そういえば、俺は未だに碌な武器を所持していなかったな。
武器らしい武器ではないが、あの時叩き割ったカプセルの破片。
こんな武器では俺はともかく、この背中に背負ったクソガキを守りながら戦えやしない。
全く、何で俺がこんなガキの御守なんか・・・。
考えるだけで少々腹が立ってきた。
そもそも、何故俺はこいつを連れている?
こいつが弱いから?同族だから?情け?
・・・全くもって、自分の選択ながら度し難い。
俺は直感的に65階のスイッチを押した。
今、この状況で未だにそれなりの戦闘能力を有した敵と、まだ遭遇していないのは幸運と言えよう。
BGMはありません。
エレベーターの扉が、開かれた。
・・・敵性反応は認められない、視界に入り込んだのは死体だけだ。
同胞達の死体と、研究員達の死体がそれぞれ半々、といった所だろうか。
ある程度は、抵抗しているらしい・・・殺された同胞の殆どは軟弱な体のように見えるが。
俺はでかいお荷物を背負いながら、この階層の軽い探索を始めた。
・・・このお荷物を放っておいたら、この階の同胞達と同じ末路を辿っていたのだろうか。
そう考えると、人間である証の『心』が、少し締め付けられる気がした。
理解できない。
探索して、分かった事が幾つか。
まず一つ、この階層には二つ部屋がある、一つは軽く覗いて見た結果、大きいものであった。
中には武器もあるようだ、・・・少々幸運が過ぎるように思えるが、運もまた実力と言えよう。
しかし不自然だ、これだけ広い階層を持て余している・・・。
あと二つ、三つ程他に部屋があっても可笑しくは無い。
俺は、スペースを生かしきれていない部屋の配置に妙な引っかかりを覚えた。
もう一つの部屋は小部屋と推測できるが、まずは武器の確保が先決だ。
俺は、大部屋に足を踏み入れた・・・。
既に幾つかの武器が無くなっている痕跡がある、そんな中で使えそうな武器が幾つか存在するのはこれもまた幸運と言えよう。
俺は、まず品定めから始めようとした。
ズリズリ・・・。
何かが動く音がした、招かれざる・・・いや、相手の方が先客だな。
大方、待ち伏せでもしていたのだろう。
俺は決して聞き逃さなかった。
先ずは一歩、踏み出し。
ダンッ!!!
と強く床を蹴り、天井に張り付き・・・
音の方向へと、急降下した。
研究員AN「な、なんだ今の―――」
試作品500「ご苦労だったな、向こうで同胞達が待っているぞ。」
破片による喉元への一撃、皮膚を深く、広く、そして大きく掻っ捌いた。
相手を殺す事を考えた、致命打。
研究員AN「・・・!!!!・・・!??!?」
喉から噴き出す鮮血が、その場を紅く彩る。
試作品500「地獄に落ちろ。」
二撃目、それは脳天を突き破った。
返り血が髪や白衣に付着する。
これもまた、相手を殺す事を考えた致命打。
戦闘とは、相手の戦力を大きく殺げる部位、又は致命傷と成り得る部位を攻撃すれば、こうも容易く決着がつく。
何となく、既に形は整っていた。
俺は改めて、品定めを始めた・・・。
試作品500「・・・これは、少々重過ぎるな、これは・・・逆に軽すぎだ。」
試作品500「これは、・・・振り回しにくい、これも・・・ダメだな。」
まあ、覚悟していた事ではあるが・・・。
あまり良い武器は残っていない、あるだけマシだが・・・。
試作品500「・・・そうだな、これと、これ、後はこれか・・・?」
そんな中、しっくりくるモノがあった。
直感的に、というのもあったが丁度三つの武器を手に取った。
武器の名前は、どこに書かれている訳でもないが何故かすぐに分かった。
『雷剣サソダーボノレト』『桜花刀サクラフブキ』『狙撃槍グラディウヌ』。
理由は不明だが、この三つは俺の今後を支えてくれる気がした。
運命、と言えば少しは聞こえは良くなるだろうか。
試作品499「・・・ふぁぁ、おはよー・・・。」
そうだった、こいつは俺の背中で寝ていたんだったな。
今更ながら、思い出した。
今すぐこいつを地面に叩きつけたくなった、ええい腹立たしい。
試作品500「武器を選べ、お前が持っていても宝の持ち腐れになるだろうが・・・念の為にだ。」
そっ、と俺は背中から大きなお荷物を降ろす。
何故、俺はこんな割れ物を扱うように対応しているのだろうか。
試作品499「ふぇ・・・?えっと、好きなの、選んでいいの?」
試作品500「・・・」
碌な戦力になる事は最初から期待していない、なる筈が無いからだ。
ならばいっそ、武器選びは任せても・・・いいか。
試作品500「ああ、好きなのを選べ。」
どうせ、何を選んでもそう変わるものではないだろう、まともに使えそうな武器は俺の見立てではもう殆ど無い。
試作品499「それじゃあね、えーっと・・・うーん・・・これとこれ!」
奇妙な装備・・・というより、何だ・・・これは。
シール、それも二つ・・・?何故こんなものが紛れ込んで・・・。
試作品500「そもそも、それは武器なのか?」
非情に怪しい、武器であるかすらもが。
試作品499「えっとね、これね・・・こうしたら・・・!」
試作品499の右手と左手に、二つのシールらしきものが貼り付けられた。
するとどうしたことか、右手は木の葉に、左手は泡に包まれていく。
試作品499に、してやったり顔でこちらを見られた。
・・・
そんな顔で見られても、俺は何も言えないが・・・ともかく、一応武器らしい。
試作品500「ここに長居する理由も無い、行くぞ。」
そう言って、俺は試作品499の目を手で塞いで連れて行く事にした。
死体や血に騒がれても困る。
試作品499「うぇ・・・暗いよー・・・。」
試作品500「少し我慢しろ。」
俺は、残った一つの部屋の前にやって来た。
強行突破しようと思ったが・・・カード式だ、これは先程拾ったカードキーが使えるかもしれない。
懐から取り出したカードキーを、サッと上から下にスライドする。
ピピッ、カチャ。
と開錠される音が鳴る、・・・はた迷惑だが、無駄な労力を使わずに扉を開けれたのはいい事だ。
視界に飛び込んできたのはまず、壁。
異様に狭い、その上、PCしか設置されていない。
この空間の存在意義が問われる、・・・がここまで勿体振ったPC、何か重要なデータがあるに違いない。
俺はまず足を踏み入れて、付き添いのお荷物を狭い空間の何も無い方向へと放った。
試作品499「・・・ぁれ?もういいの?・・・狭くない?」
試作品500「我慢しろ、それと暫くじっとしていろ、騒ぐんじゃないぞ。」
試作品499「ふぁーい・・・。」
案の定、いや当然の事だがPCにはパスワードがあった、あのPCが有ったのが幸運なだけだが。
どうしたものか。
と悩んでいたが、自分が半分程は機械だという事を思い出した。
試作品500「なら・・・ば・・・!」
指先を弄ると何かキャップらしきものを発見した、・・・ここまで改造されているといっそ清々しい。
凡そ拡張機能だろう、腕を改造して更なる戦力強化も図れるようにしたかったのだろうな・・・。
それが裏目に出たな。
『クックック』と、少し笑ってしまった。
試作品499「うぇー・・・不気味な笑い方、気持ち悪い・・・。」
試作品500「・・・。」
気分を酷く害した、そういえば居たんだったな。
まあ、それはさて置いて・・・。
『キュポッ』
と、指先のキャップらしきものを外す、するとキャップで隠されていた機械の指が見えた。
小指のコードは・・・合わない、中指・・・合わない、親指・・・は大きすぎる、・・・人差し指のコードがPCに刺さりそうだ。
小指の先端の間接部分を繋ぐコードを外し、コードをPCに接続する。
何だか、PCに支配されているような、非情に嫌な感覚が体中を駆け巡った。
残念だが、支配するのは、俺だ。
どうすればパスワードをクラッキングできるかは、記憶は知らないが、体は覚えている。
まるで意識が電子の海を泳ぐような、不思議な感覚だ、その広大な海の中から、パスワードという宝を見つけ出す、至極簡単な事。
ものの数分で、パスワードは突破できた、俺はついている。
指の端子をPCから引き抜き、外した指の部分を付け直し、キャップをかぶせる。
随分と頑丈なキャップだ、力を込めてみたが壊れる気配は無い。
どんな素材を使っているのか、知れたものではない・・・が。
俺は、PCのデータを徐に漁り始めた・・・。
しかし、このPC、起動する時点でまずよく分からない。
意味不明な文字の羅列を殴り書きしたような、そんな訳の分からない謎の名称のOSが使われている。
はっきり言うと、何一つ無駄が無い、完璧なOSだ、使い心地は悪くない、違和感は多少あるが。
そんな謎のOSが導入された、小さな小部屋にある思わせぶりな謎のPCを漁って出てきたファイルは・・・。
件名『豁ヲ蝎ィ縺ョ遞ョ鬘槭√◎繧後i縺ョ迚ケ蠕エ縺ォ縺、縺・※』
・・・何だこれは、文字化けしているじゃないか。
こんな、こんなにも、嗚呼、こんなに・・・。
こんなに、間の抜けたミスをする阿呆共に、俺は作られたのか・・・?
心底、呆れた、呆れてため息も出る。
試作品500「ッはぁぁぁぁアアアアアアァァァァァァァ~~~~~ッ!!」
試作品499「・・・ZZZzzzzz」
こいつは暢気に寝てやがる、こんな狭いスペースに器用にも小さく丸くなって。
だがそんな事は今はどうでもいい。
この明らかに何かあるPCに、たった一つだけ存在した、後から作られたファイルがたったこれ一つだけ。
何か、ある・・・。
俺は、この文字化けしている訳の分からないテキストの蓋を開けた・・・。
連れて来られてから200日と幾らか。
今、研究員達の中で人気を博している暇潰し。
Ⅸつの武器、というものだ。
といっても、Ⅷ+Ⅰ、という形でⅨつの武器なのだが。
様々なアイデアを練りだして、このⅨつの武器を開発する、という行為が研究員達の中で流行っている。
勿論、空き時間にやっている。
そんなⅨつの武器について、記していく。
まずⅨつの武器は、作った時点で所有者が決まっている、これは作成者にもほぼ決められないと言ってもいい、当然例外はある。
所有者は過去、未来、現在、はたまた別の世界か、色々な所から選ばれる。
同じ者が幾つもの武器を所有するかもしれない、大抵は一人につき一つだろうが。
そして、全てに共通する点として、破壊されても時間の経過によって復活する。
無から所有者の元へ再び蘇る、といった感じで、粉々にしても跡形も無く消し飛ばしても燃やしても凍らせても、時間経過で完全に再生する。
しかし時間経過、なので破壊はある程度の効果が望める訳だ。
所有者が生きている場合に、別の者が武器を使用した場合、その二者に凄まじいまでの信頼関係が築かれていなければ力を失う。
これに例外は存在し、血縁関係にある者同士は否応無く力を失う事が無い。
例え家族間の関係が凄惨なものでも、決して武器は力を失わない。
しかし所有者が死んだ場合は、次に拾った者が所有者となり、所有者の引継ぎが行われる。
ここからは、武器の種類とその特徴を記していく。
モデル:銃剣
Ⅷつのカテゴリの中で、最も基本的でバランスの取れているもの。
使う場面を選ばない、射撃も可能で近接攻撃もなかなか強い。
言うまでも無く、例外は存在するが、基本的に目立った弱点が無い。
モデル:巨剣
Ⅷつのカテゴリの中で、一発の威力とリーチの長さに長けたもの。
基本的に乱戦や近接戦闘を得意とし、その攻撃範囲は目を見張るものがある。
ただし遠距離攻撃の出来る相手には分が悪く、近寄るか近寄れないかの両極端な戦いになる。
射撃は基本的に不可能、武器自体がかなり重いので相対的に鈍重な動きになる事が多い。
モデル:刃弓
Ⅷつのカテゴリの中で、中間的だが遠距離寄りの性能のもの。
姫反から小反にかけてが刃になっており、その部分で近接戦闘もこなせる。
基本的に矢はエネルギーから生成され、無尽蔵に作り出されるので弾切れを懸念する事は無い。
近接性能は程々で、それなりの対応が可能ではある、当然だが射撃は可能。
モデル:重拳
Ⅷつのカテゴリの中で、一発の威力と攻撃回数に長けたもの。
リーチは圧倒的に短い事が多いが、基本的に攻撃速度は速いものが多い。
一撃の威力も巨剣には劣るものの高いものが多く、懐に入ればかなりの強さ。
巨剣と比べて一対一向けの性能をしている、射撃は基本的に不可能、移動速度は微妙な所。
モデル:軽爪
Ⅷつのカテゴリの中で、とにかく速さを追い求めたもの。
リーチは重拳より少し長く、威力は重拳より少し低く、攻撃速度と移動速度は他を寄せ付けない。
とにかく手数が多く、何度も攻撃して圧倒する事を求めた武器。
相対的に一対一向け、射撃は爪を飛ばすものだが再装填に少し時間がかかり、その間の攻撃力も落ちるので使い所を選ぶ。
モデル:両刃剣
Ⅷつのカテゴリの中で、柔軟な対応を求めた武器。
攻撃範囲と前後への対応に着目しており、乱戦が得意な武器。
更に射撃も基本的に可能であり、刃の側面にある小さな銃口から射撃する、だが射撃性能はあまり高くはない。
モデル:鈍槌
Ⅷつのカテゴリの中で、武装の破壊を目的とした武器。
とにかく重く、その重さを乗せた一撃は他の武器に強いダメージを与える。
近接攻撃性能は巨剣に劣る程度で、射撃は基本的に不可能。
モデル:狙撃槍
Ⅷつのカテゴリの中で、射撃性能に最も長けたもの。
射撃は槍の先端部分を飛ばすもので、飛距離威力共に射撃性能は最高クラス。
発射した先端部分はすぐさま再生成されるので心配は無い、近接戦闘もある程度は可能だが全武器最低クラス。
ここまでが、ベースとなるⅧつの武器だ。
ここからは、残ったⅠを述べていく。
モデル:特殊系
Ⅸつの武器の根幹とも言える、モデルで、Ⅷつの枠に当てはまらないような特異な効果や、どのカテゴリにも属さない異常な形状をしている事が多い。
大まかに分けて種類は三つ。
『成長』『犠牲』『特殊』、この三つ以外にちょっと頭のおかしい性能を誇る『覇者』というカテゴリも存在する。
『成長』は主に特定条件を一定回数満たす事によって武器そのものの性能が向上する、最終的な能力値は三つの中で一番高いがそこまでが大変なものだ。
『犠牲』は手に取った時に名前に関係するものを犠牲にし、性能を向上させる、最終的には一番下に回る事が多いが最初は圧倒的な性能で他を圧倒する。
『特殊』は他二つに無い特殊な力で翻弄する事が可能なもの、使い方次第では『覇者』すらも上回る。
『成長』は中には最初からは特殊系モデルでないものや成長し切ると『覇者』になるものも存在するとかどうとか・・・。
『覇者』は全ての種類の武器を統括するかのような非常に強力な種類、他を寄せ付けない圧倒的な性能を誇るが数が少なくその数たったの5つ。
噂によるところでは、研究所長も『覇者』のカテゴリの武器を一つ所有しているらしい・・・。
試作品500「成る程・・・。」
とても有益な情報を得た、この情報によるところ、俺が手にした武器の内二つは銃剣、一つは狙撃槍といった所か。
このガキが手にしたのは、どちらも理解できない、となると特殊系だろうか・・・。
試作品500「こんなものだな・・・行くぞ。」
トントン、と試作品499の肩を軽く叩く。
試作品499「ふぁぁ・・・おはよー・・・。」
呆れるほどに、暢気な奴め。
俺はまた、こいつの目を手で隠し、エレベーターへと乗り込んだ。
最終更新:2014年08月06日 06:44