あれから何日たっただろうか…
歩けど歩けど、周りにはなにもない。死体の山から脱出後、少女は止まることなく延々と歩き続けていた
そのせいか最早疲労を感じないほどに感覚がマヒしてしまっていた。
幾度となく迎えた朝と夜、眠ることも忘れただひたすらに…。
しかし、喉の渇きや空腹はどうにもならなかった。止まらずに動いているのだから当然だ。何日も食べていない、何日も飲んでいない。普通なら死んでいる。
だがこうして生きている、しかし、これ以上はさすがに危ないと少女の本能がそれを訴える。
しかし先ほどの通り、周りには何もない。草もなければ木もない、石もなければ岩もない…。見渡す限りの平野だった。
しかし、疲弊した体を持つ少女にとっては、ここは地獄と表現するに値する場所であった。
コノママ…死ヌノカ…?
少女の頭に『死』がよぎった…、しかしどうすることもできない。
最早体の反射だけで歩いているような感覚の中、少女はあるモノを見つける。
人の死体だ。
まだ新しく、血がまだ通っている。
その時、少女のすでに壊れた心のなかで何かがはじけた。
そう、生きるために…生き残るために狂気を孕んだのだ。
少女は死体を喰らい、血を啜りのどを潤した。
ただ一心不乱に獣のように少女はがっついた。グチャリグチャリとグロテクスな音を立てながら必死に喰らい続けた。
その後、少女はもだえ苦しんだ。生きるためとはいえ、生の人肉を食して無事などという保証はない。
引き裂かれるような腹の痛み・うなされるほどの高熱・頭痛に吐き気………。
だが、少女はそれでも進み続けた。痛みに苦しみながらも、地を這いずり回りながらも…前に、前に、前に前に前に前に前に前に前に前に
前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に
前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に
前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に
前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に
前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に
前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に
前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に
前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に
前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に
前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に
前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に
前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に
前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に
前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に
前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に
前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に
前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に
前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に
前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に
前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に
前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に
前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に
前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に
前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に
前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に
前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に
前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に
前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に
前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に
前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に
前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に
前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に
前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に
前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に
前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に
前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に
前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に
前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に
前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に
前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に
前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に
前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に
前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に
前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に
前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に
前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に
前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に
前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に
前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に
前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に
前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に
前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に
前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に
前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に前に
雨の日も風の日も炎天下の日も…ひたすら進み続けた。進むたびに偶然見つけた水たまりや小動物を糧にし、また病にのた打ち回りながら
それでも前に進みつづけた。
何故、こんなにまでなっても生きているのか
やがて少女は、とある村に辿りついた。
村人A「…?」村人が少女に気づく。その瞬間、少女は人に出会えたという安心感からか、ゆっくり目を閉じ、その場に倒れこんだ
村人A「オイ!!君!しっかりしろ!!」
少女が目を覚ますと、そこは村の小さな一軒家の布団の中。
村人「君、大丈夫かい?あまり動かないほうがいい・・・」
動こうにも動けない・・・しかし、疲弊した体と精神には程よい心地であった。
一人で地獄をさ迷い歩いた少女には、献身的な介助・食事・・・少女の心を癒すには十分なものであった。
少女は再び眠りにつく・・・。
そして次の日、少女は村長の元へあいさつにいった。村長は優しく少女を迎え入れ、村の案内をひとりの若者にやらせた。
少女「・・・いい村ですね、とても落ち着きます」
若者「ハハッ、そうでもないさ。ここらへんは戦場に近いから危なっかしいったらありゃしない。・・・・ここは梓の木が良く育つんだ。梓の木はな弓にもよくつかわれるんだ。ま、つまるとこ弓の産地ってところかなこの村は。」
へぇ~、と相槌を打ちながら若者の話を聞く。
若者「あ、自己紹介まだだったな、俺はホデリ。釣りをやらせりゃ一流よ!ははは!」ホデリと名乗る若者は少女に笑う。その笑顔を見た少女も自然と笑みがこぼれた。
ホデリ「お?笑ったな?結構かわいいじゃん♪・・・そういや、俺アンタの名前知らないんだけど?」
少女「名前・・・ですか?」少女は少し困った顔をする・・・名前を知らないのだ。あったかもしれない、なかったかもしれない。しかし、名前がないというのも今後不自由であろう。
すると広場の方から子供たちの歌声が聞こえてくる。
「♪かーごめ かーごめ かーごのなーかの とーりは いついつであう よあけの ばんに つーると かーめが すーべった 後ろの正面 だーれ♪」
楽しく、妖しい歌であったがどこか魅かれるものでもあった。
少女「わたしは・・・えっと・・かごめ、です。かごめ」
ホデリ「今作ったろ?」
かごめ「・・・・・・・。」
はっはっはっはと豪快にホデリが笑う。
ホデリ「まぁいいや、これからもよろしくな!かごめ」ニッとかごめに笑いかける。
その顔を見たかごめもニッコリと笑んだ。
それから数日、彼女は村で暮らした。ホデリに釣りを教えてもらったり、弓の加工の仕事を手伝ったり、村に恩を返すため毎日汗水たらしながら、村人との交流を深めた。
そんなある日・・・・・。
ホデリ「ところでよかごめ、ちょっと気になったんだが・・・。」二人で釣りをしているとき、ホデリは問うた。
ホデリ「前から気になってたんだけどよ、その右腕の・・・・鳥?いや、鳳凰か?その紋章みたいなのはなんでぇ?」かごめの指をさす。
えっ?と自分の右腕を見る、そこには鳳凰のような紋章が描いてあった。
かごめ(何だろう・・・これ)あの死体の山から出てきたときはなかったはず・・・しかし、今自分の右腕にはクッキリと紋章が浮かんでいた。
ホデリ「・・・・ん~、わからんなぁ。・・・俺の弟ならわかるかも知れねぇ」
そういって、いったん釣りを中断し、ホデリの家に向かう。
弟「ん?兄さん、どうしたんだ?かごめちゃん連れてきて・・・まさか、変な事しようってんじゃないだろうな?」弟が出てきてこの第一声・・・。
ホデリ「バカ野郎!何言ってやがんでぇ!・・・・お前結構いろんな本読むし、この右腕の紋章わかるかなと思って連れてきたんだよ。」そういってかごめの右腕を見せる
弟「・・んー・・・、ちょっと俺の部屋まで来てくれる?」そう言って二人を部屋へ案内する。部屋の中は本も多かったが、弓や槍・仕掛け罠など・・・山での狩りに使うものも劣らずに多かった。
弟「んー・・・(とある本を開く)・・・わからんね、ただ鳳凰・・・『朱雀』・・四神の人柱である朱雀であることは間違いない。」
ホデリ「本当か?ホオリ。」ホオリという名の弟は口を開く。
ホオリ「そうだな、しかも刺青とかに使う色具じゃねぇな・・・なんか・・・皮膚にそのままって感じ?」
かごめ「なんで・・・・私に?」
ホオリ「それはわからない。もしかしたらアンタも何かの力持ってる連中と同じ類かもしれないが・・・・・・まぁ、兄貴がデコピンしたくらいでこけるくらいだからねぇ・・」
苦笑いするかごめ。
そして三人は時を忘れ、そのまま笑い話や山での狩りの話、釣りの話などを会話した。ふと気が付くと外は黄昏・・・村の子供達の歌声がかすかに聞こえた。
「♪かーごめ かーごめ かーごのなーかの とーりは いついつであう よあけの ばんに つーると かーめが すーべった 後ろの正面 だーれ♪」
後ろの正面・・・・徐々に・・・魔の手は。
第一話『童謡』 END
最終更新:2012年09月01日 01:34