題名:アジサイの花が咲く季節に
概要:
三十歳の誕生日は、四月の最初の土曜日だった。午前七時三十五分。ショウを乗せた八丈島行きの飛行機は、予定通りに羽田空港を飛び立った。
きっかけは、兄の友人が八丈島でレストランを経営しているという話を聞いたことだった。八丈島といえば焼酎が有名なのだが、わざわざ地元の日本酒を取り寄せてレストランで提供しているらしい。『そんなに日本酒が好きなら地元で開業すればいいのに』と電話で兄は笑っていた。地元に帰りたくない理由でもあるのではないかとショウは思った。ショウも高校を卒業してからほとんど帰省していなかった。
八丈島に着いたショウは、空港の近くでレンタカーを借りて八丈富士に向かった。そして、標高八百五十四メートルの八丈富士は、観光気分で登れる気楽な山ではないことを思い知った。ぜえぜえはあはあと肩で息をしていると、前方から子供の声が聞こえてきた。
「大丈夫ですか、お兄さん?」
最終更新:2025年05月14日 15:05