第二章









ここは、何処だ。


体に、力が入らない・・・瞼も、重い・・・。


人間のようなものの気配を・・・多数、感じる・・・。


開け・・・開け、開け・・・!


今、ゆっくりと、瞼が開いてゆく・・・。


第二章

始動





???「ぐ・・・やっと、開いたか・・・。」

何やら、カプセルの中に閉じ込められているようだ、おまけによく分からない液体漬けにされている。
それも、俺だけではないようだ、他にも多数、同じような境遇に置かれている者が・・・多数。
先ほど感じた気配はどうやら、『それら』のものだったらしい。
・・・何かしらの形で、体に番号が刻まれている、俺にはないが・・・。
どうやら、何か試作品のような扱いを受けているのだろう・・・俺がまだ、というだけできっと俺も試作品なのだろう。
ふざけた話だ・・・体もどこかおかしい、機械的な感覚を覚える・・・。
ふざけおって・・・よくも、よくも俺等の体をまるで実験台(モルモット)のように・・・!


???「許さん!許さァン!!全員、ここの研究員共、全員、皆殺しにしてやる・・・!!!」
怒りに任せて、カプセルを強く蹴り飛ばす。
ヒビが入った、ほんの僅かだが・・・。
全力で蹴ったにも関わらず、なんという強度か・・・しかしヒビが入るならば破壊は可能とみた。


ここで、エレベーターの駆動音が聞こえてきた。
研究員が、きっと来るのだろう・・・。
まだ、見つかってはまずい。
俺はここで、目を閉じようとした。
が、しかし。


い、意識が・・・。






あれからどれぐらい時間が経過したのだろうか。
暫くして、俺は目を覚ました。
気を失っている間に何をされたかも分からないが、とりあえず今は誰もいない。
カプセルの僅かなヒビも、健在だ。

今一度、よくこの部屋を確認してみる。
右に試作品の入ったカプセル、左にも試作品の入ったカプセル、目の前に操作盤らしきもの、そして背後に・・・何かのレバー二つ。
レバーとは距離はかなりある、が俺の目はどうやらかなりいいらしい。
数十m離れているが、文字は難なく見える。
『試作品バッテリー停止装置レバー』と書いてある、それもONの方向に倒れている。
あれが原因だろう、恐らくあれがONになっていると定期的に試作品のバッテリーが停止すると見た。
・・・そこまで俺の体は改造されているのか、益々怒りがこみ上げてきた。
もう一つは『全カプセル内薬廃棄装置』と書いてある、こちらはOFF。
恐らくこの奇怪な液体を全て廃棄する事が出来るのだろう、これをONにすれば恐らく他の試作品の脱出の手助けになるだろう。
カプセルを出たら、速攻であのレバーを切り替え、二度と切り替えられないように破壊するしかあるまい。
だがまずは、カプセルの破壊を先にせねばなるまい、俺は力を込めてヒビの入った部分を蹴り続けた。
ヒビは、着実に広がっていく。
怒りを込めて、同じ部分を、蹴り続けた。
そして、再び、意識は無くなっていった。



気が付いた時には、二人の研究員が来ていた。
何か、しでかすつもりだろう。



研究員G「・・・なぁ、なんかアレ、ヒビ入ってないか?」
研究員H「んなァ訳ないだろ!だってあいつは試作品用の、外から触れるだけでも効果がある強力な筋弛緩薬がたっぷり注がれてるんだからよォ・・・それにいくらアイツが完成品だとしてもあの頑強なカプセルを割れる訳ねぇ。」
研究員G「毎回思うけど、外側が触れるだけでも効果の出る薬を作れるって、すげぇテクノロジーだよなぁ・・・でもあのヒビは、多分気のせいじゃないぞ・・・?」
研究員H「んな事どうでもいいじゃん!気のせい気のせい、俺等の仕事をちゃちゃっ、とやって戻ろうぜ!」
研究員G「俺はそうは思わないけどなぁ・・・まあいいか・・・。」



バカだな、特にあっち(Hの方)が。
何かをされる前に、仕掛ける・・・。


???「ぅぅゥウらぁァァァァァァ!!!!」


ガシャァァァァァァン!!!!!



音を発しながら、カプセルが砕け散る。



研究員H「なん・・・d」


???「お前等に言葉を発する暇はやらん!命を愚弄した咎は裁かせてもらおう!!」
素早く、砕けたカプセルの尖ったものを選んで握り、二人の喉を一突き。
破片は、鮮血に染まる。
研究員二人は地面に崩れ落ち、血がドクドクと溢れ出る喉を手で抑え、暫くして動かなくなった。


俺はレバーに向かって駆け出す、力が思うように入る・・・やはりあの液体は俺の体に何らかの害を齎していたらしい。
ものの数秒で到達した、まるで風になったかのような速度だった。



???「・・・これを、切り替えれば。」
二つのレバーを、切り替える。
カプセルの中の液体が廃棄されていく、そして俺の体の中で何かが震えるような感覚を覚えた。
恐らく、バッテリーが自動で切れなくなった・・・これで問題はない。



???「・・・忌まわしき装置め、二度とその役目を果たせなくしてやろう・・・!」
右拳を、装置に強引に突っ込む。
金属の筈なのに、まるで豆腐のように軽く貫けた。
そして腕を強引に右へ左へと動かし、中の装置をズタズタにする。
そして駄目押しに、配線や機器を全て引きずり出し、何度も何度も踏みつけ、殴りつけた。
これで二度と起動はできない、修理すらもできないだろう。


???「・・・さあ立て、同胞達・・・反旗を翻せ・・・!」



警報が、鳴り響く。
各階の人間型試作品が暴走、研究員は非難し戦闘員は排除にかかれ!
機械的な音声だ、耳に来る。



この階層もまた、例外ではなかった。
続々とカプセルを割り、中の試作品達が出て行き各々が自らの意思に則った活動を始める。
ただ一つを、除いて。



???「・・・お前は、行かないのか?」
カプセル越しに話しかける、小さい少女・・・試作品499とある、俺の前に作られたような形跡がある。
となると、俺は試作品500・・・か。
しかし随分と小さい、貧弱そうな体をしている、戦闘能力は皆無と見た・・・こいつは多分すぐ死ぬな。


試作品499「・・・ZZZzzz。」
寝ている・・・?しかも、液体のないカプセルの中で小さく蹲っている・・・。


試作品500「割れない、という訳・・・でもありそうだ、こんな軟弱な体にこれが割れたものか・・・そうだな。」
ふん、と拳に力を込め、カプセルに拳を振るう。
一撃で粉砕する事ができた、やはり力が入らなかっただけらしい。


試作品499「・・・ZZZZzzz。」
起きない。
これだけ大きな音を立てているのに、なんと暢気な奴だ・・・いや、ある意味度胸があると言えるのか・・・?


試作品500「おい、起きろ。」
ぺしぺし、と頬を叩いてみる。
試作品499「・・・ふぇ、ふぁぁぁ・・・お、おはよー・・・。」
確信した、こいつバカだな。
律儀におはよう、なんて言われてもこれが敵だったら『永遠におやすみなさい』だ。
試作品499「あれ?なんで私、外に出れてるの・・・?」
状況把握能力も皆無らしい。


試作品500「自分で考えろ・・・それより、これでも着るんだな。」
研究員の服を剥ぎ取り、軽く血を落として投げ渡す。
流石に、羞恥心というものもあるだろう、だが少なくとも俺には無い。
試作品499「・・・ふぇ?・・・え、えぇっ!?な、なんで私裸なの!?あわわわ・・・」
慌てて渡された研究員の白衣を着る、・・・今更気付いたのか。


試作品500「好きにするがいい、俺はもうお前がどうなろうと知らん・・・。」
流石に裸では守備面に難がある、が正直無いよりマシなので俺も白衣を身に纏い、エレベーターに乗り込む。
俺は適当に79のボタンを押す、・・・しかしB1からB100まであるとは、どれだけの大きさなんだ?
それ以前になぜ、地下だけなのだ・・・。
試作品500「しかしあいつだけ、随分と他の試作品と比べて小さい・・・それにバカときたものだ。」
試作品499「ぷーっ!バカじゃないよ!それにバカって言った方がバカなんだもーん!」


な・・・ッ。


不意に後ろから声が聞こえ、驚いてしまった。


試作品500「な・・・ッ、お前、いつの間に・・・。」
気配を感じられなかった、いや注意が散漫になっていただけか・・・迂闊だった。
試作品499「いつの間にも何も、後ろについて来ただけだけれど?」
不思議そうな顔をする、いや、その顔は俺がしたい。
試作品500「お前、何故ついて来た・・・。」
試作品499「それはねーっ、楽しそうだから!」
にこーっ、と笑顔を見せる、楽しそうって何だよ。
試作品500「・・・俺は今から、殺し合いをしに行くんだぞ?楽しい事なんて一つもない・・・とは言い切れないが、辛い事の方が間違いなく多いぞ。」
試作品499「それに『好きにするがいい』(声マネ)って言ったじゃない!だから、好きにするもーん!えへへっ♪」
何なんだこいつ、いや、本当に何なんだ・・・思考が全く読めない、何を考えて同行しようとしている・・・?何を企んで・・・ええい、一概にバカと判断し難くなってきた・・・頭が痛い。
試作品500「・・・チッ、好きにしろ・・・。」
試作品499「わーい!やったぁ!じゃあ、私ついて行くね!」



こうして、完成品の俺と、欠陥だらけの少女の、長い長い復讐劇が、始まる・・・。



続く。

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最終更新:2014年04月03日 18:03