- 開催日: 2022年4月23日(土)15:30-17:30
- オンライン開催
- 課題本: 劉慈欣「円 劉慈欣短篇集」
第66回BtoZ読書会『円 劉慈欣短篇集』無事終了。
ふた昔くらい前の傑作SF短編集を思わせる発想や読み味と指摘する参加者が多数。ところが黄金時代の作家に比べて人間観は非常に悲観的。
科学への信奉と人類への絶望が同居しているという意味で、三体をより深く読み込むための糸口にもなる作品集でした
劉慈欣の面白さは科学への信頼と人間への絶望、そして輝くトンチキガジェット!が力業で合体しているところ。同じく中華系にルーツを持つ人気SF作家ケン・リュウやテッド・チャンに比べると構成の巧みさ・精密さは疑問が残るところもありますが、それを補って余りある描写力を評価する声が多かったです
ネタの発想と物語展開については「今どきこんなワンアイディアで押し通すのか」と驚く声が多かったのですが、地火の大災害、郷村教師の寒村の女性・子供のおかれた状況の凄惨さ、鯨唄の胎内の荘厳さ、栄光と夢のカレンダーのエピソードなど、魅力的な描写力で乗り切っている作品多数。
同じ東洋とはいえ日本とは自然に対する考え方がかなり違うことが浮き上がったのが、蝶々での人間の力で自然を制御しきろうとする姿、円円とシャボン玉や月の光での新技術にイケイケドンドンで挑戦する姿。いま深圳で起きている勢いがそのまま活写されているのかもしれません。
三体でも気になった「劉慈欣は女性キャラに人格付与できないのではないか問題」(葉文潔しか人格のある女性キャラがいない)は、美しいがあまり賢くない女性が好きだが「好きな女性は好きすぎて一緒になれるエンドを想定するの無理!」というオタク回路が作動してるからではという解釈に膝うちました。
対照的に深みのある書き込みのされていた葉文潔は、女性というより作者の分身的な立場なのではと。この短編集でもマッドサイエンティスト女性が何人か登場します。ただ、ひとり円円の明るさは異彩を放っています。作者に何か心境の変化があったのか、気になるところ。
投票を取るのを忘れてしまったのですが、人気が高かったのはこの作者にしか書けないトンチキパワーが炸裂している「円」「詩雲」、オチが見えても感動してしまう「郷村教師」。今の政界情勢ではウクライナ状況と切り離して読むのが難しい「蝶々」「栄光と夢」についても様々な意見がありました。
現代中国らしさが反映されているかもしれないのは「高次元のものに支配されないと死ぬという絶望的な感じ。高次元のものから見て民衆は愚かなので信頼されていない」世界観。栄光と夢のスポーツ選手の境遇の過酷さ、人生の選択肢のなさもこの世界観の延長かもしれません。
ほぼすべての参加者が好きな作品として挙げていた「猿タイプライターシェイクスピアSF」こと「詩雲」は、前日譚「呑食者」が2022年発行の別の短編集に収録されるそうです。大牙にまた会える!楽しみですね🦕
最終更新:2022年04月23日 22:36