からん、ころん、からん、ころん、
下駄の音はどうしてこんなに心を軽やかにするんだろう。
澄んだ音なのに冷たくはなくて、どこか弾んだ調子がある。
遠くから聞こえる祭囃子の音は、平べったくて掠れている。毎年流すテープはすっかり伸びてしまっているのだ。MP3プレーヤーの時代なのにそんなひどい音でも、浮足立つのを感じる。それは周囲の人々の雰囲気からでもあるのかもしれない。
衣砂川の水面は、向こうに見える出店の明かりを跳ね散らかしてキラキラと光っている。それよりももっと綺麗な光の芸術が、今夜その上で乱舞する。
衣砂川大花火大会。俺は待ちに待ったこの日に、早くも胸を躍らせていた。
大花火大会とはいえ、その規模はせいぜいこの県で三番目に大きいかどうかといった所だが、河川敷でやるだけあってナイヤガラ花火が出るため人気があり、道幅が広くて出店を出しやすいからか、多種多様な出店が並んでかなり賑やかになる。
粉物や甘味の定番物から、お面や金魚すくいの遊戯の類、最近見かけるようになった宮崎名物肉巻きおにぎりとやらまで何でもござれだ。
俺は花火も好きだが、この出店を巡るのはそれに勝るとも劣らず大好きだ。下宿近くの町内の掲示板にこの祭の張り紙を見て、思わず家に帰ると真っ先にカレンダーに書きこんだくらいだ。
ところが、夏の最中の祭だけあって、友人連中をメールで誘ってみても全員「すまん今実家」と判で押したような返事しか来なかった。
という訳で、仕方なく独りで来ている俺である。
祭に向かう家族連れやカップルを虚ろな目で眺めて、呟く。
「べ、別に寂しくなんかないんだからねっ」
空しい。俺は浴衣の襟を整えて気を取り直し、首にかけた狐面の紐が解けかかっていたのを締めた。この狐面は自作だ。まぁ、特に意味はない只の趣味。何かいいじゃん狐面。子どもに指さされるけど。
はしゃぐ子供たちが、「早く早く―!」と言いながら親を置いて駆けてゆく。「待ちなさい」と声を投げる親のその響きも、心配はしているがどこか楽しそうだ。前を歩くカップルは手を繋いで、たまに視線を合わせて微笑み合っている。そんな様子を見ながら、俺も一人とはいえテンションが上がって来た。
いよし、今日は自由度高い分、目一杯楽しんでやるっ!!
「よし、とりあえず第一次メシ終了かな」
まずは腹ごしらえをと、たこ焼きとイカ焼きとベーコンエッグ鯛焼きを平らげ揚げパスタをかじりつつ、屋台を目で物色する。UFO風船や綿菓子、千本引きなど、子供向けの屋台が多い一角らしい。アニメのキャラクターがプリントされた綿菓子の袋が、目にも鮮やかだ。
「さーて、次は何しよっかなー」
「あれがいい」
「あれ、ってどれ?」
「綿菓子のとなり」
「お面や?」
「ああ」
「そうか、じゃあ……ってはぁ!?」
我に返って振り返る。そこにはいつの間にか女の子がいた。
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最終更新:2011年10月17日 17:47