パカパカ…パカパカ…

街中に小さな蹄の音が木霊する、1匹のヤギの背中につぐは跨り移動している。

つぐ「ヤギさん、これからどうしよっか?」

ヤギ「めぇ〜」

つぐ「やっぱり他の人たち探した方がいい?」

ヤギ「めぇ〜」

つぐ「どこかにかくれんぼする?」

ヤギ「めぇ〜」

つぐの言葉にヤギは相変わらずめぇ〜の鳴き声で返す、そもそもヤギの声帯は人と異なる為鳴き声しか出せないのだ。

ヤギ「………」

つぐ「ヤギさん?どうしたの?」

急にヤギがピタリと立ち止まる、横になった瞳孔が先をじっと見据えているのだ。

つぐも同じように先を見ると…人が立っている。

片や白い陣羽織を身に纏った妙齢の男性。

片やセーラー服姿の黒髪の少女。

つぐ「はじめまして、鳩羽つぐです」

最早癖になってしまった初対面の人に頭を下げて挨拶をする行動、それが聖杯戦争にとって不利になりえるとて彼女はやってしまうのだ。

久秀「……啓は何を欲する…」

男性、久秀は口を開く。

久秀「私と共に来るがいい、啓の望むものを与えよう…」

つぐ「いいえ、私はほしいものはありません」

ややたどたどしいがしっかりと断る、知らない人について行っては行けないからだ。

久秀「そうか…なら、啓は敵という事になる…良いかね、マスター?」

言葉「はい、久秀様…あの子を殺してください」

つぐが瞬きをすると久秀は既に目の前に立っており…右手に持った宝剣を高く掲げていた。

久秀「なら…啓の命を奪おう」

振り下ろされる宝剣。

ガキィン!

ヤギ「てめぇ〜」

しかしつぐを斬るよりも早く、ヤギが飛び上がり頭の角で防いだのだ!

つぐ「ヤギさん!」

久秀「ほう…面白い畜生を飼っているようだ…」

久秀は一旦距離を取る、それに合わせてヤギも離れつぐを下ろす。

つぐ「ヤギさん、大丈夫?」

不安がるつぐにヤギは瞳を向ける、どこか頼れそうな横顔だ。(ヤギの頼れる横顔って何)

ヤギ「Mee〜」

久秀「くくっ…では…始めようか…」

乱世の梟雄とヤギの戦いが始まった!


久秀の宝剣とヤギの角がぶつかり合う。

久秀は左手を腰の後ろにし、右手のみで宝剣を素早く振るう。
ヤギは4足の足で何度も飛び跳ねながら角で防ぎ、受け流す。

久秀「ただの畜生と侮っていたが…面白い…」

ヤギ「めぇ〜」

互いに1歩も譲らぬ攻防が続く。

つぐ「ヤギさんがんばって〜!」

ヤギ「めぇ〜」

ヤギは距離を離すと舌を伸ばし、近くのゴミ箱にくっ付け久秀に目掛けて投げ付ける。

久秀はゴミ箱を両断するがその後ろに隠れていたヤギが強烈な後ろ蹴りを叩き込む!

咄嗟に宝剣の腹で受けるが衝撃で後ろへと突き飛ばされる。

久秀「……くくっ、面白いな…いや実に面白い」

この状況下になっても久秀は笑みを絶やさない、ふとヤギは違和感に気付いた。

久秀のマスターは何処へ行った?

久秀「よく見たまえ、サーヴァントなるものがマスターを見ないでどうする?」

ヤギは振り向く、その先では言葉がつぐを押さえ込み手に持ったノコギリをつぐの首に当てているのだ。

つぐ「ヤギさん…ごめんなさい…」

久秀「さぁ…どうするかね?」

ヤギ「君みたいな悪どい野原ひろしは嫌いだよ」

少しでも動いたらつぐの首はノコギリで引き裂かれる、何もしないとしても久秀に斬り殺される。

しかしこのヤギはただのヤギではない。(そりゃそうだ)

ヤギ(ミューテーター変更:VRヤギシミュレーター)

刹那、久秀と言葉…そしてつぐの視線が歪む!

久秀「な…なに?」

つぐ「わぁ!目が回る〜!」

異様に視界が奥に伸びた様で奥行が歪む、距離感が全く掴めない!

言葉「え…え…?」

いきなり歪んだ視界に言葉は混乱する、ヤギが近付くが距離感が狂っている為どこまで迫ってるか分からない。

ヤギ「めぇ〜」

VRゴーグルを付けたヤギが立ち止まり、再び変化スキルを使う。

ヤギ(ミューテーター変更:ヤギボーン)

視界が元に戻る、そして…

ヤギ「Fus- Ro - Dah!!」

叫ぶと声が衝撃波となり言葉が吹き飛ぶ、久秀が一気に距離を詰め受け止める。

その隙を逃しはしない、ヤギは咄嗟につぐを背に乗せて全速力で走る!

ヤギ「めぇ〜」

つぐ「あんぜんうんてんして〜!」

久秀「……逃がしたか、まぁいい」

あくまで余興、これで倒れたら面白くない。

久秀「引くぞ、マスター…」

言葉「はい…」

2人もその場を後にする、あとは何も残らない。
最終更新:2020年10月20日 23:02