半信半疑でやってみたサーヴァント召喚の儀式を終え、マスターとして正式に聖杯戦争に参戦することになった
渋谷凛
マスターとして、そして魔術師としての心得の無い凛がこの先生き残れるのかどうか……。
呼ばれたアーチャー───アリスは、ひとまず凛に様々な事柄について教えた。
マスターとは何か、サーヴァントとは何か、そして、聖杯戦争とは何か……
凛「本当にあるんだ……何でも願いを叶えてくれる「聖杯」って……」
アリス「えぇ、そしてその願いはこの戦争を勝ち残ることで叶えることができるの、リンは何か叶えたい望みがあったから私を呼んだのでしょ?」
凛「叶えたい……望み……」
アリスにそう言われ、凛はしばらく黙り込み、考えた
しかし、思い浮かばない、一応アイドルとして大成したい、という願いはある、しかしその望みは、そんな魔法とかそんなので叶えるものなんかじゃない
アイドルマスターは、自分自身の力だけで登り上がりたい
シンデレラの階段はエレベーターなんか使って登るものじゃないから
凛「……ごめん、無い、かも」
アリス「………やっぱりね、てことは本当に興味本位で私を呼んだのね」
呆れた素振りで首を振るアリス
凛「あの……アリスは……じゃなかった、アーチャーはあるの……?どうしても叶えたい願い、とかって」
アリス「まぁね、あるわ」
凛「……そっか……」
凜はどんどん申し訳ない気持ちに迫られ、押しつぶされそうになってきた
それもそうだ、この聖杯戦争に参加するサーヴァントはボランティアで呼ばれるわけじゃない
サーヴァントにも、どうしても叶えたい願望があり、現界してきてくれる
本来なら、マスターとサーヴァント、共に願いを叶えたいもの同士でwin-winな関係を築き上げ、共に戦地で背中を預け合い戦っていくもの
それを、何の力も持っていない女子高生アイドルが興味本位で参加し、サーヴァントの願い成就の機会を奪ってしまった
あってはならないことなのである
そんな凛の心情は見抜いていたアリス
アリス「リン、言っておくけど、まだ私はあなたを枷だとは思ってないわ」
凛「…………」
アリス「あなたを他のマスター達と比べたら、まぁ弱いでしょうね、戦いは弱い方から潰していくのは定石、きっとすぐにでも数々のサーヴァント達が襲い掛かってくるでしょうね」
凛「………!」
ゴクリと固唾を呑む凛
アリス「────でもそれは逆にチャンスよ」
凛「チャンス……?」
アリス「えぇ、相手を甘く見てる奴ほど、油断も隙も大きい……つまりは、うまいこと立ち回れば逆転は十分可能、運が良ければ一網打尽もできる、そういう意味で、私はまだあなたをただの枷だとは思っていない、そういうことよ」
凛「……それを実現するためには、どうしたらいいのかな」
アリス「まずは私とリンがすっごく弱いってことを他の奴らの耳に入れる必要があるわね、きっと他のマスターには偵察用の使い魔を放ってるのがいるはず、その使い魔に。私達が他の相手と戦って苦戦している弱い姿を見せれば、第一関門突破といったところかしらね」
アリスの案を聞き、考える凛
凛「…………結構、厳しそう……だって、私達の弱い姿を見せるには、まずは誰かと戦わなきゃいけないんでしょ?それも、私とアーチャーの組み合わせで何とか対処できる程度の強さの相手と……」
凛「サーヴァントの強さはマスターの魔力に依存するって話からすると、きっと私達がこの聖杯戦争に参加した組み合わせの中で一番弱いのは、間違いないと思う……そんな私達が互角程度に戦える相手なんて、いるのかな……」
凛「それに、もしそういう相手がいたとして、ちゃんと偵察の使い魔が、私達の戦いを見てくれているのかどうかも分からないし……」
アリス「へぇ?ただの一般人の割には結構頭回るのね」
関心するアリス
アリス「────でも、やっぱりまだおこちゃまね」
凛「お、おこちゃま……!?」
アリス「確かに私達が互角程度に戦える相手はいないでしょうね、でも、そんな相手見つける必要なんてそもそもないわ」
凛「ど、どういうこと……?」
アリス「八百長よ」
凛「や、八百長………!?」
アリス「私達と一時同盟を組み、情報戦を制してくれる相手を見つければいいのよ、使い魔の問題だって、別に使い魔自体が本質じゃない、あくまで弱い組み合わせがいるってことを周囲に教えられればいい、だから、そういった情報を流せるような人脈を持った他のペアに任せてしまえばいい、それだけの話よ」
凛「せ、聖杯戦争って、私達以外全員敵なんじゃないの……!?」
アリス「えぇ、敵よ、でも馬鹿正直に孤軍のままこの戦争を勝ち抜こうとしたら、他の同盟を組んだ相手に挟み撃ちされてあっけなく敗れ散るのがオチよ」
凛「そういうものなんだ………」
アリス「………何となく今後の動き方、分かってきたかしら?」
凛「う、うん……何となく、だけど……」
アリス「ならいいわ、じゃあここからは私の戦場よ、リン、あなたは普段通りの生活をしなさい、決して他人に、自分が聖杯戦争に参加したマスターであることをバラしては駄目、その令呪もテーピングなりなんなりで巻いて見えないようにしなさい」
アリス「基本的にマスターは戦いに赴く必要なんてないのだから、単独行動スキルを持ってる私が勝手に準備を整えてくるわ」
凛「うん……分かった、アーチャー……ごめん、何も力になれなくて」
アリス「今後力になってもらいからいいのよ、じゃあまた会いましょう」
霊体化して消え去るアリス────
自宅に帰宅する凛、ベッドに横たわり、自身の手の甲に刻まれた令呪を観察する
凛「………………」
凛「………(なんだか、すごいことになっちゃったなぁ……)」
まるで他人事かのように思えてくる
だが、現実が目の前にこれでもかと強調する
自分は戦争に巻き込まれたのだ
凛「……………私も、私なりにできること、頑張らなくちゃ……」
◇ ◇ ◇ ◇
アリス「……この組み合わせ、いいかもしれないわね」
霊体化し、各所を回り続け、ついにこの聖杯戦争に参加している他のマスターとサーヴァントの在処を見つけたアリス
マスターの存在というは、基本的に魔術師同士の繋がりが無い限りは露呈することはない
凛が聖杯戦争に参加したという情報も、教会側が情報漏洩しない限りは決して他のマスター達の耳に入ることはない
逆に言えば、こちらも他に参加したマスターの情報を知り得る手段が無いということになるが、アリスはこの聖杯戦争の特殊性に目をつけた
魔術師の血が流れていない凛では、どう足掻いてもマスターにはなれないはずなのにも関わらず、なれてしまった
イレギュラーな事態が起こっているのだ
この事態は、局所的なものではないはず、おそらくは他のマスターにも同様のことが起こっていると踏んでいい
聖杯戦争に対する知識の無いマスターが、凛以外にもいるとしたら非常に好都合である
おそらくは、そういったマスターは目立った行動をしている場合が多く見つけやすい、さらに言えば、こちらのおいしい要件をいとも簡単に飲み込んでくれる可能性も高いからだ
そして探しに探し、見つけた組み合わせは、その状況にピタリと当てはまった
様々なブービートラップを散りばめ要塞化した、古ぼけた建物
罠の脅威を、アリスの超人的な身体能力によって避けていき、奥へ奥へと進み、そして途中に発見した、残されたままの召喚儀式の痕跡を見つけ、確信した
このエリアを拠点としているマスターがいるはずだ、と
殺意の込められた罠自体はかなり評価できるものであった、しかし、そこに魔力の介入は感じられなかった
つまりは、ここを拠点としているマスターは、魔力を行使する術を知らない、度の過ぎた軍事マニアか、もしくは軍人そのものであると考えた
前者であってくれれば、懐柔、及び同盟は楽に進むだろう
後者であれば……少し厄介だろう
◇ ◇ ◇ ◇
豆腐「敵襲やで~」
越前「上から来るぞ!気をつけろぉ!」
前方の扉が開くと共に、アリスの姿が現れる
互いに銃口を突きつけ合う越前とアリス
豆腐「やめて~」
そう言いながらもナイフを装備し、臨戦態勢を整える豆腐
アリス「……その姿、残念ね、ただの軍事マニアじゃなさそう」
ふざけた容姿をしたマスターの存在を視認するも、着用している装備品等は本物である点から、彼らが軍人であることを認めたアリス
越前「狂気の戦いの始まりだぜぇ~!?」
いまにも銃撃戦が勃発しかけたその時、アリスが口を挟む
アリス「待ちなさい、私はあなた達と戦いに来たわけじゃないわ」
互いに銃口を突きつけ合ったまま、話を続けるアリス
アリス「あなた達が聖杯戦争に参加しているマスターとサーヴァントであるということを前提として話すけど、私もそうなのよね、本来ならこのまま引き金を引いて、どっちかが倒れるまで殺し合うのが普通でしょうけど、今日はやめましょう?」
越前「どういうことだぁ!?」
アリス「単刀直入に言わせてもらうけど、私達と同盟を組まないかしら?」
豆腐「ええで~」
アリス「そう…………ん?え?」
秒で快諾する豆腐に拍子抜けしてしまうアリス
越前「俺達と協力したかったのかぁ!それならそうと言ってくれれば良かったじゃないかぁ!」
アリスがまだ銃口を向けているのにも関わらず、先に銃口を下す越前
アリス「……ちょっとあなた達、もう少し慎重に考えたらどうなの」
そう言いつつ、アリスも銃口を下す
豆腐と越前が、自分を罠に嵌めて逆に殺ろうという気配が感じなかったからだ
豆腐「ほなこれからよろしく~」
ポウン、ポウン、と弾む足音をならしながらアリスの方へと向かい、握手を求める豆腐
アリス「…………えぇ、よろしく」
そして、握手に応じるアリス
互いの信頼を得るために、それぞれのステータスやスキル、宝具について話し、さらには他に持ち得てる情報についても交換し合った
アリスは、渋谷凛についてはまだ話せる段階ではないとしつつも、自分のマスターが非戦闘員であるということは伝えた
互いの手のひらを見せ合い、同盟を組んだアーチャー組
これから一体、何が待ち受けているのか………?
最終更新:2020年10月19日 16:38