武器は手に入れた、これであのリーチの短い、有って無いような武器を振りかざす必要はなくなった、俺の隣にいるガキもどうにか守れるだろう。
守る?何故?
考えるだけで頭が痛くなる、不可解だ、答えが導き出せない・・・まるで、何かに抑えつけられているような違和感。
だが、これで俺が現状で最優先して行わなければならない行動は終了した、随時、この施設の人間を一人残らず抹殺する。
あの付けっぱなしだったPCから引き出せた情報によると、19階・39階・59階・79階は最低ランクの研究員居住区らしい、ここから潰すか。
既に79階は終わった、次は59階だ。
俺は、59の文字の書かれた半透明のボタンを押し込んだ。
BGMはありません
エレベーターの扉が開く。
目の前に広がった光景、それは今までとは一転し、同属達の血と肉片の山。
貧弱な体つきの者だけではなく、普通の体の者、少々体格の良い者までもが、物言わぬ残骸となっている。
攻防が逆転している、明らかに、奴等も何か策を講じたのだろう。
試作品500「流石に、動き始めるか・・・」
口から零れた、一抹の不安の塊。
流石にやられたままではない、という事か・・・。
・・・そうだ、しまった。
俺の隣のガキの目を塞ぐのを忘れていた、この光景を目にしてはいないだろうか・・・。
試作品499「うぇぇ・・・なにこれ・・・ひどいよぉ・・・うぷ・・・」
駄目だった、既に吐きそうになっている。
もう少し注意を払ってやれば良かったか・・・?
いや、やはりそもそも何故俺がこんなガキのお守をせねばらなんのか。
腹立たしい、少し意地悪してやろうか。
試作品500「俺がやろうとしている事は、今ここにある死体の山よりも、もっと多くの死体を築き上げる事になる、それでもついて来るつもりか?」
突き放すような言葉、これで俺について来なくなれば、それで俺としては肩の荷が降りるというものだ。
もっと初めから試してみれば良かったものを。
試作品499「ついて行くよ!」
初めから試していても変わらなかったな、文字通りに即答だった。
試作品500「・・・一応理由を聞いておく」
試作品499「何となく!」
聞くだけ無駄だった。
正直、頭が痛くなっただけだった。
試作品500「行くぞ、来い。」
この階は、敵がまだ居るかもしれない。
ある程度の武力を持った相手となると、初めてのまともな勝負になるかもしれない。
となると本格的にこのチビはお荷物になるな、弱みと言っても相違ない。
隠しておくべきか・・・?何処に?・・・。
どうにも、場所が無い。
となれば相手にこのガキを察知される前に、いや、攻撃させる前に全滅させればいい。
完全に多数相手前提になっているが、どうせ脆弱な人間共は束にならねば何もできまい。
相手が多数と推測しても、何の不思議も無い。
しかし、改めて見ても凄惨なものだ。
周囲に並んでいるのは同胞達、重なる様は死屍累々。
壁には銃弾の痕、鋭利なモノで斬りつけたような痕、血粉末。
しかもこの弾痕、俺の知識の内のどれにも該当しない、壁の削れ方を見るにかなり『法』とやらに触れそうな威力のようだ。
腕や足が弾け飛んでいる死体もあるのを見たところ、当たればただでは済まない威力なのだろう。
だが俺の目的はこの施設の研究に加担した者の抹殺。
同胞達の分も、恨みはしかと晴らさせてもらおう。
俺は一歩、二歩、三歩と、歩みを進める。
先手を打たれた時に、このガキを守れるかどうか分かったものではない。
不意打ちは絶対に避けるべきであり、出来る限り、こちらの不意打ちで頭数を減らしたい。
最大の注意を払い、目を光らせ、耳を澄ませ、来るべき敵襲に警戒する。
「ねぇ―――」
ズダンッ!!!
踏み込んだ音と共に、右手に持った刃を、自らのすぐ隣に付き添う、小さな荷物に振り下ろしかける。
条件反射のように体が動いてしまい、あと少し止めるのが遅ければ既に体と首が切り離されただろうか、という所で刃が停止した。
試作品500「静かにしていろ・・・」
試作品499「なんだか、すごい怖い顔・・・わ、わかったよ。」
あまり驚いた様子は無い、・・・大した度胸だ。
試作品500「それでいい、喋らずに、ついて来い。」
「誰だ!」
流石に、あれだけ大きい音を立ててしまえば、気付かれるか。
目の前の十字路の、左側から声が聞こえてくる。
「大人しく出て来い!」
あまりにもありがちな台詞だ。
こちらから大人しく出てくる筈は無いだろうに。
極僅かな足音が聞こえる。
極力足音を立てないようにしているのだろうが、俺は『奴ら』の求めた完成形、聴覚は恐らく人間の数十倍。
聞き逃す方が難しいぐらいに、よく聞こえた。
音から推測して―――――7人。
相手の実力次第だが、十分に殲滅可能と見て―――
こちらから、仕掛ける。
一歩、音も立てずに進み
「「「ダァンッ!!!!!」」」
試作品499「あ、えっ、・・・(どうすればいいんだろう・・・待ってればいいかな・・・。)」
「な、何の音だ!」
次の瞬間、俺の体は十字路の左の壁へと一直線に、弾丸のように跳ね。
瞬時に獲物の数を目で追う、目測どおり、7人、全員が防護性能の高そうなジャケット、そして銃器を持っている、手榴弾等の投げ物も幾つか。
その間、およそ1秒。
部隊員A「な、何―――」
試作品500「地獄で同胞達が、手招きしているぞ」
壁を強く蹴り、右手に握った雷剣サソダーボノレトによって、直線状に存在する部隊員Aの首を。
左手に握った桜花刀サクラフブキによって横に立っていた部隊員Bの脳を。
それぞれ二つに、斬り分ける。
部隊員C「な、何だ!?こい―――」
試作品500「あの世で償ってこい」
部隊員Cの心臓を貫く。
部隊員D「明らかに今ま―――」
試作品500「お前達は、ここで全員・・・死ね」
顔面に深く、桜花刀サクラフブキを突き刺す。
続けざまに、右手に握った刃を振い、部隊員Eの首を狙う。
が、寸前でかわされた、掠りはした。
部隊員E「なんて強さだ、これが上からの指示にあった『失敗作』か!」
部隊員F「ものの数秒で四人・・・なんて奴だ!」
部隊員G「なんてものを研究してるんだ、ここの研究員共は・・・狂ってやがる・・」
それぞれが持っているライフルからの射撃が飛来する。
それぞれがそれぞれの弾丸を回避しにくするように、弾丸をばら撒く。
そう、ばら撒いただけだ。
試作品500「その程度で・・・」
サクラフブキを一振り、その一振りで俺に命中する弾丸のみを弾く。
弾いた弾丸は全てGの方向へと飛ばす、脳、心臓、目を狙って。
部隊員G「がっ・・・!―――!!!―――!!!!!」
もがき、苦しみ、すぐに物言わぬ肉塊と化す。
部隊員E「弾丸を全て・・・なんて奴―――」
試作品500「その玩具はその程度の事しか出来ないのか?」
雷剣サソダーボノレトを、脳天から足まで振り下ろす。
二つに分離した部隊員Eは、鮮血を噴き出して倒れる。
気付けば俺の白衣、髪、体、その全てが真っ赤な鮮血で染め上げられていた。
部隊員F「化け物・・・」
試作品「俺が化け物ならばお前達は悪魔だ」
右手の剣を袖に仕舞い、瞬時に前進、右腕で部隊員Fの首を掴み、そのまま引きずって壁へと叩きつけ、左手の刀を首筋へと添える。
部隊員F「がっ・・・!ぐ・・・は゛ぁ゛ッ・・・!放してくれ・・・!」
試作品500「断る、が・・・お前の行動次第では開放してやろう。」
部隊員F「ど、どうすればいい!?答えてくれ!何でもする!」
試作品500「お前の知る限りの情報を吐き出せ。」
部隊員F「わ、わかった!何から話せばいいんだ・・・?」
暫し、拷問が続く。
ある程度、引き出せた情報をまとめる。
この施設の情報は階級によって与えられる幅が制限されるらしい、こいつは下等兵、ほぼ最低限の情報しか与えられていない、殆ど聞き出すだけ無駄だった。
どうやら最初に首を刎ね飛ばした奴が。たった今、こいつ一人を残して殲滅した部隊の隊長格で、最も多くの情報を与えられていたらしい、ぬかったか。
そして、下等兵の間の噂程度ではあるが一定の施設は何かしらの法則性を持った配置になっているらしい、推測するに一定の階数刻みの配置等と見た。
試作品500「これが全てか。」
部隊員F「そ、そうだ、これ以上の情報は俺みたいな下等兵には与えちゃくれねぇ」
試作品499「あれ・・・?何してるの・・・?」
十字路から、歩いてくる。
不意の出来事に。
試作品500「何だ、お前か―――」
気が、緩んだ。
その隙を見逃さぬ者が、一人。
部隊員F「おのれ、部隊の仇ぃぃぃぃぃ!!!!」
懐から取り出された、小さいハンドガン。
一瞬の隙を突いた、刹那の瞬間。
俺との距離は、零に近い。
試作品500「なッ―――」
首筋に当てていた刃を、一気に押し斬る。
しかし・・・
「「「ダァンッ!!!」」」
弾丸は、俺の左の眼球へと。
回避は、反射は、防御は―――
間に合わない。
「ぐちゃっ」
眼球の正面が、硬い弾丸に削られる音。
上手く行き過ぎていた。
全てが、順調すぎた。
完全に、油断していた。
試作品500「・・・!!!がっ・・・く、クソ・・・こいつ・・・。」
左目から流血する。
咄嗟に回避を試みた所、眼球の表面だけが弾丸に削られただけで、そのまま奥へと通過する事は無く回避は寸前で間に合った。
刎ね飛ばした顔が、どこか、「してやった」顔をしている。
苛立ちを抑えられず、動かぬ頭と体を更に二つに引き裂く。
試作品499「あ、え・・・だ、大丈夫!?」
そんな訳が無いだろう。
試作品500「クソ・・・余計な事を・・・。」
左目から得ていた視覚情報が、失われて右目だけになった。
凄まじい違和感だ、あって当たり前のものが失われるというのはこういうものか。
試作品499「ち、治療をしないと・・・ど、どこかに器材は・・。」
試作品500「ここには・・・まず無いだろう・・・行くぞ・・・。」
左目を抑え、少々遅い足取りでエレベーターへ乗り込む。
試作品499「医療施設・・・ど、どこに・・・~~~!!!こ、ここっ!!」
勝手に『33』のスイッチを押される。
が、今はどうでもよかった。
俺は、エレベーターが目的の階層に到達するまで、眠るように横になった。
最終更新:2014年12月23日 03:14