東方言語異変

霊夢「東方異言録」







霊夢「まりさー、スルメ強奪しに来たわよー無駄な抵抗はやめてで的なさーい」

魔理沙「ファ!?」

霊夢「なによその鳴き声、ほらいいからさっさと戸棚から出せっていうのよ痛い目見たくないでしょ」

魔理沙「ンゴンゴーwRIMぐう畜ネキーw」

霊夢「なにその変顔、しらばっくれようたってそうはいかn」

魔理沙「おっ、大丈夫か大丈夫かwワイもワイもなんか作らななw」

霊夢「……」

魔理沙「サカカス志ゾw」

霊夢「なにこれ」





霊夢「というわけなんだけど」

神子「ふむ、まあ確かに興味深いというかんあんというか、私だったら匙を投げたくなるようなお話だが。それを私に打ち明けてどうしろと」

霊夢「いや、会話通じなくて困るんだけど。 ああいった洗脳系の類ってだいたいあんたの国策なような気がして」

神子「なにこの斜め読み巫女。 まぁ、心当たりがないかと言われていいえと言えばそれは嘘にはなるがね」

霊夢「随分と、容量を得ない言い回しね」

神子「私は一切関わってはいないよ、それは断言していい。ただ異変解決に有益な情報を持つだけということは予め断っておくよ。それで納得するなら聞かせてやらんこともないが?」

霊夢「いい?お願いだからよーく聞いて、私はそうそう暇じゃないの。少なくとも持って回ったような言葉遊びに付き合う暇はね」

神子「暴力神子め。 まあいいだろう、簡単に言ってしまえばこれは異変だ。しかしこの異変は従来のそれとは違う」

霊夢「というと?」

神子「悪いニュースから伝えておこうか。 この異変には元凶など存在しない」

霊夢「は?」

神子「紅霧異変、春雪異変、永夜異変、これまで数多の異変を解決してきたお前だが。物事は発端から断ち切って仕舞えば終わりというのはあくまでその芽が見えているうちだ」

神子「大地に芽吹いた芽は容易に摘み採れる、だが一度巨木へ成長すればそう易々と事を成せまい」

霊夢「早い話が、異変初期に解決できなければ手遅れって言いたいのね」

神子「飲み込みが早くて助かるよ。 ついでにいいニュースの方を伝えておくと、ほっといてもこの異変はいつか終わるということだ」

霊夢「へぇ、そうなんだ。じゃあ安心して神社の縁側でお茶飲んでろってことね」

神子「まあお前がそれでよければね。 端的に言うとこの異変の原因というものは一概にこれとは言えない。ただ強いて言えば【流行り】という奴だろう」

霊夢「ああ、流行病的な何かね。でもねー、よく神社に来る奴が会話ができないってなると困るんだけど」

神子「お前からしてやれることはないと言っても過言ではないだろう。なにせ【楽】だからな」

霊夢「楽?」

神子「鸚鵡返し、単なる便乗、テンプレートの流用。はっきり言ってどれもこれも生産性のない行為だが楽ではある。他人の言葉を借りれば自分では考えなくてもいいし、我も我もと考えなしに便乗すれば孤独にはならない」

神子「対価として【個】としての自己を他人から認識されなくなるが、反面他人から【個】としての責任を追及されないというメリットもある」

霊夢「でもそれって人間においては社会にとけこむっていうことなんじゃないの、私が言っても説得力に欠けるけどさ」

神子「そうとも言い切れない。なら仮にあなたが人としては生きていけず人妖に堕ちなければ存在を維持できないともすれば、そうするだろうか」

霊夢「どうだか、そんなん想像したくもないけど退治される側には回らないよ」

神子「つまりそういうことだ。お前はたった一人の巫女として、あのような辺鄙な場所で俗世から離れているが【絶対悪】と定めた境界は超えないし、結果的にそれは【集】に対して悪事を成さない」

霊夢「へーそうなんだ」

神子「お前とて一人の人間、自ら引いた倫理観を超える事には抵抗があるしどんなに【個】であろうが巫女としての職務は果たして【集】に貢献しているし、【禁忌】を犯して【集】を脅かさない」

神子「実際、私のように世を動かした人間というのは【個】であって【集】に褒め称えられ、受け入れられたが、【集】と【同一化】はしていない」

霊夢「んん?んー?」

神子「物理的に考えてみようか。ここに粘土細工のパズルと、まだ乾いていない細工が存在したとする」

霊夢「ふむふむ」

神子「お前は言うなればパズルのピースだ。妖怪と人間の均衡とバランスを保つためにはお前という巫女が不可欠だし、それが欠けてしまえば【巫女】としての適性がある人間を用意しなければならない」

神子「そして今までお前が倒してきた妖怪たちもまた、これらのピースのように個ではないかと私は思う。今ある屈強な形を保ったピース、【博麗霊夢】を【巫女】として存在させてきたのは【強力な妖怪】という存在があってこそだ。そうでなければ巫女と妖怪の均衡は瞬く間に崩れてしまうだろう」

霊夢「まあ要するに私はこれでも一応ありがたがれてるってことねやったね」

神子「あまり嬉しそうには見えんが」

霊夢「感謝よりも金くれよ金」

神子「やれやれ、屠自古に寄付させに行きましょう。 さて、このパズルはこうして個の塊によって集が成り立っているわけだが。ではこちらの粘土の塊はどうだろうか」

霊夢「粘土の塊ね」

神子「いやいやもうすこし捻ってくれよ(苦笑) あくまでこれは【同一化】した集合体だ。」

霊夢「それってつまり【個】ってことじゃない?」

神子「ほう鋭い。これは解釈によるところもあるだろうが私もそう考えている。あくまで私はね。 簡単に言えばこの集を形作るものは【誰でもいい】ということだ」

霊夢「ほむほむ」

神子「別に、博麗霊夢じゃなくていい、霧雨魔理沙じゃなくてもいい。いや、むしろ名前とか自己とか、そういったアイデンテティや、特技技術、特殊な能力などない方が角が立たないな」

霊夢「都合が悪いってこと?」

神子「というよりかは、パズルのピースのように確かな形があると、いちいち形を認識するのが面倒といったところだろう。何より形を持たない者達からすれば【妬ましい】限りだ」

霊夢「いや別に妬まれる要素なんてないと思うんだけど、私適当に巫女やってるだけだし」

神子「足の引っ張り合いって言った方が早かったか。隣人が努力すれば自分と同じ次元に引きずりこもうと足を引っ掛ける」

霊夢「なにそれ面白いの?」

神子「面白いことはないが、逆に言えば隣人が高みを目指すことが気に入らないといったとこじゃないか」

神子「ブン屋には申し訳ないが、私のような政治屋ならまだしも、己ではない誰かの人生やゴシップにかじりつく程度の暇はあるし、それにのめり込んで話題にする程度に自己というものがないと言える。言うなれば自分を棚に上げてってところだな」

神子「己の道に従事していれば、せいぜい立ちはだかる小石や障害物ぐらいしか気にも止めんはずだろう。その点私もまだまだ修行が足りないところはあるがね」

霊夢「っはー、よくもまぁ舌が回るね。そろそろこんがらがってこない?」

神子「いや別に。 まあ私としても烏合の衆でいてくれた方が世を平定しやすちいというものでね、実際助かることは助かるけどね」

霊夢「あくまで政治家ね」

神子「それはもちろん」

霊夢「じゃあ逆に聞くんだけど」

神子「ああ、なんでもどうぞ」

霊夢「結局【自己】って存在するの?」

神子「少なくとも、そう思い悩む瞬間に確かな自己は存在していると思わないか」

霊夢「うーん……」

神子「時には重苦しい思考を投げ捨てて休むことも必要だろう、それは間違いない。だがな、それはあくまで気休めだ。
    精々悩み続けよ博麗の巫女。 ある男はこう言っていたぞ。人間とは考える葦であると」

霊夢「……」

神子「いくら聖人とはいえ、安易に私個人へ答えを求める内はまだまださ」




魔理沙「おう、おかえり霊夢。スルメは戸棚の上だぜ」

霊夢「えっ、いやちょ…まりさ?」

魔理沙「ん?ああそっか、迷惑かけちゃったみたいだなぁ」

魔理沙「チルノから聞いた話だけど【立教大学爆破するンゴーwwwwww】とか言ってコーランを片手に紅魔館に突っ込んでいったところ美鈴にボコされたみたいでさ。いや記憶はないんだけどキノコ狩りしててうっかり足滑らせたとこから覚えてないからたぶんそれ関係じゃないかな」

霊夢「なんじゃそら、まあいいわ。あんたに限っては単なる事故ってことね」

魔理沙「やー心配かけたなぁ。ほら、侘びの印にスルメひと束あげるから」

霊夢「気が効くね、超許す」もっしゃもっしゃ

霊夢「…ね、魔理沙」

魔理沙「んー?」もっしゃもっしゃ

霊夢「もしも人里の人間が理由もなくこぞって私に見返りもなしに作物を献上するのが当たり前になったとする」

魔理沙「まずありえないけど幻想郷は全てを受け入れるから突っ込まないでおく。それで?」

霊夢「あんたも同じようにそうする?」

魔理沙「いいニュースと悪いニュースがあるんだ、どっちを先に聞きたい?」

霊夢「後者」

魔理沙「オッケー。まず今日はお前の戸棚に大事にしまってあったどら焼きを食ってやった。いいニュースだが、霧雨魔理沙は間違いなく博麗神社に溜まった作物を奪いに行く」

霊夢「そ、よかった。安心してぶちのめせるわ」







おしまい

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最終更新:2016年11月17日 23:53