ケイオスという星の裏側。時は遡り、200年前―――。
――― リントリム ―――
それはまるで、星の海のようだった。
クロハ「―――――――。(空を見上げ、呆然としている)
閃光が糸のような軌跡をなぞり夜空に線を描く。しかし、それがただの流れ星であったならどれほど良かっただろう。
―――――う、うわぁぁぁあッ!!逃げろ!逃げろォォォォォオオオッッ!!きゃぁぁぁああぁあっ!!
天の川のように夜空を埋め尽くす星の海は―――――赤く燃え盛る火の玉だった。
空は紫や紅と地獄のような表情を見せ、雲は割れて数多の魔物がその首を覗かせていた。
極めつけに現れたのは恐ろしく巨大で禍禍しい、絶望を民の心に植え付ける“龍”だった。
クロハ「あ、ぁ……あっ――――――――――。
この日、たぶん世界は一度だけ滅んだのだと思う。
*
クロハ「ハッ、ハッ…ハッ!ハァッ!!(弓を背負い、戦火により枯れた大地を駆けていた)タッタッタッタッ――――うわッ!?(石につまずき、転んでしまう)
魔物「キシャァアァァアッ!(追っていたクロハに迫り、爪を振りかざす)
クロハ「ひっ―――ぅわぁぁぁあああっ!!!(最後の抵抗か、両手をかざし身を守ろうとする)
ズ ザ ァ ア ッ !! (その時、大きな影がクロハと魔物の間に割って入ってくる)
巨漢の騎士「―――――ウォォオラァァァァッ!!バギッ ズシャアァァッ!!!!(戦斧を振りかぶり、側方から割り込み魔物を爪ごと一刀両断する)
巨漢の騎士「おい!坊主、無事か!?(返り血を乱暴に拭い取って振り返る)
クロハ「はっ、はっ……あ、ありがとうございます………――――――ッ!その紋章は…ヴェンデル家の…!
フォルクハルト「―――間に合ったか、エドウィン!≪おうよ!ヘヘ、俺に任せときな≫(馬に騎乗しており、わずかに遅れてやってくる)
フォルクハルト「アウニは小隊を率いて周囲の哨戒を強化せよ!!急げ!!≪わかったにゃ!!はい皆、私についてくるにゃー!≫ (馬から降り、クロハに歩み寄り片膝をつく)…少年よ、怪我はしていないか?
クロハ「…フォルクハルト卿ッ…!!…はいっ……(転び、掠った傷以外に目立った怪我はないようだった)
クロハ「………あ、あの…ぼく、もう村もっ…家も―――――
フォルクハルト「――――(人差し指をクロハの口にあてがう)…わかっている、何も言わなくてもイイ。……よく耐えた。よく、頑張った。(ニカッと歯を見せて笑い、クロハの頭をぽんと撫でる)
フォルクハルト「後は我々に任せろ、ここまで独りで頑張った少年の勇気は無駄にはするまい。…立てるな?
クロハ「…………っ……(なぜだか救われたような気持ちになり、唇をかんで涙を目尻に溜め大きく頷く)
フォルクハルト「…うむ!!(笑顔で頷き返し、立ち上がる)≪……敵襲、敵襲にゃー!≫ …エドウィン!その少年も一緒に馬に乗せろ!!全軍撤退!!(馬に飛び乗り、手綱を引いて駆けだす)
龍「…………………。(ただただ、火の玉による雨を降らし夜空に座している)
エドウィン「おし、いくぞ坊主!しっかり掴まってろよォ!(クロハを担ぎ上げ、隊列から遅れながらも騎乗し駆け出す)
クロハ「う、うわぁあっはいぃ!!?(担がれ、隊列の最後尾に)――――――――――――ゾクッ。
エドウィン「チクショウ、だいぶ隊列からズレちまった…!!もっと早く走れねえのか、ヤッ!ヤァッ――――――ドシュッ!!
エドウィン「……………ク…ソ、が―――――――――ドザッ、ゴロゴロゴロ…ッ!(突如として胸部に風穴が開き、落馬する)
龍「――――――――――――。(尻尾の棘を飛ばし、エドウィンの胸を貫く。しかしその男は眼中になく…その眼光はただ一人、クロハを射貫いていた)
クロハ「ッッ!!!! ドッ ズザザザザザザ―――……!!(眼を見開き、落馬し地を滑る)…ッ……き、騎士様…?…騎士様!!……あ、……あぁっ……!!ガチャ キリリ……!!!(龍と眼が合い、尻餅をつき怯え後ずさりながら矢をつがえる)
龍「――――――――――――。(遥か天空から見下ろし、世界を焼き尽くす業火を放たんと口内が光り始める)
フォルクハルト「――――――ッ!!!?エドウィイインッ!!……なっ……お前ッ――――
フォルクハルト「 よ せ ェ ッ ! ! ! (後方を見やりクロハに手を伸ばすが、魔物の軍勢と龍の動向を見て馬の足を止めることができなかった)…――――――――くそォォオオオッ!!
クロハ「(ヴェンデル家の軍から引き離されて魔物に囲まれ、あまりの恐怖に龍と合ってしまった眼を外すことができないでいた)…や、だ…嫌だ………(死ぬのかな、ぼく……そりゃあ、そうか。世界が滅ぶんだもの…死んで当たり前か。でも、まだ―――)―――生き、たい…………生きたい…っ(矢をつがえる手に力が籠る)死ぬのなんて絶対嫌だ…村の…故郷のみんなの分も生きなきゃ…ッ! ――――ぼくはまだ死ねないッッ!!!!(そして、溜めた弓矢を放つと同時に、魔物の軍勢が一斉に襲い掛かってきた)
*
初老の男性「―――――――――。(丘から、クロハがいた場所へ大杖をかざしていた)
龍「――――――――――――。(口に溜めた業火は今にも溢れ出さんとしており、丘に佇む初老の男性を捉える)
初老の男性「…………シャラ。(龍と対峙し、大杖を龍へとかざし巨大な魔法陣が浮かび上がる)
*
そこからどうなったのかも、ぼくの一矢が龍に報いたのかどうかすらわからない。僕の記憶は、魔物に襲われた時点で途切れていた。
なぜなら、魔物に襲われる刹那。僕の体は【霊災】の地獄から一瞬にして時代を飛び越えてしまったのだから。
最終更新:2016年09月06日 22:18