Cat's to perfect

―――完全を求められたアンドロイド、「Metis
縛られる事を忌み嫌い、自由を求めた彼女は…主を殺害し、研究所を独り抜け出した
そんな彼女がやがて辿り着いた居場所は、とても空虚な公園だった
夜は昼ほどの騒がしさはなく、夜空の明かりと風の音しかない

彼女は、そんな仮初めの自由が好きだった
夜空を眺めているだけでもその自由に浸れる気がする
研究所よりも遥かにストレスを溜めず居れる場所だ

だが、研究所とは少し違う箇所があった
「にゃあ」
時折、独りにはなり得ない。
完全を求められたアンドロイド、「Metis」…

…―――今は訳あり、猫の世話をしている。

「…うぬらは物好きだな」
比較的空に近い、小高い滑り台の上から身体を乗り出す
すると下にはわらわらと猫が集まり始めていた
一匹、二匹ではない。数えている内に分からなくなってしまいそうなほどわらわらと…
これでもか、これでもかと言うように、滑り台の下はもはや鮨詰め状態だった。
にゃあにゃあと静寂の中に響き渡る鳴き声に、Metisは溜め息を付く

「しかしまぁ…よくもここまで集まるものだ、うぬらには独自のコミュニティでもあるのか?」
身を乗り出し訊ねたが、猫達は質問に答えず催促する
飯を寄越せ、遊べ、撫でろ
一匹一匹よく見れば何を言っているか案外分かるものだな、と思う

しかし、全部一辺に対応出来る訳でもない
さてどうしたものかと、顎に指を当て眉を動かす
「ひとまず、飯が優先…か?」
と言っても、この猫の多さでは早い者勝ちにしかなり得ないのだが…
まあ、与えないよりはマシだろうとあらかじめ用意していたご飯を群れに投げ込む

その光景は壮絶である
瞬く間に投げ込んだご飯が消えて行くのだから。
もはやどの猫が飯にありつけたのかなど分かりはしなかった

まあ、ここで食べ損ねても死ぬ訳ではないのが救いだ
野良猫は強い。自給自足を軽々とやってのけるのだから。
己を血と我儘でしか表現出来ない不器用なアンドロイドにとって、それは何より羨ましく…輝いて見えた

しばし呆けていたが、猫の鳴き声で我に返った
「…考え事はいかんな……む、もう食い終わったか、食いしん坊共め」
一目で平和だと分かる光景は、それだけで安心する
無機質で機械的な表情に笑みをもたらすのは、紛れもなくこの猫達の力なんだろう

別に悪い気はしないのだから不思議だ

確かにこの光景は和むのだが、正直言えば異様だった
そりゃそうだ、町中から集まらない限りこんな数にはなるまい
猫じゃらしを一振りするだけでも重労働だ

「コラ!これは違う!」
Metisが猫じゃらしと猫に気を取られている隙に、数匹の猫が杖へと群がっていた
「ええい!離れろ!散れ!」
少々乱暴だが、手に取って猫を振り落とす

錫杖「Loneliness Heart」とMetisは生まれた時から存在を共にしている。
光を反射し薄く輝く緑色の核(コア)は、Metisの髪色に似ていた
これでも電子的な知能は持っているのだ
時折訪れる寂しさには、Loneliness Heartと共に過ごすことでその穴を埋めていた
―――人間的に言うのなら、家族と言うものだろう

もちろん猫達は、そんなことなどお構い無しなのだが…
「全く…」
一頻り振り落とし終えると、今度は群がられぬよう肩に担ぐ。
それでも群がろうとする猫達の根性には呆れを通り越して感心してしまう
「ええい!いい加減にっせぬかっ!」

なかなかキリがない。
こんな時は、再び滑り台の上に避難するのだった

撫でている時は、猫は比較的大人しいものだ
順番待ちしている猫を順に撫でると、少しずつ数が減って行く
現金なものだなと思いながらも、一匹一匹撫で心地が違い飽きさせないのだからタチが悪い

なぜMetisが猫の世話をするに至ったか―――
…とある少女の言葉が発端だった

「――お前、猫好きなのか?」
「ならちょうど良かった」
「コイツらの世話して欲しい、ずっととは言わない」
「コイツら…行き場所がないんだ」

少女の、純粋な赤い瞳に見つめられてしまったのだ
断るのは至難の業だろう
それに、そこまで悪い気がしなかったのも確かだった。

とまあ、そんなところなのだ
ぼーっとしながら猫を撫で続けていると、気が付けば残すは黒猫一匹となっていた

―――つい忘れてしまうが、この黒猫が曲者なのだ
なにせ、他の猫と違って素直じゃない
他の猫はある程度甘えて来るに対して、コイツはひたすら突っぱねるのだ
その癖ずっと居座る、なんと言うか、本当にマイペースだ

一番の問題は何より、なつかない事だろうか
正直それが一番困る。ずっと放置する訳にも行かないし…
結局親睦は深めなければならない訳で、それなら早い方がいい。

よく考えると、コイツは他の猫の輪にも入っていない気がする
一匹狼なオーラがプンプンだ
ますますこのままではいかんなぁ…

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最終更新:2013年05月13日 23:28