摩擦する甘い感触に不意を打たれる。与平はそのまま彼女から与えられる快楽に甘んじてしまい、手の動きを止まってしまう。

「ああっ!? ちょ、ちょっと…! おつるさん! は、はげし、すぎ!」
「あらあら…与平様ったら…罰を、与えられているはずなのに…嬉しそうですねぇ…ふふふ」

嗜虐的だが、どこか楽しそうな笑顔のまま、与平を見下ろすおつる。
責める側から責められる側へ。
先ほどまで優勢に立っていたはずが、いつの間にか立場が逆転してしまったという事実に、与平は男として僅かに屈辱感を味わうが。
肌触りのいいおつるの素手で分身を直に扱かれる快感の前に、心底どうでもよくなっていた。

「ああああ!! おつるさん…! も、もう…我慢出来ない! で、でそう!!」

度重なる扱きの刺激によって、与平はいよいよ限界へと近づいていた。
彼女の綺麗な掌の中でビクビクと脈打ち始める、醜悪な雄の性器が爆ぜようとする。その時。

「いけませんわ」

先程までの態度とは打って変わって、おつるは悪さをした子を厳しく叱咤するような語気で言いつけると、まるで液漏れを防ぐため、栓を締めるかのように、竿の根本を力一杯握りしめる。
柔らかく抱擁するような甘美な感触から一転、縄で締め付けるような痛みが襲い、与平は思わず呻き声を上げてしまう。間近まで迫っていた射精感はすっかり収まってしまった。

「な、どうして…止めるんですか…」
「勿体無いからですわ…。ふふ…与平様の大切な子種…、一滴足りとも無駄にしたくないんですもの…」

すると、おつるは着物の帯を掴み、鮮やかな手つきでそれを解いたかと思うと、スルリとした布切れ音と共に長い帯が床に落ちた。
着物を締めていた帯が外れたことによって胸元がはだけ、そこから垣間見える肌を凝視している与平の顔を見たおつるは満足気に微笑すると、着物を一気に脱ぎ去った。


「――美しい…」

恥ずかしげもなく、思わずそう呟いてしまうほどに、与平は彼女の一糸纏わぬ姿に見とれてしまった。
汗が雫となってしたたり落ちる白い素肌は、蝋燭の灯火の僅かな光源すらをも反射し、艶やかな光沢を放っていた。
着物を着ていた時には分からなかった、豊かな乳房、無駄な贅肉の無い腰つき周り、子を宿すのに理想的な形の良い尻といった、女性らしい身体の凹凸。
その全てが彼を魅了し、雄としての本能が劣情を駆り立てた。おつるもまた、頬を鬼灯色に上気させ、瞳は情欲の色に染まっている。

「我慢出来ないのでしたら、せめて、このおつるめの中で存分にお出しになって下さい…」

そう言うと、おつるは一連の行為によって興奮し、既に濡れそぼっていた秘所に二つ指を当てつける。そして焦らすようにゆっくりと開口させ、満開になった桃色の花びらを与平に見せつけた。
与平は、これから彼女と交じり合うという淫猥な期待と、男女の関係の決定的な一線を超えようとようとしている彼女の行動に対する躊躇い。二つの相反する意思の葛藤の渦に囚われながらも、理性を辛うじて働かせ、彼女に抵抗の意を示した。

「ちょっと、待っておくれ! いくらなんでも、それは――」
「与平様…。正直に申し上げます。今、わたくしは与平様と交わりたくて仕方がないのです…。与平様に奉仕する為ではない、他でもない己が欲情のために。たとえそれが与平様の意思を蔑ろにすることとなっても…」

全力疾走してきたかのように呼吸は乱れ、紅潮した顔のおつるは全てを自白する傍ら、何かに取り憑かれたかのように熱に浮かされ朦朧とした手つきで与平の着物を下ろした。
すると今まで、布越しにその存在を主張していた剛直が冷たい空気に晒される。
天を衝き、反り返る立派な男根を目にしたおつるは、潤ませた眼でまじまじと見つめ、切なげに溜息を吐いた。

「わたくしは与平様を蔑ろにする自分が恨めしい…、けれど、身体が火照って疼いて、どうにかなってしまいそうなのです…。わたくしの中の汚らわしい獣が貴方様という雄を欲している…。もう自分でも歯止めが利かなくなってしまっているのです…」

おつるは丸腰になった彼の下半身に跨ると、そそり立つ分身を片手で添えて女芯の入り口へと導き、先端をあてがった。
与平にとって、美しい乙女が自分を求め、迫るその痴態は、女娘に免疫の無い彼にとってあまりに魅惑的過ぎた。心臓が早鐘を打ち、全身が熱くなる。
そしてなにより、射精を寸止めされたおかげで焦らしに焦らされた肉欲が、理性の迫害を助勢し、燃え盛る欲望の炎がその身を焦がした。
与平もまた、表層上は否定しつつも、心の底では背徳を隅に追いやり、純粋におつるとのまぐわいを望んでしまっていた。

「ですから…、どうか……どうかこの卑しくて淫乱なおつるめの、御無礼を、お許し下さい…!」
「おつるさん…! 俺…!」

下の口にあてがわれた肉棒目掛けて、躰を慎重に押し出すと、穂先が彼女の割れ目を貫いた。

「くぅ…はぁ…」

おつるは女の聖域に異物が入り込む感触に戸惑いながらも、熱り立つ肉棒を全て収容すべく、自重に任せて一気に腰を下ろす。
柔らかい肉の詰まった蜜壷が、粘着質な水音を立てながら堅固で焼けるように熱い肉槍の侵入を迎え入れる。中を満たしていた愛液が潤滑油となったお陰で、それほど抵抗無く剛直が性器の中へと収まった。

「んぅうううっ…。はぁはぁ…ついに…与平様と一つに…っ!」
「っ!?」

生まれてこの方、女娘との経験が無かった与平が初めて味わう媚肉の洗礼。
温かい泥濘みが分身を余すこと無く包み込み、膣壁を埋め尽くす無数の襞は、吸血蛭の如く奥へ奥へと取り込まんとばかりに蠕動して吸い付き、肉棒を締め付ける。
おつるに責められ、限界寸前になっていた与平の分身が、その女肉の蕩けるような感触に太刀打ち出来るはずもなく、あっさりと彼女の中で達してしまった。

「ぐぅう、でっ……あああああ!!」
「…え? きゃあ!?」

与平は、彼女の中に直接精を放つ事を恐れ、限界が来たことを伝えたかったのだが、喋る言葉も言葉と為らず、既に手遅れであった。
塞き止められ淀み滞っていた欲望の奔流は、忍耐の堰が瓦解したことにより、怒濤の勢いで肉洞に解放される。
与平が今まで味わったことの無いほどの、分身から弾けるように煩悩が解き放たれる凄まじい開放感は、中出しの躊躇さえも吹き飛ばし、頭の中を快楽の色に染め上げる。
彼女の膣に深く挿入された男根は大きく律動し、その最奥部に白い粘液を吐き出し続けた。

「あああ…っ! 与平様の…赤子の…素がぁ……いっぱい…わたくしの…なかにぃ…」

おつるは、彼と結合したまま恍惚とした表情で目端に涙を浮かべる。
止めどなく溢れ、子宮を満たす熱が、愛する雄が自らに精を授けているという紛れも無い事実を知らしめ、彼女の肢体は悦びに悶えた。

「与平様ったら……。わたくしと繋がった途端に出してしまわれるなんて……んふふ…」
「すまねぇ…俺…つい、おつるさんの中に…」
「謝ることはありませんわ。むしろ…、もっと下さい……。与平様ので、わたくしの中をもっと満たして下さい…!」

すると、暴発した後も勢いの衰えぬ肉棒を下の口に咥え込んだまま、与平の胸に両手を付き、腰を上下させる。
しかしながら、心なしかおつるの動作にぎこちなさが見受ける。
与平はふと見やると、おつると繋がった箇所の隙間から漏れ出た精液に混じった鮮血色を確認した。

「こ、これ…まさか…」
「…心配はぁ…無用、です、よ…。この身を初めて、貫かれる、痛みよりも…今、与平様と…くあぁ…交わっていることの…喜びの方が…勝っているのです…からぁ」

おつるもまた雄との経験は無く、性交には激痛が伴っていたはずであったが、内に燻る性衝動が彼女を突き動かし、刺すような鋭い痛みを顧みることなく身を躍らせた。

「はっ…ぅ…くぅ…んぅ…」

腰を引いて秘所から分身を引き抜き、樹幹が露出し傘の手前を折り返し地点に下半身を押し出すと、剛直は蜜壷の中に打ち込まれ、再び熱を持った肉沼へとずぷずぷと埋まってゆく。
何往復、何十往復と一連の抽送を繰り返していくうち、段々と痛みが快感へ変換されていったのか、少しずつ彼女の抽送にぎこちなさが無くなり、腰の動きが円滑になっていった。
最初こそは顔に苦痛の歪みが僅かに表出していたのだが、動作が流暢になるにしたがって苦悶の表情が次第に甘く蕩けてゆく

「ふぅ……くぅう…あん…んくぅ」

粘着質な水音を辺りに響かせながら、分身から伝わる、蕩けるように熱く柔らかい蜜壷を往復する甘美な味わい。己の上で献身的に体を動かす白い素肌の美しい彼女。
豊かな膨らみは上下の動きに連動して揺れ、肉棒が深く挿入され奥を突かれる度に快感に喘ぐ。その献身さと妖艶さが狂おしいほどに愛おしく、与平の心と身体を虜にする。
肉体経由の快楽の伝搬と扇情的な光景による視覚の刺激は与平の思考回路を焼き切り、やがて人間としての理性を融解させ、彼の中で眠っていた獣を目覚めさせる。
理性の殻を食い破り、這い出したその者は彼の本能に直接語りかける。雌を貪れ。と

「おつるさん…! 俺っ!!」
「ひぁあっ!! よ、与平さまっ!? ふぁっ!!」

発情し、理性を失った彼はおつるの腰を鷲掴みにしたかと思うと、下半身を荒々しく上下し始めた。

「あっ、あっ、んぁっ、んぐぅ、はぁ! よ、へい、さ、ま…! は、はげし…ひぅ! すぎ、ますぅっ…んっっ!!」

血に飢えた肉食獣の如く、喰らい付くように雄肉を彼女の躰の芯に、何遍も何遍も深く強く打ち付ける。
与平が下から突き上げる都度、肉棒の先端が子宮の突き当りを叩き、衝撃を受け止めるかのようにおつるの華奢な肢体が揺さぶられる。
おつるは、秘所を衝かれるたび悲鳴にも似た短い声を上げる。目の焦点が定まっておらず、口の端からだらしなく涎を垂らした彼女の顔は、体裁など微塵もない、肉欲に駆られた雌の顔そのものであった。

「あああぁ!! も、う、だめぇ…だめえ…!! アソコ…っい、イク…! イッちゃう…!! んあんっ!!」

快感を絶え間なく与えられたおつるは卑猥な言葉を連ね、悶えながら、やがて絶頂へと続く踏み段を一気に上り詰めてゆく。
彼女の興奮に呼応したのか、女性器がまるで「早く子種をおくれ」と催促するかのように中の襞々がザワつき始め、分身を一層追い立てる。
与平の一物もまた、限界に到達するまで秒読みに入った。

「おつる、さん…! 中に、出すよ…! うっ! ぐぅううあああ!!!」
「いく…いく…! いっ、くぅううううっ!!!」

与平が一際大きく彼女の身体を貫いたその寸陰。若い男女はほぼ同時に雄叫びを上げる。二人の視界が白く爆ぜた。
おつるの上半身は湾曲を描くように反り返り、ビクビクと痙攣する。秘所の尿道口から女の絶頂の証である潮を噴出させた。
与平の雄肉が彼女の中で暴れ、のた打ち回り、二度目にもかかわらず大量に迸った白い欲望が、子宮の中へ撒き散らされる。
おつるは暫し、全身を奔る快楽の電撃に身を震わせていたが、やがて張り詰めた糸が途切れるように、反り返っていたおつるの上半身は前のめりに倒れ、与平の身体にもたれかかる。
そうして、二人は肩で息をしながらしばらくの間、激しい運動の後の余韻に浸っていた。

「はぁ…はぁ…もう……。わたくしが与平様を、気持ちよくして差し上げるつもり、でしたのに…、逆に気持良く、させられてしまいました…」

余韻から抜けたおつるは、息を整え終えると、与平の耳元で力無くそう言った。
納得がいかず少し怒っているようにも聞こえる彼女の口調。与平にしてみれば、拗ねた幼い少女みたいで可愛らしく思えた。

「はぁ……だって…おつるさんが、あんなにも、色っぽかったから…つい…」
「与平様は…わたくしにそこまで、欲情なさって下さったのですね…」
「そりゃ、…もう」
「ふふ…。あんなにも激しく求められれば…女、冥利に尽きるというもの、ですわ…。――あら?」

おつるの膣からの感触で、与平のものがいまだ硬さを維持しているのに気づく。二度果てたというのに、肉棒は未だ萎える気配を見せず彼女の膣内で熱り立っていた。

「んふふ…。この様子でしたら、まだ与平様のは…満足していないようですね。」
「ああ、そうみたいだ…。俺、もっとおつるさんと…したい…」
「ふふ、嬉しいですわ…。――では、今度はわたくしに全てお任せを…。与平様は動かなくて構いません…、力を抜いて…このおつるめに委ねて下さい…」
「う、うむ…」

与平はおつるの言われるがままに身体の力を抜くと、おつるは上半身を密着させた体勢で、弧を描くように腰を動かし始める。
グニグニとした柔らかく弾力のある子宮口が、おつるの動きに合わせて亀頭を咥えたまま舐り回す。
分身で最も弱い部分を重点的に責められ、達したばかりで敏感になっていただけに、激しい快楽となって与平を襲い、甘い衝撃が下腹部を駆け巡る。

「はぁはぁ……与平さまっ…くぅ…どうで、すか…? きもち……いいですか…? んっ」
「ああっ、すごい…! 先っちょが…グリグリ押し付けられて…っ。気持ち、いい!」

彼女の丹念に愛でるような腰使いは、欲望の赴くままの粗野で暴力的な自分のものとは違い。相手を気遣い優しく、しかしじっくりと確実に相手を追い詰める、実に彼女らしい責め方だった。
自分の胸板に密着するおつるの暖かく柔らかい乳房の心地いい感触と、分身を下の口になぶられる快楽に。与平は、風邪を引いた時のように頭がボーっと熱くなり、腰がフワフワと宙に浮いているような心地いい感覚に陥る。

「んふふ……与平様の、お顔。とっても気持ちよさそうに、…あん、蕩けてらっしゃいますわ…はぅ…では、もっと、…気持ちよくさせて、差し上げますわ…」

おつるは弧を描く円周をより大きくする。すると肉棒全体を覆う膣壁の圧迫が増し、牛の搾乳のように蜜壷が分身をより強く締めつけ、絞り上げる。

「ひぅう! こ、これ…やばいぃ…!」

増々苛烈を極める快感の波に、思わず女娘みたいな声を上げる与平。
おつるは彼の反応にある種の達成感を抱きながら、自身もまた秘所を、煮えたぎるように熱い肉棒が掻き乱し、穿つ感触が与える、痺れるような快楽に身を焦がした。

「あっ…くぅ……ふぁ…はぁん!」

おつるの昂りに合わせて、より速く、より激しくなってゆく腰の動き。女は男に尽くし、男は女の奉仕を甘受し、女にも快楽を与える。
快楽が振り子のごとく相互に伝播され、二人の性の渇望は一層加熱してゆく。

「ふぅうんっ…はぅん……はぁはぁ…腰が…止まりませんっ……ひぁああっ」

おつるの優しく丁寧だった腰使いも、上下運動に横回転が加わった縦横無尽な動きで、滅茶苦茶に振りたくるという、肉欲を貪るものへと変貌する。
与平もまた、動かなくてもよい、と言われていたのにも関わらず、性欲に理性を支配されたせいか、腰が無意識に女体を犯すようにカクカクと動き、秘所を衝き続けた。
燃え盛る炎の勢いの如く、熱烈に絡み合い交わり合う若い男女。肉と肉がぶつかり合い、分身が肉洞を行き来するたび、結合部から雄と雌の体液が飛び散る。
発情した獣のような喘ぎ声と荒い息遣い、そして粘膜を擦り合う淫らな水音が部屋中に響き渡る。吹き荒ぶ猛吹雪による凍える夜さえも、二人にとって、もはや熱帯夜も同然であった。

「はぁはぁ! んぁ…! くうぅ! あんっ!」
「おつるさん!! お、俺もう…だめだ!! また、出そう!!」
「いい、ですわ! んっ…遠慮、なさらないで…っ! はぁはぁ…! この卑しいおつるめのぉ! 膣内(ナカ)に、与平様の子種を、今一度っ! 出して…! 下さいぃ!!!」

二人の興奮は最高潮に達する。
互いに愛し合い、求め合い、貪り合う。
分け隔たれた二人の精神と肉体が、快感を求める先にある共通の到達点を目指し、やがて溶け合い、もつれて、一つになる。

「ああああ!!! で、出るぅううう!!!!」
「んああっ!! もうっ!! ダメぇえ!!! イク…!! イクうううううう!!!!」

ビクビクと脈打ち怒張した肉槍が、女芯の最奥部を突き立てた瞬間、彼らは再び同時に絶頂を迎えた。
暴発した肉棒が、彼女の下腹部を貫いたまま脈動し、欲望の塊を子壺の中へと大量に吐き出す。そして、断続的な甘い痺れが肉棒を中心にして下半身に広がり、与平を蕩けさせた。
男女の混濁液で汚れた胎内に放たれた子種は、彼女の子宮のそこかしこを隅々まで満たし尽くし、容量以上に器に注がれた水が収まりきらず溢れかえるように、結合部の隙間から漏れ出る。
おつるは与平の身体に力強くしがみついたまま、絶頂の激しい快楽に打ち震え、解き放たれた精を恍惚の表情を浮かべながら受け止めた。

「はぁはぁ……与平、様……」
「お、おつるさん……」

絶頂の余韻に浸りながら、息も絶え絶えに互いの名を呼び合うと、口づけを交わし、互いを求め合うように舌と舌を絡ませる。
くちゅくちゅと音を立てながら、口内のあらゆる場所を舐めとり、唾液の交換を行う。蕩けるような甘い口溶けによって、二人の内に燻っていた欲情の炎が再び勢いを取り戻す。
そして、それがさも自然であるかの如く、互いに腰の動きを再開させた。


蝋燭の僅かな光が照らす薄暗い部屋の中、床の上で延々と絡み合う男女。
二人の熱帯夜はまだまだ終わりそうにない。






「なんだか、いつの間にか外が明るくなってる…」
「ええ。時が経つのは早いものですね」

おつると与平は生まれたままの姿で、床の上で向かい合っていた。
あれから何度果てたかも分からぬほどに、交わり合い、求め合っているうち。気がつけば、宵を越していたのだ。
与平は自分の精力が、まさかここまで強かったとは夢にも思わなかった。また同時に、それほどまでにおつるという女性がいかに自分を夢中にさせたのだと、しみじみ感じていた。
しかし、と与平は思う。いくら向こうが積極的だったとはいえ、自分が彼女を汚してしまったのもまた事実。
あの清廉潔白なおつるさんを自分の小汚い体で犯してしまったという、高尚な芸術品を傷付けてしまったかのような罪悪感に、否が応にも苛まれてしまう。

「どうかなさったのですか? 与平様…。顔色が優れませんが…」
「へ? いや、そんな事ないですって」
「――やはり、人で無いわたくしと契りを交わし合うのは、不気味でしたか…?」

おつるは、自分が人間ではない事をよほど気にしているのだろうか。
彼女の朗らかで明るい表情が、不安の雲に覆われる。

「そんなことない! おつるさんの正体が例え何であろうと、おつるさんはおつるさんだ。不気味だなんて絶対思わない」
「与平様…」
「おつるさんとしたのも嫌じゃない。むしろ、えらい気持よかったし…。それに…」
「それに…?」
「ひょっとしたら、俺も。おつるさんの事を…好いてしまった…のかもしれない。だから…」

自分の素直な気持ちを吐露した事に、思わず気恥ずかしくなる与平。
一方、与平の告白に対しておつるは、先ほどまでの暗い陰りは何処へやら、瞳を陽の光のように輝かせた。

「すると与平様。わたくし、与平様のお側にいてもよろしいのでしょうか…!」
「あ、ちょっと待ってくれ!」
「え?」
「その、いい年した男の癖にさ、女娘に言い寄られてばかりなのは、なんというか…情けないからさ。だから、俺の方から言わせてくれよ」

おつるは一言「そうですか」と言うと、微笑みながら与平の言葉を待った。

「その…俺……」
「はい…」
「俺、貴女を愛している…。この気持ちは本物だ。俺は見ての通り貧乏だし、お前さんに迷惑をかけるかもしれないけど…、これからもずっとずっと、俺と一緒にいて欲しい」
「もちろんですわ…! 与平様とこうしてお傍に添えられるならば、わたくし、他に何も要りません…」

おつると与平は、相手の瞳に自分の顔しか映らないほど、互いに深く見つめ合い、そうして、何方からともなく口づけを交わした。
外は凍えるように寒いけど、愛しあう者同士で寄り添えばきっと暖かい。
幸福に満ちた世界の中で、二人の心が一つになった気がした。

「――あらあら」

ふと、気づけば与平は轟々と寝息を立ていた。

「寝てしまわれましたか。まぁ、無理もありませんか。ふふ…」

おつるは自分との情事に付き合ったせいで疲労困憊になってしまった彼に対し、若干申し訳ない気持ちになりながらも、無防備な寝顔の彼を愛おしく思い、労るように優しく彼を包み込んだ。
そうして、彼女もまた彼に釣られるようにして瞼をそっと閉じた。


あれほど荒れ狂っていた吹雪も今や収まり、暁の空に夜明けが訪れる。
天井板の僅かな隙間から差し込む朝の光明が、まるで夫婦(めおと)の誕生を祝福するかのように、抱き合ったまま安らかに眠る二人の顔を眩く照らしていた。





最後まで読んで下さり、作者は感謝カンゲキ雨嵐です。ありがとうございます。
ここから先は作者が至らぬゆえに、描写出来なかった内訳を補完しようと思い立ち、用意したものです。
特に興味が無ければ、読み飛ばしてもらっても構いません。

Q:なんでおつるさんは、部屋に篭る前にわざわざ与平に故意に気にならせるようなそぶりを見せたの? こっそり自慰をするなら、むしろ逆効果では?
A:おつるさんはわざと気にならせるよう謀りました。自分の自慰を覗いたという事をダシに、彼をその気にさせ、迫るためです。
ウブな見た目のくせに、本当は計算高い腹黒ビッチに思われるかもしれません。しかし、彼女の行動原理は全て愛する男に初めてを捧げたいという可愛らしい下心から来るものです。
ですから彼女は、根は誰よりも純粋で一途なのです。愛と肉欲は切っても切れぬ関係なのです。
ちなみに、彼女がずっと主導権を取っていたのは、元から献身的な性格であったことと、与平が思った以上に草食男子だったからです。

Q:おつるさんは処女なのに、あんなに手練れているのはなぜ?
A:昔、彼女と同じように人に化け、人間の男性と添い遂げたことのある友達に教わりました。
おつるさんは彼女の話に憧れ、いつか自分も殿方と夫婦になることを見据えて、色々と懇切丁寧に教っていたのです。
ちなみに、彼女は男性との些細なトラブルが原因で仲がこじれ、別れてしまいました。
さらに言うと、その友達はおつるさんを見捨てた仲間とは別のグループの者です。見捨てた者達は彼女の美しさに嫉妬していた連中で、罠にかかった時には、内心いい気味だと思っていたようです。
最終更新:2013年03月27日 17:16