少女は長い夢を見ていた・・・。
これは幼いころの記憶か・・・隣には母親らしき人物が。何故泣いているのだろう?ほかにも人はいるが、みんな泣いている。
なんで・・・・?そして母親は幼い私の手を引っ張って、朱雀の紋章が大きく描かれた大きな神社へと歩みを進めている。夢はそこで終わった。
・・・・・・夢・・幻か。
目覚めたときには、かごめは薄暗い岸辺に倒れていた、どうやら谷から落ちた後そのまま流されたらしい。
かごめ「また・・・・生きてる。」涙が出た、生きているうれしさからではなかった。虚無感からにた何かからの涙であった。
生きていても、もう帰る場所はない。愛しい人も失ってしまった。かごめはその場に倒れたまま虚ろな瞳で上空を見ていた。空は暗く、月や星さえ見えない。
そもそも、今はいつなのか何時何分なのかそれさえも見当がつかない。
しばらくして立ち上がり、岸辺から離れることにした。あそこにはいたくない。しばらく歩き続けると、墓場が見えた。
しかし、みるからに様子が違う。いるだけで息苦しくなりそうな雰囲気が漂っていた。
そういえば以前、ホオリから聞いたことがある。
この世のどこかに、『すべての墓場』がある。
間違いない、あの時聞いた墓場だ。
その墓場は世界が始まったと同時に生まれる。最初は無の土地だが、だんだん様々なモノがよってきて、形作っていく。そこは普通の墓場とは違い、墓参りに来るものもいなければどこかの寺の所有地というわけでもない。
ただ、残骸と生き物の成り損ない共・・・そして世界に対する無数の怨念が集まる負の無縁塚。
人にもなれず魔にもなれず・・・光の加護も受けられず闇の恩恵も受けられず・・・そういった異形の物の怪共が集ういわば世界のごみ溜め。少女は今まさにその場に来ていた。
かごめ「・・・墓場・・・そう、ここが・・・私の最期の・・・ふふふ」
かごめは迷うことなく、墓場へと足を進める。墓石はボロボロではあるがここの異様な空気にあてられたのか、岩とは思えぬほど歪んでいる。
周りに生えている木もまた異形の形で、どれも人相が浮かび上がって、悲しみや怒りなどそれぞれ表情を作っていた。
そして・・・・奇怪な動きをしながら蠢く物の怪共・・・。
かごめはとりあえず、その辺の大木に寄りかかり座る。もう自分に生きる希望などなかった。ここで物の怪に食われてしのうと飢えて死のうともうどうでもよかった。
すると人の悲鳴が聞こえてくる、物の怪に追われて逃げ惑う二人の男女。必死に抵抗しているようだが、物の怪には剣も魔法も効いていない。
男「畜生!なんでだ!!なんで俺の剣技がきかねぇんだ!!」
女「なんで魔法が・・・!なんとかしてよ!!私こんなところで死にたくないよ!!!」女は大泣きしながら男に叫ぶ
男「うるせぇー!俺だって死にたくねぇよ・・!!!畜生!!くんな!!くんなぁバケモン!!」ブンブンと剣を振り回す男、しかし、無駄な抵抗であった。
物の怪共は一斉に襲い掛かり、男と女の肉を喰らっていく。
男「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
女「いやぁああああああ!!やめっ!やめてぇええええええええええ!!痛ぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!いやぁあああああああああ!!!!!!!!!」
物の怪共に食われやがて、声は小さくなっていく。そして、二人の男女は寄り添うように無残な死体となった。
この光景を見ていたかごめは、安堵していた。
やっと死ねる、やっと自分はこんな世から解放される・・・。そして物の怪共に自分はここだと伝えるべく、石を投げる。
コツンと音が鳴り、物の怪共はかごめの方を向く。そして、ジリジリと歩み寄る。
恐怖は感じなかった・・・、食われるのは痛いだろうが、すぐに終わる。終わればもう生きる必要などない。
何もかもを失った自分にはお似合いの死だ。そうして、かごめはゆっくりと目を閉じた。物の怪共の足音がかごめの前でとまる。これで、やっと--------
あれからどれほど立っただろうか。一向に食いかかる気配がない、それどころか先ほどの物の怪特有のおぞましさも感じられない。かごめはふと目を開け、物の怪共を見た。
物の怪共はじっとかごめをみている。見ているだけで、何一つしてこない。
そして、踵を返し物の怪共はかごめから離れていく。
かごめ「なんで・・?ねぇ・・・?殺してよ・・・・ねぇ?」かごめには信じられなかった。さきほどの勢いはどこへいたのか。物の怪は沈黙を保ったまま去っていく。
かごめ「どうしてよ・・・・・なんで殺さないの?・・・ねえ、殺してよ!!殺してよぉお!!殺せぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!」
かごめは叫んだ、しかし、その嘆きの声は虚しく墓場に響いた。自分には死ぬ価値すらないのか・・・?死の救いさえ求めてはいけないのか・・・。
こんな物の怪共にさえ殺す価値がないとまで判断させるほどなのか・・・?
かごめは深い絶望感に陥った。失っても尚生かされる一種の地獄・・・。もう、どうすればいいかわからなかった。だが、気が付くとかごめは墓場の奥地へと進んでいた。
奥地には廃屋となった寺や無数の墓石、そして夥しいほどの物の怪共が跋扈していた。しかし、恐怖は最早感じてはいなかった。ここで野垂れ死ぬか、はたまた物の怪と同類になるか。
かごめは生きる希望など当に捨てていた。
物の怪と共に死肉を喰らった・・・。
腹が痛い、でもだんだん慣れてきた。
泥水を啜った。
まずい
この地へ踏み込んだ冒険者たちをあの時でた触手のようなもので薙ぎ殺した。
新鮮な水と食料が入っていた、うまかった。これはお金?興味ない・・・。
こんな生活がどれほど続いただろうか・・・気の向くままに墓場をうろついていると、長い階段が施された岩山を見つけた。
上には社がある、しかもそこには何かの紋章が描かれている。
朱雀だ
しかもその朱雀の紋章は夢で見た物、そして自分の腕に浮き出ている紋章と瓜二つの物。それにひきこまれるように一歩一歩階段を上がっていく。
境内はやはり荒んでおり神社の面影はなかった、しかしここだけ物の怪がいない。それどころかここの空気だけが新鮮である。
廃屋と化した寺の中にも、近くにある沼の中にも物の怪は多く存在した、しかし、ここだけいないのだ。
しかし、かごめはこの状況に驚きはしたものの、大したことではないだろう、と判断しこの神社の捜索をするとともここを拠点とすることにした。墓場に来て初めて居心地の良い場所に出会えたからである。
神社の裏には小さな祠があった、中に巻物が入っている。祠を開け、巻物を手に取ってみる。
『無縁流舞拳』
…と書かれた巻物であった。拳法の奥義書なのだろうか?興味半分で巻物を開いてみると、やはり拳法の巻物であった。
食う、寝る以外やることもないのでその拳法をやってみることにした。するとどうだろう、驚くほどにその拳法の型が体になじむ。
拳打技・蹴撃技その巻物に書かれている技の鍛錬をやっていくうちに、みるみるマスターしていった。
この何かができるようになった達成感、覚えがあった。いや、むしろ思い出したと言ってもよいだろう。あの村で初めて仕事をし、「ザー…(※ノイズ音)」と共にこなしていき過ごした日々を。
かごめ「あれ・・・?あの人の・・名前・・・・あれ?」名前が出てこなかった、しかし、今はもうどうでもよかった。少女に人としての喜びが戻ってきたのだ。
少女はそれだけで満足だった・・・しかし、思い出したところでここから抜け出せられるわけでもない、それでも、最後に人に戻れたのだからよりとする、という考えでおさめた。
一方・・・・・・・。
???「チクショウ、チクショウ!・・・まさかこの俺としたことが・・・政府でも名を挙げたこのガタル様が、横領バレちまうなんて・・。」
ガタル「へっ、まぁいいや・・・・俺には六式がある。これさえあれば例え
政府軍が総出で俺を捕まえに来たとしても・・・・デュフフwww」
ガタルは周りを見渡した・・・この場所は聞いたこともあったし、資料室で見たこともある。
ガタル「ここが・・・墓場、か。へっ・・・天地創造と同時に作られた、光にも闇にも属せなかった云わば世界の廃棄場所・・・。だがだがだがぁ~?俺は知っている知っているぞ~?デュフフww」
回想 「政府本部・資料室」
ガタル「ん?墓場・・・・・ッスか?」
机の上で書類にペンを滑らせている女性に話しかける。白い装束を着て傍らには仕込み杖が置いてある。
女性「ええ・・・そこは天地創造と同時に作られた云わば世界の廃棄場所。我々政府でさえもあの場所へ踏み入ることを拒みます」
ガタル「へー、そんな神話みたいな話・・・ホントにあったんスねぇ・・・。」
女性「ええ、本当に神話のよう・・・。そういえば、こんな話も聞いたことがあります。その場所には、とある邪神を奉る神社があってそこには武人なら誰しもが欲しがるであろう奥義書のようなものが眠っているとか・・・。」
回想終了
ガタル「どこでそんな情報が手に入ったのかはしらねぇが・・・ま、欲しいわな。俺の長年鍛え上げたこの六式とその奥義書とやらが加われば・・・デュフフwww」
男はズカズカと物の怪を避けながら歩いて行った。
かごめは今日も廃れた神社で修行に取り組んでいた。何のためにそのようなことをするのか、ただやることがないからただの暇つぶし程度に取り組んでいたが・・・徐々に腕を上げていく。
一通り終えた後、またエサを調達しに行く。エサと言ってもまた人肉であったり雑草であったりとまちまちだ。最早ケモノの食生活である。しかし、少女は、稽古をすることによって人間らしさを
保っていた。心の奥底まで物の怪に成り下がるつもりはなかったからである。暇つぶし程度に取り組んでいたことが以外にも役に立った。
かごめ「これは・・・・食べられない。・・・・これは・・・・無理」食料を仕分けしていく。
その光景を木の陰に隠れながらガタルは見ていた。
ガタル「(なんだぁ?・・・こんな辺境の地で暮らす子供なんていたのか?・・・だが、油断は禁物だな。ここには物の怪しかいない。ということは奴も・・・。)」
ゆっくりと気配を悟られない様に近づく。
ガタル「(とる会えずふん捕まえて、巻物の居場所を・・・探る!)」『剃ッ』
鍛え上げた六式技、『剃』により瞬時にかごめの背後に現れる。かごめは背を向けたままである。
ガタル「悪く、思うなよ!!」こちらに向くこともないかごめに拳を振り上げる。
最終更新:2013年01月22日 13:15