【注意事項】
- この作品は一応シンワ様の作品『カオスバトル~大罪の魔剣~』の外伝となっておりますので先にそちらを読んでおくこと推奨です。
- また、時系列はアニメ版の後であり原作アプリゲーとの繋がりはありません。
- したがって事前にアニメ版マギアレコードを見ておくことを奨めます。ただしアニメ版のネタバレが含まれているので注意してください。
- ところどころキャラが崩壊してる可能性があります。
上記に同意できる方だけ次のページにお進みください。
私たちは、戦っていた。この街を守る為に。みんなを守るために……。
でも、私はもうボロボロだった。腕は折れて、足は引きずっている。立っているのもやっとだ。治癒も追いつかない。それでも、戦うしかないんだ。
目の前にいるのは、巨大な異形の怪物。あの化け物を倒さない限り、私たちの世界に平和は訪れない。
だから、立ち向かわなくちゃいけないのに……体が動かない。私の体は限界を迎えていた。
「いろは……」
「……」
やちよさんが、私の名前を呼ぶ声が聞こえる。だけど、答えることはできない。私は今、どうなっているんだろう? 分からない。
ただ分かることは、全身がひどく痛むことだけ。ここ最近の魔女の力はあまりにも強大すぎた。そのせいで、こんな無様な姿になってしまったけれど……。
それでも、私は戦い続けないといけない。この先にある、幸せな未来の為に。私が守らなきゃ。それが、今まで私を支えてくれたやちよさんやみんなの為でもある。
そう思い、再び奮起する。まだ、私にはできることがあるはずだ。例えどんなに辛くても、最後まで諦めずに戦わなきゃ。
「いろは! 無理しないで!」
「大丈夫です。やれることが、あります……!」
私は、やちよさんの制止を振り切って前に出る。魔女の方も私の存在に気付いたようで、私に向かって突進してくる。
ものすごい土煙だ。だけど、怖くはない。私はボウガンを魔女に向けると、すぐに狙いを定め始める。
「……っ」
私たちがなぜこんなことになったのか。それは少し前に遡る。きっかけはテレビのニュースだった。
『次のニュースです。神浜市に剣が飛来してから三日。各地では人々が突如として暴徒化する事件が多発しています』
『またですか……』
『えぇ。幸い死者はまだ出てませんが、怪我人が続出している状況です』
「……魔女が増えそうね。いろはも気をつけて」
ニュースキャスターのお姉さんが、深刻な表情で語る。剣がやってきた日から、街ではまた奇妙な事件が起きるようになった。
突然暴れ出す人がいたり、刃物を持って人を襲ったり、かと思うと急に泣き出したり。とにかくみんなが変になってしまってるみたい。
私はそのことを、いつものリビングで知った。やちよさんも神妙な顔でテレビを見ている。
どうも剣からただならぬ何かを感じたみたいで、私に気をつけろと言ってきた。
剣の騒ぎと同時に神浜にはまた魔女が増えるようになった。だから、用心するに越したことは無い。
「なんだよー……面白くねぇなぁ……」
「フェリシア、ちゃんと見ないとダメよ」
「見てるから言ってるんだよぉ……」
「うーん…… ひゃぁぁっ!?」
隣ではフェリシアちゃんがふて腐れながら部屋でごろんとしている。それを見かねたやちよさんが注意するも、彼女は一向に動こうとしない。
瘴気は魔女につながる。今はグリーフシードをどこかに落としてしまうだけでも、魔女が孵化しかねない。それにソウルジェムによくない影響を与える可能性が高い。
だから、放っておくわけにはいかないんだけど……。その時、玄関の方から扉を叩く音が聞こえてきた。私は思わずびっくりしてしまった。
扉が壊れそうなほど強く叩かれている。やちよさんの眉間にしわが寄る。
やちよさんはすぐに立ち上がると、玄関に赴いた。私もそれについていく。
「どなたかしら?」
「た、助けて! ししょー!」
「誰かと思ったら鶴乃ね。今開けるわ」
「つ、鶴乃ちゃん?」
「聞いて聞いて! 魔女が強かったの!」
やちよさんがドアを開けると、そこには鶴乃ちゃんがいた。彼女は何やら取り乱している様子。何があったんだろう?
私は心配して駆け寄り、肩に手を置こうとしたけど彼女はそれよりも早く大きな声を出してきた。それに驚いた私が手を引っ込めると、
今度は彼女から近づいてきて私の腕を掴んできた。そして興奮気味にまくし立ててくる。
「何度攻撃しても効かなくて……逃げてきた!」
「わかったから落ちつきなさい。あとは部屋で聞くわ」
「!? ……すぅ……はぁぁ……」
やちよさんが間に割って入り、鶴乃ちゃんの手を掴む。そのまま引っ張り上げようとすると、鶴乃ちゃんは慌てて自分の足で立ち、深呼吸を始めた。
まだ息が荒く、額には汗が浮かんでいる。私は心配になって鶴乃ちゃんに声をかけようとしたけど、
それより先にやちよさんが彼女をリビングに連れていくと同時に背中をさすり始めた。
すると、少しずつだけど彼女の呼吸が落ち着いてきた。しばらくして落ち着いたのか、彼女はやちよさんから離れる。
「ごめんね。ししょー……」
「いいのよ。それで何があったの?」
「うちの近くに魔女が出てさ、それを倒そうと思って挑んだんだけど、全然勝てなくって」
「大変だったわね……あなたほどの魔法少女が負けるなんて、何かあったとしか考えられないわ」
リビングでやちよさんが鶴乃ちゃんの話を聞いていた。私も話を聞きたいと思ったから、テーブルについている。
やちよさんの表情は真剣そのもので、鶴乃ちゃんの話を聞いていく内にどんどん険しいものに変わっていった。
やはり何事かあったのだろう。鶴乃ちゃんは決して弱くない。まだ出会って間もないときに一緒に魔女を倒したことがあるのだから。
いや、一緒にというには語弊があった。あの時はやちよさんにも助けられてばかりで私はほとんど何もできていなかった。
そうしているうちにやちよさんはある結論を出した。
「……多分、あの剣のせいね」
「え? 最近テレビでやってたやつ?」
「そうよ。多分だけど、あの剣の力で魔女の力が増している」
「じゃあ、今の神浜はすごく危ないんだね」
「ええ。しかも魔女の力は増す一方で、このペースで増え続けたら……いずれこの街は魔女に支配されるかもしれない」
「そんな! どうしたらいいの!?」
鶴乃ちゃんは焦っていた。それもそうだ。このままではみんなが死んでしまう。私だって同じだ。
それにもし、私たちが負けてしまったら他の街に被害が出るかもしれない。そうなれば……。
私は思わず震えてしまう。私が恐れているのはそれだけじゃない。もっと恐ろしいことだから。私の脳裏に蘇るのはあの時の光景。
何もできなかった自分への無力感、そして目の前で仲間や友達が散っていく悲しみ。どうしてこうなってしまったのだろう。
あの時黒江さんは私の目の前で魔女と化し、かつては敵同士だった灯花ちゃんとねむちゃんもエンブリオ・イブを乗っ取ったアリナ・グレイに体当たりを仕掛け、そのまま消息不明になった。
生きてるかどうかすらもわからない。そんなことを考えていると、誰かが勢いよくドアを開けて入ってきた。
「――――ん?」
「簡単だろ! 魔女も剣も全部ぶっ潰せばいいんだ! オレたちでさ!」
「そ、それはちょっと無茶なんじゃないかな……?」
振り向くと、そこにいたのはフェリシアちゃんだった。彼女は拳を握りしめながら、熱弁を振るっている。
そういえばあの子、魔女のせいで身寄りがないんだったっけ。でも、今のはちょっと乱暴すぎる気がする。
だって、さすがに策もなしに突っ込むのは危ないと思うから。私はその事をフェリシアちゃんに話してみた。
すると、彼女は大きくため息を吐いてから答えた。
「けどよー……他に手があんのかよ?」
「そ、それは……」
フェリシアちゃんの質問に私は何も言えなくなってしまう。確かに彼女の言っていることは正しい。
今のままじゃダメだ。だけど、どうすればいい?
このままだと街の人たちが犠牲になってしまう。どうにかしないと……。
「……ねえ、いろは」
「やちよさん……」
「あなたの言っていることは正しいわ。けど、他の方法はおそらくない」
「……」
「それに、このままでも危ないのもまた事実よ」
「……はい」
やちよさんに言われ、私もうなずく。この状態が長く続くのは危険だ。早急に対処しなくちゃいけない。けれどどうしたら良いのだろう?
強い魔女を相手取る以上、迂闊に手出しができない。
そんなことを悩んでいると、フェリシアちゃんが何か思いついたように言った。彼女はニヤリと笑ってから、こう提案してきた。
それは、ごくごくありふれている『よくあるやり方』だった。
「そのままじゃきついってんなら……『調整屋』があんだろぉ!?」
「あっ!」
そうだ。すっかり忘れていた!『調整』が使える人がこの街にはいるじゃないか。みたまさんが!
あの人ならきっとなんとかしてくれる。そう思った私は、すぐにみかづき荘のみんなにそのことを話した。
すると、やちよさんは私の肩をポンっと叩きながら、優しい声で言ってくれた。
やちよさんの温もりを感じて、少しだけ気持ちが落ち着いた。けど、それでもまだ不安だった。
「……なるほどね。それしかないでしょうね」
「でも、大丈夫かな……? みたまさん、困ったりしないかな……?」
「いろは、あなたはもっと自信を持ちなさい。私たちのリーダーなんだから」
「はい……」
「もし断られたら、その時は私が説得するわ」
「うん……」
やちよさんに説得された私は、意を決してみかづき荘を発つ準備を始めた。まずは荷物を整理していく。
その際、鶴乃ちゃんが不意に言葉を発した。
「ねえ、いろはちゃん。ちょっといい?」
「え、どうしたの、鶴乃ちゃん?」
「さっきはごめんね。わたし自身、びっくりしてるんだ」
「え? どういうこと?」
「他人に頼るなんて、前のわたしは絶対やらなかったと思う。なのに今、わたしはししょーやみんなに頼っちゃってる」
「そっか……」
鶴乃ちゃんの言葉を聞いて、私は納得してしまった。
確かにあの子はこの前まで一人で全部抱え込んで、誰にも相談せずに解決しようとしていた。けど、今は違う。これだけははっきり言うことができる。
あの子が変わったのは間違いなくウワサから切り離された時からだ。あの時は本当に大変だった。私たちはあの子のことを何も知らなかったのだと、気づかされた。
あの子の心の闇を暴くにはあまりにも時間が足りなかった。そして、そこをマギウスにつけこまれてしまったのだ。
だから今の鶴乃ちゃんが私たちに相談を持ちかけることは自然な流れなのだ。むしろ今までの鶴乃ちゃんがおかしかったのかもしれない。
「たしかに、あなたは変わった。だけど、それはいい変化よ」
「ししょー……」
「わかるわよ。私も同じだったから。それに、あなたはもうひとりじゃない」
「そうだよ! 鶴乃ちゃん!」
私とやちよさんの励ましを受けた鶴乃ちゃんは、目から涙を浮かべていた。そう、私たちは仲間なんだから。
私だって昔は一人ぼっちで、寂しい思いをしていた。でも、いろいろ頑張ったからか、今はこうして仲間ができた。
私にとって、みんなが大切な人たちだ。そう思うだけで、私の心は温かくなっていく。
私がそんなことを考えている間に、鶴乃ちゃんは涙を流しながらも笑顔を見せた。まるで太陽のような眩しさを感じさせる、とても温かい笑み。
「ありがとう……二人とも。おかげで元気出た」
「うん、良かった」
「それじゃあ、さっそく始めましょうか。まずは……」
「あっ、待ってししょー。その前に」
「?」
「ちょっとだけ時間くれない? 話したいことがあるんだ」
「……わかった。それなら先に着替えてきなさい」
「はーい」
鶴乃ちゃんはそう言って部屋から出て行った。
やちよさんは少し驚いた様子で鶴乃ちゃんを見送った後、私に視線を向ける。どうやら、私に何か言いたいみたい。
私から切り出すべきかなと思ったけどやちよさんの方から口を開いたので、私は黙って聞くことにする。
「鶴乃のことだけど……。あの子、本当に変わったわね」
「はい」
「正直、私も戸惑った。まさかあんなに助けを求めてくるなんて思いもしないもの」
「……」
「でも、それが彼女の本当の気持ちなんでしょうね。今さらながら、鶴乃に申し訳ない気持ちでいっぱいになったわ」
「……やちよさん」
「いろは。あなたはきっと、私よりも強い子よ。だから、自分の思ったように動きなさい。大丈夫、私たちがついているから」
「……はい!」
やちよさんの力強い言葉に励まされて、私は元気よく返事をした。するとやちよさんは満足そうに微笑んで、それから真剣な表情で私を見つめる。
一体、どんなことを言われるのだろう。私は思わず緊張して唾を飲み込んだ。そして、やちよさんはゆっくりと口を開く。
その言葉はとても切実で、同時にとても優しいものだった。私の胸が熱くなる。
「……でも、あまり無茶はだめよ」
「わかってます。私、約束しましたから」
「……ふふっ」
この人に出会えて良かった。心の底からそう思うことができたんだ。私は本当にそう思った。
やちよさんは私の顔を見て小さく笑った。まるで、私の考えを察してくれたかのように。そんなやちよさんを見て、私も笑う。
お互いに笑い合って、それから私たちは見つめ合った。やちよさんが手を差し出す。
私も同じようにして手を伸ばした。しっかりと握手をする。やちよさんの手は暖かくて、少しだけ湿っていた。
「おーいやちよー……さっさと支度しろよー……」
「あぁ、ごめんなさい。もうちょっと待ってて」
部屋の外からフェリシアちゃんの声が聞こえてきた。やちよさんは慌ててベッドから飛び降りると、部屋を出ていく。
私もそれに続いた。やちよさんの背中を追いかける。彼女は自分の荷物を詰めながら、私に話しかけてきた。
「いろは、先に玄関で待っていてくれる?」
「わかりました」
私は短く答えて部屋を後にする。そのまま階段を降りていくと、すぐに玄関に着いた。
そこで、やちよさんが荷物を持って出てくるのを待つ。しばらく待っていると、やちよさんが出てきた。それからすぐに他のみんなも荷物を持って出てくる。
全員が揃ったところで、私達は家を出た。ちなみに鍵を閉めたのはやちよさん。
「そういえば鶴乃……」
「ん?」
「『話したいこと』って、結局何なの?」
「それ、わたしもちょっと気になります」
「うーん……」
歩きながらやちよさんが聞くと、さなちゃんが同調してきた。
確かに、私達もそれは気になっていた。鶴乃ちゃんが腕組みをしながら口を開く。
すると、鶴乃ちゃんは顎に手を当てて少し考える素振りを見せる。
それから、ゆっくりと話し出した。その内容は、とても信じられないものだった。
「えっとね……たぶんだけど、ういちゃんは……生きていると思うんだ」
「「「「「え!?」」」」」
私を含めた全員が驚きの声を上げた。それもそうだ。いきなりそんなことを聞かされたら誰だって驚く。
だけど、どうして? あの子にはもう身体がないはずなのに……。私の心を読んだように鶴乃ちゃんが言った。
「マギウスにいた時、灯花とねむが話してたんだよね。『ソウルジェムが壊されても大丈夫なようにする』って」
「鶴乃、それはいろはに言った方がいいんじゃないかしら?」
「あ、そっか」
やちよさんの指摘を受けて、鶴乃ちゃんはハッとした表情になった。そして、私に向き直ると真剣な眼差しで見つめてくる。
あまりにも真剣だったもんだから、思わず怯んでしまった。
「どういうことですか……?」
「わたしもよく分からないけどね、灯花とねむの話を聞いているうちに、そうじゃないかなって思ったんだよ」
「根拠はあるんですか?」
「ううん、全然」
自信満々に即答されてしまった。私は頭が痛くなってきた。鶴乃ちゃんが言いたいことは分かるけど、それが本当だとして一体どうやって確かめるつもりなんだろう?
私が頭を悩ませていると、やちよさんが鶴乃ちゃんに聞いた。どうやらやちよさんも同じ疑問を持っていたみたい。
やちよさんが呆れたような視線を向けると、鶴乃ちゃんは目を逸らす。どうやら何も考えていなかったらしい。
「鶴乃、変に期待させるようなことは言わない方が良かったんじゃないの?」
「い、いや~……でもさ、ほら、ういちゃんならきっと……」
「少なくとも、ういの魂はソウルジェムではなく小さいキュゥべえの中に入っています」
「えっ!?」
私の言葉に全員が驚いていた。無理もないと思う。今まで散々探し回っていた相手がすぐ近くにいたなんて言われたら、誰だって驚くはずだ。
しかも、それを知ったのがつい最近。私自身、今でも信じられない。けれど、事実は小説よりも奇なりと言うし、実際にそうなってしまったんだから仕方ない。
だからか一時期この世界には、ういを知るものがいなくなっていた。存在そのものが失われていたんだ。
だけど、私は諦めなかった。どんな手を使ってでも、絶対に見つけ出すつもりだった。そうしてようやく見つけたと思ったら、エンブリオ・イブの時から行方知れず……。
「でも生きているかどうかすら分からない状態で……」
「それでもいいんです」
「え?」
「たとえ、ういが死んでいたとしても、私にとって大切な妹であることに変わりありません。それに、ういは言ってました。私の幸せの中にいるんだって」
その時のことを思い出しながら、私は微笑んでやちよさんに言った。
ういと過ごした時間は宝物だ。私にとっては、かけがえのない家族。
そんな妹を取り戻せるかもしれない。例え、それがわずかな可能性であっても、私にとっては十分すぎるほど嬉しいことだった。
すると、やちよさんがため息をついた。
「あなたって子は……まぁ、今さら止めても無駄なんでしょうけど」
「はい」
「それで? どうするつもりなの」
「まずは……ん?」
やちよさんに行動指針を言おうとしたところ、突如周りの景色が一変した。これは間違いなく魔女の結界だ。
しかも、今までに見たことのないタイプ。空間自体がねじ曲がっているような、不思議な感覚。しかも、なんだか変な雰囲気がする。
まるで、この世ではないどこかにいるかのような……。まぁ、これはどの魔女も変わらないのだけれど……
「結界……!」
「まだ調整屋行けてないのに……!」
「落ち着きなさい。気づくのは遅れてしまったけど、まだ対処のしようはあるわ」
フェリシアちゃんと鶴乃ちゃんが焦る中、やちよさんが二人をたしなめている。
そしてその時私は周囲を見渡していた。確かにここは私たちの知っている街じゃない。
さっきまでいた町並みはどこにもなくて、代わりに薄暗い廃墟のような場所が広がっていた。
周りには瓦礫やゴミが散乱していて、とても汚い。そして、空には紫色の不気味な月が浮かんでいる。
それどころか、元の形を保っているものは何もない。全てが破壊しつくされている。
こんなの、普通の人が見たら発狂しちゃうんだろうな……。
「みんな……行こう!」
でも、今はそれよりも。私は辺りを警戒しながら変身して、クロスボウを構えた。他のみんなも変身し同じように武器を構える。
私は、もう迷わない。自分の心に正直になって戦うんだ。すると、目の前から黒い影が現れた。
それは人型をしていたけど、頭は犬みたいな形をしていて、全身はドロドロとした液体で覆われている。まるで泥人形みたいだ。
それもかなり大きい。魔女はその巨体でこちらに向かって走ってきた。
「あいつ……後つけてたんだね……!」
「どういうこと?」
「この魔女、わたしが勝てなかったやつなんだ……」
「あれがそうなのね……!」
それを見た鶴乃ちゃんは何かに気づいたみたいだ。どうやらこの魔女と戦っていたらしい。
そのことを知ったやちよさんは気を引き締めると、かがみこんで攻撃の構えを取った。
今回の魔女はやっぱり相当な強敵なんだろう。私はそう感じた。
「来るぞ!!」
「はああっ!!」
私達は一斉に攻撃を開始した。それぞれ武器を使い魔女を攻め立てる。フェリシアちゃんはハンマーを顔面に振り下ろしていた。
しかし、いくら攻撃しても全く効いている様子がない。それどころかどんどん近づいて来ている。このままじゃマズイ!
すると、私の横から炎の弾が飛んできて、それが魔女の顔に命中した。
見ると、そこには鉄扇を構えている鶴乃ちゃんの姿があった。魔女は一瞬怯んで後ずさりしたみたいだけど、そこまでダメージはない。
すると今度はフェリシアちゃんが後ろに飛び退いた。私達の方を向くと、彼女は口を開く。
「下がってろ! こいつはオレがやる!」
「え?で、でも……」
「いいから早くしろよ!」
「う、うん……!」
私は言われた通り後ろに下がった。フェリシアちゃんは私達から離れると、魔女に向かって走り込み急接近する。
その間魔女はずっと吠えているだけで特に何もしない。一体どうするつもりなんだろう。
そして、フェリシアちゃんが大きくジャンプしたあと顔面目掛けて巨大化させたハンマーを振り下ろしたその時だった。
突然魔女が叫び声をあげたかと思うと、次の瞬間彼女の体が地面に叩きつけられた。
そのまま魔女は起き上がってきた。まるでダメージを受けていないように見える。
「ウルトラグレートビッグハンマーァァァッ! ――――なっ!?」
「……」
「ぐあああっ!」
「ふぇ、フェリシアちゃん!」
思わず叫ぶ。私達が離れてすぐに、魔女の攻撃が直撃してしまったのだ。
フェリシアちゃんはそのまま吹き飛ばされてしまった。それを見たのか魔女はゆっくりと近付いていく。まずい、この距離だと間に合わない……。
魔女は大きく口を開けると、そのまま大量のエネルギー弾を放ってきた。
それはフェリシアちゃんだけでなく私たち全員に容赦なく襲いかかる。
「まずい……!」
「あっ……!」
やちよさんが攻撃に気づくなり、私の手を掴んで思い切り引っ張る。
するとその直後、さっきまで私がいた場所にエネルギー弾が降り注いだ。あと数秒遅かったら……そう考えるとゾッとする。
他のみんなは大丈夫かな。そう思って振り向くと、さなちゃんが盾を、フェリシアちゃんがハンマーを、それぞれ自分の前に出して防御態勢を取っている。
よかった……なんとか無事みたいだね。でも、あの魔女を倒す方法はまだ見つからない。一体どうすれば……?
考えていると、いきなり背中に強い衝撃が走った。そのまま私は勢いよく吹っ飛んでしまう。慌てて後ろを見ると、そこには魔女の姿があった。
魔女は右手で私を殴り飛ばしたんだろう。このままじゃやられる。どうにかしないと……その間にも魔女は近づいてきて、また手を振り上げる。
「!」
「や……野郎!」
とっさにその場から離れる。魔女の放ったエネルギー弾がすぐ横を通り過ぎた。危ないところだった。しかし、今の一撃でみんなの姿が確認できなくなってしまった。
もしやと思い振り返ると、やはりそこに魔女がいる。魔女はゆっくりこちらに歩いて来ていた。まるで獲物を追い詰めるように。まずい、このままでは。
そこにフェリシアちゃんが再び飛び込んで来る。しかし、魔女はそれをあっさりと避けてフェリシアちゃんの背中を蹴りつけた。
フェリシアちゃんはそのまま地面に倒れてしまう。
そして今度は私に向かって手を伸ばしてきた。私を捕まえようとしているのだろう。逃げようにももう動けない。
「いろはちゃん!!」
「……!」
誰かの声が聞こえた。次の瞬間には私の体はふわりと浮いて、気がついた時には魔女の手から逃れている。
声の主は鶴乃ちゃんだった。彼女は私を抱えながら走り、安全な場所へと避難してくれる。それでも魔女は追いかけて、口からエネルギー弾を放ってきた。
鶴乃ちゃんは頑張って避けてくれてるけど、それでも少しかすってしまう。このままだといずれ押し切られるかもしれない。どうしよう……。
そう思っていると、また別の方向から攻撃が放たれ、魔女はひるんで動きを止めてくれた。見ると、さなちゃんが刃物を盾から撃ち出したみたいだ。
「いろはさん! 大丈夫ですか!?」
「うん、ありがとう。でも……」
「分かってます。このままじゃ勝てませんよね」
さなちゃんは魔女の攻撃を防ぎながら、私に話しかけてくる。私はそれに答えながら、必死に頭を働かせた。何か良い方法はないかな?
そう思っていると、また魔女が攻撃を仕掛けてきた。さなちゃんはギリギリのところで回避する。だけど、そのまま壁際まで追い詰められてしまった。
しかも私は今鶴乃ちゃんに抱えてもらってる状態だ。この状態で戦うなんてできないし、逃げることも難しい。絶体絶命……そんな言葉が頭に浮かぶ。
「うん。ここなら多分大丈夫」
「え?」
「鶴乃ちゃん、ちょっと下ろしてくれるかな?」
「分かった」
すると、鶴乃ちゃんはゆっくりと私を地面に立たせる。そして私の前に立つと、鉄扇を構えた。
その時、魔女は私たちに向けて口を開き、そこからエネルギー弾を放つ。私たちは慌ててそれを避けた。
魔女は私を追いかけて来ようとするけど、それをさなちゃんが阻んでくれる。
その間に私は鶴乃ちゃんに近寄って、二人で並んで立った。
「はああっ!」
「……」
「うっ……!」
「やちよさんっ!」
そこにやちよさんが空中から魔女に切りかかり、ダメージを与える。だけど、すぐに反撃を受けて吹っ飛ばされてしまい、地面を何度も転がる。
このせいでやちよさんの身体はボロボロで、しかもいつ変身が解けても不思議じゃないぐらい消耗してる。このままだとやちよさんが危ない。
そう思ってる間に、魔女は口からエネルギー弾を放とうとしていた。このままじゃまずい。
そう思った瞬間、鶴乃ちゃんが前に飛び出す。そして、鉄扇を振り回しながらエネルギー弾を弾き返した。凄い!
でも、まだ安心はできない。魔女は鶴乃ちゃんに追撃を仕掛けようとしていて、彼女はそれを防ぐので精一杯みたいだった。
「…………」
「いろは」
「やちよさん……?」
どうしよう。私にできることは何もない。みんなが頑張ってくれてるのに、何もできない。
私が不甲斐なさに唇を噛んでいると、突然、私の隣に誰かが立つ。それは、やちよさんだった。
やちよさんは私を見て微笑む。そこからゆっくりと立ち上がると、私に手をさしのべてきた。
私を立ち上がらせると、やちよさんは私に背中を向ける。そして、私の方に振り返ると、こう言ったんだ。
「コネクトするわよ」
「……はいっ!」
「「はああああっ!」」
『コネクト』それは『二人の魔法少女の力を合わせる』こと。これをすることで、今までの私たちのコンビネーションよりも更に上の力を発揮できる。
その相乗効果は凄まじい。今ならどんな相手にだって負ける気がしない。
私はやちよさんに手を差し出す。すると、やちよさんは手を伸ばして、しっかりと握り返してくれた。
私たちはお互いの目を見つめ合ったあとにうなずき、同時に魔力を込めた。すると武器が光り輝き始める。
やちよさんは槍を構えて、魔女に向かって駆け出した。私も同時に走り出す。魔女がエネルギー弾でこちらに攻撃してくるけど、やちよさんが防いでくれた。
「背中は任せたわ」
「もちろんですっ!」
やちよさんは私に背中を預けてくれる。だから私も全力で応えなくちゃ! 私は地面を蹴って飛び上がる。
魔女が私に攻撃を仕掛けてくるけど、それもやちよさんの槍で防いでくれる。
そのまま私は魔女の頭上に着地して、ナイフを振り下ろした。だけど魔女は腕でガードしてきて、衝撃で私が吹き飛ばされる。
地面に叩きつけられた私の方にエネルギー弾が飛んできた。それをやちよさんが庇ってくれて、代わりにダメージを受けてしまう。
でもすぐに起き上がって、私と一緒に武器を構えた。そして、二人で一気に距離を詰めていく。
「……」
「おらああああっ!」
「――――!!」
魔女がやちよさんに殴りかかって来たけど、フェリシアちゃんが横からハンマーで殴ることで相殺する。
そのおかげでやちよさんは魔女に隙を作ることができた。その間に私はやちよさんの横を通り過ぎ、魔女の後ろ側に回った。
やちよさんは槍を構えると、魔力を込めていく。その魔力に反応して穂先が輝き始めると同時に槍が増えていく。
「はああぁーっ!!」
「――――!!」
やちよさんが気合を入れて、一斉に投げ放つ。槍は魔女に突き刺さると、そこから爆発を起こす。そして最後に槍を持って自分も突っ込んだ。
魔女はそれでも倒れない。だけど、さっきと違って攻撃が通っている。コネクトの力は計り知れないということか。
とにかく私は追い討ちをかけるべく、クロスボウを撃つ。だけど、それは魔女の両腕によって阻まれてしまった。だけどこれは想定内。
だって、この距離ならもう準備はできているから。魔女が殴り返してきたところをギリギリまで引きつけて、私は後ろに跳ぶ。
すると、魔女の拳は空振りに終わった。そう、これが狙いだった。
私の狙い通り、魔女はバランスを崩し前につんのめる。今しかない。私は再びクロスボウを構えると、魔女に向かって撃ち出した。
それは無数に散らばり頭上に向かって飛んでいく。
「ストラーダ……フトゥーロ!」
「――――!!」
「よし……!」
(まだ……油断は、だめ……!)
魔女の頭上に集まったエネルギーはひとつとなり、巨大なレーザーとして放たれる。
大きな爆発音が響き渡り、魔女の身体は焼け焦げていた。鶴乃ちゃんもそれを見て、ガッツポーズをしている。
勝利を確信しているのだ。それくらい、私たちが優勢になっていた。
だけど、私はまだ警戒を解いてはいなかった。魔女はまだまだ健在だ。油断は禁物だと、私は自分に言い聞かせる。
「……ウオアアアアアアアアッ!!」
「!? ……うわああああああっ!」
「いろは!」
その時だった。魔女がいきなり起き上がり、私たちを弾き飛ばした。あれだけやってもまだ戦えるなんて……
反応が遅れた私は、そのまま地面に叩きつけられる。体が動かない。立ち上がろうとしても力が入らない……
ダメだ、ここで倒れたら、魔女の攻撃を食らう。せめてフェリシアちゃんだけでも助けないと。
なんとか体を起こそうとするけど、痛みが邪魔をしてうまくいかない。間一髪で攻撃を避けることができたやちよさんは私を見て叫び声を上げる。
「ううぅ……」
「いろは……」
「……」
こうして私はボロボロになった。どうにか立ち上がれたけど、腕は折れてるし立っているのもやっとな状態。全身が酷く傷んで動けない。
そんな私を尻目に魔女はやちよさんやみんなを襲い始めた。その一方で私は自分の身に何が起こっているのかも、理解できていない。
魔女と戦いながらやちよさんが私の名前を呼んでいたけど、答えることはできなかった。視界が歪んでよく見えない。意識が遠のいているんだ。
今すぐにでも倒れてしまいたい。だけど、倒れるわけにはいかない。みんなを絶対に守らないと。そう思って必死に歯を食い縛る。
「いろは! 無理しないで!」
「大丈夫です。やれることが、あります……!」
そして私はやちよさんの制止を振り切って前に出る。魔女の方も私の存在に気付いて、再び攻撃を仕掛けてきた。私に向かって突進してきたのだ。
とっさにクロスボウを構え、狙いを定めていたその瞬間、私の後ろから何本ものレーザーが飛んできて、魔女の顔に直撃する。
爆発と共に動きを止める魔女。私は思わず少し驚いてしまった。そこに不意に聞こえてくる少女の声。私はその声をよく知っていた。
「――――ん?」
「大丈夫? お姉ちゃん……」
振り向くと、そこには白みがかった桃髪と暗色系の色でまとめられた衣装を身にまとった少女が立っていた。
そして私はその少女を知っていた。とても大切な、私の妹。
見間違いだなんて思えない。思えるはずがない。だって彼女は私が守りたかった妹なんだから。
私は思わず、名前を呼んだ――――
「うい……?」
「……」
ところ変わってとあるビルの屋上。そこには緑の長い髪の少女が立っていた。
その少女は黒い軍服にカラフルなスカートとアクセサリーがついた帽子をかぶった憲兵のような服装をしており、なおかつ黒い長剣を手にしていた。
この黒い剣は不気味なほどに鈍く輝き、普通じゃない雰囲気を醸し出している。彼女はそれを地面に突き立てる。するとそこから波紋が広がり、地面を揺らし始めた。
その揺れは次第に大きくなっていき、ついには地面が大きく割れて、まるで地獄のような光景が広がっていく。
しかし、この様を見ても彼女はあまり喜んでいなかった。
「まだまだダネ。これじゃあベストアートは作れない……」
彼女はそう言って、自身の剣を見つめ始める。まるで何かを企てているかのように。
その顔には、少しばかりの狂気が混じっていた。まるで以前為せなかった何かをなそうとしているように。
どうやら彼女は、かつて神浜市で起きた悲劇に立ち会った魔法少女の一人のようだ。
いや、それを引き起こした元凶と言っても差し支えないかもしれない。そんな風貌を醸し出していた。
「やっぱりさらなるパワーを手に入れないといけないカナ。幸いにもこのソードは役に立ちそうダシ」
そう言って彼女は地面から剣を引き抜き、そして念じ始めた。どうやらこの剣で何かやるつもりらしい。
彼女の手にあるそれは、先ほどよりも一層強い光を放っている。
しばらくすると彼女は構えを取り、その後大声をあげながら剣を大きく振りかぶった。
「さぁ、何かベリーグッドなもの出しテヨ!」
彼女が虚空に向かって斬ると、そこに空間の裂け目ができた。そこからは禍々しい気配を感じ取れる。
その証拠に、その裂け目からはグリーフシードが出てきた。それも一つだけではない。
10個や20個などというレベルではなく、100や200、あるいはそれ以上ある。しかし彼女は不満げのようだった。
「……欲しいのはこういうのじゃないんですケド。もっとこう、ベリーグッドでエキサイティングなヤツがいいのニ。……まぁいいケド」
求めていたものとは違っていたらしい。しかし、それでも満足はしている様子だ。
彼女は大量のグリーフシードのうち、5つを拾い上げ、それを眺めて悦に浸っていた。どうやら彼女にとってはそれだけでも十分すぎる収穫らしい。
「これはこれで使えそうダシ。そろそろリスタートかナ」
そう言うと彼女は、グリーフシードを持てるだけ回収すると残りのものめがけて剣をかざす。剣から発せられる瘴気に包まれると、それらは一気に瘴気を取り込んでいった。
彼女はそれを確認して満足そうな表情を浮かべると、無造作に投げ飛ばしばらまき始める。どうやら魔女をいたるところに大量発生させるつもりのようだ。
それを終えると周りに誰もいないにも関わらず、高らかに宣言した。
「『全人類魔法少女化計画』を!」
――――1『やれることが、あります』
【あとがき】
くぅ~以下略
実を言うと大罪の魔剣にマギレコ勢を放り込みたくなったのがこの作品を作るきっかけなのでした。
放置しすぎたせいで追いつけてないとかタイムリーだとかでアニメ版の後日談に落ち着いたみたいなノリです。
いろはたちのピンチを救ったのは肉体を失ったはずのういで、しかも最後の方に謎の少女が出てきた……いったい何ナ・グレイなんでしょう?
最後まで大筋は決まってるのでこうご期待。一応全4話予定です。
Q.鶴乃ちゃんが「マギウスにいた時、灯花とねむが話してたんだよね。『ソウルジェムが壊されても大丈夫なようにする』って」と言っていましたが原作にそんなシーンありました?
A.ないです。ただ、灯花は「魔法少女はソウルジェムが破損したら死ぬ」ということを知っていたのでその辺の取り組みも考えてたんじゃないかなというノリ。
そしてアプリゲーの描写を見た限りでは魔女になってしまったらどうしようもなさそうなのでそのためのドッペルシステムでもあったのかなという感じでもある。
最後に登場した魔女の解説を……↓
【滅亡の魔女(名称不明)】
その性質は滅亡。
目に映るものすべてを憎み、片っ端から滅ぼしていく魔女。
結界もそれを象徴するかの如く瓦礫やゴミが散乱しており、元の形を保っているものは何もない。
頭部が犬のようになっているとても筋肉質で褐色肌な巨人の姿をしており、その巨体や口から放つエネルギー弾で全てを薙ぎ払う。
戦闘力はかつての神浜の魔女を大きく上回っており、いろはたちを窮地に追い込んだ。
最終更新:2023年08月31日 21:40